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黒に浮かんで踊り出そう

私はずっと、”黒い服”が苦手だった。

陰と陽で言えば、確実に陰な性質の私は
”暗い人”に見えるということはずっとネガティヴなことだと思っていた。
友人たちはきっと悪気なく、ただ事実として
「全身黒い服着たら喪服になりそう!」
「ホーンテッドマンションの服に合いそうだし、お姉さんって笑わないし、合ってそう!」
とよく言っていた。
(ホーンテッドマンションの制服可愛いので着たいしそれが似合いそうと言われるのは嬉しい。そして私が小さい頃のホーンテッドマンションのキャストさんはにこりともしなかったんだけど、最近はみなさん朗らかだよね。)

例えば、3人になると会話から弾かれやすくなるのは私。
4人、5人だと一緒に盛り上がる。
大人数で会話を先導するのは苦手。
きっとそういう人はたくさんいるし、気にするほどのことでもないのだろうけれど
小さい頃から、なんとなく、そういう瞬間の居心地の悪さみたいなものに
恥ずかしさを感じていた。
それを隠したいと自覚はしていなかったけれど、
オールブラックなんて、私服では絶対にしなかったのは
そういう気持ちもあったのかもしれないな、と思う。

そんな私が、黒に衝撃を受けたのは、
まさしく”黒の衝撃”と言われたうちの一つである
yohji yamamoto。

もちろんずっとブランドは知っていたけれど、
その刺々しい印象や、突き抜けたようなオシャレさは、私には不相応であると思っていた。
ミステリアスで、奥深い。
つい覗き込みたくなるような、それでいておいそれと手を伸ばせないような。

興味を持ったのは、ドキュメンタリー番組をたまたま見たから。
クリエイションの方法や、物事の見方、考え方がスッと入ってきた。
百貨店であろうが店舗に入る勇気はなかったので
たまたま通りかかったpop upで、こんなチャンス中々ないよね、と手に取り、
「普段オールブラックコーデはされないのですか?」
「挑戦したことなくて・・・」
「似合うと思いますよ!ぜひ挑戦してみてください」
と店員さんとやり取りしながら、試着をしてみた。

SSのコレクションだったので、柔らかな布地にうっとりしつつ
袖を通して、ドキドキしながらカーテンを開ける。
店員さんの目が、キラッと輝いたように見えた。
「やっぱり!素敵ですね。黒、とてもお似合いだと思います。」

どうしてこれまで、
黒い色が陰気だと思っていたんだろう?
いや、性質としては確かに黒は陰なのだろう。
けれど、陰と地味は違う。
”ミステリアスで、奥深い”洋服をちゃんと纏えている私は
自分のことを綺麗だな、と思うことができた。
地味だなんて一ミリも思わなかった。
きっと他のブランドの”黒い色”を選んだってこんな感動はないと思う。
黒という色ととことん向かい合って、その可能性を掘り下げてきたブランドの
黒い色だからこそ、こんなにも胸を撃ち抜かれたのだろう。

陰気だって暗くたっていいじゃないか。
それの何が悪いというのだろう。
そういう美しさを確かにこの世界に存在しているのだから。
エンターテイメントは好きだけれど、アンダーグラウンドなものも好き。
花畑を美しいと思うと同時に、排他的なものにも美しさを感じる。
グロテスクなゴヤの絵画だって、嫌いじゃない。
一筋縄ではいかない美しさにちゃんと気づいて、掬い上げられるようになろう。
だって私はそんな柔らかな人間ではないのだし。

それから、オールブラックやモノトーンを着ることも増えてきた。
少しずつ、少しずつ、黒と和解し始めていて
プチプラのオールブラックコーデも、
フィット感や質感を吟味すれば地味ではない。
もちろん華やかなものは好きだし、今でも着る。
それも私の一面だから。
”黒”の持つ性質と、自分の性質がリンクする部分を受け入れることができた。
たった、それだけのこと。
それだけのことが、とても大きなことなのだ。

3人でいて、会話に入れなかったら、
別にぼーっと自分の世界に入って過ごしたっていいじゃないか。
大人数でいるときに、話を聞いているだけだっていいじゃないか。
ホーンテッドマンションの、笑わないお姉さんたちに
私たちはドキドキして、話しかけて、「今回も笑わなかったね」
って話をしていたじゃないか。
それでいいんだ。そうであろう。
黒は重たいイメージの色なのに、こんなにも軽やかにもなれるのだな。

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