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【リレーエッセイ】#03「社会言語学との出会い」田邊和子(日本語教育学)

 私の専門分野は、「社会言語学」です。社会言語学というのは、言語と、社会の状態や変化との関係を考える学問です。

 1992年ごろ、ニュージーランドのオークランド大学で言語学を学んでいた時に、オーストラリアのアボリジニーが持つ言語のヴァリエーション、mother in law, father in law language を知りました。一般的には、「回避発話(avoidance speech)」といわれる言語の種類です。ある特定の親族がいる場面や、その人たちのことを話す時に使われる特別な言葉使いです。具体例としては、ある親族の名前に近い音韻の言葉を使わないというルールがあります。mother in law, father in law language とはいいますが、舅・姑以外の親族に対しても使われます。子供たちも学校で教えるものではありませんから、自分たちの親が話しているのを聴いて、学び取るのでしょう。私は、この「回避発話」について聞いた時、親族を尊敬する気持ちも、少し距離を置きたい気持ちも、人類共通だと思いました。

 「ポライトネス(politeness)」と呼ばれる日本語の待遇表現もこれに類似した特徴をもつ言語運用会話システムです。言語は、人の正直な気持ちを反映しています。社会言語学の面白さというのは、言葉を通して、人々の心の中を知ることができることです。

 2024年5月30日から6月1日、イタリアのPisaで行われた第10回 International Conference on Intercultural Pragmatics and Communication (異文化間語用論とコミュニケーション国際大会)で、「現代日本語の家族呼称使用の変化」について発表してきました。大会では、ポライトネスの研究が多かったのですが、インポライトネス(impoliteness)(円滑なコミュニケーションを妨げる言動)を分析する研究もありました。そのバランス感覚には、大いに学ぶものがあります。

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