おもしろい地下鉄技術

『図解・地下鉄の科学』 川辺謙一著。ライター・イラストレーター。東北大学工学部卒、同学大学院修士修了。化学メーカーに入社、半導体素材の開発に従事。2004年独立し、雑誌・書籍におおく寄稿。高度化した技術を一般向けに翻訳、紹介している。

著書では、地下鉄の歴史にはじまり、ネットワーク、建設方法、立体構造、運行システム、車両技術など幅広い地下鉄知識を紹介している。

日本の高度に発展した都市で暮らす人々にとって日常的なものである地下鉄を陰で支える技術を知ることができるだろう。また、著書で特徴的な点は、日本の地下鉄を主体としつつ、諸外国の地下鉄事情にもふれていることである。この外国との違いから、日本の地下鉄特有の特性が著書のなかからいくつか読み取れたので、個人的に印象に残っているものを紹介したい。


地上を走る電車の多くにはパンタグラフという架線から電気を取り入れる装置が車体上についている。これを架線方式と呼び、また、パンタグラフではなく、線路の真横にもう一本の電気を通すための軌道を用意してそこから電気を集電するタイプも存在する。これを第三軌条方式と呼ぶ。断面が架線方式の方が上に出っ張った形になり、第三軌条方式はスリムに収まるような構造だ。

地下鉄には電車を通すトンネルを掘る必要がある。ここでトンネルを掘るとき重要になるのがその断面積と地上からの深度である。この二つは、小さく浅ければ建設費を安くすることができる。そのため、地下鉄は地上の鉄道のようなパンタグラフを用いる架線方式ではなく、第三軌条方式のほうが建設費では有利となる。実際浅草線は日本初の地下鉄だが、当時(1922)は2.2kmの短さであり、建設費を抑えようと第三軌条方式をとった。海外の多くの地下鉄は建設費の面で第三軌条方式をとる。

ここだけ考えると、架線方式にメリットがないように思えるが、地下鉄とそれ以外の鉄道の乗り入れの多い日本では事情が異なるのだ。

戦後、高度経済成長期を迎えるにあたり、"郊外に住んで都心に出勤する"スタイルが顕著になった。このようなスタイルにより都心と郊外を結ぶ私鉄・JRの通勤利用者は爆発的に増加した。これを受けて、都心と郊外を結ぶ列車の乗り入れを念頭に入れたうえで地下鉄建設をおこなったため、日本では多くの地下鉄で架線方式を採用している。これは遠くの郊外から通勤する文化の強い日本のみの特徴であるようだ。



私は現在通学時に、名古屋市営地下鉄を使っていて、地下鉄はとても身近なものである。よくよくみたら、毎日使用している鶴舞線にはパンタグラフと架線が天井についていた。鶴舞線も名鉄豊田市線という郊外列車と接続しており、れっきとした架線方式だった。また、対面のホームより島式ホームのほうが乗降人数が多いと想定されて設計されているそうだが、実際車窓から見てみると的を射ていると感じた。このように、普段無意識に利用している地下鉄を新たな見方でみることができるようになり大変楽しく感じている。

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