みえないプロパガンダ 『たのしいプロパガンダ』

1.紹介、あらすじ

 近現代史学者、辻田真佐憲著。今昔の世界各国で行われた娯楽を通じて普及された"楽しい"プロパガンダの紹介をはじめにしている。続いて、現代日本における楽しいプロパガンダの例を紹介。現代日本にもその楽しいプロパガンダの片りんが見えるとし、読者に政府が芸術・文化・娯楽を政治利用する危険性に注意を促している。

2.感想

 ”変なタイトルだなあ”これが最初の率直な感想だった。
こういう系のテーマの本は内容が偏ってたりするのではないか、と勝手な偏見があったため抵抗感がややあったが、好奇心に負け読むことに決めた。

 実際には、偏った思想めいた記述は見られず安心した。娯楽を通じて、一般国民が楽しいと感じられるような形で軍部や政府がおこなった世界のプロパガンダの例を知ることができた。

著書では、日本政府が「心を打つ芸術政策」を進めようとしていると警鐘を鳴らしている。2015年6月25日に「文化芸術懇談会」という勉強会でつくられた設立趣意書による文言である。「心を打つ」というのは曖昧だが、そこに「右傾エンタメ」が入り込む可能性があるようだ。

 「右傾エンタメ」とはちょっとわかりづらい。というのも、軍や防衛、それに関する内容を取り扱っていたらみな右傾エンタメといえるだろうか。それはちょっと乱暴である。筆者の受け売りなのだが、受け手である国民の思想を誘導する意図があるものを右傾エンタメとするようだ。

 二つのことから、将来政府や自衛隊などの組織が、国民の思想を、国民が知らず知らずのうちに、右傾に誘導するような芸術・娯楽作品がつくられるようになることが考えられる。右傾化に感化されて暴走した国家があゆむ道は、二次大戦の敗戦からわかるように悲惨な道になってしまうだろう。そのようなことを防ぐためにも、この流れを断ち切らないといけないと感じた。


 しかしながら、その解決方法として、「右傾エンタメ」自体を禁止したり、製作した者を罰するのは現代の自由な社会にはあまりにも合わない。極端なプロパガンダを含むような作品がないか、監査する体制が必要だと思うと同時に、プロパガンダがふくまれているかどうかを、受け手の国民一人ひとりが冷静に判断し評価するべきではないかと思う。

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