意味付けと勉強法

「勉強法の科学」 市川伸一著。東京大学大学院博士課程中退。埼玉大学助教授、東京工業大学助教授を経て、現在、東京大学大学院教育科学研究科教育心理学コース教授。本書の他に『勉強法が変わる本』『考えることの科学』『学ぶ意欲とスキルを育てる』などの著書があります。

著書では認知心理学の研究をおこなう著者が、主に高校生向けに学習法について、問題の解決につて、勉強に対するモチベーションの出し方についてを人間の認知能力の点から考察したものです。ここでは、学習法のところで触れられていた記憶についてまとめたいと思います。

人間の記憶には短期記憶と長期記憶があるります。今その瞬間、頭の中に意識としてあることを短期記憶、あとから思い出せるものを長期記憶といいます。人の短期記憶というのはせいぜい7コの記号程度しか覚えられないようです。例えば、”35711"という数字を見て暗記することは難しくはないと思いますが、"741852963”と7つ以上の数字の羅列を覚えるのには苦心します。

学校などで行わわれている"学習"では、知識の定着が不可欠です。新たな知識を定着させる際、大事なのは、その知識を短期記憶から長期記憶として脳に残すことなのです。

長期記憶として知識を残すために一番有効なのは、"意味づけ"です。具体的な例ですが、先ほどの"741852963”について見てみましょう。これはじつは九九の七の段の1の位の数字を並べた数列になっています。このことを事前知識として知っていたらどうでしょうか。ただ無意味に数列を暗記するよりも簡単にこの数列を記憶できると思います。

このことを実際の勉強に反映させるとすると、例えば数学では、二次方程式の解の公式をただ単に暗記するのではなく、平方完成を行った結果公式が導かれるのだ、と公式の意味や道筋を理解したうえで二次方程式の学習を進めるほうが、長期記憶に残り安定した知識が得られることになります。


人間は理由や示す意味、因果関係などがあった方が何事も記憶に残りやすいものです。全く化学の知識がない人がペンタンという化学物質を覚えるとしましょう。何も考えず覚えるよりも、"ペンタ"という言葉が数字の5を表している(ペンタゴンは5角形を指しますよね)と意識しながら覚えた方がよく暗記できるでしょう。実際にペンタンは炭素が5つ結合した分子を指しますので、ただ言葉を覚えるより有意義な記憶になると言えます。

塾講師をしているとよく思うのですが、中学生や高校生はこういった視点に欠けていることが多いです。私も中高生の時、そこまで意識して知識の意味づけを行っていなかったため、この視点を大事にするべきだと改めて実感しました。中高生の彼らには"意味の無いものを強制的に暗記"のような学習スタイルはとって欲しくないと思います。また、教える側も知識の一方的な押し付けではなく、考えしっかり理解させるような勉強のさせ方を目指すべきだと感じました。


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