『コンビニ人間』 あらすじ、感想

1.紹介

『コンビニ人間』 村田紗耶香著。1979年千葉生まれ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』が第46回群像新人文学賞優秀作となりデビュー。09年『キンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞受賞。他には『タダイマトビラ』『殺人出産』など。

2.あらすじ

主人公の古倉は大学一年生のころからずっと18年間コンビニでバイトを続けている36才、女。物語はコンビニで働く彼女が目にしている状況を淡々と述べスタートする。

彼女は小学生のころから"普通"が理解できなかった。男子生徒が揉めあいになっていて「はやくとめて!!」と声が聞こえた。止めようと考えた古倉はスコップをとりあげて男子生徒の頭を殴った。もう片方の男子も殴ろうとしたら、女子たちは泣き叫んだ。先生は仰天し、説明を求めた。以下やり取りが続く。

「止めろと言われたから、一番早そうな方法で止めました。」
先生は戸惑った様子で、暴力はだめだとしどろもどろになった。
「でも、止めろってみんなが言ってたんです。私はああすれば山崎くんと青木くんの動きが止まると思っただけです」
先生が何を怒っているかわからなかった私はそう丁寧に説明し、職員会議になって母が呼ばれた。
なぜだが深刻な表情で、「すいません、すいません…」と先生に頭を下げている母を見て、自分のしたことはどうやらいけないことだったらしいと思ったが、それがなぜなのかは、理解できなかった。

ここからわかるように、彼女はいわゆる"普通"が理解できなかった。"普通”の仲裁というのもわからなかったし、殴った方が止められると心から思い、なにも不思議に思っていない。自分"は"普通"がわからない存在と気づいた彼女は、中学高校をなるべく口を利かずに過ごした。

そんな彼女が偶然見つけたのがコンビニバイトであった。コンビニではマニュアル通りに「いらっしゃいませ!」と声をかけ、決まり切った接客を徹底していればいい。結婚して子供を持ち出した同級生と触れたり、妹と触れる折、自分は普通の人間にはなれないと感じながらも、コンビニの「店員」になることができた。

その後、白羽という男(30後半、ろくな定職につかない)がコンビニにバイトとしてやってくる。まともに仕事をしない彼はほどなく解雇されたが、訳あって、古倉は彼を自宅に飼うことにした。普通の人になれていない実感と、変化を望んでいたため"普通"のまねごとをしようと考えた。

白羽と同棲するようになって、彼女の周囲の人々は大きく変わった。子持ちの同級生は「恵子は恋愛初心者だから~」などと聞いてもない話をアドバイスしたがった。妹は「やっと治ったね」などと狂喜乱舞する。そんな様子をみた主人公は非常に冷めていて"私とは関係のない話"と感じていた。

ほどなく、白羽が主人公と同棲していることがコンビニでバレる。そのとたん、今まで仕事の話やたわいもない話しかしていなかった同僚が、同じ「店員」と思っていた人たちから執拗に同棲について尋ねてくるようになった。

彼女が「店員」になれ、世界の歯車として存在意義を見出せる場所であった、コンビニが次第にそうでなくなっていった。やがて彼女は仕事を辞める。

生きている意味を見出せなくなっていた彼女だが、ある日同棲している白羽に連れられて面接に出かける。その際、コンビニに立ち寄った。

私にはコンビニの「声」が聞こえて止まらなかった。
コンビニがなりたがっている形、お店に必要なこと、それらが私に流れ込んでくるのだった。

人間である前にコンビニ店員であると悟った古倉は、面接を断り新たなコンビニを探そうと意気込むのだった。


3.感想

大学図書館でなんか聞いたことあるなと思って借りて読んだが、なかなか考えさせられる本で面白かった。白羽も物語に重要な意味をもつが、あらすじが長くなりすぎるため、興味のある方は読んで確かめていただきたい。

古倉と白羽が同棲しだした後、周囲の人々はさまざまな反応をするが、おしなべてどこか冷ややか、小ばかにしている印象をうけた。私はなかなか気分のよいものではなかったが、言われている当の主人公が全くなにも感じていない描写があり、彼女は"普通"を全く理解できなかったことは間違いなかったし、どうしようもなかったようにも思える。最終的に彼女はコンビニ店員であることに生の意味を見出せるようになり前向きなエンディングであったため、読み終わったあとは晴れやかな気持ちは抱けた。

ここでこの本のいう"普通"について考えないといけないと思う。主人公は36才。世間的には結婚し子供をうむとせれているような年齢だ。物語中でも同級生友達がしきりに「結婚しないの」だとか「恋愛は?」だの聞いてくるし、なぜコンビニでバイトなんか18年もしてるの?と聞いてくる。身内である妹や母もその例外ではない。この『コンビニ人間』、検索してみるとアスペルガーが関連語に浮上する。確かに古倉の言動はアスペルガーやなんらかの障害的な側面も含んでいるのかもしれない。しかしながら、"コンビニが大好きなアスペルガーの主人公の話"で片づけられるほど簡単な話ではないと思う。

「普通の人間ってのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ。」

 白羽のセリフだが、グサリとくるものがあった。皆、この手の裁判は無意識にしていることがあるのではないか。
この作品では、"一人暮らしの女(古倉)なのにバイトしかしてないのか、就職をせよ"的なことをいろいろな人が言っている。
 現実で"36才アルバイト女性"と聞いたらどうだろうか?勝手に結婚してるのという疑問がわき、「そうでない」と返答をもらったらなぜ就職しないの?といった感じで勝手に"裁判"してしまう人は少なくないだろう。

 自分の周りや社会全体がよしとしている価値観を信じ込み、他人に押し付ける、また、そうでない人の内情にづけづけ踏み込んで非難する。こんな同調圧力的な行為はなるべく控えたいと思うし、そういった行為を起こさないように他者への気遣いと理解を心掛けたいなと思った。

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