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残影のプリンス

その昔、東京町田にプリンスという喫茶店がありました。
入り口をくぐるといきなり西洋甲冑が出現し

甲冑の後ではもはや驚くには当たらない

3つの天使像に教義不明の女神像。

工場などでよくみる巨大エアコンからは

鹿の首が突き出ていました。
あ、蝶もいたんですね。鹿が強烈過ぎて今の今まで気付きませんでした。

さらに障害物が多くて撮影出来なかったのですが、店内最奥に無駄にデカい非常口の点灯板があってこれが私の一番のツボでした。あとスタッフの人選もエキセントリックで好きでした。

これだけゴチャゴチャしながら何故か異様に落ち着く店で、雑踏にいい加減うんざりするとよくここに退避したものでした。今更だけれど有難うプリンス。
お前いま何処に居んだシカ。

では最後のお別れに私の勝手な妄想によるプリンス内装のコンセプトを語ることにします。(別段誰かの承認を得たわけではありません。妄想です。)

ロンパー王国奇譚
~残影のプリンス~

比較的平和なロンパー王国の王子プリンスは軽くバカでしたが、真っ直ぐな若者で、人並み外れた膂力を備えた戦士でもありました。
彼にはメタリンメルティという美しい許嫁がいて、彼はこのメタリンを自分よりも何よりも大切に思っていました。

ところが彼女はふとしたきっかけから何者かに解呪不能の死の呪いをかけられてしまいます。

悲嘆にくれるばかりの周囲を尻目にプリンスは王家の鎧を身に纏い、触れればいかなる呪いも解くといわれる伝説の黄金の蝶を探す旅に出立するのでした。

道中人々を苦しめるマンホーランの毛ガニをワンパンで倒したプリンスはその地の三つ子の天使に気に入られ、彼らから
貴重な情報を得ます。

彼らによればあらゆる生き物の所在を知る異教の女神ソギンクーであれば黄金の蝶の居場所も分かるに違いないというのです。

勇んでソギンクーを訪ねるプリンスでしたが、気高く思慮深い女神は勇者に試練を課します。それは彼女が指定する10の魔物を倒し、かれらからひとつずつ計10個のアイテムを奪いわれに捧げよというものでした。


苦難の末10のアイテムを揃えたプリンスがそれを女神に奉じると、彼女は満足気に微笑み次の様に述べました。

黄金の蝶は現在、エベリア半島のチャランポン大迷宮の最深部にあるククナカン霊廟でその自由を奪われている。ただこの迷宮の中層より下におりて生還した人間は未だかつて一人も居ない。それでも行くというのなら、お前の勝ち取ったこの10のアイテムを持っていくがいい・・

軽くバカなプリンスは恐れを知らず、エベリアへ急行し、真っ直ぐ洞穴に突入します。

女神の言葉通り死の迷宮は中層以降、侵入者に牙を剥き、プリンスは何度も死にかけますがそのたび女神のくれた先のアイテムで難を逃れました。
実はこの10のアイテムはどれもチャランポン迷宮の攻略に必要不可欠なものだったのです。

こうした女神の助力もあって、迷宮最深部にたどり着いたプリンスは霊廟の神座に安置された魔法籠のなかについに探し求めた黄金の蝶を発見しました。

だが喜びも束の間霊廟内にコーヒー1杯飲み終わる前に人間を凍死させる強烈な冷気がたちこめ、靄の向こうから大剣を携えた鹿頭の獣人が姿を現しました。
蝶の番人にして迷宮最強の戦士シエラザード・パナイデスです。

三日三晩に渡る死闘の末、プリンスはついに強敵パナイデスの首を切り落としますが、不死の番人は首を切られてなお[破滅の石版]をふみ砕くだけの余力を残していました。

轟音と共に天井から崩れ始める霊廟。勇者もこれにはなすすべがなく、蝶の籠をかき抱き嘆くのです。
「ああ、わが身が此処で果てる事に悔いはないが、メタリンメルティを救えなかった事だけが残念だ!」
籠の蝶がこの時初めて羽根を開き、勇者の指にとまりました。
「お前は私を慰めてくれるのか。」
力無く微笑んだ勇者の横顔にほのかな灯りがさします。

落下する岩盤、舞い上がる砂塵のなかに
一条の緑の閃光が走りました。招かれるように王子はそれを辿ります。
光は次第に力を増し、やがて緑の長方形にその形を変えました。そしてなんとその中央に「非常口」の文字が・・・!

勇者と黄金蝶を惜しんだ女神が、理を破り空間移転の門を開いてくれたのです。
でもこの王子ちょっとバカだから分からないかもしれないと思って非常口の表示板を添えたのでした。

こうしてプリンスは黄金蝶を連れ死の迷宮を脱したのでしたが、その顔色は冴えません。どころか地に膝をついてうなだれ動きを止めてしまいました。解呪の期限を1日過ぎてしまったのです。
恋人が生きている可能性は限りなく低いといえるでしょう。
彼が力無く取り落とした籠の扉が開き、黄金蝶がひらひらと舞い出て勇者の肩にとまります。
「おのれの為すべき事を為せ」
蝶の声がプリンスの頭のなかに響き渡りかれの両眼に再び火が灯ります。
勇者を中心に眩い金粉の竜巻が沸き起こり蝶はモスラサイズに変態しました。
「われにのれ、不屈の勇者よ!」
なくてもがなのスペクタクルにより
プリンスは音速で故郷に帰還します。

城門が開き配下・領民達の歓声が響き渡るなか、真っ先に王子に駆け寄り飛びついたのは許嫁のメタリンメルティそのひとでした。

実は軽くバカだから気付かなかったのですが、呪いを受けたのは王子だったのです。「最愛の者を失う」という呪いを。そして黄金の蝶に触れた事で彼は自らの呪いを解いたのだ。
こうしてロンパー王国に平穏な日々が戻りました。めでたしめでたし。

そもそも呪いをかけたのは誰だったかという問題が残っていたのですが、王子は軽くバカなので喜んでるうち忘れちゃったそうです。随分後になってから「でもまた襲ってきたらわかんぢゃん?」って言ってたらしいですよ。(終)




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