リスカに失敗した話

 いろいろあって死にたくなった。
 だけど死ぬ勇気がないから、リスカしてみようかと思った。
 それでも衝動のままリスカできなかった。前に、失敗すると血が止まらなくなるとか膿が出てくるとかそういう話を聞いたのだ。というわけで、正しいリスカのやり方を調べてみた。カッターで切る、消毒をする・・・・・・面倒くさかった。それに、痕が残るらしい。リスカを後悔しているということも書いてあった。
 それでも気持ちが収まらなかったから、目に見える何かが残らない形で自傷しようと思った。考えついたのは嘔吐。昼ごはんを食べ過ぎて吐き気がしていたのでちょうどよかった。
 早速トイレに行った。「本当にやるのか」と呟いた。息が荒かった。鼓動が早かった。少しして、便座を上げた。向かい合いながら、ゆっくり座り込む。便座の裏側には茶色い汚れがこびりついていた。汚かった。余計息が荒くなった。
 そういえば手、洗ってないな。と思いながらも、右手の人差し指と中指を揃えて口の中に突っ込んだ。吐き気がやってこないから、喉奥までいれた。生理的に「おえっ」とえずいた。出てきたのは透明な汁だった。胃液だろうか。唾液と混ざり合って僅かな粘り気を含んで口からこぼれ出た。
 もう一回、突っ込んだ。胃の辺りがむかむかした。今度は出てくるかなと思ったけどまた透明な汁だった。臭いを嗅いでみた。臭かった。
 再び入れたけど、今度は吐く気がなかった。吐くかもしれないというところで止めた。唾液ですら嫌悪感が走ったのに、ゲロで指が汚れるのに耐えられるわけがなかった。結局「吐けない」とだけ言って諦めた。
 こんなことですら達成できないのだから、リスカはもちろん、自殺なんて到底できないなと思った。それで、ちょっとだけ生きる気力が湧いてきた。リスカは自分が生きているという感覚を得るためにやっていると聞くが、それとはちょっと違うものの、死なないために自傷するという感覚は理解できた気がする。

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