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二次創作物の頒布について考えた事

はじめに

 ベータは趣味で粘土細工をやっている。高校ぐらいまでは絵も描いていた。で、そんなわけで1年半ぐらい前からとあるオンリーイベントに参加している。
 その程度の歴史なのでベータは二次創作業界においてめっちゃ素人だ。なので何がOKで何がNGかよく知らなかった。今も良くわかってない。でも初参加するにあたり調べた事や考えた事が、才能ある次世代の作家さんたちの検討の材料に役立つかもと思ったのでここに記す。全然違うよって詳しい人から怒られるかもしれないけれど、僕が怒られれば、結果として他の人にも情報提供ができる。やってみて損はないだろう。

二元論で考える二次創作頒布について

 人の著作物を元とした翻訳である二次創作物の頒布には著作権上いろんな問題がある。なので、原作を正規に引用して分析する考察本等以外の殆どの二次創作品は二元論ではアウトである。その一方で著作権侵害は親告罪なので、作者が訴えなければセーフである。
 厳密に言うと2018年にTPPがらみで著作権の「一部」が改正されて、非親告罪となっているが、下記の記事の 3.改正の概要 の (2)著作権等侵害罪の一部非親告罪化 を見てもらえばわかる通り、原作のままの複製の公開や、著作者の利益侵害につながる事だけが、非申告罪化されている。要は漫画村みたいにコピーを配布したり、ドラえもんに眉毛だけ書いた偽物の漫画を本家の半額で売ったりってのはNGって意味だ。

でも同人誌って親告されたら有罪なんでしょ?

 その通り。だけど訴えるの大変だし、作者にとって好ましい同人誌ならむしろ界隈が盛り上がって売り上げが伸びたりするし、あくまでファン活動で大幅な利益を出してなければ、訴えても損害額が小さいから大したお金にならないしで、よっぽど悪い事をしない限りは訴えられない。そもそも漫画家の多くが二次創作上がりなので、二次創作者に対して寛容であることが多いのだ。
 なので、基本的には著作者や出版社の機嫌を損ねるようなことをやらず、大人しく遊んでいる分には、同人誌が有償だろうと多少利益を出そうとだいたい大丈夫。
 逆に言えば、ウマ娘でエロをやるとか、同人誌はやめてくれって公言している作者の作品で同人誌を描くとか、原作面白くねぇぜ的なディスる同人誌とかは危険だと認識しておいた方が良い。

グッズの場合はどうなの?

 上述の通り、同人誌は著作者の機嫌を損ねるようなものでない限り、訴えられる可能性は低いし、まともな企業なら、頒布停止などを要求する程度で賠償にはならない可能性が高い。同人誌は公式の本と見分けがつかないことはほぼないからだ。※イベントや印刷所の注意書きに模写は頒布できないと書いている点には注意したい。
 一方アクリルスタンドやマグカップなどのグッズについては一枚の絵だけで構成されることも多く、ベータぐらい絵が下手なら良いが、うまい人が書くと公式のグッズと混同されかねない。
 なので、原作に近いものを、ファン活動の域を超えた数、大量の利益を上げるような形で頒布するのは危険だろう。下記のようにコミケC103で注意喚起がなされたこともある。
 このことから、アクスタなどは本を売って利益が出過ぎるときのおまけでセット販売するもので、単品ではあまり売らないという文化の界隈もあるらしい。私の所属する界隈は平気っぽいけど、よその界隈にお邪魔するときは、そのクラスタの文化を一度聞いておかないと、トラブルの元になるかもしれない。

 ちなみによく、「作品タイトル書くのはNGらしい」という発言を目にするが、正確には上記記事にも記載のある通り、トレードマークやロゴの無断使用が禁止となっている。これは意匠権侵害や商標権侵害で、親告罪ではないため、作者がいいよと言っても出版社とかに即怒られる。絶対やってはいけないのだ。

フィギュアの頒布はどうなの?

 二元論で言えば同人誌と同じになりそうだが、実は文化が異なる。理解するには歴史を知っておいた方が良い。

 個人が作った立体頒布物であるガレージキット、通称ガレキの登場は1980年代前半である。プラモデルは安かったがクオリティの低いものも多く、マイナーな作品はそもそも立体化されていなかった。
 で、クオリティを求める者やマイナー作品のファンの中から、ガレキを作る者が現れ、同人誌のように頒布され始めた。1984年から始まったワンダーフェスティバル、通称ワンフェスも当時は小規模だったため、同人誌即売会と同じ扱いでグレーなファン活動として細々と頒布が行われていた。
 しかしながら、ワンフェスの規模が大きくなるにつれ、同じイベント内に、個人のディーラーと、公式にお金を払ってキットを販売するメーカーが机を並べる事になってしまった。当然メーカーとしては面白くない。
 また、BLの薄い本等を公式のコミックスと見間違える人はいないが、そもそもガレキはロボットアニメなどの本物にそっくりに作ることを目指していたこともあり、製品として公式との見分けもつきづらい。しかも個人ディーラーが公式の原型師を兼ねている事もあったりするので、そもそもクオリティに差がない、あるいは逆転している事すらある。
 
で、これを何とかしようと、当時ワンフェスを主宰していたゼネラルプロダクツ(岡田斗司夫が経営していたSF専門店)が当日版権制度という制度を発明した。
https://wonfes.jp/wp-content/uploads/2023/02/copyigth_manual.pdf

 大雑把にいうと、このイベントでこれをいくらで何個売る予定ですと、事前に申請し、サンプルを写真や完成品を添えて審査を受け、版元からOKがでたら頒布できるが、版権使用料が0~10%ぐらいかかる。そしてこれは売れた実績に対してではなく、申請した生産数に応じて事前に払う。
 仮に1体1万円のガレージキットを30体頒布することに決めると、合計30万円。版権料が5%の版元だと、申請料金2千円+版権料1万5千円がかかる。その結果、一体も売れなかったとしてもだ。そしてワンフェスのディーラー参加費は1卓2万7千円。つまりこの人の場合は、座ってるだけでマイナス4万4千円からスタートである(作品の原価はその4~5倍ぐらいかかるはず)。で、その名の通り、イベントが終わったらこの版権は消える。余ったものを事後通販してはいけないし、イベント開始前に予約を取ってもいけないのだ。ワンフェスに関しては会場外での販売などが見つかると、以降ワンフェスでの出展禁止などのペナルティが課される。
 大変な負荷だが、この日の活動はグレーではない。ホワイトなファン活動だ。作者のお墨付きなのでこの日一日だけは公式グッズ販売者なのである。サンプル提出を喜んでいる作家さん(はじめの一歩の森川先生とか)もいたりして、製作者と原作者の距離は近くなる。ベータがファンアートを作者に見てもらえて、いいねを貰うと喜ぶのは、立体畑の文化だからというのも理由の一つだったりする。作者に嫌われる立体作品は頒布できないのだ。
 で、この当日版権制度に対応しているイベントが、他にトレフェスやC3AFAマーケットとかぐらいであまり数がない。なかなか狭き門なのである。
 一方、対応していないイベントで頒布することに関しては、立体物の販売を想定したルールがそもそもないため、禁止されていない事も多い。そのため法律に従って判断するしかない。結果として同人誌と同じでグレー、親告されたら有罪という扱いになるだろう。
 しかし、上述のような制度が整備されているという事により、法律上はグレーなはずの二次創作活動ではあるが、こと立体物の頒布に関しては当日版権を申請した活動がホワイトで、そうでない活動がブラックと業界的には認識されてしまっているのである。したがって、当日版権に対応していないイベントで無茶を長く続けて悪目立ちすると、立体業界から干されてしまう可能性がある。人生は長いので気を付けた方が良い。

 なお、ついでに補足しておくと、当日版権制度が正しいと言うつもりはない。本来二次創作は平面だろうと立体だろうと自由である事が望ましい。ただ、様々な歴史や利権の兼ね合いからこの形で落ち着いているので、尖ったことをすると生きづらいよという現状を書いたのみである事に注意いただきたい。

で、自分はどうしたの?

 初のイベント申し込み前に、運営の方に当日版権に対応しているイベントでしょうかと聞いてみて、対応してないとの回答だったので諦めました。で、苦肉の策として、粘土造形の手順本兼写真集を作って参加することにして、せっかくなのでちょっと挿絵も描いたりして、せっかくなのでアクスタとアクキーも作ってって感じで初参加しました。
 立体でギリギリセーフのラインを狙おうかとも考えましたが、それをやることで、どこからダメかのラインの再検討が始まり、今は問題になっていないアクスタはどうなのとか、イベントとしての禁止事項が追加されることにより、周りに迷惑のかかるような事態が起こるのが怖かったので、とにかく安全側へって方向に舵を切ったわけです。
 自分の中の判定基準は、印刷所にリクエストできるものは業界的にOKなのだろう。それ以外の物は周りの人に暖かく迎えられそうかを観察して、慎重に検討して出そう、って感じです。
 こと、いまのイベント参加に関して、立体物は展示したり、じゃんけん大会の景品にしたりに留めようと思っています。
 また、粘土の新作は粘土模型本の2作目に纏めるつもりです。今度はもうちょっと挿絵とかを増やして、読んで面白い本にできたらと思っています。まだ作品も完成もしていないうちから皮算用での広告ですが、そんな軽薄な感じでこの文章を閉めたいと思います。皆様もどうぞ安全に楽しいファン活動を…。


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