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陽はまた登る故に暑い

古き良き東京の情緒を残す綾瀬駅前の細い路地にはなぜか郷愁に駆られてしまう。角に位置する正に狭小な店の前には角を曲がった先まで常に7.8人程度が列をなしていた。店の前に配置された室外機から放出される熱風は、茹だる様な暑さと相まって僕たちの体温を2℃程度上昇させる(絶対温度で表示するなら2K(ケルビン))。体温の上昇をもたらす要因が室外機なのかラーメンへの期待値なのか思考がまとまらないままに入店してしまったのは皆同じだろう。

店内はこじんまりとしており、L字のカウンターに8席がやっとの雰囲気。店内の熱気と充満する煮干しの香り、やや大きめのBGMが脳内のドーパミンを生成する一助であることに異論の余地は皆無だ。「荷物は後ろの段ボールの上に置いても大丈夫ですよ。」と店長の優しい声。ここ以外では絶対に聞かないセリフではないだろうか?東京の地価の高さに驚嘆しつつ、850円という比較的リーズナブルな値段でいただける絶品のラーメンに箸を伸ばすこの瞬間が今日のハイライトになることをこの時はまだ知らないが、どこかでそうなりそうだと感じている自分がいることを否定する十分な根拠を提示しろと言われれば胸を張って相手の眼を見つめる自信がないと言わざるを得ない。

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