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インドの天才数学者

店内は8席のみとこじんまりとしており、加えてこの度のコロナの影響で6席に減らされていた。店主はインドの天才数学者ラマヌジャンを彷彿とさせる風貌で、ややヒンドゥーよりであることに異論の余地はなかった。ラマヌジャンは余程牛丼に自信があるのか客に与えられた選択肢は以下の2種類に絞られた。
牛丼の量:並みor大盛り
卵:生or温泉卵
すき家に慣れ親しんでいる小生は思わず「牛丼並み盛りつゆだく豚汁たまごセットで」という呪文を唱えたい気持ちをぐっと抑え、下唇をギュッと噛み締めた。

6席にほぼ同時に着席した6人の中で私は5番目に着席。公衆の面前で1番手の者から順番に注文を高らかに宣言する方式であることにやや戸惑いを隠せなかったが、5番手ということで注文を熟考する時間が与えられたことには多少安堵した。ここは並盛りでいこう。すき家でも並盛りだし。しかし、あろうことか4番手の女性は大盛りを注文。そのことをラマヌジャン含め店内の7人は確かに聞いていた。この後に男のおれが並盛りを注文していいものか。あいつ男のくせに並盛り頼んでやがる。ラマヌジャンにそう思われてもおかしくはなかった。私は恥をしのび、震える声で宣言した。「並盛り、生卵で。」そこにはすき家で流暢に「牛丼並み盛りつゆだく豚汁たまごセットで」とラップをかましていた自信満々の男の姿はなかった。

結果、食べてみればお腹いっぱい。並盛りが正解だったが、4番手の女性が大盛りを完食したことを横目に確認しつつ、やや猫背になりながら店を後にしたことは言うまでもあるまい。

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