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躍進のコスモス支える佐々木冷菓。

数年前の夏、冷凍倉庫で働いていた。その記録と記憶。


ある夏の冷凍倉庫体験

前職をなんとなくで辞めてからまたふらふらと。
無料の求人誌ではあんまりいい求人がないのでは?と思い始めてコンビニで100円のあつまるくんの求人案内を買い求めた。
結論から言うとたいして中身は変わり映えしなかったのだが、無料のものでは見たことのない求人があったのは確かで。
その中にあったのだったと思う、佐々木冷菓も。
他のアルバイトより高時給のその求人が気になりすぐ応募した。
時給も気になったが、冷凍倉庫どんな感じなんだろうと興味が沸いたのが大きかった。
面接は社員の優しそうなメガネのおじさんで感じがよかったし、人がすぐほしかったのだろう。割と早く仕事は決まった記憶。

デブには快適!冷凍倉庫

冷凍倉庫で働きだしたのは5月の連休明けぐらいだったと思う。
暑くなり始めた時期だったので多少寒くても冷凍倉庫はピッタリだと思った。
実際に現場に入ると僕と同い年ぐらいの中の中ぐらいでかっこいいKさんが教育係でいろいろと教えてくれた。
Kさんもやさしく丁寧な感じだったのですぐ馴染めそうだと思った。
倉庫内では自前の作業着に着古されて少し破れて綿の出ている防寒着を着て作業を行った。
当時はデブだったので全然それで余裕だった。
確かに寒いのは寒かったけれど、周りの細い人よりは倉庫内で長時間働けていた。
庫内はマイナス20度ぐらいだったろうか。
息を吹きだせばダイヤモンドダストのようになる。
綺麗だなーじゃないんだよ。その中で作業するわけだから。
みんなネックウォーマーで鼻や口を塞いでいたかな。
そうしないと作業はできない。
作業内容は冷凍倉庫内のピッキングと冷凍倉庫内の商品補充など。
コスモスなどの各店舗に商品を卸すドライバーさん達がそのまま持っていけるようにカゴ台車に店舗別に必要な商品を準備するのが僕たちの仕事だった。
あとは段ボールに入っているアイスやら冷凍食品やらをひたすら庫内に補充していく仕事。
主な取引先はコスモスだったがそれ以外の中小のスーパーなどにも卸していたからまぁ予想以上の仕事量だった。
またバイトをしていた数年前はちょうど冷凍食品の需要が急激に伸び始めていた時期だったので今はもっと忙しいのではないかと推測する。
そんなに頻繁にさぼらなければ外に出ていい感じだったし、体調悪くなられても困るだろうしその辺はゆるい感じでよかったなぁ。
それでもみんな中に入れる限界ぐらいまで頑張っていたけどね。

ゲイにも快適?冷凍倉庫

冷凍関係はやはり危険も隣り合わせだし何より力仕事なので本当に女性はいなかった。
事務所の経理の女性がたまに社員の人に連絡に来るぐらいであとは本当に男だけの職場だった。
働いてる年齢層は20代から50代ぐらいまで15人ぐらいいたのかな。
いける若い子が正直少しいたけど、それ目当てでは毎日の労働はできないしそこは重要じゃなかったかな。
ただ女子がいないことで変な気は使わなくてよかったとは思う。
僕もゲイである前に田舎のおいさんだからやっぱ気を遣うのよね。
そういう職場はほぼ初めてだったので特別そう感じたのかもしれない。
関係ないと言いつつ、若い20代の2人はちょっと目で追ってしまっていたな。ごめん。
ひとりは現場のリーダーで仕事のできる子。
ベビーフェイスの見た目とは違い何でもテキパキこなして年上の人にも嫌な思いをさせずにスマートに要望を伝えらえる子。
もちろん年下の子にもコミュニケーションを取りながら引き締めるところは引き締めてやっていく。端から見てて惚れ惚れするような仕事ぶりだった。
もうひとりはエグザイルみたいなラインを短髪の頭に入れてるような体の大きい子。ちょっと残念なところがある子でよくリーダーの指導が入っていた。が、そこがかわいかったな。ほら、やんちゃそうな子に妙に惹かれる時期ってあるじゃん。そういう時期だった。
終始周りをいやらしい目で見ていたとかそういうことは本当になくて。
ただ男だけの世界って僕は好きだなって思った。

意外とマイベスト職場と思う理由

コミュ障人間としては休憩時間はどの職場でも結構悩みどころで。
頑張って気を使いまくるのは違うし辺に浮きすぎてても嫌だしでどう過ごしても所在なさげな感覚があった。
でも、あの冷凍倉庫で日々の気の使わなさはすごくよかった。
休憩時間は外通路に置いてあるストーブでみんな温まりながら談笑していたりしてなんだか妙に牧歌的だった。
職場が郊外の山の中にあったのもよかったのかなぁ。
まぁ僕はそのストーブの輪には入らず室内の更衣室兼休憩室の椅子に座り携帯をずっと見ていたのだけれど。
冷えた体を窓から差し込む日差しで温めている時が最高に幸せだったな。
僕が完全に一人ならそれも気にしてしまうけど、僕以外にもKさんともう一人のWさんはあまりしゃべらない組で同じ室内にいてくれたので安心感があった。
後から考えれば浮いてたなと思うけども、そう感じなくてよかったのは周りの人が適度な距離感で接してくれていたからだろう。
作業をちゃんとしてくれればあとは別にっていうそういう感じもあったのかもしれない。
あと短期バイト数人以外はみんな社員にしててその辺はちゃんとしている会社だなぁと働いているときから思っていた。
適当にバイトやパートでやりくりしようと思えばできるから。
田舎にはそんな会社いくらでもあるし。
バイトを辞める頃に社員にならないかと誘われたが断った。
でも、ちゃんと真面目に頑張っていれば評価されるっていうのは伝わってきてうれしかった。

冷凍倉庫で出会った人達

同じ時期の募集で入って同じ時期に辞めた短期バイトの人はガリガリでずっとタバコを吸っている人だった。その人は最後まであまり好きにはなれなかったけれど、特に嫌だったのが僕との時給の差を気にしていたことだった。
経由していた派遣会社が違ったなんかで途中でその違いに気づき僕に直接聞いてきた。細かいこと気にする人がいるんだとそれはすごく嫌だった。
人の良さが記憶に残っている人もいる。農閑期だからと短期バイトでやってきたおじさんとは一番よく話をした。
こんなに人の良さって顔に出るのかと思うほどの人だった。
テキパキ動くことが求められる現場にはちょっと動きが遅く周りの人はん?となっていたような気もするが、僕にはすごく暖かく感じられていい空気をもらえる人だった。
現場で一番年上だったのはグレーのロン毛のバンドマン崩れみたいな人だった。よく話す人で悪い人ではないのだろうが、根性ひん曲がってそうなのは伝わってきていて、その人には嫌われないように過ごした。
特別何かされたわけではないが、口が立つのでちょっとお局様的存在だったな。仕事ができるわけではないのに気は使わなきゃいけない一番厄介な存在でもあった。

そこで見た天使の寝顔

休みの要望もちゃんと聞いてくれる感じの職場だったのでその日も若い現場のリーダーの子にシフトの要望を伝えようとしていた。
更衣室兼休憩室は割と広く中央に大きなテーブルが3つぐらいあってその周りに椅子が9個ぐらい。壁際にみんな荷物を置いたりしていた。
だだっ広い部屋の端っこ。少し奥まった部分がありそこに段ボールが積まれていて半個室のようになっていて、そこの机でリーダーがちょっとした事務作業をするようなスペースになっていた。
現場で探したけれどいなかったのでそこだろうと思い、僕は段ボールの壁からリーダーに声をかけようと覗き込んだ。
一瞬、時が止まった。
そこには天使の寝顔があった。
リーダーが寝息も立てずに静かに伏して眠っていたのだ。
こんなかわいい寝顔あるんかと僕はしばらく動悸が止まらなかった。
正直、時間にして数秒だがかなりじっくり見つめてしまった。
ベビーフェイスだが若パパのリーダーなのに長いまつげがしっかり閉じられ彼自身が本当に子どものようで。
フォークリフトで現場を常に動き回っているテキパキと仕事をこなすリーダーの見てはいけないところを見てしまったような。
妙な背徳感と感動が体を駆け巡った。
すぐ段ボールの壁の反対に戻り今度また話そうとなぜか独り言を言って作業に戻った。
僕はあの天使の寝顔を一生忘れないと思う。それぐらい美しかった。

コスモス急成長の陰で

コスモス各店舗にアイスや冷食を卸しているドライバーさんは売り場の商品補充やある程度の管理も任されているようだった。
コスモスに行ってみればわかるが、冷食コーナーもアイスコーナーもかなりのスペースが割かれている。たまに商品を綺麗に並べなおしているドライバーさんが店舗にいたりするが、正直かなりハードだと思う。
僕が短期バイトをしていた時期も僕は9時5時の勤務だったが、ドライバーさん達は朝から荷の積み込み、日中は各店舗を周り荷を下ろし、夜も僕が残業するような時間になっても伝票処理ともうそれはアスリートのような仕事ぶりだった。
ちゃんとした会社だからかなり給与は九州にしてはもらえてるとは思うが、
それでも僕にはとてもできないと思うような仕事ぶりだった。
ああいうのを見ていると素直にリスペクトの気持ちが湧いてきていた。そして、守るべき家族や生活があの人達にはあるのだろうと思った。
誰かのためではなきゃできない仕事というのが世の中にはあるのだ。

コスモスで青や緑の制服を見たらほんの少し思い出してほしい。
彼らの日々の汗と頑張りが躍進のコスモスを支えているということを。


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