夜が明ける前に

※お願い
無いとは思いますが、無断使用・無断転載はしないでください。

ラース:男の子。5歳
エヴァ:ラースのお母さん

???:ラースと出会う女
フクロウ


まっくらおそらに   しろいおつきさまひとつ
よるのじょおうさまはいつもひとりぼっち
さみしくないかときいてみたら   さみしくないよといいました
どうして、ときいてみたら   わらってこういいました
あいにきてくれるから   だいじょうぶなのよ


エヴァ「……幸せに暮らしましたとさ。お終い」
ラース「ねぇ、ママぁ。おひめさま、おうじさまとけっこんしたの?」
エヴァ「ええ、そうよ」
ラース「そっかぁ! おひめさま、きれいかなぁ?」
エヴァ「うふふ、そうね。きっととっても綺麗よ」
ラース「ママよりも?」
エヴァ「そうよ!ママなんかよりももーっと!もーーっと!」
ラース「おひめさま、みてみたいねぇ」
エヴァ「そうね。1度でいいから見てみたいわね。それよりラース?」
ラース「なぁに?」
エヴァ「もう寝る時間よ? 早く寝ないと…」
ラース「わっ!もっ、もうねるもん!ラース、いいこだからねるもん!」
エヴァ「そうね、ラースはいい子ね」
エヴァ「おやすみなさい、ラース。いい夢を(おでこにキスをする感じで)チュッ」

エヴァ「うん…しょ(椅子に座る)」
エヴァ「ラースが早くに寝てくれたから、編み物を進められそうね」
エヴァ「早く会いたいわ、私の赤ちゃん」





ラース「んん……むにゃむにゃ」
ラース「……ん」
ラース「おしっこ……」

ラース「……あれ? コレ、ぼくのベッドじゃ…ない……?」
ラース「ここ、どこ……?」
ラース「ママぁ? ねぇ、ママぁ」

ラース「……ママぁ(泣きべそをかく)」
ラース「うえーん!ママぁ!ママぁ、どこぉ!?」

ラース「ママぁ!ママぁっ!まっくらでこわいよぉー!」

???「……どうしたの?」

ラース「え?」

???「泣いていたでしょ?」
ラース「ママが……ママがいないの…」

???「ママがいないと泣いちゃうの?」
ラース「しらないところにいてこわかったの」
???「知らないところだと怖くて泣いちゃうの?」
ラース「だって……あ…………」

ラース「ふえーーんっ!えーーんっ!!」
???「どうしたの?」
ラース「おしっこ……もらしちゃった…」
???「もらしちゃうと泣いちゃうの?」
ラース「ママに…おこられちゃう…おにいちゃんになるのに、って」

???「お兄ちゃんになるのにもらしちゃうと泣いちゃうの?」
ラース「だって……ベッドよごしちゃうから……」
???「ベッドはここにはないよ?」
ラース「え……?」

ラース「あ…ほんとだ……ねぇ?ここはどこ?」
???「何処だろうね?」
ラース「どこぉ……?」
???「何処か分からなくてもいいじゃない?」
ラース「え……?」
???「だって、おチビちゃんを怒るママはいないんだよ?」
ラース「やだ!ママがいい!」
???「どうして?」
ラース「やだぁっ!ママがいいっ!」
ラース「ママぁっ!ママぁあああっ!」


ラース「ひっく……ひっく…ひっく……けほっ」
???「もういいの?」
ラース「……クスン……」
???「ねぇってば」

???「……嘘だろ、…寝てる?」



エヴァ「(小さな、囁く声で)ラース?」
エヴァ「(顔を覗き込みながら)良かった…良く寝てるわね」


ラース「むにゃむにゃ…おなか、すいたぁ……」
ラース「ママ、ごはん…なぁにぃ……?」

???「何この子……ノー天気にも程があるだろ…」
???「……このまま…」
???「…っ!? ……コイツ……! クソっ」


???「ちょっと、おチビちゃん」
???「(ペチペチ)起きなよ、おチビちゃん」
???「いつまで寝てんの」
ラース「ん〜……んん」
???「随分お寝坊さんだね、おチビちゃん」

ラース「むうぅ」
???「なんだい? そんなパンみたいに柔かーいほっぺたプックリ膨らませて」
ラース「ボクっ、おチビちゃんじゃないもんっ!ラースだもんっ!」
???「はぁ?」
ラース「それにボク、もうすぐおにいちゃんになるんだもん!だからおチビちゃんじゃないもんっ!」
???「あ…そ、そう……」
ラース「そうだもんっ!」
???「(小声で)うーわ〜……可愛くなぁい……」

???「それよりおチビちゃん」
ラース「……」
???「なーに無視してんのさ、おチビちゃん」
ラース「……」
???「わーかったよ、ラース」
ラース「なぁに?」
???「どうやってここに来たんだい?」
ラース「どうやって…?」
???「そうだよ。ここはアンタみたいな子が来るような所じゃない。ここがどこだか、分かってんのかい?」
ラース「…?(首を傾げる)んー…わかんないっ」
???「分かんないって…!(ため息をついて)あのねぇ、ここは夜の国って言ってね、ホントならココには来れないはずなのさ」
ラース「……わかんない」
???「……あーーーっ!めんどくさいねッ!とにかく、アンタが来たらいけない場所なんだよっ!」
ラース「どうして?」
???「ラース、アンタはお兄ちゃんになるんだろ?あんまり長くココに居ちゃいけない。帰れなくなる」
ラース「ダメなの…?」
???「ダメだね。さっきも言った通り、帰れなくなるんだ。ココはね、本来アンタみたいな子供は門番が通さないハズなんだよ。余程でなければ、ね……」
ラース「おねえさん…?」
???「とりあえず、早く帰りな」


エヴァ「ラース、可愛い私の坊や」
エヴァ「大好きよ」
エヴァ「早く会いたいわ、可愛い私の赤ちゃん」


ラース「ねぇ、おねえさん?」
???「なんだい? 帰る気になった?」
ラース「ううん、ぼくかえりたくない」
???「…はぁっ!?」
ラース「だってね、ママ、あかちゃんかわいいねってずっといってるの」
???「それは……」
ラース「ぼくにはね、おにいちゃんなんだからってまえみたいにぎゅってしてくれたりとかしてくれないの」
ラース「ぼく、ママにぎゅってしてもらえなくなるならかえりたくない」
???「…いいのかい? 帰れないってことはママには会えなくなる。それどころかパパにも、その赤ん坊にも会えなくなるんだよ?」
ラース「だって……」
???「お友達だっているんだろ? みんな、みーんなあんたとは逢えなくなるんだよ? お別れも言えないまま会えなくなるんだ」
ラース「おわかれ、いえないの?」
???「そうさ。もう一度でもアンタが帰りたくないって言ったらその時はフクロウが連れていくだろうね」
ラース「どこに?」
???「帰れない場所に」
ラース「かえれないの?」
???「ああ」

???「いいかい? アンタはまだちっちゃいんだ。寂しいこともあるかもしれない。けど、それよりも楽しいことや嬉しいことが沢山、沢山あるはずさ。それこそ、悲しいことや寂しいことよりもね」
ラース「そうなの?」
???「そうさ、きっとね。もし、もっと大人になったその時にも寂しかったり悲しかったりして、その時にアタシとまた会うことがあったなら、その時は連れていってやるよ」
ラース「ホント?」
???「ああ。連れていってやる」
???「ただ、その時は本当に帰れなくなるよ?」
ラース「うん!」
???「それにね?」
ラース「うん?」
???「寂しかったり悲しかったら言っていいんだよ」
???「パパやママに寂しいときにはちゃんと言うんだよ。ママはもしかしたら、アンタが寂しいって分からないのかもしれないだろ?」
ラース「おにいちゃんだからって、いわれたりしない?」
???「言わないさ。ゴメンね、とは言うかもしれないけどね」
ラース「……!うんっ!」
???「ほら、早くお帰りよ。夜が明ける前にね」
ラース「おねえさんは?」
???「アタシはココしか居るところがないんだ。だからいいんだよ。ほら、」
ラース「?」
???「ママが呼んでるよ、ラース」
ラース「おねえさん!」
ラース「おねえさん、なんていうの?」
???「アタシ? アタシは……」


エヴァ「……ス! ラース!」
ラース「ん……ママぁ?」
エヴァ「ラース!良かった!大丈夫!?」
ラース「え?」
エヴァ「苦しくない? 気持ち悪いとかは?」
ラース「ううん、ないよ」
エヴァ「ゴメンなさいね。赤ちゃんばっかり気にして、ラースのことちゃんと見られてなかったわね」
ラース「ココ…どこ?」
エヴァ「病院よ。ラースはね、お熱が酷くて病院に来たのよ。良く頑張ったわね」
ラース「…おねえさんがね……」
エヴァ「お姉さん?」
ラース「うん。おねえさんがかえりなさいって」
エヴァ「夢の中で会ったの?」
ラース「おねえさん、ゆめだったの?」
エヴァ「どんなお姉さんだったの?」
ラース「うんとね、とってもとってもキレイでね、おひめさまみたいなんだよ!しろいドレスきてたの!かみのけはねすっごくながくてまっくろなの!でねでね、フクロウさんがいたの!(少し興奮気味に)」
エヴァ「っ!!ラース…それ…」
ラース「んと、んと、…りり……りり…なんだっけ?」

エヴァ「(小声で)リリス…っ!」



フクロウ「良かったのか? リリス」
リリス「何がさ?」
フクロウ「せっかく、アチラから迷い込んできてくれたのに」
リリス「いつもなら帰したりはしなかったさね、確かに。それどころか帰すフリをして…ねぇ」
フクロウ「何に同情したんだ?」
リリス「同情じゃないさ。あのおチビちゃんから、護符の加護を感じちまったんだよ」
フクロウ「ほぉ?」
リリス「誘惑の魔女、夜の魔女が型なしだよ。こんなの…クソったれ」
フクロウ「心当たりは?」
リリス「…あのおチビちゃんの母親か、若しくはその腹の中の赤ん坊だろうね…忌々しい」
リリス「まぁ、仕方ないさ。門番が間違えて通した子供だ。後で何か言われるよりは帰した方が良かったんだよ」
フクロウ「……」
リリス「なんだい、その何か言いたそうな顔は」
フクロウ「別に何も言ってないだろう」
リリス「いいんだよ、どうせ直ぐにまた来るさ。また……頃の子供がね」
リリス「それまではアンタとあの月でも眺めながら待とうじゃないか。アタシとアンタにはそれこそ、永劫の刻があるんだからね」
フクロウ「ココは刻の止まった場所だからな」
リリス「また会いに来てくれるから、大丈夫」



 

(回想)
リリス「あーあ、」
リリス「ざーんねん(舌なめずりをする)」
リリス「せっかく……美味しそうな、食べ頃な子供が来たのにねぇ」

(了)