叔父さん

トンネルを抜けると、そこには雪国が広がっていた。
川端康成の『雪国』のまんまの表現であるが、五歳であった私は本当にそう感じていた。驚くほど一面が真っ白であった。白い雪の中にまた雪が際限なく山々に降り注いでいた。すすんでも進んでも景色は変わらない。東京から約143k離れたここ兵庫県豊岡市出石町は、12月のこの時期が最も多く降る。この地域は蕎麦が有名である。大晦日になると母の実家であるこの場所に車で片道2時間半かけて帰省していた。そこには母の姉の家族も帰省していた。母の姉の夫の聖さん。車を運転するのが好きでいつも周辺をドライブしてくれていた。車の窓からの景色と運転席にいる叔父。聖さんはいつもタバコを吸っていたらしくエアコンをつけると服に染み込んだタバコの匂いが車内全体に広がっていた。私はその匂いが何故か好きだった。「りょうちゃん本当雪好きやね。やっぱり雪は綺麗かね」と叔父が少し掠れた声で話かけてくれた。「映画館じゃなくて、ジャスコ行こうよ。ねぇ」と二つ上の従兄弟の勇人がごねた。「ごねんなや、」と彼の姉のヒカリが言った。この兄弟は二人は些細なことでよく喧嘩をしていた。「ほら喧嘩しないの、手も出さない。落ち着いてないと帰るよ」バックミラーから見える叔父の真剣は顔。左手で頭を掻きながら父親である聖さんはいつも二人の仲裁に入っていた。そんな叔父は僕にとって特別な人だった。人当たりも良く、近づくとほんのりとタバコの匂いがするあの人のことをこの豊岡の雪景色を見ると思い出す。しかし、あれ以来聖さんとは会えていない。会うことができなかった。叔父が我が子に暴力を振るった。今は叔父と従姉妹二人は現在それぞれ別々で暮らしているらしい。今日は13年ぶりに叔父に会う。

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