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無明の彼方より

一人でなんとかしろ、と陰に陽に言われたし、実際にそうしなければならない場面が多かったからそうしてきたわけだが、世間はその結果出来上がった僕のことが気にくわないらしい。
どうしろというのだ。
消えてほしいのか?
お前たちの望む通り行動してほしいのか?
もう十分やってると思うけどな。

自分が自分であることの原因を探して、問題意識はあるときは親に向かう。
遺伝に原因を求めるのだ。
親を殺したいと思ったことは何度もあるが、殺しても無駄だということがよくわかっていた。
僕はもう生まれてしまっているので、手遅れなのだ。
それなので本当は彼らに自発的に、僕を生まないように選択してほしかった。
母親に言われたことがある。
「生んだことには責任があるけど、今のような人間に育ったことには責任がない」

実際その通りだろう。
親の影響だけでこういう人間になったわけではない。
環境の要因がある。
でも環境の要因というのは複雑すぎて計測できない。
遺伝もそうだが。

だから結局、通念的には自分が自分であることの責任は自分自身だという説明になる。
そうすると社会秩序が維持されるし、消費も喚起される。
自己啓発本や宗教系の本が売れて書店や作家も多少潤う。
トラウマは存在しない、とアドラー心理学は言う。
私は思考ではない、とヴィパッサナー瞑想は言う。
甘えていただけだった、とポップソングは言う。
けっこうなことだ。
みんな一列に並べて、肩口にナイフを刺してやればいい。
ぶすり。
トラウマは存在しない、私は思考ではない、甘えていただけだった、とその傷口で言ってみればいいのだ。
晴れやかに言ってくれ。
元気にごあいさつしてくれ。
無明の彼方から、僕は君たちを見ている。



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