そのアスピリン、本当に必要ですか?

ASPREE試験は、とりあえず脳梗塞心配だから高齢者にアスピリン、寿命伸びそうだからアスピリン、のなんとなくアスピリンを否定した重要な試験なのですが、未だ患者さんがそれらを理由に何の説明も無く飲んでるケースを経験します。手術の時に困る外科医も多いと思います。
今年JAMAで続報も出ましたので、一度整理しておこうと思います。
NEJMは日本語もありますので、是非読んで頂ければと思います。

以下まとめ
健康な高齢者への低用量アスピリンは、無障害生存期間を延長せず、癌の罹患を増やし、虚血性脳卒中を減少させず、むしろ頭蓋内出血を有意に増やした。

Effect of Aspirin on Disability-free Survival in the Healthy Elderly.

https://www.nejm.jp/abstract/vol379.p1499

健康な高齢者に対する低用量アスピリン投与は、プラセボ投与と比較して、無障害生存期間を延長することはなく、大出血の頻度を増加することが示された。米国およびオーストラリアの計50施設にて約2万例を対象に実施した無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「ASPREE試験」。本試験は、主要評価項目に関してアスピリンの使用継続が有益ではないことが認められたため、追跡期間中央値4.7年で早期終了となっている。アスピリンの医学的適応がない高齢者において、低用量アスピリンの使用が増加しているが、健康な高齢者の健康寿命を延ばすためのアスピリン使用に関する情報は限定的であった。NEJM誌2018年。
心血管疾患、認知症、身体障害のない70歳以上の被験者をアスピリン群(アスピリン腸溶錠1日100mg)またはプラセボ群に無作為に割り付けた。

 計1万9,114例が登録され(アスピリン群9,525例、プラセボ群9,589例)、参加者の背景は年齢中央値74歳、56.4%が女性、非白人が8.7%、アスピリン定期使用歴ありが11.0%であった。

 死亡・認知症・持続的身体障害の複合エンドポイントのイベント発生頻度は、アスピリン群21.5件/1,000人年、プラセボ群21.2件/1,000人年であった(ハザード比[HR]:1.01、95%信頼区間[CI]:0.92~1.11、p=0.79)。割り付けられた治療法の順守率は、試験参加最終年において、アスピリン群62.1%、プラセボ群64.1%であった。

 全死因死亡の発生頻度は、アスピリン群12.7件/1,000人年、プラセボ群11.1件/1,000人年であり、そのほかの副次評価項目である認知症ならびに持続的身体障害についても、アスピリン群とプラセボ群に有意な群間差は認められなかった。一方、大出血の発現頻度は、アスピリン群3.8%、プラセボ群2.8%であり、アスピリン群が有意に高率であった(HR:1.38、95%CI:1.18~1.62、p<0.001)。

Effect of Aspirin on All-Cause Mortality in the Healthy Elderly

https://www.nejm.jp/abstract/vol379.p1519

アスピリンの1次予防効果を調べるために実施されたASPREE試験のデータを分析し直し、プラセボ群よりアスピリン群の総死亡率が高かった原因は、癌死亡の増加によるものだったとNEJMに2018年掲載。

この試験の2次評価項目を比較したところ、アスピリン群の総死亡率がプラセボ群よりも高かった。1次予防を目的とした研究で、アスピリンが死亡率を増加させたというデータはまれなことから、著者らはサブ解析を行った。中央値4.7年の追跡で、計1052人(5.5%)が死亡していた。1000人・年当たりの総死亡率は、アスピリン群が12.7、プラセボ群は11.1で、ハザード比は1.14(95%信頼区間1.01-1.29)だった。死因別では、癌による死亡は522人(死者の49.6%)、脳梗塞を含む心血管死亡は203人(19.3%)、脳出血を含む大出血による死亡は53人(5.0%)。アスピリン群の死亡リスク上昇に主に寄与していたのは癌死亡だった。癌死亡はアスピリン群の3.1%とプラセボ群の2.3%に発生していた。1000人・年当たりの癌死亡率はアスピリン群6.7、プラセボ群5.1で、ハザード比は1.31(1.10-1.56)だった。脳梗塞を含む心血管死亡のハザード比は0.82(0.62-1.08)、脳出血を含む大出血による死亡のハザード比は1.13(0.66-1.94)、その他の死因のハザード比は1.16(0.91-1.48)で、両群に差は見られなかった。癌による累積死亡率を両群間で比較すると、当初3年間には差は無く、それ以降にアスピリン群の死亡が増加し、両群の差は拡大していた。これらの結果から著者らは、アスピリンを使用した健康な高齢者の総死亡率がプラセボ群より高かった理由は、主に癌による死亡率が高いためだった。これは以前の研究と異なる予想外の結果であり、慎重な解釈が必要だと結論している。

JAMA Network Open誌2023年の続報

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10372701/

低用量アスピリンは脳卒中の予防に広く用いられているが、高齢者においては脳卒中の有意な減少は認められず、むしろ頭蓋内出血が有意に増加したという結果が示された。この報告は、ASPREEの2次解析の結果。
今回報告された脳卒中および出血性イベントはあらかじめ設定された副次評価項目で、転帰は医療記録のレビューにより評価した。脳卒中を含む頭蓋内イベントの発生率は低く、追跡期間1,000人年あたり5.8人であった。虚血性脳卒中は、アスピリン群146例(1.5%)、プラセボ群166例(1.7%)で発生し、両群のリスクに統計学的有意差はなかった(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.71~1.11)。出血性脳卒中は、アスピリン群49例(0.5%)、プラセボ群は37例(0.4%)で発生し、こちらも有意差は見られなかった(HR:1.33、95%CI:0.87~2.04)。出血性脳卒中を含む頭蓋内出血の合計は、アスピリン群はプラセボ群より有意に増加していた(108例[1.1%]vs.79例[0.8%]、HR:1.38、95%CI:1.03~1.84)。著者らは「低用量アスピリンの連日投与による虚血性脳卒中の有意な減少は認められない一方で、頭蓋内出血は有意に増加していた。これらの所見は、転倒などで頭蓋内出血を発症しやすい高齢者に対しては、アスピリン使用にとくに配慮する必要があることを示すものだ」と報告。

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