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『キミは文学を知らない。: 小説家・山本兼一とわたしの好きな「文学」のこと (本と人生)』 山本英子

夫はたびたびメディアから取材を受けていた。作品についてだけではなく、時にはプライベートな質問もあった。忘れられないインタビューがある。それは某新聞社によるもので、インタビュアーはベテランの女性記者だった。「立ち入ったことをお聞きします。勤めをやめてフリーランスのライターになったとき、奥様は心配なさっていたのではないですか?」「心配してなかったです。もしかして、サスペンスドラマに出てくる事件に巻き込まれる貧乏フリーライターを想像しています?ライターは立派な専門職です。日々仕事で忙しくしていましたよ」こう答えていた。

p14-15

当時、わが家にはコムギという名前のネコがいた。山本は特にネコ好きでもなかったけれど、コムギは彼にネコジャラシで遊んでもらうことが好きだった。ある日、気がついた。コムギが大きくなってた。毛繕いをするお腹の肉がタプタプしてる。体重を量ったら、ハキロ!小型犬よりずっと重い……。食べすぎで肥えたんだ。子たちに聞いたが、ごはんはあげていないと言う。帰宅した夫に、「朝、コムギにごはんをあげている?」と聞いた。「仕事へ行く前に毎日食べさせてるよ。ごはんあげるまでニャーニャー鳴きっぱなしだから」コムギの頭を撫でながら答えた。わたしの起床は六時半過ぎ。朝一番にコムギに朝ごはんをあげるのが日課だ。ということは、ツレツと二度の朝ごはんを食べていたのだ。コムギの食事は一日三回と決めていたが、実際は四回食べていたのか……。太るはずだ。翌朝、わたしは子たちの弁当をつくるため台所に立った。コムギ用の茶碗を見たら、紙が置いてあり、オレンジ色のベンで「朝ご飯たべました コムギ」と書いてあった。耳が尖って、ロ元が笑っているコムギの似顔絵つき。絵心はなかったが、この絵はかわいらしかった。

p16-17

ある日「仕事」というテーマでリクルート系の雑誌から取材の申し込みがあった。「理想の仕事に就いた人」としてインタビューを受けていた。「理想の職に就くには、どうしたらいいでしょう?」と聞かれ、彼は答えていた。「目標とする仕事があるなら、そこにすぐにたどり着かなくてもあきらめないでほしい。できるだけ目標とする世界の近くに、身を置くようにしたほうがいい」これは、自分の経験からの言葉だろう。

p23

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