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『図書館には人がいないほうがいい』 内田樹

新語という現象のすごいところは「初めて聞いた言葉なのに聞いた瞬間に意味がわかる」ということなんです。聞いて「それどういう意味ですか」と訊き返さないと意味がわからないのは「新語」にならない。

p61-62

書物というのは、その母語のアーカイブへの「入り口」です。書くことも、読むことも、この豊かな、底知れない母語のアーカイブに入ってゆくための回路です。それは日常的な現実とは離れた「境界線の向こう側」、「地下」で、「この世ならざるもの」と触れ合うことです。

p63

人の家に行ったときに、しばらくいて息苦しくなってきて、なんとなく帰りたくなってしまう家というのがありますけれど、僕の場合は「本が無い家」がそうなんです。どれほど綺麗にしてあっても、長くいると息苦しくなってくる。酸欠になるんです、本が無いと。本というのは「窓」だからです。「異界への窓」というか、「この世界とは違う世界」に通じている窓なんです。だから、本があるとほっとする。外界から涼しい空気が吹き込んで来るような気がして。僕の友人の家に行くと、だいたいそうなんですけども、トイレに本があるんです。うちもすごいです。もう、半端じゃない量の本がトイレに積み上げてある。トイレって、空間的にかなり閉塞感があるところですけれど、そこに何冊か本が並んでいるだけで閉塞したところから何か広々としたところに出ていったような気がする。広いところで排泄作業しているような気になるんです。ですから、トイレに読みたい本が無いときって、行く前に読む本を探すんです。自分の書棚の前で、足踏みしながら、「たいへんたいへん」と言いながら、「えーと、これじゃない、これじゃない」と言いながら、本を選んでる。「お、これだ」と決まるとトイレに駆け込む。本が無いと、トイレが狭く感じるんです。でも、本を開くと、解放される。本が持っている異界への開放性の効果なんだと思います。

p64-65

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