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『虎のたましい人魚の涙 (講談社文庫)』 くどうれいん

わたしは「自由」のことが時々こわい。だれかに決められて、言われるがまま過ごして、不満があればだれかのせいにして暮らしていけたらどれだけ楽だろうと思っている。二十七になり、いまさら何をと思われることを承知で(ああ、そうか、これはわたしのための、わたしのせいの人生なのか)と思うことがある。ようやく、自分の人生は自分で決めて自分で何とかしなければと思い始めているのだ。働かなければいけない。書かなければいけない。暮らさなければいけない。そう思うことでどうにか毎日を嫌々やりこなしていても、本当はひとつも「なければいけない」ことなんかない。今すぐ会社に行かなくなったっていいし、一生原稿を書かなくたっていいし、ごみだらけの部屋でポテトチップスだけ食べて生活したって全く構わない。自由だ。いまの生活はその自由からすべて自分が自ら選んで引き受けたのだから、いつ手放したって良い。そして、選ぶも選ばないもすべてわたしのせいなのだ。そう思うと時折、お腹の底から輪郭のない不安が込み上げてくる。

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