シン・乃木恋 ＃２

何故かこの俺、甲斐徹郎は学内アイドル乃木坂46のマネージャーになってしまった。

ハム子
「じゃあリハ始めるよー！」

翌日早速俺は翌日行われるお見立て会のリハーサルに出席していた。
活発な女性であるハム子コーチが指揮を取っている。

徹郎
「聞いた事ある曲だな」

まだ彼女らにオリジナル曲は無いので歴代の有名アイドルの曲をカバーするという形になっている。
その様子を俺は撮影し感想を言う係みたいな事をさせられている。

徹郎
(うーん、俺は映画を撮りに来たはずなんだが……)

思ったのと違う学生生活の幕開けに少し疑問を抱いていると、、

徹郎
「あ、この写真めっちゃいいな。映画的で」

撮り続けた中で一際良い写真がある事に気付く。

徹郎
(なるほど、映画を撮る感覚で撮ればいいのか)

そう考えると途端にやる気が出てくる。
そこからは一瞬だった。
アイドルものの映画でのライブシーンだという想定でシャッターを切っていく。
時に明るさやフィルターを変えてエモーショナルな雰囲気を出していく。

ハム子
「どれどれ、どんなの撮れた〜？」

そして曲の合間にハム子コーチがやって来て写真を見せてくれと言う。
その様子を見たメンバーも気になったのかこちらに近づいて来る。

徹郎
「結構いい構図なんじゃないですかね？」

まずはハム子コーチに見せた。
すると、、

ハム子
「えっと、、全然メンバーの顔が見えないけど……」

苦笑いしながらそう言うコーチ。
良い写真だと思うのだが……？

ハム子
「えっとね、構図も雰囲気もいいし良い写真だと思うんだけどブログにアップする写真だからね？みんなメンバーの顔が見たい訳なの」

言っている事は最もだ。
しかしそれはあまり楽しくないなと思ってしまう。

徹郎
「むぅ……」

そこへメンバー達がやって来る。

和
「見ていいですか？」

美空
「私も見た〜い！」

ゾロゾロと集まり俺のカメラを覗き込む。
あれだけ踊って汗をかいているはずなのに香る女の子らしい匂いに包まれて一瞬意識が飛びそうになるが何とかカメラを操作しメンバー達に写真を見せていく。

咲月
「えっ、凄いプロみたい……！」

最初は見入っているメンバーだったが次第に顔が普通になっていく。

彩
「おー」

お世辞で褒めている感じが伝わって来るのだ。
顔が全然写っていない事が気になり出したのだろう。

徹郎
(やっぱり我を出し過ぎるのはダメなのか……)

少し反省するがやはり辛い。
自分の味を否定されている感じが否めないから。
そこである光景がフラッシュバックする。

？？(回想)
『お前1人だけズレてんだよ』

強い口調でそう言われた記憶。
思い出して少し身震いしてしまい心ここにあらずだ。

徹郎
「はぁ……」

ショックを受けながらボーッとカメラを操作し写真を見せているとある声が聞こえた。

アルノ
「ちょっと今の写真！」

メンバーの1人が指をさす。
その写真で止めるとみんなの顔が一斉に明るくなった。

徹郎
「あ、これ……」

全く意識していなかった。
ただ自分は映画的に魅力を感じたカットを撮っていただけだ、つまりこれは無意識に魅力を感じていたという事。

アルノ
「和めっちゃ綺麗じゃん！」

咲月
「色っぽい〜！」

メンバーも絶賛してくれた。
そしてハム子コーチも、、

ハム子
「やれば出来るじゃない、この調子でお願いね！」

ようやく自分を褒めてくれた。
そこである事に気付く。

徹郎
(そうか、そうすれば……！)

一体彼は何に気付いたのだろうか。
気付くと彼は映画的魅力を感じた彼女たちにも興味を抱くようになっていた。

---

しかし彼女たちの顔が写るように撮影していくが、、

ハム子
「ほらそこ！ズレてる！！」

鬼コーチからの指導が入る度にメンバーは自信を失くしているのかパフォーマンスや表情に覇気が無くなっていった。

和
「はいっ……」

どんどん表情は曇り始めパフォーマンスは荒くなっていく。
俺は必死にファインダーを覗くが先程の和の写真のような姿は見れなかった。

徹郎
(どうした、みんな焦ってる……)

俺の感じている通り、焦りがそこにはあった。

ハム子
「もうお見立て会まで時間ないよー！」

コーチの怒号が余計にその事実を実感させる。
というか寧ろそれが駆り立てる。

いろは
「どうしよう……」

茉央
「大丈夫だから、頑張ろう？」

不安で泣き出してしまいそうなメンバー、そしてそれを支えるメンバーもいるが彼女も不安さを隠しきれていない。

ハム子
「はぁ、どうしちゃったの皆んな？」

いっきょ一曲が終わり一度コーチに呼ばれる。
殆どのメンバーが今にも泣いてしまいそうだ。

ハム子
「マネージャー、今の見てて何か感じた事ある？」

そして何と俺の方に回って来た。
この状況で何か言えば余計にメンバーが傷ついてしまう。
しかし無難な事を言うのも違うと思う。
メンバーも潤んだ瞳でこちらを見ているし、どうしたら良いのだ……

徹郎
「えっと、俺は……」

こうして悩んだ末に出た言葉は、、

徹郎
「怒られて萎縮しちゃってる感じがするかな……？」

何て言っていいか分からずこのような言い方になってしまった。
メンバーも少し不安そうだ。

徹郎
「えっと何て言えばいいかな……？さっきはあんないい写真撮れたのに今は全然その雰囲気が無くて、、もっとやれるはずって思うかな？」

偉そうな言い方になってしまっていないか緊張するがそこで気付く。

徹郎
(あれ、てか何で俺さっきはあんなやる気なかったのに写真撮る気になったんだっけ？)

思い出した。
"やりたい事、楽しい事を見つけたから"だ。

徹郎
「そうだみんな、さっきの俺と一緒だ！」

突然顔を上げた俺にメンバーは驚いているが続けた言葉を聞いて少し明るくなる。

徹郎
「正直俺、最初はマネージャーとかよく分からなくて上手く写真撮れなかった。でもいい写真が撮れてから乗り気になって楽しくなったんだ」

熱弁していく。
メンバーのためではない、自分がいい写真を撮るためだ。

徹郎
「もっと楽しんで！リハじゃない、やりたい事の本番だと思って！！」

そうだ、原点に帰ればいい。

徹郎
「本番のためのリハじゃなく純粋にこの場の歌とダンスを楽しんで！！」

その言葉を聞いた途端メンバーの顔は徐々に明るくなる。
先ほどの重苦しい雰囲気とは打って変わって熱気が溢れた。

「「「「はいっ！！！」」」」

一斉に返事をするとハム子コーチも関心した。

ハム子
「コイツやるね」

聞こえないほどの声で呟いた。

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そこからはパフォーマンス力が向上し見違えるほどとなった。
俺のアドバイスは意外にも上手くいったのだ。

ハム子
「ほらお客さんが見てるよ〜！精一杯楽しませて！！」

そう言ったハム子コーチ。
当然客席に今いるのはハム子コーチと俺だけのためメンバーのアピールは俺たちに集中する。

美空
「みーきゅんきゅん♡」

美空がアドリブで必殺技をキメた。
その姿は非常に可愛く可憐で思わず俺はシャッターを切っていた。

徹郎
「いいじゃん」

気付けば最初の和だけでなく殆どのメンバーの決まったショットを収めていたのだった。

ハム子
「この調子で明日の本番いくよー！」

「「「「おぉーーっ！！」」」」

・

・

・

そして遂に本番当日。

和
「よし、円陣やるよー！」

『努力、感謝、笑顔！ウチらは乃木坂 上り坂46！！』

円陣を組んで一斉にステージに上がる。
そこでの彼女らのパフォーマンスは本当に素晴らしいものだった。
正直アイドルに興味はないというのは変わらないが上手くやれなかった姿を知っている者たちが本番を成功させている姿を見ると成長を感じてしまう。

和
『にゃんにゃんにゃぎ〜！』

咲月
『さーつきちゃーん！って呼んで下さい！』

瑛紗
『てれさパンダ〜発見！』

会場は大盛り上がり。

優斗
「うぉぉぉ！！！」

友人である優斗も客席でペンライトを持って大騒ぎしていた。

こうして乃木坂46のデビューは上手く行きこれからの彼女らの活動の土台を完璧に作り上げたのだった。

つづく