コロン

たまに物語を書きます。

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最近の記事

悼む(三篇)

カラス ドア、が、一つあるんですよ。 立ってるんです。一つだけ立ってる。 カラスがここから出てくるんです。 一羽じゃない。 遍く世界を満たす、三千羽のカラスたちが、 出てくる、 それが終わりの時だよ。 はじめの音は小さなもので。 コツ、って、あれ、何か音がしたかな、ってくらい。 それがコツ、コツコツ、大きくなっていく、 そして、コツ、コツ、コツ、コツ、 開いた、と思った瞬間、黒い波のようにカラスたちが雪崩れ込む。 あたりは一瞬で真っ黒になっちゃって、カラスは渦をえがい

    • 告白する物語

      「ねえ」 「あなたは、なんでそんなに軽やかなの」 午後の校舎裏。 私は、せきたてられるように吐き出す。多分ひどい表情をしているだろう。顔をまともに見られなくて、うつむく。スカートをぎゅっと握る。彼女は、柔らかい光に後ろから照らされていて、なんて眩しいんだ、と思う。 「ふーん…」 斜め下に切れ長の目を流して、思案するような顔。敵わないな、と思う。超越、という言葉が浮かぶ。私に彼女は傷つけ得ない。縛り得ない。彼女は彼女の望むところへ行ける。軽やかに。どこまでも。ある日、彼女は当

      • ある白い部屋

        鏡。鏡。鏡。鏡。鏡。鏡。鏡。鏡。鏡。 あなたは、立っている、鏡、鏡の前に、立っている、あなたは吐き気を覚える、 鏡は、あなたを映す、あなたが見ないようにしていたものを、あなたが想像によって守っていたものを、 あなたは膝をつく、下を向いて鏡が目に入らないように、しかし、破れる。皮膚が破れる、 絶叫、 あなたは、吐き出す、大量の魚、強迫的な、うねる線がびっしり刻まれた大量の魚を、 あなたは嗚咽する、気づけばあたりは水の中で、あなたの喉にまとわりつきながら出てきた魚たちは泳ぎだす、

        • 翔ぶ物語

          きみはつばめだ。 魚の背に包丁を入れる職人のように、きみは、丁寧に、そして強く、確実に、夜明け前の景色へ切れ込みを入れる。 きみはかつてないほどの充実感を感じる。背を向け合う家々の間を音を響かせて飛び抜ける。ボブスレーをしているような気分だ。 いつ壁にあたってもおかしくないこの緊張感が、いのちの証拠かもしれなかった。勝利を示すように、きみは大きく、大きく翼をはたいて空に踊り出る。広大な夜の空間に、まちの群れが丸まって眠りこんでいるこの光景が、きみは好きだった。 自分とまちを隔

        悼む(三篇)

          蛇の物語

          きみは、蛇だ。 世界一醜い生き物だ。 世界一醜い生き物だから、あらゆる悪いことができた。どこまでもわがままで自分勝手なことができた。それを論理的に諫めてくるものもあったが、股の間をすり抜けるか噛み付くかすると黙らせることができるのだった。 きみは、蛇だから、獲物は逃さなかった。誰にも悟られぬまま目標に近づくと、決して道を譲らないのだった。 きみは首を持ち上げる。あたりを見つめる。 考える。蛇になってからどれくらいだったか。わたしは、どれくらい生きただろうか。 わたしが人間であ

          蛇の物語