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ニカラグアコーヒーっていいよね!~味わいから、法制度まで~

 皆さん、こんにちは。
 YouTubeチャンネル「ニカラグアって意外にいいよね!」をメインに、居住者の立場から、ニカラグアのポジティブな部分を発信しています。
 今回は、最近特に注目を集めている、ニカラグアのコーヒーについて紹介したいと思います。
 この2年間の「コーヒー修行(笑)」の成果をまとめたものです。
 かなりの長文になってしまいましたが、以下の目次をご覧いただき、関心のある項目だけでも読んでいただけたらうれしいです。


1.はじめに

 コーヒーの産地と言われると、皆さんは、どこを思い浮かべるでしょうか?
 大多数の方は、世界最大のコーヒー輸出国であるブラジルが真っ先に頭に浮かぶのではないでしょうか?
 または、「ブルーマウンテン」がブランド化しているジャマイカや中央アメリカ(中米)であれば最も目にする機会が多いグアテマラでしょうか?
 まだ一般的にはメジャーになり切れていないように思いますが、私が住むニカラグアもコーヒーの名産地です!
 最近は、通好みの専門店だけではなく、スターバックスなどでもニカラグアのシングルオリジンのコーヒーが売られるようになりましたので、知名度もそこそこ上がってきたと思っています。

スターバックスで販売されていた、ニカラグア・シングルオリジン・コーヒー

 居住者の立場から、ニカラグアのポジティブな部分を取り上げている私としては、「コーヒーは避けて通れない!」ということで、約2年前から「コーヒー修行」を始め、そして今ではすっかりハマってしまいました(笑)
 私は、もともとコーヒーは好きでよく飲んでいましたが、縁あってコーヒーの国「ニカラグア」に住むことになり、その歴史、産業、文化といった背景を知るに至り、俄然関心を持ち始めた感じです。
 結果として、実際にコーヒー農園を訪問したり、いろいろな本やウェブサイトを見たりするようになり、少しずつですが知識を得ることができてきたなと思っています(この過程を、自ら「コーヒー修行」と称しています(笑))。
 まだまだ不十分なところはありますので、引き続きこの修行を続けていきたいと考えているところです。

ニカラグアのコーヒー生産者からご経験を伺う

 以前、このコーヒー修行の過程を動画にまとめたりしましたが、その後、1年以上が経過しましたので、その更新版を書いてみたいと思うようになりました。
 私はコーヒーの専門家ではありませんので、香りや味といった五感で感じる部分についてはその道の専門家にお任せすることにし、多少は知識のあるスペイン語で書かれた文献を含めて、主に調べて分かる範囲のことについてまとめてみました。
 ニカラグアコーヒー好きの方にはその背景情報を、あまりニカラグアコーヒーについて知らないよという方には好きになっていただくきっかけを提供できたらいいなと思っています。
 固い書きぶり、内容になっているかもしれませんが(笑)、少しでも皆様の参考になりましたら幸いです。

ニカラグアのコーヒー農園

 なお、若干、業界的な話になりますが、2023年12月、ニカラグア最大手のコーヒー輸出会社CISA社を傘下に持つ、メルコン・コーヒー・グループ(本社:オランダ)が破綻しました。旬な話題として、この件についてもコラムで取り上げております。

 なにぶん素人の調査ですので、事実関係に間違い等があっても、広い心をもって、ご容赦ください。ご指摘事項等があれば、コメント欄で「やさしく」ご指導いただけたら助かります。
 今後、不定期にこのnote記事をバージョンアップさせていきますので(YouTube動画にするかもしれませんが)、ご指摘は次回バージョンアップ時に反映させたいと思います。
 ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

2.ニカラグアってどんな国?~火山と湖、そしてコーヒーの国~ 

火山と湖とコーヒーの国「ニカラグア」

(1)日本に住む皆さんには、私が住む中央アメリカ(中米)「ニカラグア」という国にあまりなじみがないのではないかと思います。
 ニカラグアコーヒーをより知っていただく上で、この国のことを知るのも大切だと思いますので、簡単に国情についても説明させてください。 
 私のYouTubeチャンネルを見ていただいた方ならお分かりだと思いますが、意外に?いい国で、私は大変気に入っています(笑)
 まあ、いろいろと問題もあることはありますが…

(2)まずは、地理的な位置の確認です。以下地図のとおり、アメリカ大陸のこの細いところにあります。ホンジュラスの下、コスタリカの上という位置です。近隣の両国とも、有名なコーヒーの生産国ですね。

中米ニカラグアの位置関係  

 国土の全体図は、以下地図のような感じです。
 首都は太平洋側にあるマナグアです。
 ニカラグアも、日本と同じく、環太平洋火山帯に属していますので、太平洋側に火山が並び、また火山性の湖が点在しています。
 そのようなわけで、政府がよく使うキャッチフレーズは、「火山と湖の国」です。個人的には、これに「コーヒーの国」というのを付け加え、「火山と湖、そしてコーヒーの国」としたいなと思っています。
 後で詳しく説明しますが、コーヒーの主な産地をざっくりと示すと、以下のとおりです。 
 高度が高い北部と首都マナグア周辺などを中心とした赤色の円の部分ではアラビカ種、黄色い円の部分ではロブスタ種が主に栽培されています。

ニカラグア全体図(含む、大まかなコーヒー生産地)

(3)次に、ニカラグアの基本情報をまとめてみました。話せば長くなりますので、以下の画像でさらっと紹介するだけにとどめます。

ニカラグア基本情報

(4)せっかくの機会ですので、私が撮影したニカラグアの美しい風景の写真を何枚か紹介します。

向かって左上から時計周りで、グラナダ大聖堂、ウミガメの産卵、マサヤ火山、アポヨ湖
向かって左から時計周りで、世界遺産レオン大聖堂、アパナス湖、マデラス火山、民族衣装を着てフォルクローレを踊るニカラグア女性

(5)次に、本当にざっくりとですが、近年の歴史を説明したいと思います。

  • 1979年、親米のソモサ独裁政権が倒され、サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)による革命政権が樹立。1985年、現大統領でもあるダニエル・オルテガ氏(以下、肖像画)が大統領に就任。

  • 1980年代、左派革命政権の誕生をよしとしない、アメリカ・レーガン政権が支援する反革命勢力「コントラ」との内戦が勃発。

  • なお、この内戦時、ホンジュラスとの国境で、現在は多くのスペシャルティコーヒー生産農家があるヌエバ・セゴビア県も戦場となり、多くの対人地雷が敷設されました。コーヒー畑は放置され、この期間のコーヒーの生産、輸出は激減しました。

  • 1990年にようやく内戦が終結、国連監視の下で大統領選挙が実施。サンディニスタ革命を率いたオルテガ大統領は敗北し、親米保守派のビオレタ・チャモロ大統領が誕生しました。

  • その後、革命を率いたFSLNではない、リベラル政権が2代続きましたが、汚職などの問題もあり、2006年の大統領選挙ではオルテガ元大統領が勝利し、17年ぶりに政権復帰しました。

  • 以来、国内外からの批判や疑義の声もありますが、2011年、2016年及び2021年の3度の大統領選挙で現職のオルテガ大統領が勝利し、現在まで、同大統領が政権を維持しています。

オルテガ大統領肖像画(首都マナグア市内)

【コラム①】ニカラグアコーヒー産業と日本政府の経済協力

 ここで、余談ですが、今お話ししたニカラグアの近年の歴史を踏まえ、そのコーヒー産業と日本の経済協力の関わりについて紹介したいと思います(個人的にはいい話だと思いました!)。
 先ほど、1980年代の内戦中に、コーヒー生産が盛んな北部地域に多くの対人地雷が埋められたと書きました。
 内戦が終結した90年代の始めまでに、政府軍とゲリラ軍とで敷設された対人地雷の数は、なんと14万7000発を超えると言われています。終戦後、この対人地雷の撤去が大きな課題となりましたが、この時、日本政府は、合計3台の地雷除去機を提供し、またアクセス道路の建設や地雷注意キャンペーン実施支援を通して、この地雷除去に大きな貢献を行ったのです。地雷除去機は山梨日立建機製(当時)で、ニカラグア国軍の2010年の報告書表紙で大々的に紹介されています。

ニカラグア国軍報告書(山梨日立建機製の地雷除去機が表紙に) 

 日本のこの人道的な協力が、直接及び間接的に内戦後のニカラグアのコーヒー産業の復興に貢献し、そして、そこで採れた質の高いコーヒーが日本に輸出されることになったといえるのではないでしょうか。 
 日本とニカラグアのコーヒーにまつわる、いい話だと思いませんか!?

3.ニカラグアコーヒーとは?

ニカラグアのコーヒー農園から望む雄大な景色

 すいません、前置きが本当に長くなりました。これから、本題であるニカラグアコーヒーについて説明させていただきます。
 この章では、以下の項目に沿ってお話しいたします。
 (1)味わい
 (2)歴史
 (3)生産地(アラビカ種、ロブスタ種)
 (4)ニカラグア経済におけるコーヒー産業の位置づけ
 (5)世界及び日本市場におけるニカラグアコーヒーの立ち位置
 (6)輸出先(世界、日本)
 (7)生産されているコーヒーの種類
 (8)等級

 なお、それぞれの生産国では、その年のNo.1コーヒー豆を決める国際品評会「カップ・オブ・エクセレンス(CoE)」が開催されています。
 私がコーヒー修行を始めてから、2022年、23年と2度CoEが開催されました。この両年共に、バイヤーとしての日本企業、そして国際審判員としての日本人の存在感が非常に大きかったことに感銘を受けました。
 この点について、コラムとしてこの章の最後に触れたいと思います。

(1)  ニカラグアコーヒーの味わい

 ニカラグアコーヒーの特徴は、一般的には以下のようなものです。 
「すっきりとした酸味と豊かなコクがあり、口当たりの良い味わいです。甘さが口の中に広がり、ほんのりと苦みが残るバランスの良いコーヒー。ベリー系や柑橘系のようなフルーティーな香りが際立っています。」
 たまたま見つけた、「コーヒー豆研究所」さんのウェブサイトからの受け売りですが…(苦笑)
 正直に告白しますと、私はコーヒーの味については、本当に自信がありません。もちろん、これは「おいしい」と思うコーヒーに巡り合うこともありますが、なかなか自信を持って、味について語ることはできません。そのため、このような形にさせていただきました。
 なお、バリスタ世界チャンピオン粕谷哲さんと山田コロさんの著書「図解コーヒー一年生」では、ニカラグアコーヒーをすっきり系と位置づけ、「どこか神秘的な感じのする女の子。チョコレートの甘さとシトラスの香り」と擬人化していますね(笑)

(2) ニカラグアコーヒーの歴史

 中米カリブ海地域でコーヒー栽培がいち早く行われたのは、ハイチです。1729年には、フランス人がマルティニーク島からコーヒーを持ち込み、同国で栽培が行われていた記録があります。その後、徐々に、ニカラグアを含む他の中米各国にも伝えられました。
 この当時は、聖職者がコーヒーをエキゾチックで薬効のある飲み物として、果樹園や自宅の庭に植えている程度でした。
 ニカラグアについては、歴史家ホセ・ドロレス・ガメス氏が、マナグアのポリカルポ・イリゴエン司祭が、1820年にイギリス人のお客さんにコーヒーをふるまったことや、この司祭の血縁のレアンドロ・セラヤ氏が、1845年にマナグア山脈に最初にコーヒーを植えた一人であったということを記しています。
 その後、政府の振興策などもあり、1871年にはコーヒーは第4位の輸出産品となり、金額ベースで輸出の11.34%を占めるに至りました。さらに1885年には輸出産品第1位に躍り出ました。こうした背景を踏まえ、当時のニカラグアでは国内輸送路の整備が進められ、コリント港から国内主要都市を結ぶ鉄道網(!)などが建設されました。
 こうした新興のコーヒー産業の発展は、当時の権力構造にも大きな影響を与えました。それまで権力を握っていた畜産業や染料業関係者といった伝統的支配層に変わり、コーヒー産業関係者が政治的な影響力を拡大したのです。このことが、「ニカラグア自由主義革命(Revolución liberal de Nicaragua)」の旗手と評される、1893年のセラヤ大統領誕生にも繋がったとされています。
1910年、アメリカの介入が増してくると、米国とセラヤ政権との間で軋轢が増してきました。結果として、セラヤ大統領の自由主義革命路線は終焉を迎えることになり、伝統的支配層が復権しコーヒー業界関係者は権力を失いました。コーヒーの商業化に関する権利はアメリカ企業Ultramar社が独占するようになり、輸出先の多様性は失われ、輸出の80%がアメリカ向けとなるなど、アメリカ市場への依存度が急速に高まりました
 さらに時は進み1923年になると、マルティネス大統領が、Ultramar社を含め、米国資本の銀行や鉄道会社を国有化しようとし、またもや米国政府との軋轢が高まりました。当時、サンディーノ将軍(以下写真参照)による反米行動が広がりを見せる中、これに危機感を抱いた米国は、反対派勢力支援に舵を切るなど、コーヒー産業は政治的駆け引きの道具となってしまいました。

対米抗戦の英雄「サンディーノ将軍」像(ニカラグアの至るところに建てられている!)

 国内的にはこのような危機的状況ではあったものの、国際価格の上昇等を背景に、この期間もコーヒー産業は拡大を続けることができました。1920年~40年の間、コーヒーは、ニカラグアの総輸出の半分を占める輸出品目第1位の座を維持していました。
 好調を続けていたコーヒー産業ですが、徐々に陰りも見えてきました。1929年~30年にかけて、国際価格が50%も下落し、その下落傾向は第二次世界大戦後まで続きます。ニカラグア国内に目を向けると、先述のサンディーノ将軍率いる反米抗戦が勢いを増し、その対応のため、親米政権は多額の出費を強いられるようになりました。特に、1928年に国家警備隊が創設されて以降は、政府予算の25%以上が治安維持対策に充てられるようになりました。その結果、コーヒー産業が稼いだ外貨は投資に使われることなく、同産業近代化の遅れを招きました。
 1936年、国家警備隊長のアナスタシオ・ソモサがクーデターにより政権を奪取しました(ソモサ家3代の独裁政権は1979年まで継続)。ソモサ大統領は、国内の多くのコーヒー農園を手中に収め、1946年には国内最大級の輸出業者となりました。同大統領は、コーヒー産業で稼いだ外貨の多くを不動産投資や外国銀行での預貯金に充てるなどし、また国家予算の多くも治安対策に向けられたため、コーヒー産業は引き続き投資不足の状態に置かれました。
 1950年頃になると産業構造にも変化が出てきました。農産物生産の多様化です。世界的なアパレル需要にけん引され、ソモサ政権下のニカラグアでは綿花の栽培が拡大し、1955年頃には、綿花がコーヒーに代わり輸出産品第1位の座に就いたのです。また、綿花以外にも、とうもろこし、フリーホーレス豆、牛肉、ゴマ、葉巻などの農産物の生産が拡大しました。
 1950年頃まで、ニカラグアにおけるコーヒー生産は、マナグア県及びカラソ県が中心でした。しかし、この頃を境に、だんだんと北東部に広がりを見せるようになりました。未開の地を開拓し、より高地で高品質のコーヒーを栽培したい者が北部を目指す一方、太平洋側での綿花耕作地拡大等により土地を追われた者が内陸部に移動するようになり、北部コーヒー農園での労働力を満たすようになってきたのです。
 その後、コーヒー生産は、国際市況の恩恵を受け、着実に拡大していきました。1950年に5万6千ヘクタールだった作付面積は、1976年には8万6千ヘクタールに拡大し、生産性もほぼ2倍となりました。
 1979年、サンディニスタ革命が成就し、臨時政府が樹立。革命政権は、大手輸出会社の国有化やコーヒー農園を含む農地改革を実行しました。しかし、これが中途半端に終わったとの評価もあり、特に農地改革に関連する土地の権利関係を巡る係争は現在まで続いています。

 こうして歴史を見ると、コーヒーは、ニカラグアの政治、社会、経済情勢に大きく関わってきたことが実感できます。

(3)ニカラグアコーヒーの生産地

 ニカラグアは、赤道を挟む北緯25度から南緯25度の、いわゆる「コーヒーベルト」に位置し、コーヒーの栽培に適した条件を備えています。つまり、ミネラルが豊富な火山灰質の豊かな土壌、温暖な気候、適度な降水量、シェード・グロウンを可能とする環境、そして豊富な労働力が存在するということです。
 先ほどもお見せしましたが、ニカラグアコーヒーの生産地を大まかに示すと、以下のとおりです。赤い円で囲った部分がアラビカ種、黄色い円がロブスタ種の主な生産地です。

ニカラグア全体図(含む、大まかなコーヒー生産地)(再掲)

 ホンジュラス国境沿いのニカラグア北部の方が高地となっており、アラビカ種の栽培に適していることがお分かりかと思います。

 【アラビカ種の生産地】

 次に、アラビカ種の生産地について詳しくみていきます。
 県別で言うと、生産量が多い順番に以下のとおりとなっています。

 なお、ニカラグアでは、2011年に全国的な農業センサスが行われて以降、今日まで一度も実施されておりません。ゆえに、この数字はあくまで目安としてご理解ください
 ちなみに、2022年11月14日、ムリージョ副大統領が、コーヒーに関する全国的な調査を開始すると述べていますので、近い将来、最新の状況が明らかになると思われます(2023年12月時点で結果未発表)。
 余裕があれば(笑)、この調査結果のポイントを何らかの形で説明できればと思います。

ニカラグアコーヒーの県別生産地とその割合

 面積の大きいヒノテガ県が全体の42%と最大の生産地となっています。
 次に、マタガルパ県が35%。ここマタガルパ県には、大手の輸出業者の生産施設が集積しており、コーヒー生産の中心といえます。コーヒー収穫時期には、幹線道路沿いでも、コーヒー豆を乾燥させている労働者の姿を見ることができます。また、コーヒー博物館などもあります。

コーヒー豆を乾燥中
マタガルパのコーヒー博物館

 次に、ヌエバ・セゴビア県、マドリス県、エステリ県を合計して、14%。 特に、ホンジュラスとの国境に接する、ヌエバ・セゴビア県はニカラグア国内でも高地にあり、近年この地の生産者がカップ・オブ・エクセレンス(CoE)入賞の常連となっています(ちなみに、2023年CoEでは、上位入賞豆「16」ロットのうち、ヌエバ・セゴビア県で栽培されたものが、なんと「11」ロットと圧倒的!)。
 なお、ニカラグアコーヒーの名産地として、「ディピルト」という地名を聞いたことがある方も多いのではないかと思います。スターバックスが発売したシングルオリジンのニカラグアコーヒー豆もこの産地のものですが、その地名自体がブランド化しています。

 なお、私、この地の農家の方とお会いしたことがあるのですが、ヌエバ・セゴビア県は、山岳地帯であり、大規模な農園を開発しづらく、ゆえに、小ロットで高品質・高価格のコーヒーを生産することに特化していき、今では成功を収めていると話していました。
 また、コロナ前は、日本人バイヤーがよく農園に買い付けに来て、泊まってもいったよと話していたことも印象的でした。
 日本人のバイヤーは、こんな僻地まで足を運ぶのか!と思ったものです。いいものを追求しようとする、バイヤーの皆様には本当に頭が下がります。

コーヒー農園にて記念撮影(真ん中が私)

 さて、話を戻して、次に進みます。
 ボアコ県が7%。
 そして、カラソ県が2%です。カラソ県には台地状に隆起した土地があり、最初にニカラグアでコーヒー栽培がおこなわれたのは、ここだという説もあります。しかし、今では、よりコーヒー栽培に適した高地の北部地域に栽培地が移ってしまっています。

 なお、ここら辺の詳しい話、つまり各地域毎の特色や個別のコーヒー農園についての情報は、Roast Design Coffeeの三神亮さんのブログ「コーヒー無限の可能性・・・テロワール編 ニカラグアの章」が詳しいです。私もよく参照させていただいています。

 【ロブスタ種の生産地】

 ロブスタ種の生産地域を大まかに示すと、先に示した地図の黄色の円の部分となります。
 後ほど、「2.(7)イ」でもう少し詳しくお話ししますが、2012/13年度にコーヒーさび病が蔓延し、アラビカ種の農園が大被害を被ったことを契機として、2013年、ニカラグア政府は、カリブ海側地域を含む「非伝統的コーヒー生産地域」における、ロブスタ種の栽培を許可した経緯があります。

(4)ニカラグアにおけるコーヒー産業の位置づけ

 ア ニカラグア経済におけるコーヒー産業

 ニカラグア政府広報サイト「El 19」に掲載された、2022年2月22日付の、2021/22年度の国内コーヒー生産について報じる記事には、「コーヒーはニカラグア経済において、より多くの重要性を有しており、5億米ドル以上の外貨をもたらし、収穫期には60万人の雇用を生み出している」と書かれています(この手の数字は、資料によって大きく異なることがあり、随分混乱させられますが…)。
 また、コーヒーは、金額ベースで、ゴールド、牛肉に続く、第3位の輸出品となっており、総輸出額の約14%を占めています。

ニカラグアの主要輸出品

 ニカラグアコーヒーの歴史の項目で紹介しましたが、1900年代半ばのように、輸出産品第1位として総輸出の約50%(金額ベース)を占めるような存在感まではさすがにありませんが、現在でも、コーヒー産業はニカラグア経済の中で引き続き大きな重要性を有しています。

 イ ニカラグアのコーヒー生産者の状況

 コーヒー生産者に関する情報について、私もいろいろと資料を当たってみたのですが、結局、確定的な数字を見つけることはできませんでした。
 先にも述べたとおり、最後に行われた全国的農業センサスが10年以上前の2011年であり、また参照した文献によって違う数字が書かれていたりして、かなり混乱しました。現在実施中の農業センサスにより、近い将来、現状が明らかになることを期待したいと思います。
 一方で、大きな傾向をつかむことは、理解を深める上で重要だと思います。直近(!)の2011年センサスに基づいた数字と思われる、ニカラグア・スペシャルティ・コーヒー協会(ACEN)提供の資料に従って概要を説明します。

ニカラグアコーヒーの農地と生産者

 2011年当時、ニカラグアには約37,800のコーヒー農園がありました。その総面積は、約18万マンサーナ(1マンサーナ=0.7ヘクタール)で、4万5519の生産者がいました。
 二つのグラフを見ていただくと、耕作地面積の8割以上を、中・大規模生産者が所有している一方、生産者の64%は小規模生産者であることが分かります。この結果からは、大勢の小規模生産者が、小さな土地で一生懸命にコーヒー栽培を行っている(大変そうな)姿を想像してしまいます。
 いずれにせよ、コーヒーの国際価格のボラティリティの大きさや肥料等の価格高騰により、スペシャルティコーヒーを生産し成功している一部の生産者を除けば、多くの小規模生産者の経営は非常に厳しいと言われています。
 実際に、北部地方を旅行していた際、「コーヒー農園、売ります」との看板をよく見かけました。
 我々消費者が、おいしいコーヒーを飲み続けることができるよう、生産者もハッピーになれる、サステイナブルなコーヒー産業になってほしいと切に願います。

(5)世界及び日本市場におけるニカラグアコーヒーの立ち位置

 概要以下のような状況になっています。

生産(2022年度:国際コーヒー機関(ICO))
・年間生産量:2,895,000袋(60Kg袋)
世界シェア:1.7%
・生産量ランキング:12位
世界輸出(2022年度:国際コーヒー機関(ICO))
・年間輸出量:2,671,000袋(60Kg袋)←総生産の92%が輸出!
世界シェア:2.1%
・世界輸出ランキング:11位
対日本輸出(2022年度:ニカラグア外国貿易単一窓口(VUCEN))
・年間輸出量:32,840袋(60Kg袋)
対日輸出ランキング:14位

 こうしてみると、世界レベル、また日本との関係でみても、ニカラグアのプレゼンスはさほどでもない…ということになりますね(このように書くと元も子もないな…苦笑)
 いずれにせよ、ニカラグアの国土面積を考えれば、ブラジルのような圧倒的な生産国にはなれませんので、小さくてもキラリと光るコーヒー生産国になってほしいなと思っています。

(6)輸出先

 ア 世界

 先ほど、総生産量の約92%が海外に輸出されていると申し上げました。ここでは、ニカラグアコーヒーの輸出先国を詳しく見ていきたいと思います。
 ニカラグア外国貿易単一窓口(VUCEN)によると、2022年度の輸出状況は、以下のとおりです。

ニカラグアコーヒーの輸出先

 アメリカ向けが圧倒的に多く48.5%(数量ベース、以下同じ)、その他はヨーロッパ各国向けが多いですね。これには、歴史的な経緯が背景にあるのかなと思っています。
 米国向けについては、そもそも近隣の最大消費国であること、また歴史の項目で述べましたが、1900年代の米国介入時に、米国企業の下でアメリカ向けの輸出を大幅に増やさざるをえなかったこと(当時は約8割をアメリカ市場に依存)の名残もあるのかなと推測しています。
 欧州向け輸出が多い点については、もちろん大きな消費地であることに加え、欧州からの移民が多いことも一因なのではないかと想像します。1800年代の米カリフォルニアのゴールドラッシュ時、一獲千金を求めて欧州からアメリカ大陸に多くの方が渡られました。東海岸に到着した欧州移民は、当時ニカラグアを含む中米を経由して西海岸に向かったそうです。その過程で、ニカラグアに魅せられた方々が当地に留まり、コーヒー生産を始められたケースが多々あります。そのため、今でも必然的にヨーロッパの国との繋がりが強いのかなと思ったりします。
 なお、マタガルパ県にある、コーヒー農園併設の人気エコロッジ「セルバ・ネグラ」は、ドイツ系移民の家族によって運営されています。このエコロッジは私も大好きで、たまに出かけます。 動画も作成しておりますので、是非ご覧ください。

 日本への輸出に目を向けてみると、残念ながら、数量ベースでは14位となっています(CoE国際入札では、米国をしのぐ圧倒的な存在感を示していますが…)。
 ちなみに、日本の財務省の「貿易統計」によれば、ニカラグアは生豆の国別輸入国12位に位置しています。
 日本マーケットで既にブランドを確立しているグアテマラ(5位)は別としても、他の中米の競合国であるホンジュラス(8位)やエルサルバドル(11位)には勝てるんじゃないかと、ニカラグア贔屓の立場からは思ってしまいます(笑)
 がんばれ、ニカラグア!

ニカラグア国旗

 イ 日本

 日本への輸出(数量と金額ベース)は、このグラフのような状況になっています(すいません、重量(数量)の単位が、「60Kg袋」ではなく、「トン」になっています)。

ニカラグアコーヒーの対日輸出の推移

 輸出量はあまり一定しておらず、顕著な傾向はないようですが、強いて言えば、2016/17年度を境に減少傾向でしょうか。
 2018/19年の輸出量が顕著に落ち込んでいるのは、2018年4月のニカラグア国内における社会騒乱の悪影響と思われます。この騒乱では、300名以上の市民が亡くなったと報告されており、大きな混乱と社会不安が生じ、その直後のカップ・オブ・エクセレンス(CoE)も中止に追い込まれています。
 一般的に、日本に輸出されるコーヒー豆の平均価格は、世界平均より高くなっているようです。舌の肥えた日本の消費者向けには、スペシャルティコーヒーをはじめとする、高品質な豆が輸出されているからだと思われます。

 最後に、ニカラグアコーヒーの日本への輸出の歴史を簡単に遡ります。
 それはかなり古く、1930年までには輸出が行われ、日本でも好評を博していたとの記録があります(Oriento Bolívar Juárez, 「Japón y Nicaragua」2006)。なお、当時のニカラグアでは、コーヒーが最大の輸出品でしたので、さもありなんです。
 日本とニカラグアが外交関係を樹立したのは1935年ですので、ニカラグアコーヒーはその前から日本に入っていたことになります。

(7)ニカラグアで生産されているコーヒーの種類

 風味に優れているが、病原菌に対する耐性が低いアラビカ種が、ニカラグアでは伝統的に栽培されてきており、生産量も圧倒的です。
 一方で、2013年からは、低地でも栽培でき、病原菌にも強い、ロブスタ種も栽培されています。
 それぞれの状況について、簡単に説明すると、次のとおりです。

 ア アラビカ種

 ニカラグアで生産されているコーヒーのうち、95%以上がアラビカ種と言われています。中でも、カトゥーラは、栽培されているアラビカ種の中で最も一般的な品種であり、全アラビカ種の72%を占めるとされています。
 他の一般的な品種には、ブルボン、ジャバニカ、カトゥアイ、カティモア、マラゴジペ、パカマラなどがあります(実のところ、私、ここら辺の知識が追いついていないので、もう少し修行したいと思っています…)。

 イ ロブスタ種

 2013年、ニカラグア政府は、カリブ海側地域を含む非伝統的コーヒー生産地域における、ロブスタ種の栽培を許可しました。
 ロブスタ種の生産量はコーヒー総生産量の5%未満だそうですが、カリブ海側の地域で徐々に増加しています(注:カラソ県やマナグア県エル・クルセロといった、太平洋側の低標高地域(伝統的生産地域)でもロブスタ種が栽培されているとの話もあり)。
 特に、2021年に国際金融機関が地域の生産者に行った1500万ドルの融資の成果が今後現れてくるようで、年間5~10%の成長が見込まれています。2023/24年度の生産が16万袋(60Kg袋)と推定されているところ、2030年には20万袋を超えるとの予測もあります。なお、現時点では、生産されたロブスタ種のほとんどはニカラグア国内で消費されています。
 ロブスタ種の栽培が2013年に許可された背景には、2012/13年度にコーヒーさび病が蔓延し、アラビカ種の農園が大被害を被ったことがあります。同年、約32%のコーヒー農園、面積にすると約3万9千ヘクタールが影響をうけました。
 また、ロブスタ種の栽培が進められているカリブ海側の地域は、太平洋側と比較してより貧困問題が深刻なため、大きな雇用を生み出す、新たな産業の創出は歓迎されています。それだけに、同地でのロブスタ種の栽培を積極的に推進していた大手CISA社破綻の行方が気になるところです。
 なお、私、カリブ海側をドライブしていた時、偶然、ロブスタ種の農園を見つけ、思わず歓喜してしまいました(笑)。この瞬間、あー、コーヒー沼に随分浸かってしまったなあと実感しました…

(8)等級

 ニカラグアのコーヒー豆の等級は、以下のように栽培地の標高の高さが基準になっています。

ニカラグアコーヒーの等級

 標高が高いほど、寒暖差が大きく、ゆえにミネラルや栄養分がしっかり詰まった良質なコーヒー豆になるからだそうです。低地でも、がんばって良質なコーヒーを生産されている方もいらっしゃるのではないかと思いますので、一律、標高の高さで分けるのはどうかと個人的には思いますが(笑)

【コラム②】国際品評会カップ・オブ・エクセレンス(CoE)における日本の存在感

カップ・オブ・エクセレンス(CoE)

 カップ・オブ・エクセレンス(CoE)は、Alliance For Coffee Excellence(ACE)が各国毎に主催する、コーヒー豆の国際品評会です。1999年にブラジルから始まったCoEは、2000年代に入るとそのコンセプトに賛同した他の生産国にも広がっていきました。
 2001年にグアテマラが中米初の開催国となり、翌02年に世界3か国目のCoEを開催したのがニカラグアです。意外にニカラグアのCoE歴って長いんですよね。
 私が、CoEに関心を持つようになったのは、コーヒー修行を始めた後の2022年からですので、23年の今回で2回目になります。日本から遠く離れた、それもマイナーなこの国(失礼!)で、これほど日本の存在感が大きいのかと驚いたものです。
 直近2023年のCoEを例にとると、まず10名の国際ジャッジの内、4名が日本人でした(ちなみに、米国からも同数の4名参加)。そして、上位入賞を果たしたコーヒー豆は国際オークションにかけられるのですが、落札したのが日本企業ばかり
 日本を代表する「スペシャルティコーヒーインポーター」のワタルさんの存在感が圧倒的ですが、中小のロースターも共同入札したりと、ざっと約7割のCoE入賞豆を日本企業が落札したのではないかという勢いです。
 その様子は、ACEのウェブサイトで確認してみてください。
 今年も、最高品質のニカラグアコーヒーを日本で楽しむことができそうです!

4.コーヒーに関する政策・体制

 ここからは、業界的というかマニアックになりますので、普通のコーヒー愛好者の方は飛ばしていただいても構いません。

(1)法制度

 ニカラグアには、コーヒー生産に関する2つの重要な法律があります。
 まずは、2000 年 12 月に公布され、コーヒー生産者にいくつかの免税措置等を提供している、「コーヒー法(Ley del Café)」(法律第368号)です(しかし、2019年、ニカラグア政府は、肥料や農薬にも課税する法案を成立させ、一部製品には最大30%の輸入課税が課されることになった)。
 そして、二つ目は、「コーヒー栽培変革・発展法(Ley para la Transformación y Desarrollo de la Caficultura)」(法律第 853号)です。  
 これは、2013 年に可決され、古いコーヒー・プランテーションを変革・刷新するための基金「コーヒー栽培変革・発展基金(Fondo para la Transformación y Desarrollo de la Caficultura:FTDC)」設立を通して、ニカラグアのコーヒー・セクターを成長させることを意図しています。
 そして、この法律第7条をもって、FTDCを運営・管理するための機関として、「コーヒー栽培変革・発展のための国家委員会(Comisión Nacional para la Transformación y Desarrollo de la Caficultura:CONATRADEC)」が設立されました。このCONATRADECは、現在カップ・オブ・エクセレンス(CoE)の国内実施団体となっておりますので、後ほど改めて説明します。
 FTDCは、輸出されるコーヒー 1 袋 60 kgごとに、その国際価格に応じて課される徴収金を原資として設立されています。
 具体的な、徴収金の割合は、アラビカ種とロブスタ種では異なっており、以下の図のとおりです。

FTDC基金と徴収金

 なお、国際価格が 60kg 袋あたり 200 ドルを超えていた 2021/22 年の徴収金の平均は、60kg 袋あたり 3 ドルだったとのことです。業界筋は、これにより、2013 年の設立以来 4000 万ドル以上を集めたと見積もっています。その使い道については、批判を含む、様々な声があることを補足しておきます。

(2)国家コーヒー栽培発展戦略2020-2023

(ESTRATEGIA NACIONAL PARA EL DESARROLLO DE LA CAFICULTURA NICARAGUENSE 2020-2023)

 ニカラグア政府は、この国家戦略に従って、コーヒー産業の振興・発展に必要となる、短期的な取組を行っています(注:2024年以降の国家戦略については、私が承知する限り、2023年12月現在公表されていません)。先に述べたCONATRADECが、その策定及び実施を担う責任機関となっています。

 この国家戦略の冒頭では、
●「(アラビカ)コーヒーが、ニカラグアの経済にとって最も重要な品目の 1 つであり、農業部門輸出の 33% に相当する 4 億ドルの富をもたらし、収穫期には 40 万人の雇用を生み出している」としてその重要性を述べ、
●「ニカラグアコーヒーは世界的に高く評価され、高品質な国際市場での地位を確立している」ものの、生産性、生産技術、そして気候変動に直面した持続可能性に関する課題もあるとの認識の下、
●この国家戦略によって、「①生産性を高め、②国際市場での価格変動に直面する生産者の収益性と収入を改善し、③気候変動やコーヒーさび病に耐性のある品種を提供し、④変革と付加価値能力の強化、加えて⑤国内および国際レベルでのプロモーションを行うこと」などを謳っています。

(3)ニカラグアのコーヒー関連主要組織

 コーヒー関連では、官民含めていろいろな団体があり、私も正直良くわかりません(苦笑)。このコーヒー修行中に目についた団体についてとりあえず紹介させていただきます。

ア コーヒー栽培変革・発展のための国家委員会(Comisión Nacional para la Transformación y Desarrollo de la Caficultura:CONATRADEC)」
 コーヒー栽培変革・発展法により、FTDC基金を運営・管理するために設置されました。農牧省の傘下にあります。先ほど紹介した、国家戦略の策定なども担っています。
 いろいろと紆余曲折はありましたが、メンバーは、官民の代表者から構成されています。官側からは、農牧省、家族経済・コミュニティ・共同組合省、勧業・産業・通商省他、民側からは、コーヒー輸出業界や協同組合の代表者他が加わっています。
 なお、このCONATRADECは、日本で開催された、SCAJ WORLD SPECIALTY COFFEE CONFERENCE AND EXHIBITION(SCAJ)に、2022年、2023年と2年連続で出展しています。

SCAJ2023におけるニカラグアブース(出典:政府広報サイトEl 19)

イ ニカラグア・スペシャルティコーヒー協会(Asociación de Cafés Especiales de Nicaragua: ACEN
 1995年設立の非営利のコーヒー生産者組合組織です。2002年から2018年までカップ・オブ・エクセレンス(CoE)を実施していました。CoEは、2019年は中止、2020年からは先述のCONATRADECが実施しています。
 スペシャルティコーヒーの生産/輸出を総生産量の少なくとも50%まで増加させ、同時に国際レベルでニッチのマーケットを確立することを目的として掲げています。
 私は、2年ほど前にACENの関係者とお話しさせていただいたことがありますが、現在そのウェブサイトは閉鎖されているようで、活動実態については不明です。

ウ ニカラグア・コーヒー輸出業者組合(Asociación de Exportadores de Cáfe de Nicaragua:EXCAN
 1974年10月創設。12月に経営破綻したメルコン・コーヒー・グループ傘下のCISA社を含む、大手コーヒー輸出業者10社が加盟。ニカラグアの経団連ともいえる民間企業最高審議会(COSEP)の構成団体でもあります(ありました)。ニカラグアコーヒーの質と認知度を上げるために、様々な取り組みを実施してきています。
 長年にわたり活動してきた業界団体ですが、2023年3月に法人格を取り消され、現在の活動実態については不明です。

(4)ニカラグアコーヒー産業が抱える課題

 ここで、少々シリアスな話をさせてください。アメリカ農務省FAS年次報告書2023から抜粋し、私がまとめる形で、ニカラグアコーヒー産業が抱える課題について簡単に触れたいと思います。
 ご関心のある方は、直接この報告書をご参照ください。毎年のニカラグアコーヒーの動向が簡潔にまとめられていますので、非常に役立つと思います(このnote記事のネタの多くをここから参照しております)。

  • ニカラグアのコーヒー生産者は、従来から有利な資金調達手段を有しておらず、ゆえにコーヒーの木の植替率が不十分であり、かつ高生産性・耐病性のある品種へのアクセスが困難になっている。

  • ロシアによるウクライナ侵攻の影響や新型コロナウイルス関連でのサプライチェーンの混乱、さらには2019年の政策変更による農業投入物への課税等により、上記の状況はさらに悪化しうる。

  • 2022年には総人口の4%に相当する約20万人のニカラグア人が国外に流出したと推定。労働者、就中、技術を有した労働者の供給不足により、収穫の質と量が低下する可能性がある。

  • ニカラグアのビジネス環境は脆弱であり、加えて現下の不透明な政治情勢は長期投資を阻害する要因となっている。

 悲観的な要因も多く、今後のニカラグアコーヒー業界がどのようになっていくのか知る由はありませんが、私が出会ったコーヒー生産者は、一様に真面目で意欲にあふれる方々でした。こうした方々の努力が報われる状況になることを祈りたいと思います。

【コラム③】メルコン・コーヒー・グループの経営破綻(2023年12月)

メルコン・コーヒー・グループ傘下のCISA社(ニカラグア・マタガルパ)

 2023年12月6日、ニカラグアでコーヒーチェリーの収穫期を迎える中、現地メディアがメルコン・コーヒー・グループの破綻を報じ、国内に激震が走りました。
 同社は、ニカラグア人のホセ・アントニオ・バルトダノ氏が率いる国際的なコーヒー関連企業で、本社をオランダに置き、ニカラグアのみならず、ブラジル、グアテマラ、ホンジュラス、パナマ、スペイン、米国、ベトナムに拠点を設け、世界60ヵ国に顧客を有しているとされています(きっと、日本企業も取引がありますよね?)。
 ニカラグアにおいては、その傘下のCISA社が大きな存在感を示していました。
 CISA社は、ニカラグア最大手の輸出会社であり、ニカラグアが輸出するコーヒーの約半分を担っているとも、全生産者の約1割が、コーヒー豆の集荷、加工そして輸出のプロセスをCISA社に委託しているともされています。 
 近年では、カリブ海側の内陸部でロブスタ種の生産にも注力し、ファイン・ロブスタと呼ばれる高品質なロブスタ種が話題にもなっていました。
 また、コーヒー生産者向け金融サービスである「メルカピタル」や技術支援である「リフト」というプロジェクトなども実施していました。前者は、常に資金繰りに問題を抱えている小規模生産者の経済的な支援になっており、後者はサステイナブルで生産性の高い農業を進める糧となっていたと聞いています。
 かかるニカラグアコーヒー業界の巨人の躓きには、目の前の危機のみならず、中長期的な影響も懸念されます。
 メルコン・コーヒー・グループは、米連邦破産法第11章に基づく申請を行い、再建への道を模索しているようです。しかし、2023年12月現在、CISA社は操業を再開しておらず、コーヒーの収穫期を迎える生産者は途方に暮れていると報じられています。
 こうした事態に対し、ニカラグア政府は、ニカラグア国内の生産者に対していち早く支援を表明済みですが、最大手企業の破綻であるだけに現時点での見通しは不透明となっています。
 完熟したコーヒーチェリーは手摘みされ、ニカラグアで多く用いられるウオッシュトの生産処理方法では、通常は農園に併設されたウエット・ミルで果肉を除去し、発酵させ洗いをかけた後、CISA社のような大手が運営するドライ・ミルで乾燥や輸出準備の工程が行われます。もし収穫期の間にこうした工程が行われないことになると、せっかく採れたコーヒー豆もダメになってしまいます。
 ニカラグアの生産者、そしてそのおいしいコーヒーを楽しみにしている世界各国の消費者のためにも、本件問題が早急に解決されることを祈っています。

ニカラグアのコーヒー農園では、「ナマケモノ」にも出会える!

5.ニカラグアと日本のカフェテリア事情

 いよいよ最後の章です。ものすごく長くなりましたが、もう少々お付き合いください。
 最後に、少々軽い話題ということで、ニカラグアと日本のカフェテリア事情を取り上げて、この記事を締めたいと思います。

コーヒーって、いいですよね!

(1)ニカラグアのカフェテリア事情~サードウェーブは来ているのか?~

ア ニカラグア居住者の主観的な視点から、ニカラグアのカフェテリア事情について、自由にお話しさせていただきます。
 なお、~サードウェーブは来ているのか?~という副題をつけましたが、「サードウェーブ」の定義にはいろいろと議論があると承知していますし、まあ、「コーヒーの質にこだわり、エシカルである」くらいの程度に考えていただければと思います。

イ まずは、カフェテリアを巡る状況について、関連すると思われる背景を話します。
(ア)第一に、一人当たりの年間コーヒー消費量です。
 2020年の国際コーヒー機関(ICO)の統計では、ニカラグアが1.89Kg、日本が3.4Kgでした。良質なコーヒーの生産国としては、寂しい消費量なのかと思います。アメリカ農務省FAS2023のレポートでは、その内訳として、レギュラーコーヒーとインスタントコーヒーは半々であろうと推測しています。
 生活実感としても、ネスレグループの「プレスト」という、「ニカラグア豆100%」を謳ったインスタントコーヒーが街中の至る所で見かけられ、また実際に供されることも多い印象です。

カフェ・プレスト

 先ほど紹介した政府関係機関のCONATRADECも、こうした状況を憂慮して、良質なレギュラーコーヒーを飲む文化の醸成や国内消費の向上に努めています。しかし、92%ものコーヒー豆が輸出に回されるような現状だと、なかなか厳しい気もします。

(イ)次に、国内のカフェテリアの店舗数の変化を見てみましょう。
 古い情報しか見つからなかったですが、当地のメディア「ラ・プレンサ」は、国内のカフェテリアの数が、2015年の247店から、2017年には461店まで急増したと報じています。ちなみに、比較のしようはないのですが、ニカラグア政府観光庁(INTUR)の2021年統計データでは、国内に2189店のカフェテリアがあるとなっています。
 また、アメリカ農務省FAS2023のレポートは、ニカラグア市場のトレンドの一つとして、特に若い世代の間で、高品質コーヒーへの重要が高まっていること、首都マナグアの都市部で、カプチーノ、フラペチーノ、コールドブリュー、エスプレッソ、ラテといった様々なコーヒーが楽しめるカフェテリアが増えていることを指摘しています。
 私個人の印象としても、以前ニカラグアに住んでいた約20年前、つまり2000年初頭と比べても、市内のカフェテリアの数は格段に増えています。特に、週末の夕方は、どこのカフェテリアも多くのお客さんでごった返していますので、レギュラーコーヒーを楽しむ文化は徐々に根づいていっているようです。

ウ ここで、個別のカフェテリアについて見ていきます。
(ア)大手チェーン
 ニカラグアで、大手カフェ・チェーン店と言われると、よく街中で見かける、「Casa del Café」、「Café Las Flores」、「El Molino」がすぐに頭に浮かびます。

●「Casa del Café」は、国内に26店舗(含む、コーヒースタンド)を構える最大手で、私もよく利用します。20年ほど前は、産地を明記しないハウスブレンドだけだったように記憶していますが、最近は、産地及び農園まで明記したマイクロ・ロットのスペシャルティコーヒーなども販売しています。

Casa del Café

●次が、「Café Las Flores」で、国内に9店舗を展開しています。グラナダのモンバッチョ火山の麓にある自社農園「Hacienda El Progreso」で栽培された、レインフォレスト認証の良質なコーヒー提供を謳っています。
 この農園は、首都マナグアから1時間圏内ですので、一番手軽にいけるコーヒー農園ではないでしょうか。モンバッチョ火山観光と一緒に行くことをお勧めします。

Café Las Flores

●最後が、「El Molino」。国内に4店舗あります。ここは、書店Hispamerと共同出店しているのが最大の特徴です。創業者のFernando de Santiago氏が、Perfect Daily Grindのインタビューで、スペシャルティコーヒーは大きなチャンスである旨述べているとおり、コーヒー豆の品質にこだわっている印象があります。
 日本にも多く輸出されている、名門ミエリッヒ・グループの農園のコーヒー豆がここでは販売されており、私もよく購入します。

El Molino

 こう見ていくと、世界的な趨勢、そしてこれから述べていくその他のカフェテリアが、サードウェーブ的な動きを見せていくのに呼応して、大手もサードウェーブを意識した方向に舵を切っていっているように見えます。

(イ)その他の個性あるカフェテリア
 最近、特に首都マナグアでは、個性あるカフェテリアが増えてきています。全て紹介することは困難ですので、以下3店を紹介するにとどめます。

● De La Finca Coffee
 英語に直訳すると、「From the Firm」Coffeeですので、農園直送を謳うコーヒー店というところでしょうか。その名のとおり、北部マドリス県に自社農園を有しており、2018年のカップ・オブ・エクセレンス(CoE)ではトップ10入りを果たしています。栽培、焙煎、一杯のコーヒー提供まで一貫して自社内で手掛けているお店です。目抜き通りのマサヤ街道に旗艦店があり、現在は4店舗を構えています。

De La Finca Coffee

● Café Las Marías
 直訳すると、「マリアたちのコーヒー」でしょうか。公式Facebookでは、「上質なコーヒー、居心地の良い空間、人の温かみのあるサービス、多彩な料理で、お客様に忘れられない体験を提供するサードウェーブスタイルのコーヒーショップ。」と自らを定義づけています。
 コーヒーも食事もおいしいので、私も週末によく行きますが、いつも混み合っていて、入店できないことがあるのがたまに傷。
 「マリアたちのコーヒー」の名のとおり、ハウスブレンドでは、女性の小規模農家支援を謳っています。

Café Las Marías

● Coffee Loveres
 先の2店舗は首都マナグアにありましたが、このカフェテリアは地方にあります。
 最大産地ヒノテガ県サン・ラファエル・デル・ノルテにある某コーヒー農園を訪問した時のこと。時間が余ったので、コーヒーを飲みたくなって、たまたま入ったのが、中央広場近くにあるこのカフェテリア。レトロでかわいい雰囲気だなあと思っていたら、出てきたコーヒーも本当においしくて!
 店員さんに聞いたら、地元で採れたコーヒー豆を使っているとのことで、納得。コーヒー農家の若者たちが、地元の街でこんなにおいしいコーヒーを飲めたら、そりゃあ良質なコーヒー豆を作りたくなるよな!と思わされました。

Coffee Loveres

  コーヒー専門サイト「Perfect Daily Grind」の記事で、当地ロースターCarayo Originsのオーナーは、サードウェーブはニカラグアにやってきて、そして定着した、その波はコーヒーの飲み方を多様化させた、と述べています。
 コーヒーのプロが感じ取っている変化は着実にニカラグア国内に浸透していくでしょうし、ニカラグアに住む者としては、92%もの良質なコーヒー豆が輸出に回っている現状が少しでも変わって、ニカラグア人自身が、自国の良質なレギュラーコーヒーをもっと楽しめる状況になるといいなと思います。

(2)最高のニカラグアコーヒーを楽しむことができる日本のカフェテリア~CoE2023国際入札で最高級豆を落札したのはどんなところ?~

 ニカラグアのカフェテリア事情について、居住者の立場から紹介させていただきました。
 次は、「日本で最高のニカラグアコーヒーを楽しむにはどうすればいいのだ???」ということで、ニカラグア・カップ・オブ・エクセレンス(CoE)2023の国際オークションで最高級豆を落札した日本のカフェテリアをご紹介します。
 各国CoEを主催するAlliance For Coffee Excellence(ACE)のウェブサイトをみると、各国の最高品質コーヒー豆を落札した企業を知ることができます。ニカラグアについては、ここをご覧ください。
 今回、この多数ある中から、都内にあって私が立ち寄りやすかった4店に、日本に一時帰国した際に行ってみました。コーヒー豆は農作物であり、当然ながらいつもニカラグアコーヒー、ましてや希少なCoE入選豆が置いているわけではないことをご容赦ください。
 まずは、CoE国際入札2023で、第1位のコーヒー豆を落札したSNOW BEANS COFFEE(品川区)さん。

SNOW BEANS COFFEE

 次に、WAVY COFFEE(渋谷区)さん。第1位の豆を、SNOW BEANS COFFEEさんと共同で落札。

WAVY COFFEE

 3番目は、NOZY COFFEE(渋谷区)さん。ここも、上記とは別ロットの第1位のコーヒー豆を落札しています。店内に焙煎機が置いてあり、場所柄か外国人も多く、雰囲気もよかったです。

NOZY COFFEE

 最後は、既に複数店舗を出店されている、SARUTAHIKO COFFEEさん。CoE第3位のコーヒー豆を落札。今回は、渋谷の店舗に行ってみました。

SARUTAHIKO COFFEE

 これら特色のあるお店に行ってみて改めて思ったのは、日本のカフェテリアのこだわりってすごいなと。そして、こんなこだわりのあるカフェテリアが東京だけではなく、全国津々浦々にある。改めて日本のカフェ文化の奥深さを再認識させられました。

6.最後に

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。つたない説明でしたが、少しでもニカラグアコーヒーについて知っていただけたらうれしいです。
 冒頭に申し上げたとおり、約1年前、コーヒー修行のとりあえずの成果として、ニカラグアコーヒーについて動画にまとめてみました。その後、知識がさらに深まったこと、また、更新したいなという内容も増えてきましたので、今回はnoteの記事にまとめました。
 私自身、まだまだ理解不足なところがあり、データや事実確認で不十分なところがあるのも自覚しています。
 しかし、細部に問題はあれど、大まかにはニカラグアコーヒーについて包括的にお伝えできているのではないかと考えています。
 今後、私がこのニカラグアの地に留まっている限りは、引き続き本記事をバージョンアップしていきたいと考えております(間違いは、しれっと修正していきます(笑))。

 「ニカラグアコーヒーっていいよね!」と思っていただけたら、うれしいです!
 
ついでに、そのおいしいコーヒーを作っているニカラグアという国が一体どのような国なのか、是非ご関心を持っていただけたら幸いです。
 少しでもご関心を惹かれたら、
私のYouTubeチャンネルを訪問してみてください!

 冒頭にも記させていただきましたが、もし事実関係等に間違いがあれば、「やさしく」コメント欄で教えていただけたらありがたいです。
 また、コーヒーの専門家で、コーヒーのいろはを教えてもいいよという奇特な方がいらっしゃれば、ぜひご連絡いただけないでしょうか。
 次回以降の更新時に、学ばせていただいたことを反映したいと考えております。

(おしまい)

【私のYouTubeチャンネル~コーヒー関連動画集】

 ここをクリックしてください!
 素人感丸出しの動画ですが、動画の方が伝わりやすい部分もあると思います。
 なお、初期の動画は特に拙いですのでご留意ください(苦笑)

【ニカラグアコーヒー農園訪問写真集】

 私が実際に訪問したニカラグアのコーヒー農園の様子をご覧ください。
 コーヒーの国に住んでいる利点を活かして、小規模生産者から、比較的大きな生産者まで、季節を変えて、いろいろな農園を訪問することができました。
 コーヒー農園訪問って、楽しいんですよね(笑)

コーヒー農園全景①
コーヒー農園全景②
コーヒーの木の苗木
5月頃には白い花を咲かせる
桜より短い開花期間のコーヒーの花
そろそろ収穫?
ニカラグアでは、概ね11月~2月が収穫期
一つ一つ手摘みで収穫①
一つ一つ手摘みで収穫②
この機械で、コーヒーチェリーから果肉を取り除き、豆(種)を取り出す
取り出された豆(種)を、水の中で発酵させ、洗う(ウオッシュト製法)
その後は、天日で乾燥
これは、果肉を付けたまま乾燥させるナチュラル製法
なんか感動(笑)
このような機械で生豆を選別
産地でのコーヒーの生豆。なんか感動(笑)
出荷を待つ生豆
一杯のコーヒー@マナグア市内「Casa del Café」、
バリスタ世界チャンピオン粕谷さんの著作と共に

【参考文献】

 この記事を執筆するにあたり、私が参照した文献です。ご関心があれば、ご覧ください。

●Coffee Annual Report 2023, United States Department of Agriculture, Foreign Agricultural Service (英語)
●Estrategia Nacional para el Desarrollo de la Caficultura Nicaragüense 2020-2023(スペイン語)
●El Café en Nicaragua, Carine Craipeau, Universidad de Costa Rica, 1992(スペイン語)
●Nicaragua y su café, Eddy Kühl著(スペイン語)
●Érase una vez…Una semilla de Café, La Prensa Magazine 2017.08.14(スペイン語)
●ニカラグア政府広報サイト「El 19」(スペイン語)
●コーヒー無限の可能性・・・テロワール編 ニカラグアの章(三神亮、Roast Design Coffee)
●ニカラグアコーヒー 中米強国に比べ「買い得」だが、足踏み(丸山健太郎、日経ビジネス)
●明石書店「ニカラグアを知るための55章」(田中高(編著))
●CONATRADECウェブサイト(スペイン語)
●Perfect Daily Grindウェブサイト(スペイン語)
●在ニカラグア日本国大使館ウェブサイト(日本語)
●Acts-Coffeeウエッブサイト(日本語)
●コーヒー豆研究所ウエッブサイト(日本語)

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