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a (k)night story ~騎士と夜の物語~⑨

季節が変わる頃、街で不気味な人死にの話が聞かれるようになった。

人の話によると、犠牲者は喉元を鋭く貫かれ、身体は老人のようにしなびていたということだった。

犠牲者が発見されるのはいつも朝だったので、何者かが夜、街をうろついて次の獲物を探しているのではないかと人々は噂しあい、日が落ちて薄暗くなってくると酒場まで店を開くのを控えてしまったので、トリンシックの街は文字通り灯が消えたような有様になってしまった。
 
見回りの自警団もいたのだが、武器を帯びていても戦士ではなく街の住人たちで、広いトリンシックの街全てを見回るには到底手が足りなかったので、各訓練所の者たちも警備に協力することになった。

しかし、そうやって手を尽くしていたのにも関わらず再び犠牲者が出てしまい、警備にあたる者たちの間にも徐々に不安が広がりつつあった。
 
「一体、何者の仕業なのかしら・・・。
これだけ巡回して、怪しい姿を見た話も出ないなんて」

「そうだな。
・・・もしかしたら、人じゃなくて魔物の仕業じゃないだろうか」

「魔物が潜んでいるということ?
この街なかではモンバットでも身を隠すところはなさそうだけど」

深夜、サイラスとデュベルはその日の警備役にあたっていた。

すると、治療院でがやがやと人だかりがあって、ヒーラーたちが慌ただしく出入りしているのが見え、二人がそちらへ行くと知り合いの戦士が駆け寄ってきて言った。

「やあ、君らはマリアの友人だったよな?
たった今、彼女と仲間が重傷を負って、ここに連れてこられたんだ」
 
驚いた彼らが室内に駆け込むと、彼女は寝台に寝かされていて、ヒーラーや薬師たちが必死に治療を施していた。

「ああ・・・マリア」

マリアは鋭利な刃物で切られたような傷を受け、息も絶え絶えだったが、デュベルの呼びかけに気丈に答えた。

「デュベル、サイラス様・・・あたしたち、やったわ。魔物を倒したのよ」

「マリア、しゃべらないで」

「あたしたち・・・ウィルバー卿の警護に・・・行ってたの。
そして、卿の屋敷の周りで・・・怪しい影を見つけて、仲間たちと追いかけたわ・・・」

「ウィルバー卿は無事なの?」

彼女は消え入りそうな声で、苦しそうに言った。

「わからない・・・でも・・・あそこには警備のものがかなりいたから・・・。
厩舎の裏の・・・森に、魔物の死体がある、はず。
デュベル、あたしたちが仕留めたのは、踊り子・・・。あのうちの一人・・・」

そこまで話すとマリアは苦しそうにあえぎ、ヒーラーは二人へ寝台のそばから離れるよう促した。

「マリア、駄目よ!
私、まだあなたと一緒に腕を磨きたいんだから」

青ざめた顔のマリアはデュベルの言葉に目を閉じたまま、にやっと笑みを浮かべた。
 
 

~⑩へ続く

 
お読みいただきありがとうございます。
ここから物語の後半にはいります。
 
 
物語の解説を少し。
 
ブリタニアには死んでしまった冒険者を蘇生してくれるワンダリングヒーラーという者たちが世界のあちこちを放浪しています。
 
冒険者は死んでしまうと幽霊の姿になり、蘇生してくれるヒーラーを探して駆け回ります。
早く蘇生して、自分の死体の所に戻らないと死体が腐って消えてしまい、その日の稼ぎも自分の大切な装備も失ってしまうからです。
 
とはいえ、焦りは禁物。
蘇生後ある程度回復して、控えの装備を着けるなどの準備をしてからにしないと死体にたどり着く前にまた死んでしまう危険性があるからですね。
 
準備を怠ると道々自分の死体を並べてしまうことになりかねません。
 
また、本作には登場しませんが冒険者でも魔術師になれますので、魔法で回復したり、腕の良い魔術師は仲間を蘇生することもできるのです。
 
戦士でも包帯やポーションで回復がすることができます。

冒険の時に様々な危険と遭遇するブリタニアの冒険者たちはなにがしかの回復方法を知っているということですね。
 


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