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会いたい時に「会いたい」と言えて会いに行けることの大事さ。


かつて「肩まで沼にはまる」という表現がぴったりの相手がいた。

セックスもする関係で、簡単にまとめるならセフレだったのだと思うが、ただ会ってセックスするだけではなかった。
強く噛みながら痣を残してゆっくりゆっくりと射精をさせたり、女装させて女の子扱いした上であたし主導のセックスをしたり、騎乗位の最中に首を絞めたり、つまりそういう関係であった。

それを、主従の伴うソフトなSMだとは言い切れないが、お姉さんと愛弟子のような関係であった。
あたしは勝手に盛り上がり、精神的な繋がりすらある関係だと思っていた。

体だけの関係でなくて、あたしが作った料理を振る舞ったり、ドライブをしたり、毎日のようにLINEをしたり、お互いの日常の話もし、職場すら知っていた。
今までに経験したことのない、心と心の通わせ方だと勝手に思っていた。

とにかく可愛がり、彼の求めるものを与えようとした。彼もまた、懐くのが上手で甘えるのも上手であった。
(あたしはそういう男に弱いことも付け加えておく)

あたしが勝手に盛り上がりすぎたせいで、嫉妬や詮索が拗れ、相手の独りよがりな行動に腹を立てて卑怯だと責めて、関係はあっけなく破綻。

その後お互い引きずる部分があって、しばらくしては連絡を取り合い、仲直りして、また怒りを蒸し返してしまって疎遠に、を繰り返していた。
「くっついたり離れたり」という表現がぴったりの、腐れ縁だった。

彼のことを許せないあたし。だけど、求めたいあたし。
あたしのことを許せない彼。だけど、おそらく求めていた彼。

好意に気付いてた。
気付いていたけど、もう苦しみたくなかった。
ただ単純に相手のことが好きという気持ちだけでいられたらいいけれど、あたしはわがままだ。
好きなら支配下に置きたくなるし、束縛もしたくなるし、嫉妬もする。それらをしてしまうことも苦しいし、それらを抑え込むことも苦しい。
心がしんどい思いを、もうしたくない。相手にもさせたくない。おそらくあたしは彼からの続く好意に背を向けてしまった。

彼の気持ちはLINEを読めばなんとなくわかった。
歯の浮くような甘い台詞は何一つなかったけれど、あたしと前のような関係に戻りたがっているのもわかった。
頭も撫でてほしいし、甘えて、あたしの手の中で射精したいんだろうことすら、わかった。

関係が一度破綻したきっかけになったことも誠意にまみれた謝罪をされた。
それも嬉しかった。
だから、前とは違った形で、この先も長く細く、親友のような何でも話せて頼れる時に寄りかかれるような、そんな存在になれれば、と彼の好意の10%くらいを丁寧に受け取るようにしていた。

おそらく、これが続けば、最初の頃のような関係に戻ったかもしれない。

気が向いた時にLINEをして、他愛のない話をして、時間が合えば会って、あたしが抱いて、彼はあたしに支配された中で射精して、猫のようにあたしの膝の上で眠る。時間の許す限り。

だけど最初から最後まで、毎日会いたいという気持ちがあったにも関わらず「会いたい」とそのたった4文字を伝えることはできなかった。どんなひどい罵倒を言えても。
そうして、会いたいときに会いたいと言えないまま、何かに容赦なくあるとき突然引き離されることも、何もかも知らないままだった。



おそらく彼は、吐精したかっただけかもしれなくても。それはあたしが知らなければいいだけの話なので。




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