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『世界避妊デー』と『安全な妊娠中絶のための権利の日』に考える日本のSRHRに関する課題と未来

はじめに

ネクイノは、「世界中の医療空間と体験をRe▷designする」というミッションを掲げ、医療にアクセスしやすい環境をつくり、未病の段階で医療との接点を増やすこと、それにより、医療リテラシーが向上することで、誰もが健康を享受できる世界の実現に向けて活動しています。

医療技術としては世界のトップクラスである日本において、予防的アプローチやプライマリーケアへのアクセスに課題がある婦人科領域を中心に、一人ひとりが心身ともに満たされ、安心して健康に過ごせるよう、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)の社会実装を目指し、適切なタイミングで正しい情報にアクセスできることに加えて、お互いの選択を尊重し合える環境を整えるため、婦人科領域に特化したオンライン相談・診察サービス「スマルナ」や、ユース世代向けの相談施設「スマルナステーション」の運営など、広く女性の健康課題の解決に向けた取り組みを行っています。

避妊や安全な妊娠中絶に関する課題は、個人だけでなく社会全体に深く関わる問題です。しかし、日本では、避妊や妊娠中絶に対する選択肢やアクセスが限られている現状があります。こうした課題を乗り越えるためには、適切なタイミングで正しい知識を知ること、相談しやすい環境を整えることが不可欠だと考えています。

私たちは、日々の取り組みを通じてこのメッセージを発信し続けるとともに、「世界避妊デー」や「安全な妊娠中絶のための権利の日」をきっかけに、これらの課題についての理解を深め、社会全体で考えていくことの重要性を伝えていけたらと考えています。


「世界避妊デー」「安全な妊娠中絶のための権利の日(国際セーフアボーションデー)」とは?

9月には、26日「世界避妊デー」と28日「安全な妊娠中絶のための権利の日(国際セーフアボーションデー)」があります。

「世界避妊デー」は、予期しない妊娠を防ぎ、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)を促進することを目的とし、特に若年層に向けて避妊の重要性や性教育の普及を図り、意識を高めるために設けられました。また、「安全な妊娠中絶のための権利の日(国際セーフアボーションデー)」は、女性の健康と自己決定権を守り、安全な中絶へのアクセスの重要性を訴えるために制定されています。

これらの日を通じて、予期しない妊娠の予防や避妊の普及、安全な妊娠中絶の権利に関する国際的なキャンペーンやイベントが世界各地で実施されています。

SRHRって何?わたしに関係あるの?

SRHRという言葉を初めて聞く方も多いかもしれません。私たちが運営するオンライン・ピル処方サービス「スマルナ」が行ったユーザー調査では、94.3%の方が「SRHRを知らない」と回答しており、多くの人にとってまだ馴染みの薄い言葉であることがわかります。

【スマルナユーザー511名対象のSRHR意識調査1】SRHRを知らないと回答した人は94.3% 性別による理不尽さやモヤモヤを感じたことがある人は83.8%

SRHRとは、「性や生殖に関することを自分自身で決定するために、必要な健康や情報が保障される権利」を指します。
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(Sexual and Reproductive Health and Rights)の頭文字を取った略称で、日本語では「性と生殖に関する健康と権利」と訳されます。

SRHRには以下の4つの意味が含まれています。

セクシュアル・ヘルス:自分の「性」に関することについて、心身ともに満たされて幸せを感じられ、またその状態を社会的にも認められていること

セクシュアル・ライツ:性のあり方を自分で決める権利で、自分の愛する人や自分のプライバシー、自分の性的な快楽や自分の性のあり方を自分で決められること

リプロダクティブ・ヘルス:妊娠・出産など生殖に関わる全てにおいて、単に病気がないだけではなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態(=ウェルビーイング)であること

リプロダクティブ・ライツ:産む・産まない、いつ・何人子どもを持つかなど、生殖に関することを自分で決める権利で、そのために必要な情報やサービスを得られること

SRHRは、誰もが性や身体に関する決定を自分で行い、守ることができる権利であり、すべての人の「性」と「生き方」に深く関わるものです。これは、WHOをはじめとする国連や国際機関が提唱する、人が生まれながらに持つべき権利(人権)であり、私たちの人生と切り離せない重要な概念です。

特に、妊娠や避妊、中絶など、生殖に関する自己決定はリプロダクティブ・ヘルス/ライツの一部として含まれています。しかし、日本では正しい情報の入手や医療へのアクセスが難しい場合が多く、誤解や偏見から「自分の身体に関することを自分で決める」ことが困難な状況も見られます。

このように、SRHRが十分に社会に実装されているとはまだまだ言えないのが現状です。

日本の避妊や予期しない妊娠の現状

では、日本でのリプロダクティブ・ヘルス/ライツの現状について具体的なデータをいくつか見てみたいと思います。

まず、避妊について。
日本では約8割が男性用コンドームによる避妊を選択しています。その他の避妊法を選択している人は約6%で、世界平均と比べてコンドーム以外の避妊法はそれほど普及していません。

避妊法の選択・世界平均と日本の比較/ピルファクトブック2024(ネクイノ制作)より

しかし、男性用コンドームの避妊率は87%で、装着ミスや、パートナーの協力が得られないケースもあります。実際に2023年1月に実施したスマルナユーザー調査では、緊急避妊薬(アフターピル)を必要とした理由の約40%が「コンドームが破けた・上手く装着できなかった」、次いで「相手がコンドームを着用してくれなかった」(30.1%)という結果が出ています。

【スマルナユーザー1,319名対象、緊急避妊薬(アフターピル)に関する意識調査】緊急避妊薬のOTC化には約9割が賛成

国連が提唱する避妊法選択の理想条件には、「避妊効果が確実」や「簡単に使える」などと並び「女性の意志だけで実行できる」が挙げられています。
女性が主体となって行える避妊法、かつ、日本で認められているものの一つに「低用量ピルの服用」がありますが、日本での低用量ピルの服用率を見てみると、他の先進諸国に比べて極めて低く、ピルの社会実装が進んでいない国だと言うことが見てとれます。

避妊方法としての低用量ピルの服用率/ピルファクトブック2024(ネクイノ制作)より

低用量ピルは日本では米国の承認から約40年後の1999年に承認され、今年で25年が経ちました。私たちが算出したデータによると、日本における低用量ピルの服用率は直近5年で約2倍となっていて、“ピル後進国”から少しずつ脱する兆しが見えてきています。

しかし、未だ男性用コンドームが避妊方法の多くを占めているという現状から、女性主体の避妊法である低用量ピルの普及とともに、緊急避妊薬へのアクセス改善が必要とされています。

国内出荷数に基づいた低用量・超低用量ピルの服用率の年次推移/ピルファクトブック2024(ネクイノ制作)

また、避妊法の選択肢が限られているだけでなく、「避妊についての情報を得る機会がない」という点も大きな問題です。
2023年12月に実施したスマルナユーザーへの調査によると、性教育の中で適切な避妊方法や家族計画について学んでいないと感じる人が約7割に上ることがわかりました。さらに、性に関する知識や考え方について「もっと知りたい」と思う項目の1位が「避妊」であるということが明らかになっています。

【スマルナユーザー702名対象のSRHR意識調査3】性に関する知識や考え方を十分に得られたと感じているのはたったの1割

避妊に関する正しい情報を得ることは、SRHRに含まれる基本的な権利です。予期しない妊娠を防ぐだけでなく、ライフスタイルや将来の目標に応じて、自分で妊娠や出産のタイミングを決める「バースコントロール」を計画的に行うためにも、性教育の中で避妊について正しく学ぶことが不可欠です。

そして妊娠中絶について。
日本における人工妊娠中絶件数は126,174件(2021年度)で、同年の出生数から算出すると、妊娠した女性の約13.5%が中絶を選択していることになります。
日本では医療水準が高く、適切な医療機関で中絶手術が行われていますが、中絶に対する否定的な見解や誤解が依然として残っています。このような認識が、中絶を選択せざるを得ない女性に対して負担となっている現状があります。

スマルナでは、中絶経験のあるユーザーにその背景や心情について調査を行いました。調査結果によると、中絶に至るまでの事情として「相手の協力が得られず避妊ができなかった」と回答した人が24.9%、また「避妊していたが失敗した」と回答した人が21.3%に上り、約半数のケースで妊娠が本人の意志とは異なる要因や避妊時のトラブルによって発生していることがわかっています。

【スマルナユーザー1,337名対象のSRHR意識調査2】中絶手術経験者の約半数が本人の意志とは異なる要因や避妊時のトラブルによって妊娠している

予期しない妊娠や中絶は、女性にとって身体的にも精神的にも大きな負担を伴います。
中絶を選ぶ背景には様々な事情がありますが、「産まない」という選択も、女性が持つ大切な権利の一つ。このことを、当事者だけでなく社会全体が理解し、尊重することが必要です。これは、SRHRに含まれる自己決定の権利でもあります。

ユース世代にとっての避妊・妊娠

日本では、特に若い世代に避妊についての知識や正しい情報が不足していることが見受けられます。では、より情報を届けたいユース世代の現状はどうなのでしょうか。

スマルナは、大阪・心斎橋に「スマルナステーション」というユース世代向けの相談施設を運営しています。

ここでは助産師が、生理や性のことについて対面相談・LINE相談を受け付けているのですが、その相談のうち最も多いのが「妊娠不安」に関するものです。

スマルナステーションでのLINE相談内容(2024年8月時点)

特に18歳以下の若い方から「性行為中にコンドームが破れてしまった」「避妊はしたつもりだけど生理が遅れていて不安」「アフターピルが欲しいけどどうすればいいかわからない」…などの相談が日々寄せられています。このデータを見ても、特に若者にとって予期しない妊娠をすることはその後の人生を左右する出来事であり、大きな不安要素だと言うことがわかります。

そして相談の傾向として挙げられるのが「インターネット上の不確かな情報が、正しい情報へのアクセスを妨げている」ということです。正しい情報かどうかを判断できずに余計に不安になってしまったり、逆に誤った情報を信じきってしまったりしているケースが多くあります。
また、避妊についての正しい知識を教えて欲しいといった相談もあり、実際にカップルで来所し、コンドームの装着練習をするケースなどもあります。

そういったことからも、学校教育の中で正しい知識を得る機会がない状態はユース世代の不安を助長することにもつながっていることがわかります。

これらを解決するためには、人権教育に基づく「包括的性教育」を推し進めていきつつ、特に若年層に向けた避妊についての正しい知識の普及が急務です。

包括的性教育とは:従来の性や生殖などにとどまらず、ジェンダー平等や性の多様性、自己決定能力などを含む人権尊重を基本とした性教育のこと

2021年のスマルナステーション開始から相談件数が年々大きく増えている状況を見ると、特にユース世代が誰にも言えないような悩みを抱えているケースが多いことは明らかで、家庭や学校内に限定しない「相談できる場所・正しい知識を得られる場所」を整備していくことも、SRHRにおける大事な要素だと思います。

こういった状況を一歩ずつ改善していくために、スマルナステーションでは学校での性教育講演や地域団体との連携により、性に関する知識の提供や医療情報へのアクセス改善をサポートする活動を行っていますが、必要な人全てをサポートできる未来に向けて、国や自治体にも働きかけを行い、今後も必要に応じて連携を行っていきます。

おわりに

日本の避妊や中絶についての現状を踏まえると、SRHRの社会実装にはまだまだ課題があり、これからも考えていくべきことが多くあります。まずは一人ひとりが避妊や中絶に関する知識を深め、正しく理解すること。そして、これらは個人の健康と安心に直結する重要な問題であるということを社会全体で認識していくことが第一歩だと思います。

世界避妊デー・安全な妊娠中絶のための権利の日をきっかけに、知識を深めること、そして社会全体で考えていくことの重要性を伝えられたら嬉しく思います。


<メディア関係者のみなさまへ>

スマルナではSRHRに関しての調査や当事者である女性ユーザーの声に関する資料のほか、低用量ピルについての情報をまとめたピルファクトブックなどを制作・提供しています。また、スマルナステーションにおけるユース世代の相談傾向などもまとめておりますので、SRHRや女性の健康課題に関連する報道を検討される際はお気軽にご連絡ください。
ぜひ正しい情報の普及にご協力いただければ幸いです。

ご連絡先:pr@nextinnovation-inc.co.jp


<本note記事に引用したデータのご紹介>


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