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無意識を意識したアート -シュルレアリスム-

2022年1月15日よりスタートした「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」

東京都庭園美術館HPより出典

20世紀最大の芸術運動であったシュルレアリスムは芸術の枠を超えて、人々の意識の深層にまで影響力を及ぼしました。革新的な意匠を生み出し、時代を先駆けようとする優れたクリエーターたちの表現は、時にシュルレアリスムの理念と重なり合うものであり、モードの世界にもシュルレアリスムに通底するような斬新なアイデアを垣間見ることができます。(中略)シュルレアリスムがモードに与えた影響をひとつの視座としながら、その自由な創造力と発想によって、モードの世界にセンセーションをもたらした美の表現に迫ろうとするものです。

東京都庭園美術館HP

この展示が非常に印象的だったので、シュルレアリスムとはどういった運動だったのか、なぜあのような印象的な芸術が生まれたのかを簡単に説明していきます。

シュルレアリスムとは?
このような絵画を見たことが一度はあるでしょう。

ルネ・マグリット「ゴルコンダ」1953年
サルバドール・ダリ「記憶の固執」(1931年)

Artpediaより出典

同じような人たちが空中に止まっていたり、時計がぐにゃぐにゃになっています。
このように、理性の支配を脱して、非合理なものや意識下の世界を好んで表現する絵画、詩などを表現するのがシュルレアリスムです。

言葉の意味から説明していきましょう。

シュル : 強度の、過剰な
レアリスム : 現実主義

つまり、シュルレアリストとは現実を突き詰めたものという意味になります。「超現実主義」と訳されます。
第一次世界大戦後、1924年フランスの詩人アンドレ・ブルトンの「シュールレアリスム宣言」刊行によって始まりました。

では超現実とはなんなのか?
それは「無意識」や「夢」、「心の奥の欲求」のことを指します。

つまり普段自分が意識している部分ではない領域ですね。

ではなぜ自分が認知していない領域を、芸術によって表現しようする動きが出てきたのか。

それは、20世紀前半は精神分析の学問が隆盛だったことが大きな理由です。フロイトやユングが有名です。A・ブルトンはフロイトから極めて多くの影響を受けたそう。

ここでフロイトが提唱した精神分析を簡単に説明します。

彼は人間の精神は三層でできていると考えました。その三層は下から順にエス、自我、超自我です。

エス(Es)
幼児期から抑圧されてきたものが蓄積されている領域。無意識的で、欲望や原始的な衝動のもととなる。快を求め、不快を避ける「快感原則」が支配する。
自我(Ego)
エスが生む原始的衝動に現実的な思考をはさみ、実際の行動とのバランスをとる領域。
超自我(Super-Ego)
精神の最上層に位置するもの。良心や道徳心を示し。親のしつけや社会のルールを心のなかに取り入れて形成される。エスの本能的衝動を抑圧したり、完璧や理想を追求する。


例えば、絵画や音楽などの芸術は、エスを自我の力で変形させた姿であると言われています。

これはまさにシュルレアリスムと通ずるところです。

ちなみにデュシャンの「泉」が出展されたのが1917年。
シュルレアリスムとまさに同時期です。

以前のnoteでも紹介した通り、「泉」の登場によって芸術はただ美を享受するものではなく、そのものの背景や文脈を考え、作品の意味を考えるものとなりました。

シュルレアリストの作品は、古典芸術的な美しさとは重ならない部分が多々あります。

しかしデュシャンをきっかけに芸術の美が問われ、フロイトらによる精神分析の隆盛によって無意識という領域が開拓されつつあったという背景がこの芸術運動を加速させたという背景があったのです。

そして、無意識の表現がモードの世界に影響を与えないはずがありません。

モードとは”私とは誰か?”を問い続けるものだとするならば、無意識も私の領域の一部だからです。

奇想のモードでは、帽子や靴、手袋といったシュルレアリスト達が好んだモチーフや髪の毛を使用した装飾品など"奇装"な物たちが展示されています。

シュルレアリスト達の現実を見つめ続けた先に生み出された作品は、見る人の感性のどこかに訴えかけてくると思います。

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