「武蔵野夫人」誓うことの尊さ

例え夫に裏切られても、真に愛する人が目の前で腕を広げても、正しく在らねばならない。そして誓って。誓こそが尊い。

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戦中、家を焼かれて妻の実家である武蔵野の地に身を寄せる夫妻だが、妻の両親は終戦を待たずして続け様に亡くなってしまう。悲しみの中、妻はそれでも先祖の土地を守っていく決意を固める。

そんな折、従兄弟の青年が戦場から帰還した。妻は大層喜ぶも、夫はどうにも気乗りしない様子で、家に寝泊まりさせることも厭うしまつ。従兄弟のほうも、夫の貞操論に反発を覚え、客として席を並べることも耐えきれないでいた。それでも従兄弟は家にいて、従姉妹である妻を慕い、妻のためにならんとする。

サタンタンゴを観た影響もあるけれど、場面展開が早く感じた。同じシーンをいつまでも延ばさないから間延びしないし、伏線になりそうな台詞と思いきや、すぐに暗転して台詞通りの話が進む。そういうテンポのよさもあって、夫婦の不仲や愛情の欠落、理解されない寂しさといった内容を扱うけれど、演出が過剰でないからからっとして見やすかった。

思い入れが強くなったのは妻。

裏切られたから自暴自棄になるとか、同じように裏切るのではなく、そんな状況だからこそきちんとする、という姿勢が眩しかった。また、潔癖で高潔というより、柔和であり迷いながらも正しくあろうとするような様子が好ましかった。


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