「水の中のナイフ」子どもの大切なナイフは滑り落ちてしまった

わがままな子どもと格好つけの大人の船遊び。見守る母親。巣立ち。

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夫婦が車で走っていると、1人の青年が道路に立ちはだかり、男は苛立ちながらも車に乗せてやる。船着場に着いて別れるかと思いきや、男は青年をヨット遊びにもやや強引に加えることに。

ヨットで遊んだ経験はないし憧れもなかったけれど、見ているととても楽しそうに見えて来る不思議。男と女はテキパキと船を操り、色のない水の上を走る。漂う。寝そべる。なんて気持ちがいいのだろうと思わせる。

男と青年の力の差も程よい。船上では何もできない青年が男にいいようにこき使われて見えるけれど、青年だって短気からオールを湖に放り投げ、鍋をひっくり返して拗ねたりする。男は男でやたら尊大に振る舞い、語調を強め、やっぱりこちらも何か気に食わないと不快をあらわにする。そんな、なんとも我慢のできない2人だけれど、出会ったばかりで船に乗せたり乗ったりする奇妙な人々なのだから、そういうものかと見れてしまう。

面白いのはむしろ女だった。

やたらと穏やかで、まるで母親のように青年に接してやる。スープをこぼして拗ねる青年に、自分のスープを分けてやり、食べなさいと促す。

だからこそ、作中ではっきり怒りをあらわにしたシーンが印象的になって、青年との関係性をも変化させたのかなと。されど、女はやはり寛容な母親なので、怒りがおさまると青年を受け入れて、再び見守る立場に戻るようだった。

勝手な想像で、子どものいない夫婦が擬似的な家族関係を楽しむように見えた。そして他者の車を待つばかりでナイフに執着していた子どもは、自立して自分の足で歩き出す。巣立ちの話。そんなふうに思いました。





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