「サタンタンゴ」男は悪魔か救世主が

死んだはずの男、イリミターシュが帰ってきた。男は悪魔か救世主か。閉塞感漂う村人たちは、男を信じていいのだろうか。

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年の瀬に映画館で、サタンタンゴを見た。約7時間の長い映画に、膝と首が痛くなった。映画館は老若男女いたけれど、やや男性が多かったかなと。まあ性別も年齢もさておき、これから7時間をともにするのだと思うと不思議な親近感が湧いていた。

ストーリーは12章から成って、前半6章、後半6章で分けられる。

前半の6章は個性的な登場人物たちの視点を変えて、大体同じ時系列が繰り返される。足の悪い男が聞こえるはずのない鐘の音を聞く。悪夢を見た女は何か災いがおこると言う。酒浸りの医者が酒場に向かう。酒場の男はイリミターシュを罵る。男を家に招き入れる母は少女を外においやる。

この追いやられた少女が物語の中核を担う。6歳くらいの、まだ幼く騙されやすい子ども。なのに誰の助けも得られず、降り頻る雨の中、猫を抱いて、酒場の窓の外からじっ、と大人たちが踊り狂う様子を眺めたりする。それが本当に長い。実際に、10分くらいはカットもなくひたすら踊るだけだったのではないかなと。なのに、誰も気がつかないし、夢中で踊る彼らに気がつかれない少女も、戸を叩くことも泣くこともない。窓に浮かぶ顔は、哀れというより少し怖いとさえ思ったので、少女は踊り狂う大人に何を思ったのだろう。

そして事件を一つ跨ぎ、7章から物語は進み始める。

感想としては、サタンタンゴには眩しい善人も唾棄すべき悪人もいないように思えた。多くの登場人物たちは眉を潜める悪さを働き、同時に他者を哀れみ施しをする。それを繰り返す。そこの加減が絶妙で、在り方に嫌悪を抱ききれない。

もしも、春まで続く長い雨がなく、実り豊かな長閑な村であればどうなっていただろう?と想像しながら帰路についた。

やっぱり7時間は長いけれども、見てよかったと思いました。

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