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ポスト/ウィズ・コロナ時代に「共に生きることを学ぶ」


   人類は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と向き合う時代に生きている。第70回国連総会(2015年)において「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)が掲げられた。SDGs全体を総括する目標17は「パートナーシップで目標を達成しよう」である。社会の不可逆的変化のなかで私たちはこれまでのライフスタイルを見直すことが迫られている一方で、持続可能な開発に向けたグローカルなパートナーシップが求められていると言えよう。
   今般のCOVID-19によるパンデミックで世界経済は2008年のリーマン・ショックによる世界同時不況をはるかに上回る打撃を受けている。この先行き不透明な状態が長期化すれば格差と不平等は拡大化するであろう。その影響は最も脆弱な人々に向けられる。さらに注視すべきは、世界中の国や地域で学校が一斉に休校したことで教育格差や学習ギャップが広がっていることである。そこで、今回は子どもの学習権からポスト/ウィズ・コロナ時代の教育が担う役割を考えたい。
   国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、世界の210カ国・地域のうち学校が全面再開したのは49か国・地域で全体の23%であり(2020年7月26日付日本経済新聞)、依然として10億5800万の青少年が影響を受けている(UNESCO, 2020年7月31日公表)。休校の長期化によって子どもは学校という社会活動の場が奪われている。一方、長引く自粛生活や経済的困窮によって家庭内暴力、特に子どもへの「見えない虐待」が増加しているという。子どもは日常の学校生活やさまざまな学校行事のなかで役割を与えられ、また子ども同士が協力することで人として成長する。学校の休校が長引けば、子どもの人格形成と心身の発達に大きな影響が及ぶ可能性がある。
   国内では文部科学事務次官通知「新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における一斉臨時休業について」(2020年2月28日)を受けて全国で学校の臨時休業が始まった。さらに、博物館や図書館、動物園・水族館、文化・スポーツ施設など社会教育施設も同様に相次ぎ臨時休業に入った。休校が始まると屋外で子どもが遊ぶことに対する批判的な声を聞くようになった。日本環境教育学会はこうした事態を受けて緊急声明を出し(2020年3月7日)、子どもが「外で遊ぶ権利」を最大限に保障するよう呼びかけた。子どもにとってはむしろ野外における適度な運動を行うことや自然にふれあうことがステイホームのストレスを軽減するためにも有効なはずで、当学会はその後「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応した環境教育活動に関するガイドライン(ver.1)」を作成し、野外や屋内外の社会教育施設で安全に環境教育活動が行えるように指針を示している(2020年6月26日)。
   子どもの学びを支える地域の役割も問われている。通常授業に戻った学校は学習の遅れを取り戻すために7時間授業や土曜授業、夏季休暇を短縮して授業を行なっている。登校時の健康チェックや校内の消毒作業など感染予防の対応にも追われ、現場は疲弊している。こうした非常事態にこそ地域が支え合う仕組みが必要だ。地域学校協働活動における地域の自発性に期待したい。
  「学習権宣言」(ユネスコ第4回国際成人教育会議採択, 1985年)には、「学習権は未来のためにとっておかれる文化的ぜいたく品ではない。それは、生き残るという問題が解決されてから生じる権利ではない。それは、基礎的な欲求が満たされたあとに行使されるようなものではない。学習権は、人間の生存にとって不可欠な手段である。」とある。この後に「もし、わたしたちが戦争を避けようとするなら、平和に生きることを学び、お互いに理解し合うことを学ばなければならない。」という文章が続く。ユネスコ21世紀教育国際委員会は、『学習:秘められた宝』(1997年)のなかで「『共に生きることを学ぶ』ということは、一つの目的のために共に働き、人間関係の反目をいかに解決するかを学びながら、多様性の価値と相互理解と平和の精神に基づいて、他者を理解し、相互依存を評価することである」(同書, 76頁)と述べている。私たちがこの人類の危機に立ち向かおうとするなら、他者を理解し、相互に支え合うことを学ばなければならないのではないか。聖書には、「隣人を自分のように愛しなさい」(マタイによる福音書22章39節)という教えがある。ポスト/ウィズ・コロナ時代の教育は、持続可能で包摂的な社会を目指して他者と「共に生きることを学ぶ」ことが求められている。

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