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曖昧さと社会 〜キリエのうた〜

【私のお気に入り vol.6】

キリエのうた


3時間という長編であるこの作品、よほどの映画好きじゃなければ少し躊躇ってしまうのではないだろうか。
私は特に映画好きでもなく、半年に1〜2回見る程度なのでかなり躊躇った。躊躇いながら見た結果、非常に面白かった。まず、3時間という時間設定についてだが、内容的には妥当だと思う。
昔3時間ほどの洋画を見た際、
「もうすぐ終わるか、?」「まだか〜」
を誇張なく5回くらい繰り返して、長ェよ!という感想だけを残したが、今回は、「もうすぐ終わりそうだな〜」から、サッと終わったので妥当だった。
今思い返してみても、このくだりいる?みたいなシーンはなかったので、飽きずに見れたと言える。ただ、尿が頻な人は通路側の席を確保しておくことをお勧めする。

今、帰りのバスに揺られながら感想文を残している。SNSで他の人の感想を見るのは好きだが、見ているうちに自分の元々持っていた感想が、綺麗に歪んでいくのを感じるので、見るより先に記しておこうと思う。

私はとんでもなく若造なので、岩井俊二監督を名前ぐらいしか知らなかったし、映画作品も特に見た記憶はない。感想にしてはあまりに偉そうすぎるが、面白い演出をする人だなと思った。
日常的な光景を現実的な色味で描写するのは、最近の邦画でよく見るが、それらの表現の中に、突如として洋画のようなドラマチックな表現(爆でか音楽と、あまりに意味深なカメラワーク)があって、離れそうになるたびに惹き込まれる感覚があった。というより、それ以前に基本的にずっと流れているバックミュージックが、この映画が「音楽映画」とカテゴライズされる由縁になっているように思う。アイナ演じるキリエを取り巻く、全ての音楽が観客を魅了させる。さすが小林武史。

そして肝心のアイナの歌、抜群です。そもそもここに関しては心配すらしてなかった。去年は色々と縁があってBiSHのライブを沢山見て、アイナの生の歌声は年8くらいで聴いてたから、その魅力は十分に知っているつもりだったけど、更に良かった。こういう映画を通して彼女の実力が世に広まっていくと思うと、本当に嬉しい。Spotifyにキリエバンドのアルバムがあったので、帰り道聴いてる。

さて、肝心の映画についても、非常に良かった。サガミオリジナルもびっくりのあまりに薄すぎる感想である。
路上生活者、路上ミュージシャン、曖昧でグレーに生きていく彼ら彼女らと、相反する社会。どちらが良いも悪いもなく、ただ相反しながら生きているだけ。打倒しよう!とか成敗だ!とかの社会的メッセージも感じない。受け入れられる部分もあるし、受け入れられない部分もある。曖昧を許す寛容さと、許さない厳しさ。映画を通して、私が特に感じたのはこの部分である。
血縁のない愛情と、認められない行政
屋根のある家と、結婚詐欺
路上ミュージシャンと、社会
いたる場面で、象徴的に描かれていた部分だと思う。
人間関係は非常に曖昧な状態で成り立っていて、どれだけそれが居心地の良いものであっても、認められない瞬間がやってくる場合がある。
大阪の路上ミュージシャンとるかちゃん、夏彦とるかちゃん、イッコとキリエ
これらの関係性が、曖昧さを許さない社会に崩されていくのが印象的だった。

最後のエンドロールのバックミュージックが彼であったのもそうだが、大阪にいた路上ミュージシャンである彼は、キリエにとって相当重要な人物ではなかったのだろうか。
キリエは歌を歌う時にしか発声することができない、という謎は最後まで明確に知らされなかったが、彼の存在がキリエをそうさせたのではないか、というのは推測に容易い。
現に、彼が警察に捕まりかけた(というか捕まってそう)後、るかちゃんは、自分にとっての聖地である教会で初めて涙を見せている。
物語の終盤、松村北斗演じる夏彦に、迷惑かけるから連絡しなかったと言ったのも、恐らく彼のことがあってだろう。

夏彦とるかも、社会に切り離された関係ではあるが、最終的に彼らを何と名付けるべきなのだろうか。
姉のキリエと瓜二つな、るか(キリエ)に対して、夏彦はどのような感情を持っているのだろう。
間違いないのは、泣きながら謝った相手はどちらのキリエでもあったということだ。
2人を繋いだ今は亡きキリエが、この曖昧な関係を繋ぎ続けている。

そして最後にイッコとキリエだが、この2人が映画の主軸でありながら、一番言葉にし難い関係だと思った。まおりは死んだと語るイッコと、私もそうだというキリエ。彼女らの生前と、死後の関係性は違うように見えて、結局は似ている。
雪原に仰向けになるるかと、砂浜に仰向けになるキリエ。それを笑った後に真似するまおりとイッコ。
イッコの、仮装のようにコロコロと変わる髪の色は、逆に彼女の変わらない部分を写し出し、まおりであった頃を想起させる。
知らなかったイッコの姿を、キリエは警察によって知ったわけだが、お互いにとって、相手は理由はなくとも大事にしたい人で、社会が暴く彼女らの本性はどうだっていいのだ。

曖昧と社会というのを主題に置いて今回はつらつら述べてみた訳だが、色々なものを主題における映画だと思う。こんなちんちくりんの文章じゃなくて、同じことをもっと綺麗にまとめてる人もいると思うがもし見てくれてる人がいたら、暇を潰してくれてありがとうと思う。みんなも見てみてね〜



【以下、蛇足】(思ったことを箇条書き)
・受験直前にそんなことすな〜‼️‼️夏彦ォ‼️
・背後に現実で起こった災害がある映画増えたよねぇ
・SEXに突入する前の男の薄っぺらい言葉の感じ非常にリアルでおもろい
・マジでレイプ未遂見てられんすぎた、本当に席立とうかと思った、でも彼女にとってはちゃんとショッキングな出来事であったことが強調されててまだ良かった
・「言わん」って名付けた岡田くん?が未来のさざんか(粗品)だったら良いのにって思ったけど違うっぽい
・てか粗品が粗品すぎ
・粗品いるシーン、粗品の声でかすぎて他何も聞こえん
・女を売りにしてる母親が嫌だったのに、今は結婚詐欺してるイッコね、、ここにも考察がありそう
・受験生の勉強部屋でギター弾くな‼️夏彦ォ‼️
・キリエ(姉)がえっちすぎ

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