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俺はMMORPGのソロに向けた要素が嫌いだった

「なぁ、MMORPGにソロ向けの要素って必要か?」

と聞かれたとき、あなたは何と答えるだろうか。

「そんなもの、必要に決まってる。」

そう答える人は多いと思う。

でも俺は、MMORPGにおけるソロ向け要素というものに否定的だった。いや、今でもどちらかと言えば否定したい気持ちはある。それでも、今は「必要だ」と言わざるを得ない。

MMORPGというジャンルを愛して止まない俺が、なぜこの要素に否定的なのか。それでいて必要だと感じているのか。今回の記事では、それを文章化してみたい。

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ソロ向け要素が必要なのは、人との関わりがもたらす価値が変化したから

なぜこんなことを考えているのかというと、ここ最近(といっても5~6年くらいの話だが……)、MMORPGやMORPGといったジャンルに、ソロ向けコンテンツの充実を感じているからだ。

きっと、多くの人は特に気にならないのだろう。

けど、俺がそれを気にしてしまうのは、俺がMMORPGの魅力は他人と関わってこそだと思っているからだ。ソロ向け要素は、その魅力を排除する動きに見えてしまったんだ。

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MMORPGの黎明期はインターネットが全然普及していなかったため、“まったく知らない他人と遊べること”が新しく、楽しかった。もちろん当時からソロで遊んでいるプレイヤーもいたものの、それはソロ向けに用意されたコンテンツではなく、基本的にはただ1人で遊んでいただけに過ぎない。

MMORPGというコンテンツそのものが、“多人数で遊ぶこと、人と関わること”に舵を切っていたんだ。そりゃそうだ、だって新鮮なんだから。

そんな環境で育ってきた俺も、チャットを通して物の売買や、冒険の仲間を募ることに楽しみを見出していた。

知らない人に話しかけるのは画面越しでも勇気がいるが、それでもゲームを遊ぶために一歩を踏み出す。結果、それが縁を生み、遊びの幅が広がっていくのが楽しかった。

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『ファイナルファンタジー11』のβテストでは、町中で飛び交うパーティの募集や売買の声、雑談で溢れている空気が好きだったし、誰かがやむを得ず引き連れてきた敵に対する注意喚起が行われたり、周囲のプレイヤーが集って処理をする過程に一体感を感じた。

『Star Wars Galaxies』では、市長として住人のプレイヤーたちと町をどう盛り上げていくかを話し合ったり、家具屋を営んでいたときに買い物に来てくれる客との雑談が楽しかった。カンティーナ(酒場)でエンターテイナー仲間と朝まで話しながら、訪れた戦闘職の人たちのキャラクターが癒されていく時間が何よりも心地よかった。

だから、そのコミュニケーションの機会を奪うような、ソロ向け要素を重視する流れが受け入れられなかったんだ。

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時は流れ、今ではオンライン要素はあって当然のものとなり、多くのゲームがオンライン要素を取り入れるに至っている。何なら1人で気軽にゲームを遊びたい人でも、なんらかのオンライン要素に足を突っ込まざるを得ないほどに。

その結果、現実と同様に人との関わること由来のストレスや疲れが見られるようになった。ともすれば、「失敗したら迷惑をかけるかもしれない」「知らない人と遊ぶのは怖い」といった気持ちを常に抱えながら遊ばねばならない。

時代の変化であって、仕方のないことだ。でも、MMORPGはこの煽りをモロに受けてしまったように思う。

“人との関わり”に価値を感じていた人が集っていたMMORPGというジャンルは、オンライン化するゲームの中に取り込まれてしまい、多くの人間は“数あるゲームの1本”として、MMORPGを認識するようになったのではないだろうか。

MMORPG側から見ても、これまでの強みだった“他人と遊べる”という要素は一般化してしまい、MMORPGとしてのアイデンティティを失っていく。

加えて、数百万本を売り上げるゲームがたくさん出ていた昔と違い、今では十万本売り上げればヒットと言われる時代である。開発費も高騰しているだろうし、ゲームの開発・運営にかかる金銭的負担も大きいに違いない。

数年、長ければ数十年サービスを続けていく(つもりで開発する)MMORPGには、通常のゲームよりも多くのランニングコストがかかる。MMORPGの開発には金が必要だとは、昔からよく言われていた。

さらに言えば、MMORPGは昨今のスマホゲームのように、一時のブームによりさまざまなタイトルが乱造された戦国時代を経験している。結果、強いタイトルだけが生き残ったのが今の形だ。

長くサービスを続けていくという構造上、MMORPGは後発に厳しいジャンルでもある。最近βテストを行っていたバンダイナムコの『BLUE PROTOCOL』というゲームがあるが、評判は今のところあまり芳しくないようだ。

自分はβテストに落選してしまったため詳細な判定は控えるが、少なくとも既存のタイトルでできていることができていないという意見も耳にした。これは、MMORPGでは特に重い欠点となる。なぜなら、まだ有力タイトルは元気にサービス中なのだから。プレイ感が悪ければ、「今までのMMOに戻るか~」で終わりなのだ。(※『BLUE PROTOCOL』はハイクオリティなアニメ調グラフィックという唯一無二の武器があるので、耐えられる可能性はあるが……)

いくらアップデートで対処しようと思っても、その開発中に評判はどんどん落ちていく。継続的に維持費が金かかるが、収入はない。地獄だ。MMORPGではなくともそういった事案はあるので、これはゲームのオンラインアップデートが基本となったゲーム文化に生まれた(開発者側の)リスクかもしれない。

そういった理由もあってか、MMORPGの新作の数はめっきり減った。実際、新規開発で『ファイナルファンタジー14』を越えなきゃいけない(少なくともそういった期待をさせる)のって、相当無理をしないと難しいと思う。世界単位でいえば仮想敵は『FF14』だけじゃなく、『World of Warcraft』なんかも出てくるから余計に厳しい。

話が脱線してしまったが、重要なのは“コミュニケーションを魅力だと思わない層が入りやすくなった”ことと、“開発・維持にとにかく金がかかる”ということだ。なるべく多くのユーザーを根付かせて、サービス継続資金を稼ぐ必要がある。

プレイヤーの数はMMORPGの財産だ。従来のコミュニケーションを楽しむ層も、人がたくさんいたほうが関わる機会も増えるので、アクティブユーザーが多いに越したことはない。MMORPGをやっている身からすると、プレイヤー数が少ないのはかなり悲しいし、つまらなく感じるのだ。

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シーズンイベントのようなお祭り騒ぎは、人がたくさんいるだけで楽しい。

というのが、ソロ向けコンテンツが充実してきた理由ではないか。そして、そう思ったからこそ、俺は受け入れた。

生まれた時代によっては、物心ついたころからネットワーク環境は整っている人も今や多いはず。そんな人はゲームで他人と遊べることに特別感は感じないだろう。逆に言えば、彼らは多くのゲームで半強制的に人との関わりを持たねばならなくなっているとも言える。だとすれば、1人で気軽にできるコンテンツが欲しいというのも道理かもしれない。


MMORPGはどこを目指すべきなのか

俺がソロ向け要素に違和感を覚えたのが、(MMOではなくMOになってしまうが)『ファンタシースターオンライン2』のNPCやフレンドを同行CPUとして呼び出せるシステムだった。

今では『FF14』などでも似たようなシステムは導入されている。断っておくが、個人的に好みではないものの、システムとして存在するのは時代に合っていると納得もしている。

しかし、これはなかなか微妙な匙加減が必要だとも思っていて、例えば自分+CPU3人でラクにダンジョンをクリアできるのなら、(少なくともダンジョン攻略においては)コミュニケーションを取る必要が失われていくことになる。

例えば、CPUと攻略した場合と他人と攻略した場合の報酬の実入りが、「CPU>人間」、もしくは「CPU=人間」であったなら、おそらくCPUを選ぶ人が多いんじゃないだろうか。ここであえて人間との攻略を選ぶのはコミュニケーションが好きなタイプで、どちらでもない人間はCPUを選ぶ気がする。だってそのほうが気が楽だから。

プレイヤーという不確定要素を入れるよりも、振れ幅のないCPUと冒険したほうがラク。これではオンラインゲームである意味はない。なので、人間とプレイするには物品か、精神的なメリットが必要になる。

これに対する『FF14』の対応は、プレイヤーと挑むことで得られる報酬が増えるという、単純かつ明確な方法だ。

まれに、こういう仕様に対して「ソロが冷遇されている」と言う人がいるが、「だってオンラインゲームなんだからそうだろ……」としか言えないし、MMORPGに来てソロを優遇しろという主張はズレている。

俺が『FF14』を好きな理由のひとつが、ソロ志向のプレイヤーにも、俺のような従来のMMORPGプレイヤーにも向けたバランスを探っているように見える点だ。これは『FF14』のプロデューサー/ディレクターを務める吉田直樹氏が、自他ともに認めるハードMMORPGプレイヤーであることも大きいのかもしれない。


ちなみに、今では手放しに褒められる『FF14』だが、ちょっと前までは、いわゆる“今までの伝統的なMMORPG”の様式をなぞっていた。

『ファイナルファンタジー』シリーズ初のMMORPGである『FF11』、そしてその流れを汲んだ『FF14』は、パーティーによるダンジョンハックを主とする『Ever Quest』系統の作品だ。

この系統のゲームは、“仲間と役割分担をしてダンジョンに挑む”のがメインコンテンツであって、ソロで挑むことは想定されていない。これは『FF11』も(少なくとも過去俺がプレイしていた時期までは)同様で、ソロではまともにレベル上げもできなかった。

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『FF14』も、俺が本格的に始めた拡張パック第1弾の頃は、まだストーリークエストを進めるだけではレベルが足りず、サブクエストや同じダンジョンに数回潜って経験値を稼がねばストーリーを進められなかった。

しかし今では、ストーリークエストを追って行けば経験値が足りるように調整されていて、かなりのユーザーフレンドリーぶりを発揮している。

加えて、最新拡張パックである「漆黒のヴィランズ」においては、前述したNPCを仲間としてダンジョンに潜れるフェイスシステムも導入され、メインストーリーで突破が必要なダンジョンを主要NPCとともに攻略することが可能になった。

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これまではストーリー上で訪れることになるダンジョンに、急にほかのプレイヤーが仲間として参加するものの、NPCたちからはとくに触れられないという違和感が存在していた。(「リーダーとして冒険者部隊を率いてくれ」と言われる場面はまだいいが、まれにダンジョンに突入するタイミング的に「どっから仲間連れてきた!?」となる場合があった。)

しかしフェイスシステムは、ダンジョンに突入する直前まで行動を共にしていたNPCたちと行動できるため、ストーリー上の演出とうまくかみ合っており、ゲームの都合で急に現実に引き戻されるような違和感がないのが強みだ。

おまけに、ダンジョン内では連れて行ったNPCたちがセリフをしゃべる。そのセリフも、ちゃんとダンジョンや状況に合わせて変化するうえ、仲間との掛け合いもあるものだから、いろいろなパターンを見たくなってしまう。

『FF14』はMMORPGのなかでも、おそらくもっともストーリー演出に力を入れているゲームなだけに、フェイスシステムとの相性は素晴らしいものを感じた。

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ストーリーやキャラクターを丁寧に描いてきた『FF14』だからこそ、その要素の補強としてのフェイスシステムが面白いのであり、その辺のMMOが単純にNPCと共闘させる要素を入れてもたぶんおもしろくない。

「CPUとのダンジョン攻略が楽しくなったら、コミュニケーションの機会を損なうじゃないか!」となるのだが、前述の通りプレイヤーとダンジョンに潜った際に出現する宝箱の数に差を出すことで、マルチに利を生み出している。また、ダンジョン踏破速度もプレイヤーパーティーのほうが速いので、よっぽど他人と関わりたくない人以外にはメリットは薄い。

実はフェイスシステムについても、内容だけ見たときには俺は否定的だった。しかし実際に体験してみると、評価が変わったどころか、今の俺の理想のMMORPG像を形作るうえで重要な部分を教えてくれた。

“ソロでも遊べる”は、ただ“マルチと同じことをソロでもできる”ではなく、“ソロでも楽しめる”ことが重要で、かつそこを越えてコミュニティまで踏み出せば、さらに遊びの幅が広がっていく。それが今の俺が思う理想のMMORPGの姿だ。

ちなみに、「漆黒のヴィランズ」のクライマックスでは、MMORPGであることをうまく利用した演出があり、思わず膝を打った。壮大なネタバレになるので詳細は言えないが、ぜひ体験してほしい。


MMORPGはコミュニケーションによって魅力が一層広がるゲームであると思うし、そうであってほしい。ゲームにオンライン要素が当然となった今、ソロ向け要素を入れること自体は否定しないが、同時にそこからコミュニケーションへの導線も必要ではないだろうか。

人と関わりたくない人はソロを続けられる環境であることと、コミュニケーションを取りたい人がコミュニティに辿り着けることは同居可能だし、そうあるべきだ。


……とはいえ現役のMMORPGは、それこそコミュニティに所属して楽しむことを主に開発されてきたものなので、ソロ向けコンテンツをアップデートで追加するしかなく、ゲームの根幹に取り入れるのは難しいかもしれない。

これは『FF14』における、ストーリーダンジョンにおけるムービースキップの問題がわかりやすいだろう。

『FF14』の物語上で重要なダンジョンでは、少し進むたびにカットシーンが挿入されるものがある。初めて訪れたプレイヤーは当然カットシーンを見たいが、報酬目当てで来たプレイヤーはさっさと終わらせたい。その結果、初見プレイヤーがカットシーンを見ている間に、クリア済みプレイヤーがどんどん先に進み、敵を倒してしまうという問題があった。そこに残されたのは、どこへ行ったらいいかわからず立ち尽くす、新米冒険者の姿だ。

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今ではストーリー体験を重視し、初見プレイヤー優先で該当カットシーンのスキップを不可にしたことで足並みを揃えることはできるようになったものの、経験値稼ぎで訪れる可能性があるダンジョンにおいて、合計で十数分くらいものカットシーンを強制で見なければならないというのもまた問題ではある。

その反省を踏まえ、以降はダンジョンに長尺のカットシーンは入らないようになったが、アップデートで直せる範囲にも限度があるということがわかるだろう。

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ただ、カットシーンに仲間全員の姿が映るのはMMORPGの醍醐味でもある。たまに変な圧を放ってくる存在もいるが、それも込みでMMOの面白さだ。

だからこそ、現在開発中の作品は、MMORPGとして次の段階の在りかたを組み込んで作って欲しいと願っている。


流行りの“緩いコミュニケーション”はMMORPGでも有効か

MMORPGではなくとも、オンライン対応ゲームにおける人との関わりは、ガチガチの対戦・協力に加えて、ここ数年で“緩いコミュニケーション”を多く取り入れるようになってきている。いわゆる間接的なマルチプレイだ。

『デモンズソウル』以降に流行り始めた感のある、ガッツリ協力/対戦はしないけど、間接的にそういう要素があるというもの。他のプレイヤーの存在を感じられる程度のコミュニケーション。人との関わりで受ける煩わしさを極力減らし、それでいて他人とゲームの楽しみを共有できるというものだ。

MMORPGにおいても、この流れは取り入れられてきているように思う。『FF14』で言えば、「イシュガルド復興」などだ。このコンテンツは、戦争によって大打撃を受けた都市・イシュガルドのとある地区を、プレイヤーが協力して復興させていくというもの。

プレイヤーがパーティーを組んで何かをするわけではなく、生産職のプレイヤーたちが、各々定められた生産品をイシュガルドに収め、その結果イシュガルドの復興が進むという形だ。

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当然、その生産品に必要な素材も、ギャザラーと呼ばれる収集クラスのプレイヤーたちが集めてきたアイテムを使う。

やっていることは個人の活動でも、同じ世界にいるプレイヤーが好きなように作業に協力していくコンテンツとなっている。優れているのが、節目節目でしっかりとイシュガルドの街並みが変化すること。風景が徐々に立派なものになり、住人たちの姿も増えていく。その住人たちに関連するサブクエストなどが展開されるのも熱い点だ。

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余談だが、『FF14』は荒れ果てた街並みが拡張パッケージが発売されるタイミングで復興が進んでいくというギミックを以前から取り入れている。こういった“世界のライブ感”はMMORPGらしさを感じてとても好きだ。

“一緒に何かをする”というのは大きな快感を与えてくれる。パーティーを組んで冒険をするみたいな高密度なコミュニティはもちろん、「イシュガルド復興」のようなコンテンツにしても、“同じサーバーのプレイヤーみんな”“廃墟を立て直す”というふわっとした、それでいて大きなコミュニティに参加していることになる。

例え1人で黙々と納品を続けていても、その場にはほかの生産職のプレイヤーたちが木材を切り、金属を加工し、料理を作っている。その空間にいるだけである程度の一体感を感じるはずだ。

他人がいる空間に価値を感じるかどうか。MMORPGは、それをプレイヤーに体験させられるかどうかが重要なのだ。その点でいえば、緩いコミュニケーション要素もどんどん取り入れていくべきだろう。そこからのコミュニケーションの導線は考える必要はあるが。


何度も言うように、MMORPGはコミュニケーションのゲームだ。少なくとも俺はそう思っている。ソロ向け要素を迎え入れこそすれ、コミュニケーション要素を排除してはMMOである必要がなくなってしまう。

もちろん、これは一人でもMMORPGを隅から隅まで楽しめる人を否定する言葉ではない。

しかし、タイトルを選ぶときは個人の興味によるかもしれないが、そのタイトルを長く遊び続けるかどうかは、実際そのゲーム内で築かれたコミュニティに依存するのがMMORPGだ。

だから正直、MMORPGをプレイしていてソロ向け要素しか手を出さないという人には「なんてもったいない……!」と思う。

確かに、他人に声をかけるのは怖いし、すでにあるコミュニティに飛び込むには勇気がいる。それでも、MMORPGは人とコミュニケーションを取れるかどうかで楽しさが大きく変わると、俺は思う。

どうか、ソロ向けコンテンツで満足せずに、勇気を出してもう一歩を踏み出してみてほしい。

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