見出し画像

【今月のトークテーマ】意味のある手間に心惹かれて【hororo】

ゲームライターがゲームについて語るマガジンを作る、という話を受けて「ちょっと面白そうだな」と思ったのが事の始まり……。
トントン拍子で参加することになってしまったライターのhororoです。

最初なのでまずは簡単な自己紹介を。中心ジャンルは洋ゲー。最初に仕事をもらった電撃PlayStationや電撃オンラインなど、電撃系の媒体をメインに、他媒体でもちょこちょこ仕事をもらいながらなんとか日々を生きてます。ここ数年では動画などに出演することも増えてきて、嬉しい限り。

就活をほとんどせず、自分の興味のないことをやりたくなかったり、朝9時に出社しなければいけないサラリーマンをやりたくなかったというナメくさった生き方をしていたら、なんかこうなっていた系ゲームライター。

こんな感じでゲームライターと一口に言っても、その内訳はさまざまで、一本のゲームをとことん攻略する人、企画に燃える人、芸術的・文化的な目線で見る人、ただゲームを遊ぶのが好きな人、さまざまな人がいるんだよね。

俺はといえば、じつは技術的にどうこうとか、クリエイターの持ち味とか、文化的側面とかはあまり興味はなくて、ただ自分が楽しいと感じたゲームをほかの人に伝えたい……という気持ちがあるだけだったりする。

もちろん、仕事で原稿を書くうえでは、必要に応じてゲームの歴史やらシステムやらを調べることはある。けど、周囲の人と話をすると、自分のゲームの好みはちょっと特殊なのかな、と感じることも少なくない。ということでせっかくだし、ここゲームライターマガジンという場所では、もっと“俺から見たゲーム”というのを推していこうじゃないか。

ちなみに、「プロのゲームライター陣がゲームについて語るマガジン」自体は有料だけど、今回の自己紹介記事は無料で読めるようにしてあるので、興味があったらマガジンのほうも購読してみてね。

遠い昔、はるか彼方の銀河系で自分の好みを自覚するに至った

さて、第1回目のテーマは「この世で一番好きなゲーム」。
でも、「一番好き」というのは選ぶのが大変だ。
今回は自己紹介も兼ねているとのことだから、それなら俺の好みを一番説明しやすく、影響を受けたゲームを上げよう。

そのゲームとは、2003年に発売、サービスインしたPCゲーム「STAR WARS GALAXIES」(SWG)
MMORPG界隈では、ある意味伝説のゲームといってもいい。
オンラインゲーム史上最悪のアップデート(※バグとかではなく「予定通り」に行われたアップデート)を行ったことで有名なゲームなんだけど、その詳しい内容は本筋からは外れるからここでは書かない。
気になる人は「SWG」「NGE」とかでググっておくんな。
残念ながら既にサービスは終了しているので、新たな写真は用意できないから、今回は過去の写真を使って、思い出を振り返りつつ俺の好きな点を挙げていこうと思う。

俺がこのゲームを愛するのは、STAR WARSが大好きなのはもちろん、もう一つ明確な理由がある。
それは、ゲームの中の機能がプレイヤー主体で回っていたこと。

これを説明するために、まずSWGのキャラクターの在りかたについて簡単に解説しておこうか。
SWGのキャラクタービルドは、いわゆるスキル制を採用しており、無数のスキルツリーから自分の取りたいスキルに合わせた経験値を稼ぎ、習得していく。もちろんスキルポイントには上限があり、最終的にすべてのスキルを習得できるなんてことはない。数多くあるツリーのうち、だいたい2~3つのみマスターできる程度だ。この「パーフェクトなキャラクターは作れない」というのが、俺の心にブッ刺さる要素のひとつ。

俺のゲームの楽しみ方は基本的にロールプレイ型。つまり、自分のキャラクターをその世界の一部であるようにプレイするのが好きなんだ。全部のステータスがマックスなんて、そんな野暮なことはしたくない。俺は超人になりたいわけじゃなくて、その世界で生きている一人の人間としてプレイしたいんだよね。(そういうのを好む人がいるのはもちろん知っているし、否定もしないよ)

つまり「どんなことをするキャラクターにするのか」をあらかじめ考えたうえでプレイしなきゃいけない。もちろん振り直し機能はあったので、ガチガチに決め打ちしなければいけないわけではないけど、俺はこの「“ままならなさ”からくる悩み」が大好物なんだよね。それこそ、まるで人生のように本気で悩む。そこで得た結論だからこそ、そのキャラクターに愛着も沸く。

ということで俺が作ったキャラクターは、ダンスができて家具を作れる魚人だった。

画像ではなぜか巨大な敵の前でダンスを踊っているけど、もちろんダンサーも家具職人のスキルも、戦闘には一切関係ない。本当になんで俺はここで踊っていたんだ……? でも、俺はそれでよかった。それがよかったんだ。

ライトにするだけが面白さじゃない

ここでSWGは機能がすべてプレイヤーによって成り立っていたという話に戻ろう。俺が取ったダンサーというスキルツリーは、その名の通りダンスを踊る人を指す。これがゲームでどう影響するかというと、「戦闘で受けたペナルティは、ほかのプレイヤーのダンスや演奏を視聴することで癒せる」ということだ。

SWGでは、戦闘を続けていると、疲労値が蓄積していき、体力やMP的なものの最大値が下がっていく仕組みになっていた。なのである程度戦闘を続けたら街に戻り、医者の治療を受けたり、エンターテイナーの踊りや演奏を見て癒しを得て、疲労値のペナルティを解消する。

「なんでそんな面倒臭いことしなきゃいけないんだ」と思う人もいるかもしれない。でも、それを面白いと思う人は確実にいて、当時もエンターテイナーや医者を専属でやるプレイヤーがそれなりにいたんだ。

彼らが普段何をしているのかというと、病院やカンティーナ(酒場)で客を待ちながら、同じ医者やエンターテイナーのプレイヤーと雑談をして過ごしていた。そしてお客さんの戦闘職のプレイヤーが訪れたら仕事をこなしつつ、そのプレイヤーとも交流していた。MMORPGの魅力である「他人とのコミュニケーション」をいかに自然に取らせるか、非常によく練られていたと思う。

暇なときはみんなでダンスの開始タイミングを合わせ、シンクロさせるという遊びもやっていた。ダンスは基本的に一連のモーションをループするから、モーションのどの地点でダンスを開始すれば別の人のダンスと動きを一致させられるかというテクニックを磨いた。これには俺はかなり真剣に挑んで、学校の勉強よりはるかに頑張ったといってもいい。後日アップデートで自動でシンクロさせる機能が付いたけど。

面白いのが、エンターテイナー主体のプレイヤーイベントが開催されたこと。今でも忘れない。「オトノチカラ」というイベントで、ゲーム内に実装された音楽とダンスを使ったコンサートイベントだ。(動画はYoutubeにあった借りもの)

俺はこれに演者側で参加した。どのタイミングでどう動くか、どの踊りを踊るかといった内容はそれこそ現実のイベント運営のようなもので、打ち合わせやリハーサルもしている。

そんな感じで、ゲーム内のすべての要素はプレイヤーによって成り立っていた。NPCが運営する店はない。武器も防具も、スターシップも、(一部のボスドロップ的なものを除き)すべてどこかのプレイヤーが作って販売しているものだ。そして、誰もが1人で完結できないキャラクターだから、他の人を頼り、そこに関係性が生まれていた。

プレイヤーによって回る世界。それは俺が望むMMOの形といってもいい。MMORPGの源流である「Ultima Online」や、今もなお一定の人気を保ち続けている「EVE Online」など有名なタイトルもいくつかあって、どれもプレイはしたけど、俺は原作補正もあってSWGが一番好きだった。

こういった、いわゆる生活系MMORPGは「Ever Quest」系のダンジョンハック系MMORPGの勢いに飲まれ、数を減らし、今では数えるほどしか残っていない。まあそもそもプレイにかける時間の比重が重いMMORPGというジャンル自体、ライトな作品が好まれる今では斜陽を迎えているけどね。ともあれ、煩わしいと思われがちな要素を削ぎ落していくことで、いっしょに削がれていく魅力というのはあると思うし、俺はそれが好きだったんだ。

不自由の魅力

今はとにかく煩わしさを排除して、ストレスフリー最高! という感じでゲームが作られている。もちろんそれはひとつの方向性として間違いではないとは思うけど、やっぱり一抹の寂しさも覚えてしまう。

確かに手間というものは、それだけでストレスを与えるもの。だけど、全ての手間は無意味かと言われるとそうじゃないと俺は思う。SWGはそれを俺に教えてくれた。

SWGはメチャクチャスケールがでかいゲームで、原作にも登場した数々の惑星をそれなりのスケールで再現している。再現というと語弊があるかな。ともかく、めちゃくちゃ広い惑星が何個もあった。そして、空き地にはどこでもプレイヤーが家を建てられた。

この家や、室内に置く家具を作れるのが、俺のキャラが取った家具屋ツリーだね。椅子に座れたりはするけど、別にゲーム的にはなんの意味もない、ただのデコレーションアイテムだ。こういった家具をサンプルとして並べて展示場のようにしたうえで、訪れたお客さんに家具を買ってもらったり、欲しい家具の注文を受けて、材料を集めて作って渡したりするのが楽しかった。

この時のSWGは、実は今でいう競売のようなものがなかった。欲しいものがあればだだっ広い惑星でプレイヤーが建てた家までスピーダーを飛ばし、店主の置いたベンダー(売り子)から品物を買わなければならなかったんだ。これを聞いてどう思う?「うわっ、面倒臭いな」って思ったかな。

俺はこの仕様が大好きだった。ログインしていれば買いに来たお客さんに声をかけられるし、オーダーメイドにも対応できる。気に入ってくれれば常連客にもなってもらえた。買う側の視点で見ても、めちゃくちゃ安く売ってる穴場の店を探す楽しみがあったし、プレイヤーの店ごとに見せ方が違っていたりして巡るのが面白かった。

でもある日、競売システムが導入されてから、店に直接訪れる客は減ってしまった。そりゃそうだよね。主要な町にいれば端末から買い物できるようになったんだから。人は便利なものに触れると、なかなかそこから離れることはできない。まさかゲームでオンラインショッピングで割を食う商店街の店主の気持ちを味わうとは思わなかったよ。

別にプレイヤーを責める気はない。俺だって楽な手段があればそっちを使っちゃう自信はあるから。でも、コミュニケーションを作れる状況を、ゲーム側が切り捨ててしまったことが悲しかった。

確かに、競売の実装はユーザーの手間を減らすという意味では効果的だったし、多くのユーザーからも肯定的だったかもしれない。でも、それにより失ったものもある。先の例でいえば、いちいちスピーダーを飛ばして店に行くのが面倒なのは誰でもわかっていたから、対処策もあるにはあったんだ。

SWGの特徴のひとつとして、家と同じように、プレイヤーは自由に町を作れる機能があった。市長スキルを取ったプレイヤーが市庁舎を建造することで、そこを中心とした区域を、システムに“町”と認識させる機能だ。俺は実際に市長用のキャラも作って、町を作った。町にはスターポートと呼ばれる港を作ることができて、ほかの町からファストトラベルできるようになっていた。

店を構える側としても、僻地にあるより人の往来が多い場所に建てたほうが都合がいい。最初から用意されている町には家を建てられないので、候補となるのはやはりプレイヤーシティだった。もちろん、ちょっと離れた場所に隠れ家的に店を構える人も多かった。それはそれで風情があったし、俺も好きだよ。

まあそんな感じで、“快適ではないものの、不自由ではない”レベルには達していたと思う。むしろその不自由には意味があったんだ。あくまでも俺自信の美学のようなものだけど、少しの不自由があるほうが、世界としてのまとまりがあるように思えてしまう。それは俺のロールプレイ主体というプレイスタイルと噛み合うんだよね。

別に快適性を目指すのが悪いと言いたいわけではなくて、不自由にも魅力があるかもしれないということ。とくにオンラインゲーム周りはね。操作周りの不自由さは改善するほうがいいとは思うよ。メニューを下に送り続けると自然と最初に戻るとか、無駄なメニュー階層を増やさないとかね。そういうのは別。

世界観を愛するということ

SWGは大人気映画、STAR WARSの世界観をもとにしたMMORPGである。ということで、世界観のベースはすでにあって、その辺はしっかりこだわりを感じる。本編のSTAR WARSだって、映画には出てこない設定なんか山ほどあるし、それがその世界ならではのリアリティを生み出している。

最初にも言ったように俺はロールプレイが好きだから、世界観がどれだけしっかり作られているかというのを比較的気にする。現実的に考えた時に荒唐無稽だってかまわない。大事なのは、その世界ではそうなんだな、という説得力を持たせること。それには背景設定がとても役に立つんだよね。

SWGはその点すごく優れていた。ゲームを作るほうからすれば決まっていることが多すぎて、逆に厄介とも言えるかもしれない。でも俺が当初のSWGに感じたSTAR WARS愛は、ジェダイの実装の仕方に現れていたんだ。

俺はジェダイの道を目指すつもりはなかったから詳しい行程は覚えていないけど、まずジェダイのアプレンティス(訓練生)になるために相当な苦行を強いられる。受注クエストの発生条件を満たすのが苦しく、数ヵ月の無情な経験値集めを強いられる。やっとアプレンティスになってライトセーバーを振れるようになるものの、その段階ではまったく強くなくバウンティハンターのプレイヤーに付け狙われる。そういった苦難を乗り越えて、ようやくジェダイナイトへと至れるのだ。

厄介なのが、確か当時は1サーバには1アカウント1キャラしか作れないという制限があったこと。つまり、ジェダイを目指そうと思った瞬間、ほかのキャラで遊ぶという選択肢が消え、プレイのすべてを修行に当てなければならない。(もちろん、複数アカウントを取得したり、別サーバーに遊びにいくという逃げ道はあるけど……)

でも、俺はこれがSTAR WARSらしいと思っちゃったんだよね。ジェダイというのはそれほどまでに人生をかけて至るものだと思うし、気軽にできるものじゃない。だってジェダイなんだよ? だからこそジェダイプレイヤーを見たときは、「本当に存在したのか!?」っていう、まるで架空の生き物を見たかのように動揺したし、その道を歩いたことに畏敬の念すら覚えた。

これって、STAR WARS世界で生きている感じするでしょ? この仕様がユーザーファーストのものだとは言えないけど、少なくとも開発に熱心なSTAR WARS信者がいたに違いないと思う。そして俺はそれに共感してしまったんだ。

というように、俺の愛するゲーム像を形作ったSWGだったわけだけど、残念ながら度重なるアップデートの失敗のすえ大きくユーザー数を減らし、ついには滅亡してしまった。最終的には、スキル制がクラス制になり、あんなになるのが大変だったジェダイがクリックひとつで生み出せるようになってしまった。クローン大戦か。

SWGの失敗は、生活系MMOとしてスタートしながら、当時勢いを増していたダンジョンハック系の人気にヒヨり、そちらに舵を切ろうとしたこと。イタリアンの材料を集めて下味を付けておきながら、ブームだった和食として無理矢理出そうとした感じ。

今の俺は、そんなイタリアン和食の苦い味を胸に刻みながら、理想のイタリアンを待ち続けているんだな。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?