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「おかえりモネ」論 その6 林業のはたらくくるまとその仲間たち

ドラマ本編が今週で終わるって本当ですか。あと半月ほどあると思っていました。放送中にもう何回か書くつもりでしたが、終了後にも書き続けることが確定してしまいました。個人的な問題にすぎませんが。録画しっぱなしになっている数週分もそろそろ観ないといけませんね。

さて先日、伊勢長之助監督の映画『森と人の対話』(1972)を観ました。東海パルプ(当時)のPR映画で、静岡県井川にある広大な社有林に住み込みで従事する作業員たちと、井川山林の自然を捉えた作品なのですが、これが本当に面白かった。静岡県の北側にぼこっと突き出ている土地があります。静岡県知事がリニアモーターカーの地下トンネルの建設に許可を出していないことは有名だと思いますが、あの半島のような地形まるまる、一社の社有林です。ここまで一ヶ所にまとまっていて、自社で森林経営をしている社有林はそうそうないはずです。もう時効だと思うので白状しますと、わたしにはここに就職するかもしれなかった過去があります。

映画では、急峻な高地での伐倒や植栽、鎌による下草狩り、架線集材が堪能できるだけでなく、朽ちた丸太の上から新しい実生苗が生えている様子など生態系にもフォーカスされますし、作業員たちが暮らす小屋での余暇や宴会、また新拠点の建設、年末に小屋を閉めて一斉に下山する様子など、林業のとても多くの場面が収められています。体調を崩して寝たまま編集したと言われる伊勢長之助監督の遺作ですが、とんでもなくエキサイティングな映像の数々でした。

それから半世紀。かなりよくなったはずではありますが、それでも林業は死亡事故率が相対的に高い職種です。伐採時の倒木に当たったり、崖から落ちたり、機械の下敷きになったりします。あるいは、チェーンソーによる白蝋病は有名ですね。伐採時は倒す方向を基軸に入ってはいけない領域が決まっていたり、チェーンソーの連続使用時間が定められていたりすることを、林学の学生たちは学びます。

そんな事故防止はもちろんのこと、労働生産性の向上や林業従事者の確保においても作業の機械化は重要です。わたしが学生の頃にはまだまだごく一部でしか使用されておらず、国産の機械もあまりなかったのですが、「高性能林業機械」と呼ばれる重機がかなり普及してきているようです。こちらによると、全国に累計1万台以上が導入されているということで、わたしが学生の頃の3倍以上にもなっていました。

ドラマ本編でも、熊さんたちが作業する現場で一台活躍していたのを覚えているでしょうか。それを見たときは思わず声が出ました。テレビドラマの小道具として高性能林業機械が登場する日が来るとは。感動ものなんです。

それでは今回は、高性能林業機械をいくつか見ていきたいと思います。動画をいろいろ紹介しますが、林業の性質上、2倍速でご覧になることをお勧めいたします。

あの回で登場したのはハーベスタだったと思います。高性能林業機械の代表選手にして実に多機能な重機です。基本的にはバックホーを改造した形状で、ヘッド部分で立木(りゅうぼくと読みます)を掴んで、付属のチェーンソーで伐採。そのまま枝払い(幹をしごいて枝を落とす)と玉切り(一定の長さに切り分ける)もしてしまいます。

ハーベスタの動画はさすがに多いですね。静岡県が制作したこちらが分かりやすいです。

こちらも見やすい動画です。こうやって動画がアップされているのは本当にありがたい。

ハーベスタはその場で玉切りして集材できる場所があれば便利だと思いますが、伐るだけ伐って丸太を寄せ集めたあとで一気に作業したほうがよい場合もあります。そういうときにはプロセッサです。伐倒しないこと以外はハーベスタと同じです。こちらの動画はオペレータの操作がうまくてうっとりしますね。

集材においても機械は大活躍です。丸太のまま運ぶのは車では長すぎますので、ワイヤで釣るか引っ張るかする方法があります。ちょっとした量をずるずる引きずって運ぶのであればスイングヤーダでしょうか。これもバックホータイプで、ウインチで引っ張りながら、ヘッドをくいっと動かして置きたい場所に誘導していきます。最終的にヘッドで丸太を掴んで運ぶこともできます。

あるいは、こちらはすごいですね。かなり大掛かりな架線集材です。

ただ、上記の動画のコメント欄にあるのですが、この重機はちょっと特殊なタイプで、アームが主索、つまりワイヤをかける柱になっています。わたしもそのコメントと同じで、これはタワーヤーダじゃないのか、と思いました。タワーヤーダはまさに移動式の主索です。スイングヤーダに比べると規模感が大きいですし、横移動ができるのも特徴です。

架線集材の撮影にはドローンが最高ですね。ちなみに材を引きずって運ぶと地面を削ることになりますので、影響が大きくならないように留意する必要があります。下の動画ぐらい大規模な架線であれば引きずることはありません。映像の終盤でプロセッサも登場します。

車タイプの集材といえばスキッダですが、地味すぎて動画が見当たりません。シンプルに、木材を掴んで運ぶ重機です。そして林業機械のお値段がバレています。

いちおうこれもスキッダではないかと思います。

集材した材を移動させるにはフォワーダです。シンプルな機能です。オペレータの位置が格好いいです。

学生の頃はこちらもフォワーダなのかなと思っていたのですが、グラップルトラックというのだそうです。

本論の3回目で触れましたが、この国では政策で森林の路網密度を高めています。作業したい林地と林道との間に作業道を作りたいときには、グラップルバケットがあります。作業道を作る場合、そこにある木や石を取り除いて、斜めになっている地面を削ったり盛ったりして平らにします。それらをひとつの重機で可能にしています。

また、急斜面に重機を入れるのにこんなウインチも存在しているようです。

高性能林業機械の紹介は以上なのですが、個人的に好きな林業機械がありまして、枝打ち機と言います。なかなかキュートな奴だと思いませんか。

先ほどの通り、林業機械は基本的にたいへん高価ですので、個人で所有することはまずないと思います。会社や組合で購入かリースすることになりますが、やはり収益メリットは必要です。優良事例ではありますが、こんな生産性の向上が見込めるところでは導入できるのだと思います。

最後に、調べている途中で見つけた動画なのですが、最後に出てくるチップを運ぶトラックを斜めにする設備がすごくて二度見してしまいました。

ということで林業について書くのはここまでになると思います。次回はもういちど震災に話を戻す予定です。本論も終盤戦です。

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