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(にまいめ) 灰と桃。

 グレー。

 迷うことなく、君は言う。僕のきもちは複雑だ。
 〔そのひとを色にたとえると何色ですか〕
 ファッション雑誌の心理テストと真剣な顔で向き合って、〔今となりにいるひとを色にたとえると〕、グレー。だと、君は言う。
 〔赤〕でも〔青〕でも〔白〕でも〔黒〕でもなく、グレー。だと、君は言う。
 たしかに、と、僕は自分を見下ろして、自分の生きてきた人生を見下ろして、不本意ながら納得する。グレー。情熱の人というに臆病。クールというには細心。潔白でも邪悪でもない。平均点付近。
 君は答えのページをめくって、〔グレー〕という欄がないことに驚いている。
 そりゃないだろうと、僕は思っているけど、黙っている。
 それ、何がわかるの、と、僕は聞いてみる。
 〔どれくらい〕〔すきか〕、だって、と、君は答える。
 じゃあすきじゃないんじゃないの、と、僕は聞いてみる。
 フェアじゃないよ。
 君は怒った顔をする。罠にはまったみたいに怒る。
 そうならそうと、最初から選択肢にすればいいじゃない? 
〔そのひとを、色にたとえると、赤、青、黄、緑、ピンク、のうち、何色ですか〕みたいに。
 それだったら、何色なの、と、僕は聞いてみる。
 君は口の中で〔赤〕〔青〕〔黄〕〔緑〕〔ピンク〕、と唱えながら僕の顔を見ている。

ピンク?

 ピンク、は、何なの、と、僕は聞いてみる。
 ……だいすき。
 嘘ついたでしょ、と、僕は聞いてみる。
 うん、と、君は答える。
 ほんとうは。
 君は笑う。
 どんな選択肢があっても、グレー。
 それは、黒でなく白でない色だから。
 黒じゃなくて白でもないよ、っていう意味しか持たないんだよ。すごくない?これはすごいことじゃない?
 色彩の否定。ただ明度の強弱だけで語られる、たくさんの。濃淡だけであらわされるたくさんのいろ。たくさんのグレー。
 
 〔あなたは、鮮やかではないけれど、いろんな面を持っていて、あたしは、それの、どれもが、だいすきだ。〕

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