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page15上の空とチーズタルト

 it's story of the 梛木 心羽


        ・

      cafe時計屋

        ・

   この店内の入り口奥には
   無数の時計が壁全体に
   かけられているスペースが有る

   大小様々な形の時計達は
   一斉に羽音のような音を奏で
   まるで小さな小雨のように
   店内を静かに演出している。

  この空間の雰囲気が落ちつくと言って
  足を運んで下さるお客様2割と、
  お兄ちゃん目当てに通ってくれる
  綺麗な女性客8割といった感じで
  この時計屋は、いつも賑わっている。

      薄暗い店内の照明と
       幾つもの時計…
    
    この空間は時間と時間の狭間

    ここで一呼吸置いたお客様は

 今まで選んでいた未来へ戻る事も出来るし
  ふと、違う未来を選択する事も出来る。

  そんな風に子供の頃から感じていた。

  時間は皆んなに平等に降り注ぐけど
 その時間の扱い方は誰一人同じではない。

      昨日の電話は
   変な表現かもしれないけど
 あれは過去から私に来たメッセージ
    みたいだなと思った。

   “あの詩”に目を止めてくれて
   “月が綺麗”というメッセージを
   くれた。
   私にとって二つのワードは
   あの人を表すカケラだったから。

   電話ごしの「アイシテル」の響きに
   ぎゅっと目を閉じた。
  その響きは月みたいに丸くて甘かった。

   
    遠い記憶の彼が昔言った
 「そんな事も知らないの?」って言葉が
    微かに聞こえて消えてく

    忘れなきゃいけない
    手離さなきゃいけない

   今まで何度もそう思って来たけど
     メビウスの輪のように
   結局同じ所に戻って終わらなかった。
   
    
  
 そんな私が蓮君に会おうと思ったのは
   時計の針をもう一度進めようと
    無意識に思ったからかもしれない。

 

     亜門「 心羽 」

 でも好きとかそういうんじゃないと思う!

     亜門「 心羽 注文 」

 だって、会った事もない人を好きになる
 なんて絶対無い

     
    亜門「 こ こ は ‼︎」

 顔も見た事もなくて、
   知ってるのはカレの文章と声だけ

     亜門「 マジで頼むよ 」

         ・
     
     そんなのありえない‼︎
    亜門「ありえないだろ!」

         ・

   「わっ!お兄ちゃんとうしたの?」
   
   「どうしたのじゃないだろ!
    早くお客様に注文取って来い
    全く上の空にも限度が有る‼︎
   仕事に集中出来ないなら奥で休め」

  調理場から駆け寄ってきたお兄ちゃんは
  私の注文表を奪うように手から取って
  早口でそう言った。


     「ご…ごめんなさい」

   お昼時のお客様が落ち着いた頃
     調理場に謝りに行く

         はぁ

   「何が有ったかは聞かないけど
    忙しい時間帯にぼんやりするのは
    辞めてくれ」

   「ちょっと色々有って
    頭から思考が離れなくて…
    ごめんなさい。
    夕方からまた頑張ります」

 「人は生きてるだけで頑張ってるんだから
   “頑張る”っていうのは違うだろ」

  
       頑張るって事は
    自分を犠牲にするっていう
       イメージが強い。
  
   自分を犠牲にしてる様子を見て
       嬉しくなる人は
       あまり居ない。

          ・

         だから

 

    亜門「自分が幸せだと…」
    心羽「自然と人が幸せになる」

   お兄ちゃんは、いつもそう言う。
   まずは自分が幸せで在りなさいと

        

         カチャッ

   「ほら、ミルクティー淹れたから」

  暖かいミルクティーから優しい湯気が
  立ち上る。

  今日はチーズタルトも付けてくれた。

   “時間”を扱っている店だからこそ
     お茶の時間は大切だ

   「それから心羽、
     店では店長と呼ぶ事」

     「 はい 」

    
   時計の雨音が和らいで聞こえた。

        〈15〉

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