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存在と非存在のあいだ
ときを経るごとに、存在ごと曖昧になりたいな、という引力、が。生存中のすべての人類の中ではこれがかなり曖昧なほうであるという自負もあるけど、それでも現状は、たぶん、どちらかというと存在をしている。今までの記憶(のうちの、夢ではないほう)が教えてくれる。「ある」と「ない」のちょうど間に固定されるのが、もっとも穏やかな呈色を萌すことになる、不可能゚ どっちかを↵
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存在と非存在のどっちかを選べといったら非存在だけど、それはいまぼくが存在寄りだからであって、実際に非存在寄りになれば、今度は存在のほうに惹かれ始めるのかもしれない_こと/ちょうど中間がぼくたちに不可能だから仕方のないことでもある。存在と非存在のあいだ⌘信号の贈呈◇さらに、ずっと生活が飽和していて、かつ世界が不愉快であるという状態が一生続く:それで生きていたいわけがないでしょう、とか
{睡眠ってすばらしいと思う}
あるべき状態は 現実的な選択肢は
みんな気がついたらもう死んでいることを選ぶ
みんな「良く死ぬこと」をまだ知らないんじゃない?
べつに死って非現実的でもなんでもないからね。
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xeはその後も何度かことばを替えて同じ意味のことを言ったが、彼らの理解が󠄁及󠄁ばないらしいことをようやく受け入れて、最初からなにもなかったかのような顔をして、ついにkata方向へ出ていってしまった。わざわざ空間に挟まりつづけることをしてまで、それを進める必要もないと判断したらし|
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ああ、だから、天井に、短くなった紫色のチョークがいくつかあったから、ひとつ拾って、黒板の端、まるい磁石で留められたプリントの裏のあたりに、なにか短めの文章を書き留めておこうと思った。が、紙をめくると、既にそこには文字が書かれていた。
「微笑んでいよう」
黄色のやや丸みを帯びた文字でそう書かれていた。
つまり、どうやら、書こうとしたことばが既に書かれていたようだったので、ぼくはチョークをもとの位置にもどし、階段を崩して屋上へ向かった。
空が見える。あのことばを書くために吸った息が居場所を悩んで、行ったり来たりを繰り返していた=空が見える・色が?。そして、ああ、とうとうその場に座り込んでしまった!どうしたものか どうしたものか 𝄆どうしたものか𝄇
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早朝、人目を避けるようにしてどこか知らない道を歩いているうちに、わたしはずいぶんと廃れた民家の前に漂着していた。明らかに人の気配がないし、見るからにとても住めたものではないので、ガラスが既に嵌っていなかった窓枠から這い入って、ここでひと休みすることに決めた。今日はいわゆる平日だが、いつも通り、人生を持続可能にするような行為はまったく必要ないと結論付けた。手で目を覆ってはいるが、ゆびの隙間を突いて陽が差してきている。
最後に人がいなくなってから相当な時間を経ているのだろう。元の色もわからないほど褪せ切ったカーペット、それが敷かれた部屋の中まで土と植物が領域を拡げてきていて、階段はところどころくずれて散らばっている。壁紙もとうに剥がれ落ちたらしい。視界は全体的にグレーで統一されていて、あの植物と窓の方さえ向かなければ、眼が退化してきて、やがて色などわすれてしまえる、ような気もする。
殆どものと言えるようなものも残っていない廃屋の中だが、なぜだか、少し古いコピー用紙の束と黒のボールペンを拾うことになってしまったので、誰に宛てたものでもない、なめらかで曖昧な線の集合を、用紙の一枚一枚に、毎回配置を変えて記していった。
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はっとじぶんの存在に気がついたときには、もう、ふたたび日が沈んで、足もとはくるぶしのあたりまでが夜に浸かっていた。どこからか冷たい匂いがする。濡れた靴下をぬいで外に出てみると、依然として、かたちを描き終えたあとのあのコピー用紙の束を小脇に抱えていることに気がついたが、それがいやに重くて、いるべきでない場所へ帰るまでの体力と、それを取り巻く情景描写からしてみれば、どこからどう見ても不相応な物体であると。それだけ、そういった違和感が首にふれているのだけがずっと気がかりだった。
わたしがそれを一枚一枚折りたたんで、視界に入ったあらゆるポストへ投函し続けていったのもそのためだった。本来なら、道路上だろうがなんだろうが、すぐさまその場に倒れ込んでしまいたいというような容態を維持していたが、そのときは、同時に、あの紙を手放すたびに得られるよろこびに取り憑かれていた。紙が尽きるころには、足は擦れ、血と泥で赤黒く染まっていたので、日の出前のこの暗さでは、それが裸足であることなどには、当然だれも気づかないのだった。
家に着いて、意味もなく軋む戸を力任せに開けると、正面の玄関に、じぶん宛の茶封筒が置かれているのが見えた。なにかを無理やり押し込んだらしく、中央の部分が醜く膨れあがって皺ができている。最初は気づかないふりをして、またすぐに眠ってしまおうとしたが、直後、背後の思索に気を逸らされて、それを手に取ってみることにした。息をはいた。
どのようにしたのか、封筒は満腹の風船といったふうに張り詰めていて、それでいてからっぽだった。一体これだけ何を詰め込んだのだろうと思い馳せ、中身にまでは及ばないようにと、そっと、上部に切込を入れた 途端に萎れてしまいそれきりだった。後には例の色の紙切れだけが残った。
それだけが残った。