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【web連載#4-3】NG騎士ラムネ&40 FX

■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠


■第4話「熱血4騎士大勝利! 〇解(わかい)の環で大団円!!」(その3)[終]


ラムネ外伝サブダイ_1609デザイン_04


「もっとだ! もっど! もっどエネルギーを寄越ぜぇぇぇぇぇ!!」


 ミナホロボスの、いやその体を乗っ取っているバレットブルズの様子がおかしいのである。
 同時にミナホロボスの体の各所がショートしだす。


「こ、これは!? いかん、暴走だ! ミナホロボスが暴走しておるのだ!」


「え? でも合体したら暴走しないんじゃなかったの?」


 ミナホロボス形態ならその心配もないはずではとミルクが首を傾げる。


「ラムネス君達に恐れをなしたバレットブルズが己の限界を超えてエネルギーを集めたのだろう! どんな機械も限界を無視して使えば壊れてしまうのだよ!」


「なんてこった! オレ様達が強すぎたせいでアイツがヤケになっちまったって事か!」


「このままではミナホロボスの体にワクワク時空全てのエネルギーが集まってしまう! それは小さな水風船にプールの水を無理やり注ぎ込むようなもの……しかも事はミナホロボスだけでは済まない。私の仮説が正しければ……ドキドキスペース全てがビッグバンに匹敵する大爆発に巻き込まれてしまうぞ!!」


「「「「「「「「「「えぇーっ!!」」」」」」」」」」


 予想を遥かに超える大災害を予言されたミルク達は大混乱に陥ってしまう。


「そんなー! 私もっと沢山色んなご馳走を食べてみたかったのにー!」


「あらあら~、こまりましたわね~」


「そんなー! ハラハラワールドの女王になって贅沢三昧したかったー!!」


 だが、誰もが絶望的な状況におののくなか、一人だけ諦めない者が居た。


「なら! やるしかないよな!」


「ラムネス!?」


 ラムネスの駆るグランスカッシャーが、今なおエネルギーを集め続けるミナホロボスに向かって駆け出していく。


「うおおおおおおおっ!!」


 全速力で駆けながらミナホロボスに大剣を突き出すグランスカッシャーだったが、膨大なエネルギーが一種のバリヤーとなって届かない。


「無理だラムネス君! 今のミナホロボスはワクワク時空全てのエネルギーを宿しているも同然! いかにそのロボットが強力であっても、世界全てのエネルギーには勝てん!」


 モンエナ教授がラムネスの無謀を諌めようと叫ぶが、グランスカッシャーが退く様子は微塵も見えなかった。


「だーいじょうぶだって!」


「何?」


「だって俺は、勇者ラムネスなんだからさ! この世界は、俺が守ってみせる!」


 それは完全な強がりであり、なんの根拠もない空元気であった。
 だが、そうであるにも関わらず、誰もがそうとは思わなかった。
 この少年なら、勇者ラムネスなら本当にそうしてくれるんじゃないかと、思ってしまったのだ。


「ラムネス! ボックも応援するミャー! 頑張るミャーッ!!」


「サンキュータマQ!」


 ラムネスの勇気に触発されたタマQが燃え上がりラムネスに声援を送る。


「ったく、しょーがねぇなぁ」


 次いで動いたのはダ・サイダーのアウトサイダロンだった。


「おおりゃあぁぁぁぁぁ!!」


アウトサイダロンがミナホロボスに全力で連結大剣を叩きつける。


「ダーリンいくらなんでも無茶じゃん!」


 相棒のヘビメタコがダ・サイダーの無謀を諌めるが、そんな彼女にダ・サイダーはニヤリと笑みを見せる。


「あの馬鹿だけを活躍させるわけにはいかねぇからな。それに……だ。メタコ、オレ様を誰だと思ってやがる。オレ様は最強勇者ダ・サイダー様だぜ! この程度のピンチなんざオレ様の敵じゃねーよ!」


「ダ、ダーリン最高過ぎじゃん!! ウチ、どこまでもついていくじゃん!」


 ダ・サイダーの凛々しさにハートを撃ち抜かれたヘビメタコがまるでタコのように顔を真っ赤にしてフニャフニャになる。


「ならば! 我らも負けてはいられん!」


「うむ! ラムネス殿とダ・サイダー殿を援護せねば!」


 自分達も負けていられないと、ダイシンゲーンとゲキケンシーンが太刀と双大鎌を振るってミナホロボスに叩きつける。


「「おおおおおっ!!」」


4体の新世騎士達がミナホロボスに全力で武器を押し込む。


「みんなっ!」


 共に戦ってくれる仲間達の姿に胸が熱くなるラムネスだったが、その光景に既視感を覚える。


「あれ? この光景って確か夢で……?」


「ラムネス! ミナホロボス内部のエネルギーがトンデモナイ事になってるミャ! このままじゃドキドキスペースが被害を受けるどころか、この世界全ての時間と空間が滅茶苦茶になるミャ!!」


 そしてタマQの叫びを聞いた瞬間、ラムネスは全てを理解した。


「そうか、あれは夢じゃなかったんだ! 過去の俺が、壊れそうになったドキドキスペースの未来を見たんだ!」


「ラムネス? 何のことだミャ?」


 ラムネスの呟きが聞こえたタマQが一体何の事なのかと首を傾げる。


「いや、何でもないさっ!」


(そうだ! どのみちやる事は変わらない!)


「オレ達は、ミナホロボスを倒すんだぁーっ!」


「二人とも! 私達もラムネス達に力を!」


「ええ!」


「分かってる!」


 ミルク達聖なる三姉妹もまた、七色の石板を介してラムネス達にエネルギーを送り続ける。
だがそれでもミナホロボスの放出するエネルギーは勢いを増すばかりで、決定打にはならない。


「負けるかぁー!」


「こなくそぉー!」


「ふんばれぇー!」


「まだまだぁー!」


 必死で堪えるラムネス達だったが、遂にその均衡が崩れる時が来た。
 膨大なエネルギーを前に、遂に耐えきれなくなったのだ。


「ぐわぁぁぁ!」


 初めにダイシンゲーンが、次いでゲキケンシーンが吹き飛ばされる。


「こ、この……」


「うぐぐっ……」


 そしてグランスカッシャーとアウトサイダロンの足が浮かび始める。


「も、もう駄目なのか……!?」


 ラムネス達の心に絶望がよぎりかけたその時だった。


「頑張ってー! ラムネス君! ダ・サイダー君! シンゲーンさん! ケンシーンさん!」


 戦場に響き渡ったのは、ペプシブの声援だった!


「負けないで! 皆ぁー!」


 その声を聞いた瞬間、ラムネス達の心に熱が戻った。
 弱気は追い払われ、熱い思いがみなぎってくる。


「そうだよ……な! オレ達を応援してくれてる人がいるんだ!」


「情けねぇ姿は見せられねぇってもんだ!」


「ペプシブ殿が諦めていないというに!」


「我らが諦める訳にはいかん!」


「「「「オレ達は! まだ終わってない!!」」」」


 ラムネスのデジタル熱血メーターがレッドゾーンを越える。
だがメーターの針はそこで止まらず、一回転、二回転と回転を繰り返し、更に回転が加速してゆく。
 そしてダ・サイダーの血圧メーターもまた、無限大を示したマークが更なる回転を始めていた。
 本来ならばありえない異常なメーターの挙動はさらに続いてゆく。


「「うおおおおおおおおっ!!」」


2人の熱血が限界を超えた更なる先を示したその時だった。
突如、グランスカッシャーとアウトサイダロンに装着された宝玉が輝きだしたのだ。


「な、なんだ!?」


そして両機のコクピット内に設置されたモニターに鳥を模した紋章と一つの文章が浮かび上がる。


「「……コール、キャスリング……モード?」」


 それが発動の鍵だった。
 ラムネスとダ・サイダーの言葉が2体の超巨大ロボットに仕組まれた最後のシステムを発動させる。
 両機の輝く宝玉『キャスリングオーブ』が、ホロボロスから放出されるエネルギーを吸収し始めたのだ。


「これは!? ホロボロスのエネルギーを吸収してるのか!?」


「コイツ、こんな機能があったのかよ!?」


 予想もしていなかった未知の機能に、ラムネスとダ・サイダーが驚きの声を上げる。


「う、お、おお……私のエネルギーが……」


 そして皮肉にも、エネルギーを吸収された事でミナホロボスの負荷が減り、正常な思考能力を取り戻すバレットブルズ。
 しかしそれは彼にとっての不幸だった。
 何故なら、勇者達の最大の攻撃が自分に放たれる瞬間を目の当たりにするという事なのだから。


「すごい! どんどんエネルギーが溢れてくる!」


「我等にもグランスカッシャーとアウトサイダロンを介してエネルギーが流れ込んでくる!」


「凄まじいエネルギーだ、これがワクワク時空の力か!?」


「へへっ、ミナホロボスのヤローのエネルギーをオレ様達のものに出来るとは、最高の気分だな!」


 更にモニターにエネルギーMAXを示す表示が現れると、グランスカッシャー達のコクピット上部から、見慣れた形の逆T字レバーが降りてきたのである。


「これは!?」


「まさか変形できるのか!?」


「ダイシンゲーンにも出てきたぞ!?」


「ゲキケンシーンにもだ!」


 自分達のマシンにまでレバーが現れた事にシンゲーンとケンシーンが驚きの声をあげる。


「よーし! 行くぞ皆!」


「「「おうっ!!」」」


「熱血! チェインジ! サムライッ! オーンッ!!」


「やーってやるぜ! ヤリッ! パンサァー!!」


「我らも続くぞ!」


「うむ! 変形だ!」


4体のロボがレバーを押し込むと、全身から青、赤、黒、深紅のオーラが溢れだす。


「これは!? 変形しない!?」


「だがこいつは……!?」


 レバーを押したにも拘わらず自身の操る超巨大ロボットが変形しない事に困惑したラムネス達だったが、あふれ出たオーラが自分達の良く知る形へと変化していく事に気付く。


「オーラが、巨大なライオンになった!?」


「こいつは、オーラで出来たヤリパンサーって事か!?」


「おお! この形はまさしく我が突撃形態!」


「確かに! この形にはなじみがある!」


 そして、戦場に巨大な獅子、豹、ドリルタンク、スパイクカーのオーラの塊が出現した。


「おーし!! これならいけるぞ!! ダ・サイダー!」


「おうよ!」


「我らも続くぞケンシーン!」


「分かっているシンゲーン!!」


「「ロイヤル!!/赤と黒の!!」」


「「「「スカーッシュ!/エクスタシー攻撃(アタック)」」」」


 2つの獣と2つのメカのオーラが混ざり合い、一つの塊となってミナホロボスに向かってゆく。


「う、うおおおっ!? ヒュドラビーム! ドラゴンフレアー! ウイングレイザーッッ!!」


 迫りくる巨大なオーラの塊に脅威を覚えたミナホロボスが迎撃を行うも、その全ての攻撃が小石のように弾かれてゆく。


「も、もっとだ! もっとエネルギーを!!」


 ならばと更なるエネルギーをワクワク時空から抽出しようとするが、キャスリングオーブによってエネルギーを吸収されてしまい、逆にグランスカッシャー達にエネルギーを与えてしまう。


「そ、そんな馬鹿な!? 最強の力を得た私は、ゴブーリキをも超えるドキドキスペースの支配者になる筈だったのに!!」


「寝言は寝て言いやがれぇー!」


「貴様がどれほどの力を得ようとも! 我らが阻止してくれよう!」


「身の程を知らぬ野望の報いを受けよ!」


 4色に輝く閃光が、ミナホロボスの腹を突き破りそのまま上空へと上がると、一気にミナホロボスの脳天めがけて急降下を行った。


「これで! 終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「い、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 もはや反撃もままならぬミナホロボスが、天より落ちてきた閃光に貫かれる。
 そして次の瞬間、大爆発が起きた。
 だがその爆発は懸念されていたドキドキスペースを破滅させるような大規模なものではなく、ごく小さな範囲での爆発だった。
 そして爆炎が収まってくると、黒煙の中から4体の超巨大ロボットが姿を現す。


「ラムネス!」


 そう、グランスカッシャー達勇者の姿である。


「勝ったぜミルク! ココア!」


「やったわね!」


「お疲れ様ですわ~」


 ラムネス達の勝利を無邪気に喜ぶミルクとココア。


「まっ、俺様なら楽勝だぜ。なっ、レスカ?」


「ダ・サイダー……」


 そしてダ・サイダーが無事に度ってきた事を、言葉少なに安堵するレスカ。


「シンゲーンさん! ケンシーンさん!」


「ホロボロスは倒しましたぞペプシブ殿」


「うむ、今度こそ綺麗に終わったな」


 自分達を迎えてくれたペプシブに笑みを浮かべるシンゲーンとケンシーン。
 そこにモンエナ教授が歩み寄り、シンゲーン達に語りかけた。


「私の罪を打ち砕いてくれてありがとう。本当に、心から感謝する」


「……お気に召さるな」


「さよう、我らも自分の過去の行いがある故、貴殿の気持ちは痛い程分かる」


 お互いに洗脳された者同士、通じるものがあるのだろう。
 シンゲーンとケンシーンはモンエナ教授を慰めるでもなく、言葉少なにこれ以上の謝罪は不要と告げるのだった。


「あ、あれ!?」


 と、そんな時だった。突然ラムネスが奇妙な声を上げ始めたのだ。
 いやラムネスだけではない。


「お、おわっ!? 何だこりゃ!? コクピットが!?」


 アウトサイダロンの中のダ・サイダーも素っ頓狂な声をあげる。


「お、おおおっ!? これは!? ダイシンゲーンの体が!?」


「ゲキケンシーンが!? 崩れていく!?」


 そう、突然グランスカッシャー達が砂細工の様に崩れ始めたのだ。


「うわわわわっ!?」


 そうこうしているうちに、あっという間にグランスカッシャー、アウトサイダロン、ダイシンゲーン、そしてゲキケンシーンの4体は砂の山になってしまった。


「プハーッ!」


 そして砂の山の中から飛び出してくるキングスカッシャー達。


「ビ、ビックリしたー!」


 突然の出来事に困惑するラムネス達。


「うーむ、……おそらくは安全装置が作動したのだろう」


「「「「「「「「「「安全装置!?」」」」」」」」」」


 モンエナ教授の呟きに、全員が耳を傾ける。


「うむ、この新世騎士はホロボロスを止める為のカウンターシステムだった事を考えると、役目を終えた後は自壊するようにプログラムされていたのではないかな?」


「ええー!? 何で!? アレがあればどんな敵が来ても無敵だったのに」


「まさしくそれが原因なのだろう」


「え?」


 自分の気持ちが原因と言われ、ミルクはびっくりする。


「あのマシンは悪しき者に奪われたホロボロスを止める為に作られたカウンターシステムだ。だが無限のエネルギーを持つホロボロスを倒せるほどの力が平和になった世界に残ればどんなトラブルの原因になるか……」


「あっ」


 そんなものがあると知られれば、今度はグランスカッシャー達が新たなホロボロスとして利用されるだろうと、モンエナ教授はそう言っているのだ。


「そりゃまた随分と用意周到ねぇ」


「ですが~、あの4体の新世騎士を格納する場所もありませんでしたし~、かえってよかったかもですわよ~」


「あはは、確かにあの4体をしまおうとしたらアララ城以上の大きさの倉庫が必要だもんね!」


「言えてる」


「「「「「「「「「「はははははっ」」」」」」」」」」


 そんな厄介なものは不要だと、ラムネス達の笑い声が空に響くのだった。


 ◆


 それから数日後。ハラハラワールドに戻ってきたラムネス達は、再び旅に出ると言うペプシブ達を見送る為、アララ城の城門前に集まっていた。


「では皆さん、私達はここでお別れです」


 小型宇宙船を背に、ペプシブがラムネス達に感謝の言葉を贈る。


「ペプシブちゃん達はまたワクワク時空の研究を再開するんだって?」


「はい。私達はワクワク時空の研究を再開します!」


 あんな事があったというのに、ペプシブはワクワク時空の研究再会に前向きだった。
 寧ろそうでなかったのはモンエナ教授の方だ。
彼は洗脳されて悪事に手を染めていた罪悪感から、研究を打ち切ろうとしていたのである。
だがそれをペプシブが説得した。


「教授の求めていたワクワク時空の研究は皆の為に役立ちます! 悪いのは研究を悪用しとうとした人達であって、ワクワク時空の研究に罪はありません!」


 罪を憎んで人を憎まずならぬ、罪を憎んで研究を憎まずの精神でペプシブはモンエナ教授を説得し、最後にはモンエナ教授の方が折れる形で研究再会を受け入れたのだった。


「やれやれ、いつの間にやらペプシブ君の方がゼミのリーダーになってしまったな。子は成長すると言う事か」


 洗脳が解けた事ですっかり穏やかな顔になったモンエナ教授がウンウンと頷きながらやる気に満ちたペプシブを見つめる。
 その目元からはあの凶悪な目つきは消え……消えてはいなかった。
どうやらモンエナ教授の目つきの悪さは、洗脳のせいではなく、単純に徹夜が原因のようだ。


「でももっとゆっくりして行けばよかったのに」


ペプシブ達が城を出る事にミルクは寂しそうだ。
城内では貴重な家族や家臣以外の女性と友達になれたのだから、尚更なのだろう。


「まったくじゃ。まだ怪我も完治しておらんのではないかの?」


 ミルクだけではなく、アララ王もまた旧友が去る事を残念がっていた。


「ごめんねミルクちゃん。でも私達は研究者だから。やっぱりじっとしていられないのよ」


「私としてはもう少し体を休める事が出来ると良かったのだがね」
 やる気に満ちたペプシブに対し、モンエナ教授は少しばかり肩を落としていた。
 やる気の問題というよりは、やはり罪悪感が原因だろう。


「もー! そんな事言ってたら、お尻に根が張って立ち上がれなくなりますよ!」


 けれどそんな内心の葛藤を理解していたペプシブが文字通り尻を叩くかのような檄を飛ばす。


「まっ、それなら心配なさそうだね。困ったことがあったらいつでも連絡してきな」


「ありがとうございますレスカさん……じゃなかった。カフェオ……」


 アララ王の前なので慌てて名前を呼び直すペプシブだったが、それをレスカが止める。


「レスカで良いよ。トモダチ……でしょ?」


「……はい!」


 モグッタワーでの経験から、二人の間には穏やかな友情が芽生えていたようである。


「モンエナ教授もお元気で~。教授のお陰で、新しいメカの構想や改造案が捗りましたわ~」


「うむ、ココア姫と意見を交わすのは私にとっても非常に有意義だった。進学を希望するならいつでも連絡してくれたまえ。君ほどの逸材ならば我がメリケンブリッジ大学も諸手を上げて迎え入れるだろう」


 ココアはモンエナ教授の療養中に知識の交換をしていたらしく、お互いにインスピレーションが湧いている様子だ。


「それにしても残念。本当なら旅の間にもっとペプシブちゃんと仲良くなる予定だったのになぁ……」


 ラムネスは残念そうに溜息を吐く。
 なにせ本来ならただの調査だった筈が、気が付けばドキドキスペース全体を揺るがす大事件となっていたのだ。
 とてもではないがペプシブと仲良くなる余裕などなかったのである。


「ラムネス君!」


 と、そんなラムネスの下にペプシブがやってくる。


「え? 何ペプシブちゃん?」


「今回の旅はラムネス君達に沢山助けてもらったよね。本当にありがとう」


「い、いやいや~それほどでも……あるかな?」


 ペプシブからド直球な感謝の言葉を受け、照れた笑みを浮かべるラムネス。


「だからね、ラムネス君には特別な感謝の印を送りたいなって……」


「え!?」


 頬を染めたペプシブの姿にラムネスがドキッとなる。


(と、特別な感謝の印!? そ、それってもしかして!? もしかしてまさか!? い、いやいや、ここには皆も居るんですよ!? ちょっと大胆すぎない!?)


 などと言いつつも、ラムネスは期待で胸が高まり続ける。


「ラムネス君、手を出して」


「は、はい」


 そしてラムネスが両手を差しだすと……


「はいっ!」


 ドザザザザッ!! っと凄い音と共に大量の緑色の物体がラムネスの手の中に落ちてきた。


「……へ?」


「お礼の印のミントチョコだよ! なんと大奮発の一年分!!」


「え?」


 確かに見ればラムネスの両手の上には大量のミントチョコが積み上げられていた。


「たーっくさん食べてね!」


「は、はい……」


 エッチなお礼を期待していたラムネスは、まさかのミントチョコに唖然となる。


(なーんだ、お礼はお菓子か……でも待てよ? お礼を貰ったのはオレだけ……という事は、ペプシブちゃんはオレの事を!?)


「でへへ……」


 チョコを貰えたのが自分だけと知り、ラムネスがだらしのない笑い声をあげる。


「ラ・ム・ネ・スゥ~」


 だが、そんなラムネスの背後から、凄まじい殺気が立ち上る。


「ギクリ!?」


「なーにデレデレしてるのよ!」


 殺気の主はミルクだった。彼女は般若のような表情を浮かべると、ラムネスに飛びかかる。


「ご、誤解だよミルク!」


「嘘おっしゃい! いやらしい事を考えてたんでしょー!! まったくアンタって人はいつもいつも!!」


「ひえーっ! お助けーっ!!」


 そうして、ミルクが追いラムネスが逃げるといういつもの光景が展開される。
 そんな光景の横で……


「はい、ダ・サイダー君にもお礼のミントチョコ!」


「お、おう……サンキュ」


「皆さんの分もありますよー!」


 と、自分だけでなく全員がチョコを貰っている光景を見ずに済んだのは、ある意味幸せだったのかもしれない。


「遅くなって申し訳ない」


 そんな騒動の中、シンゲーンとケンシーンの2体が遅れて見送りにやって来た。


「ペプシブ殿、困ったことがあったら我らを呼んで下され」


「うむ、いつでも駆けつけよう」


 しかし二人の挨拶はびっくりするほど淡泊で、それを聞いていたレスカが肩すかしを受ける程だった。


「ありがとうございますシンゲーンさん、ケンシーンさん!」


 目の前に差し出されたシンゲーンとケンシーンの巨大な指を、今度こそ怖がることなくペプシブは受け取り、力強く握手を交わす。
 けれど、2体と一人の笑みはとても穏やかで、彼等と彼女の間ではそれで十分すぎる程の別れだったのだろう。


「あはは、これ以上話しているといつまでも旅立てそうにないですね。そろそろ行くことにします」


 名残惜しそうにしながらも、ペプシブとモンエナ教授は小型宇宙船に乗りこんでゆく。


「ペプシブ! モンエナの爺さん!」


 すると、これまで沈黙を保っていたダ・サイダーが大きな声を張り上げた。


「今日の夕飯は何にする?」


「「は?」」


 ペプシブ達は、ダ・サイダーが突然何を言い出したのかと首を傾げる。


「外食とかどうだ?」


「え……ええと、何でですか?」


「外食が良いな……現金ディナー(元気でなー)!!」


「「「「だぁー!」」」」


 この期に及んでくだらないダジャレを言うダ・サイダーに脱力するラムネス達。


「現金ディナー……ふふ、あはははははっ!!」


 しかし以外にもダ・サイダーのダジャレを聞いたペプシブが大笑いを始めた。


「おおっ!? 笑った!」


「「「「うそぉーっ!?」」」」」


 ダジャレがウケた事でダ・サイダーは上機嫌に、ラムネス達はびっくりだ。


「皆さん! 本当にありがとうございましたー! お元気でー!」


 小型宇宙船が浮上を開始するなか、ペプシブはラムネス達に最後の挨拶を送る。


「元気でねー!」


「おたっしゃで~」


「またねー!」


 そうして、ペプシブ達の乗った小型宇宙船の姿が見えなくなるまでラムネス達は手を振り続けた。
 


 ◆


「へっへっへー」


 ペプシブ達との別れが終わったラムネスは、一人ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
そしてその手には茶色い封筒が握りしめられている。
 そう、モンエナ教授から受け取ったバイト代だ。
 もともとラムネスはバイトの為にドキドキスペースまでやって来たのである。


「さーて、こっちの現金はいくら入ってるカネー、なんちって。モンエナ教授は迷惑をかけたお詫びにってバイト代に色を付けてくれたって話だし!」


 誰にも、特にミルクに見つからないように、人気のない場所に隠れるラムネス。


「ふんふふーん、な・に・を・買おうかなー♪」


 そして封筒の中から紙幣を取り出すと……


「……え?」


 ラムネスの目が点になった。


「なにこれ?」


 ラムネスが困惑するのも仕方がなかった。
 何しろ中に入っていたのはラムネスも良く知るマジマジワールドの紙幣ではなく、見た事もないお金だったからだ。


「って、これハラハラワールドのお金じゃないかー!」


 そう、彼の雇い主であったモンエナ教授はドキドキワールドの住人である。
ならば当然彼がマジマジワールドのお金を持っている筈などなく、支払いはハラハラワールドの紙幣になるのが必然であった。


「トホホ……これじゃあ向こうに戻っても何も買えないよぉー!」


 受け取った給料がマジマジワールドで使えないと嘆くラムネスは、ショックのあまり背後から近づく影に気づかなかった。


「はぁー、これじゃ骨折り損のくたびれ儲けだ……」


「よーっし、それじゃあラムネスのおごりで美味しい物を食べに行きましょ!」


 そんなラムネスの背後から現れたのはミルクだった。


「え?」


 困惑するラムネスの腕を掴んで強引に引っ張ってどこかへ連れて行こうとするミルク。


「マジマジワールドじゃ使えないんでしょ? だったらこっちでパーッと使わないとね!」


「い、いやオレのお金……」


 たとえマジマジワールドで使えないとしても、自分の給料を使われてはたまらないとラムネスが抵抗しようとする。


「あたしも戦いでは活躍したんだし、一緒に美味しい物を食べる権利があるとは思わない?」


 にっこりと、グランスカッシャー達のエネルギーが回復できたのは自分の手柄だぞと告げるミルク。


「そ、それは……」


「そ・れ・に・ラムネスは可愛い女の子に釣られて、あたしを出し抜こうなんて思っていなかったわよねぇ~」


 後半になって急に声のトーンが低くなるミルクに震えるラムネス。


「は、はひ……」


「じゃあさっそくこの本に書かれていた料理を網羅しに行くわよー!」


「そ、その本は!?」


ミルクの手に握られていたのは、ベンドラーマシンを回した時に出てきた本、ドキドキスペース料理大全だった。


「手始めにこの料理を出すお店に行くわよー!」


「うひーっ! それどう見ても高級料理なんですけどー!!」


「これが本当の現金ディナーなんちゃって」


再び平和を取り戻したアララ王国の空に、勇者の幸せな悲鳴がこだましていた。


「全然幸せじゃなーい!」




――それから少しだけ、先の未来――

「教授! 見えてきましたよ! 目的地です!」


 丘を登ったペプシブは彼方に見える景色を指さしながら、あとをついてくるモンエナ教授に声をかけた。


「ひぃ、はぁ……ペプシブ君、急ぎ過ぎだよ」


 ここのところ助手のペプシブが妙にやる気に満ちている為、体力の衰えを実感しているモンエナ教授はついて行くのに必死だった。


「だって未知の古代施設が発見されたんですよ! それもワクワク時空に関わっている可能性が高い生きた施設が!  興奮しないわけがないじゃないですか!」


「はぁー……」


 モンエナ教授がようやく追いついたのを確認すると、ペプシブは再び駆けだす。


「さぁあと少し! 急ぎましょう教授!」


「ひぃー! もう少し休憩しようよペプシブくーん!」


「だーめ! もう、教授ったら、悪い人に操られていた時の方が真面目に働いていたんじゃないですかー?」


「それはないよ君!」


 ペプシブはモンエナ教授を置いてけぼりにしない程度に速度を調節しながら目的地へと走っていく。
 後ろからは息を切らせながら必死で付いてくるモンエナ教授の姿。
 そこでふとペプシブは目的地に動くものを見つける。


「あれ? 誰か……居る?」


 目的地には二つの人影があり、その人影はペプシブ達に向けて手を振っている事から、こちらを認識しているようだ。


「現地の人達かな?」


 ペプシブは人影の事を現地の人間だと思い、挨拶の為に駆け寄っていく。
 だが、二つの人影の姿が判別する程に近づくと、急にその歩みを止めた。


「え……?」


 それはありえない光景を見た驚き。
 しかしそれは幻ではない。人影は歩みを止めたペプシブへと近づいてくる。
 その姿がよりはっきりと確認できるにつれ、ペプシブは自分が見ているものが幻でも見間違いでもないと実感する。
 けれど、それでも間違いだった時が怖くて確認する声が出せない。
 だから、向こうから声が届いた。


「「ペプシブーッ!」」


 懐かしい二つの声。
 聞き間違えるわけがない声。
 大切で、失ってしまった人達の声。


「……パパ、……マ……マ」


 ペプシブの口が強く結ばれる。
 けれど涙を堪える事は出来なかった。


「っっ!!」


 気が付けば駆けだしていた。
 まっすぐに、まっすぐに。大切な人達の下へと。


「パパッ! ママッ!!」


「「ペプシブッ!!」」


 三つの影が一つになる瞬間を、老人は一人離れた場所から見つめていた。
 優しい眼差しで、家族との再会を心から喜ぶ少女の笑顔を、ずっと、ずっと、見つめていたのだった。




―― 何時か、何処かの刻なき世界 ――

 そこは、音もなく、光もなく、肉体の実感すらあやふやな世界だった。


 そんな空間を漂うのは、ボロボロになった一羽の鳥。


 超科学の力で作られた合金製の肉体は、超空間の負荷によってボロボロになり、まるで数十年、数百年が経過したかのような有様だ。


 果たしてどれだけの年月が過ぎたのだろう。


何日、何ヶ月、何年、はたまた何十年、何百年か。


分かるのは、この鳥が今だ目的を達成していない事だけだ。


 このまま、本当に朽ち果ててしまうのだろうか?


 そう思われた時だった。


『……っ……』


 コクピット内のスピーカーにノイズが響く。


息絶えたのかと思われた鳥に、熱が生まれた。


『……覚え……とれー!』


モニター脇に設置されたバイタルサポートメカが、記録された生体データとの整合性を確認する。


『……絶対……してやるけんのぉー!!』


 全てのデータが一致を示し、待ち望んでいた瞬間が来たことを伝える。
 コクピット内の再び灯りが灯る。


 全ての計器は赤く輝き、機体が限界である事を告げている。


 しかしその中で待っていた魂は、今この瞬間こそ羽ばたく時だと力強くレバーを握る。


 鳥の目が輝き、羽から粒子が溢れる。


 目指すべき空間をモニターが指し示す。


 その輝きが、モニター脇に固定された小さな箱を照らす。


不器用にリボンが巻かれた小さな箱を撫でながら、男は言った。


「いま迎えに行くよ。私の娘達」



 鳥が、跳んだ。



 空間を越え、彼方に消えた大切な光を取り戻しに。




~CONTINUE?~


[おわり]

■「ラムネ&40 FX」上巻ワクワクセット12月22日発売!

■商品名:
【プラキット「グランスカッシャー」付き】
「NG騎士ラムネ&40 FX」上巻・ワクワクセット
■商品内容:
1)小説「NG騎士ラムネ&40FX」上巻 …1冊
2)プラキット「グランスカッシャー」 …1個
3)ワクワクディスク …1枚
※内容は全て予定です。予告なく変更になる場合がございます。
■発売元・販売元:フロンティアワークス
■価格:税込9,900円(税抜9000円+税) ■品番:FWZ-09304
■発売日:2021年12月22日 <メーカー推奨予約〆切:2021年9月1日>
※メーカー推奨予約〆切は、本商品を確実にお求めいただける推奨予約期日となります

【 「フロンティアワークス通販」「あみあみ」限定商品 】
●フロンティアワークス公式通販(アニメイトオンライン)予約ページ
更にヘビーユーザー向けFW通販(アニメイトオンライン)限定バージョン!
●大盛【プラキット2個付き】 / ●特盛【プラキット3個付き】

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●あみあみ予約ページ(限定特典アクリルキーホルダー付き)

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