【web連載#4-1】NG騎士ラムネ&40 FX
■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠
■第4話「「熱血4騎士大勝利! 〇解(わかい)の環で大団円!!」」(その1)
――かつて、どこかにあった刻4――
「ようやくだ、ようやくここまで来た……」
主任の前には、一羽の巨大な鳥の姿が佇んでいた。
その鳥は鋼鉄の翼を広げ、羽ばたく瞬間を今か今かと待ち望んでいるかのようだ。
「主任、本当に行くんですか!?」
主任を呼び止めたのは、若いスタッフの一人だった。
「いくらコイツが最新の超空間航行機能を備えた新型機とはいえ、有人での超空間突入はいまだ成功例が無いんですよ!? 危険すぎます!」
「そうですよ! せめてドローンボットやアバターロボによる実験を繰り返してからの方が!」
若いスタッフの言葉を皮切りに、他のスタッフ達も口々に主人の無茶を止めようとする。
だが、主任の意思は変わらなかった。
「すまないな皆。けど、俺は彼女達を迎えに行かなくちゃならないんだ」
「っ……」
彼女達という言葉に、スタッフ達は何も言えなくなる。
何故ならその事を気に病んでいたのは、彼等もまた同じだったからだ。
「安心しろ。必ず彼女達を連れて帰ってくるさ」
その微笑みを見たスタッフ達はどうしようもない程に理解してしまった。
(ああ、この人は止まらない、止められないんだ……)
どうあっても彼が往く事を止められないのであれば、スタッフ達に出来る事は一つだけだった。
「分かりました。主任が返ってくるのを待っていますよ!」
「研究室の事は私達に任せてください!」
スタッフ達は主任を笑顔で見送る事を選んだ。
それだけが死地へと向かう彼への唯一の手向けだからだ。
「寧ろ主任が出発する前よりも成果を上げて見せますよ!」
「こいつ」
若いスタッフのジョークに主任の顔がわずかにほころぶ。
そしてすぐに真剣な顔に戻ると、主任は背筋を伸ばして彼等に告げた。
「これより俺は超空間探索機に乗って超空間へと潜り、誘拐されたウルド、シルビア両名の探索を行う! 後の事は副主任に一任するものとする!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
それだけ告げると、主任は超空間探索機へと乗り込む。
コクピット内は意外と広く、三つの席が三角形の配置で設置されており、主任は一番前の席に座る。
パイロットの着席に反応して眼前のモニターに鳥を模した紋章が表示される。
次いで機体情報が流れてゆく。
「ネギC、ヒロC、バイタルデータの探査を頼むぞ」
操縦席の液晶画面やメーターが並ぶ中に、見覚えのあるサポートメカが設置されていた。
この2体のサポートメカは超空間探索機に連結され、内蔵された超高性能センサーにウルドとシルビアのバイタルデータを伝えていた。
彼は、このたった一つのコンパスだけで超空間に消えた姉妹を探そうとしているのだ。
それはさしずめ、巨大な砂漠で一粒の真珠を探すに等しい難行。
だがそれでも彼は、大切な少女達を探す事を諦めずにはいられなかった。
起動キーを差し込み、自らの決意を燃えあがらせるかのように動力を始動させる主任。
「超空間探索機トラヴァーシャンパーン起動!!」
トラヴァーシャンパーンと呼ばれた機械の鳥の両目が輝き、翼を羽ばたかせて上空へと浮き上がる。
とはいえ、それなりに広くはあるもののここは実験室の中。
巨大な鋼鉄の鳥が羽ばたけばすぐに壁にぶつかってしまうだろう。
「超空間ゲート展開!!」
主任が正面右に設置された赤いレバーを下げると、トラヴァーシャンパーンがけたたましい雄叫びを上げた。
すると不思議な事に、目の前の空間に穴が空き、何ともいえない光彩の景色が姿を現したではないか。
これこそがトラヴァーシャンパーンに組み込まれた最新技術、カンナギの力を借りずして超空間との扉を開く超空間ゲートである。
「トラヴァーシャンパーン! 発進!」
空間が広がった瞬間、主任が一刻の猶予もないとばかりにトラヴァーシャンパーンを発進させる。
それもそのはず。この超空間ゲートは、研究所のエネルギーサポートを受けたトラヴァーシャンパーンですら、ほんの数秒しか維持する事が出来ない程膨大なエネルギーを消耗する試作品だったからだ。
「ウルド! シルビア! 必ず助けに行くからな! その為の準備を全て用意したんだ!」
トラヴァーシャンパーンがゲートを通過すると同時に、研究所の安全システムが膨大なエネルギー消費を感知してエネルギー供給を緊急停止する。
すると瞬く間に超空間ゲートは閉じてしまった。
それはほんの数秒の出来事であった。
「主任、お気をつけて……」
遺されたスタッフ達には、彼の無事を祈る事しか出来なかった……
◆
「出てこい! 勇者ラムネス!」
テントチ塔跡地に降り立ったバレットブルズは、地下道に向けて攻撃を行っていた。
ラムネス達を追ってきた彼等は、あからさまに開いていたこの地下道にラムネス達が隠れていると推測したのだ。
「や、止めるオニー!」
「駄目だオニ、オニ太!」
地下道に攻撃を続けるバレットブルズを止めようと飛び出しかけたオニ太を、大人達が慌てて止める。
「でも地下にはラムネスさん達が!」
「お前が行っても怪我をするだけオニ! それよりも彼等が戻ってきた時に足手まといにならないよう逃げるオニ」
大人達の説得を受けて冷静になったオニ太は、少しだけ冷静さを取り戻す。
「……分かったオニ」
恩人であるラムネス達の役にたてない事に歯噛みしながら、オニ太達は町へと逃げていった。
「ふん、命令さえなければあんな連中一掃してやったものを」
逃げていくオニオニワールドの住人達の存在を知りながら、ブルーブルは彼等を見逃した。
「何が二度とヘマをしないようにラムネス達以外に目もくれるなだ! 偉そうにしやがって!」
どうやら彼がオニ太達を見逃したのは、モンエナ教授の命令が理由だったようである。
「えーい! それにしても何故ラムネス達は出てこんのだ!」
「……」
「なに? ラムネス達は別の場所に隠れているんじゃないかだと?」
バレットブルズのメンバーであるブラックブルが無言でブルーブルに意思を伝えてくる。
彼等は言葉を話せない代わりに、電波を使って通信で意思を伝える会話機能を持っているのだ。
唯一リーダーであるブルーブルのみ普通に会話ができるが、これは主であるモンエナ教授と意思疎通をする為である。
「いや、よく見ろ。地面にこぼれた真新しいオイルの跡を。これこそラムネス達がここに逃げ込んだ証に違いない」
ブルーブルの予測通り、地下道に点々と垂れていたオイルは、破損したドリータンク・ジュニアからこぼれたモノだった。
「だがまぁ良い。出てこないのなら、このまま攻撃を続けて生き埋めにしてくれるわー!」
ラムネス達が出てこないことにしびれを切らしたブルーブルが、それならそれでもかまわないとばかりに攻撃を再開しようとしたその時、突如地面が揺れ始めた。
「むっ!? な、なんだ!? 地震か!?」
だがそれは違った。
彼等の立っている地面が吹き飛び、何者かが地下から飛び出してきたのだ。
『ドパァーン!!』
『ドュワッ!!』
「な、なんだぁーっ!?」
現れたのは超巨大な黄金の騎士と、黒の騎士。
そう、グランスカッシャーとアウトサイダロンである。
「デ、デデデデデカイ!? デカ過ぎる!? 何だこの超デカいロボットは!?」
ブルーブルが驚くのも仕方のない事だった。
何しろこの超巨大ロボット、頭だけでもキングスカッシャーと同じくらいのサイズなのだ。
バレットブルズも大型のロボットではあるが、それでもグランスカッシャー達の大きさは桁違いだった。
「お待たせしました! 勇者ラムネスくんでーす!」
「そしてオレ様、超絶美形勇者ダ・サイダー様だ!」
「ま、まさか勇者ラムネスとダ・サイダーか!?」
突如現れた超巨大ロボットからラムネスの声が聞こえた事で、ブルーブルはこの2体が自分達の敵であると理解する。
「そ、その巨大ロボットは一体なんだ!? 我等のデータにはないぞ!?」
その言葉を聞いたラムネスは、グランスカッシャーの起動時にモニターに表示された名称を思い出す。
「へっへーん、驚いたかー! これぞ対ホロボロス用新世(ニュージェネレーション)騎士(ナイト)グランスカッシャーだ!」
バレットブルズが驚いている事に気を良くしたラムネスは、子供がおもちゃを自慢するようにグランスカッシャーを紹介する。
「新世騎士だと!?」
「そしてコイツはオレ様のビューティフルな相棒アウトサイダロンだ。テストに出るから覚えておきな」
「グランスカッシャーにアウトサイダロンだとぉ……」
ブルーブルは焦っていた。何しろ手負いの勇者一行が相手の楽な仕事だと思っていたら、まさかの新世騎士である。
「ええい! どうせ見掛け倒しの木偶の坊よ! お前達! やってしまえ!」
『っっ!!』
ブルーブルの命令を受け、バレットブルズ達がグランスカッシャーとアウトサイダロンに襲い掛かる。
「よーし! リターンマッチだ!」
そう叫んだラムネスがキングスカッシャーを操縦すると、連動してグランスカッシャーが動き出す。
否、正しくはグランスカッシャー内部に居るキングスカッシャーがグランスカッシャーを操縦していたのだ。
「それにしても、守護騎士に乗ったままロボットを操縦するなんて変な感じだよな」
そう呟きながらグランスカッシャー内部のコクピットに設置されたモニターを見ると、こちらに向かってくるバレットブルズ達の姿が映される。
「ラムネス、このグランスカッシャーはボック達が戦いやすいようにキングスカッシャーとほとんど同じ武装を装備しているミャー!」
タマQはサブモニターに記録しておいたグランスカッシャーの説明書を読みながら、ラムネスにマシン性能を説明する。
ちなみに説明書はペプシブの可愛らしい文字で操作方法が翻訳されていた。
「要するに、いつも通りに戦えば良いって事だな!」
キングスカッシャーは試練で使われたものと同じ操作盤を動かしてバレットブルズの攻撃を回避する。
「よっと」
「おお!? 速い!?」
グランスカッシャーが巨体に似合わぬ華麗な回避を見せた事で、後方から指揮を出していたブルーブルが驚愕の声をあげる。
「オラオラーッ!!」
ダ・サイダーの勢いに乗った叫びに振り向けば、こちらではグリーンブルとピンクブルがアウトサイダロンの手にした二本の大剣に吹き飛ばされていた。
「ダーリン、アウトサイダロンの武器はクィーンサイダロンとちょっと違うじゃん! 気をつけて戦うじゃん!」
「任せろメタコ! オレ様にかかればどんな武器でも完璧に使いこなしてみせるぜ!」
「うおお!? 何だあのとんでもないパワーは!?」
スピード、パワーともに圧倒的なグランスカッシャーとアウトサイダロンの姿に恐れを抱くブルーブル。
「へっへーん、どんなもんだい!」
「ぐぅ……こんな筈では……恐るべし新世騎士」
「さぁ大人しくオレ様達に退治されな!」
これまで圧倒的不利だった反動か、優勢になった途端二人は調子に乗っていた。
「はーっはっはっはー! とどめだー!」
ダ・サイダーが上機嫌でバレットブルズにとどめを刺そうとしたその時だった。
「そうはさせんぞ!」
突如上空から放たれた砲撃がラムネス達を襲った。
それに気付いたグランスカッシャーとアウトサイダロンが間一髪攻撃を回避すると、地面が大きく弾け飛び、その余波でバレットブルズ達が吹き飛ぶ。
「危ない危ない。危うく大事な部下がやられてしまうところだったよ」
そんな声と共に上空から降りてきたのは、ラムネス達に苦い敗北を刻み付けた白と黒の超巨大ロボット、ホロボロスであった。
「モンエナ教授!」
ホロボロスの頭部に立つモンエナ教授は、ラムネス達を見て楽し気に笑みを浮かべる。
「グランスカッシャーにアウトサイダロンか。なかなかに恐ろしいロボットじゃないか。よもやバレットブルズが相手にならぬとはな」
「あいつ等だけじゃないぞ! そのホロボロスだってこのグランスカッシャーの敵じゃないからな!」
「随分と大きな口を叩くものだ。余程そのおもちゃに自信があると見える。よかろう、ならばテストをしてあげよう。ただし赤点を取ったら……」
鷹揚とした態度でモンエナ教授は片手を天に掲げると、切り捨てるように振り下ろした。
「君達に待つのは死だ!」
ホロボロスはローブ状に纏った装甲から両腕を伸ばすと、10の指の先端からヒュドラビームを放つ。
「なんのぉー!」
「舐めるなよぉー!」
グランスカッシャーはビームを回避しつつ、よけきれない攻撃はシールドで受け流していき、アウトサイダロンは巨大な二本の大剣を連結し風車の様に大回転させながらビームを弾き飛ばす。
「なんと!?」
先の戦いでラムネス達を圧倒した攻撃がこうも容易く切り抜けられた事で、さすがのモンエナ教授も驚きの表情を浮かべる。
「喰らえモンエナのジジィッ!!」
アウトサイダロンは胸部からクィーンシューターの強化武装であるアウトラッシャーを放つ。
一本一本が守護騎士の大きさに匹敵する巨大ナイフが、ローブ状の装甲を貫き、内側のホロボロス本体にまで突き刺さる。
「お、おおおっ!?」
「ナイス、ダ・サイダー!」
そしてモンエナ教授の注意がアウトサイダロンに向いたところで、キングスカッシャーの剣のじつに数倍の幅を持った大剣を掲げたグランスカッシャーがホロボロスに肉薄する。
「バレットブルズ!」
「はっ!」
しかしモンエナ教授の命令を受けたバレットブルズがホロボロスを守るべく、グランスカッシャーに襲い掛かる。
「邪魔だっ!」
けれど性能で劣るバレットブルズでは足止め程度にしかならない。
だが、ホロボロスにとってはそれで十分だった。
一瞬の隙を突いて後頭部から伸びる巨大な尻尾でグランスカッシャーを弾き飛ばすが、グランスカッシャーもまた吹き飛ばされながら空中でバランスを取り危なげなく着地する。
その後もラムネス達はホロボロスを狙うが、バレットブルズが間に入って邪魔してくるため懐に潜り込めず、かといってバレットブルズを先に狙えばホロボロスが後方からビームによる援護を放つために中々攻めきれない。
同様にホロボロス達もまた、グランスカッシャーとアウトサイダロンの強さに攻めきれず、お互いに決め手に欠ける状況となっていた。
「くっそー、バレットブルズの数が多いからやっかいだな」
「そーだそーだ!6対2は卑怯だぞ!」
「ふん、ならばそちらもご自慢の守護騎士を呼べばいいではないか! もっとも、メタルコインのエネルギーが回復していればの話だがなぁ!」
「なんだとーっ!!」
モンエナ教授の挑発にラムネスは怒りの感情を燃やす。
未だベンドラーマシンにエネルギーを吸収されたメタルコインのエネルギーが回復していないからだ。
「ならば我らが援護いたす!」
だがそこに戦いのバランスを崩す者達の声が轟いた。
「何ヤツ!?」
モンエナ教授が警戒の声を上げると、先ほどと同じように地面から何かが飛び出してくる。
「「とぉーーーっっ!!」」
現れた二つの影は、バレットブルズ達を吹き飛ばしてグランスカッシャー、アウトサイダロン達と、ホロボロスの間に降り立つ。
「あ、アイツ等は……!?」
それは、2体の超巨大ロボットだった。
額に地の文字と二本の角を生やし、腰の後ろに巨大な円環を備えた重装甲の黒いロボットと、額に天の文字と1本の角を生やし、背中に刃の翼を背負った赤いロボット。
「「我が名は!」」
「ダイシンゲーン!」
「ゲキケンシーン!」
「「我等、破壊戦士改め新世騎士なり!!」」
名乗りを上げた2体の超巨大ロボットが歌舞伎役者のごときポーズをとる。
「まさかシンゲーンとケンシーン!?」
「っていうか、なんでお前等まで新世騎士に乗ってんだ!?」
予想外の援軍に驚いたのはラムネス達も一緒だった。
「それはですね~」
グランスカッシャーとアウトサイダロンのモニターにココアの顔が映る。
「「ココア!?」」
「グランスカッシャーと~アウトサイダロンの余ったパーツを、シンゲーンとケンシーンの強化パーツとして改造してみたんです~」
「シンゲーンとケンシーンの強化パーツに!?」
「改造!?」
しれっととんでもない事を言われ、ラムネス達は更に驚く。
「よ、よくそんな事できたな」
いかに余剰パーツがあったとしても、この短時間でそんなとんでもない物を作るなど普通は不可能だ。
だがその不可能をこのココアは成し遂げてしまったのである。
「シンゲーン達を修理した工場にも~、利用できる部品が多かったのが助かりましたわ~」
「そ、そういうレベルの問題なのか?」
もはや凄すぎて突っ込みも入らないラムネス達。
「我らが来たからには百人力よ!」
「露払いはお任せあれ!」
新たに参戦したダイシンゲーンにゲキケンシーンがホロボロスを睨みつける。
「くっ! 馬鹿な! この期に及んで増援だとっ!?」
まさかの援軍にさすがのモンエナ教授も動揺を隠せない。
「こうなればこちらも出し惜しみはしておられん! ホロボロス、ワクワク時空発動!!」
モンエナ教授の声と共に、周囲の空間が歪み始める。
そして先の戦いと同様の、禍々しい空間がラムネス達を包み込んだ。
「まーたこの空間か。いい加減マンネリだっての」
「更に言うと今回は前のようにはいかねぇぜ! なー、皿」
「皿に言うじゃん、流石ダーリンじゃん!」
食器皿を持ってご機嫌なダ・サイダーが飛ばしたダジャレをすかさずヘビメタコが拾う。
「そーだろそーだろ!」
「笑っていられるのも今のうちだ! ホロボロスよ、ワクワク時空のエネルギーを限界まで取り込め! フルパワーでラムネス達を攻撃するのだ!」
―――ッ!!―――
モンエナ教授の命令を受けたホロボロスが両手を掲げると、周囲のエネルギーがホロボロスの体へ集まっていく。
そのエネルギー量たるや凄まじく、周囲の景色が歪み始めたほどだ。
「な、何だアレ!?」
「景色が歪んでやがる!?」
「クックックッ、やれぃホロボロス!」
全身に禍々しいオーラを纏ったホロボロスがラムネス達に襲い掛かる。
「ひえっ!?」
背中にうすら寒いものを感じたラムネスとダ・サイダーが慌てて回避すると、空振ったホロボロスの攻撃が衝撃波となって地面を破壊してゆく。
「うひー、相変わらずなんてパワーだ!」
「駄菓子菓ー子! 以前のオレ様じゃないぜ! アウトサイダロンのパワーを見せてやるぜ!」
ダ・サイダーが駄菓子を頬張りながら叫ぶと、ダイケンシーンとゲキシンゲーンもまたその通りだと声を上げる。
「うむ! 我等もまた以前とは違う!」
「この前と同じように行くと思うな!」
「よーし! 皆行くぞー!」
「「「おおーっ!!」」」
ラムネス達はホロボロスに一斉攻撃を仕掛ける。
「そうはさせんぞ!」
それに対してバレットブルズが二手に分かれてダイシンゲーンとゲキケンシーンに襲い掛かる。
「くたばれ裏切り者共!」
ブルーブル、ピンクブル、ブラックブルがダイシンゲーンを三方向から襲い、グリーンブルとパープルブルが左右からゲキケンシーンを襲った。
「甘い!」
しかしダイシンゲーンは正面からの攻撃を太刀で受け、斜め両背面からの攻撃を腰に接続されていた円環のアームを稼働させて受け止める。
「なんと!?」
「――!?――」
「むうん!」
そして三つの腕を力任せに押し込んでブルーブル達を弾き飛ばした。
そしてゲキケンシーンもまた、刃を携えた翼を広げると、襲い来るグリーンブルとパープルブルに射出した。
「羽根よ! 穿て!」
刃が斜めに角度をずらすと、円陣を組み回転しながら突進してゆく。
それはさしずめケンシーン本体の肩に装着されたドリルのようであった。
「――!?――」
その突貫力の前にあっさりと吹き飛ばされる2体のロボット達。
そしてグランスカッシャーとアウトサイダロンが左右からホロボロスに迫る。
「くっ! ヒュドラビーム!!」
両腕の指から放たれた10本のビームがラムネス達を追うが、高速で撹乱軌道をとる2体を捕らえる事は出来ない。
「おのれ!」
ならばと今度は巨大な二つの尻尾を滅茶苦茶に振り回すが、2体のスーパー守護騎士は器用に攻撃を回避していく。
「へっへーん! この程度の攻撃なら試練で散々避けてるっての!」
「お前の攻撃パターンはお見通しだぜ!」
ここにきてホロボロスがAI制御である事が裏目に出た。
いかにモンエナ教授が自由に命令できようとも、命令を受けたホロボロス自体は内部のコンピューターのプログラムで動くからだ。
そのため試練でホロボロスの戦闘パターンを熟知したラムネス達にとっては、何度も戦ったゲームの敵と同じだ。
「ぐぐぐっ! ならば回避できない攻撃ならどうだぁー!」
業を煮やしたモンエナ教授が命じると、ホロボロスが両腕を突き出しワクワク時空のエネルギーを集め始める。
「やばっ! あの時と同じ攻撃をする気だ!」
その輝きにラムネスは、先の戦いで自分達にとどめを刺すべく放たれた巨大ビームを思い出す。
さすがによけきれない攻撃が相手では回避のしようが無い。
「そうはさせるかよ!」
すかさずダ・サイダーは巨大な鞭、アウトビュートを振り回してホロボロスの左腕をはじく。
「ついでにコイツも喰らえ!」
ラムネスもまた巨大メイスを射出すると、モーニングスターモードへと変形させ先端のトゲ付き鉄球をホロボロスの右腕に叩きつける。
「ぬおおっ!?」
エネルギー集中の邪魔をされたせいで、集めていたエネルギーが霧散するホロボロス。
「おのれー!」
これならいけるとラムネス達が追撃を敢行しようとしたその時だった。
突然ホロボロスが苦しみだしたのである。
「な、なんだ!?」
「むっ! これはいかん!? 鎮まれ! 鎮まるのだホロボロス!!」
同様に慌てだしたモンエナ教授が止まるように命じるが、ホロボロスは全く言う事を聞く様子が無かった。
「ど、どうなっているんだ!?」
ラムネス達が困惑していると周囲の空間に亀裂が走り、ガラスが砕け散るような音と共に景色が変わった。
「これは、元の世界に戻ってきたのか!?」
『大丈夫ラムネス!?』
すると元の空間に戻ってきた事を確認する間もなく、ミルク達から通信が入る。
どうやらラムネス達がワクワク時空に取り込まれた事を心配していたようだ。
「それが、突然ホロボロスが滅茶苦茶に暴れ出したと思ったらこっちに戻って来たんだよ」
『『何それ?』』
ラムネス達の説明に、ミルク達も困惑する。
『それはたぶん、ホロボロスの動力が暴走したんだと思います』
首を傾げて不思議がるラムネス達の通信に入って来たのは、真剣な顔をしたペプシブだった。
「暴走?」
『はい。ラムネス君達が戦いに向かった後、私はグランスカッシャーとアウトサイダロンの説明書の翻訳を続けていたんです。そしたらホロボロスには動力に致命的な欠陥があると書かれていたんです』
「動力に致命的な欠陥!?」
『つまり、蛇口の栓が壊れているようなものです。ホロボロスというコップに水がドンドン入ってきて最後には溢れて……つまり大爆発してしまうんです!!』
『『「「大爆発ぅーっ!?」」』』
ペプシブの説明に、ラムネス達の顔が真っ青になる。
「モンエナ教授! 早くホロボロスを止めるんだ!」
「そうだぞ! 大爆発なんてしたらお前も死んじまうんだぞ!」
慌ててラムネス達はモンエナ教授にホロボロスを止めるように説得する。
「いいや! 私には! ま、まだっ! 奥の手が! あるのだよ!」
だがモンエナ教授は必死にホロボロスの頭部にしがみ付きながら、ラムネス達の言葉を拒絶した。
「そんな状態で強がるなよ! 人間死んだら終わりだぞ!」
「ふはっ、ふははっ! 死ぬ! のは! お前! 達だ! 来い! バレット! ブルズッ!」
「はっ!」
モンエナ教授の命令を受けた、バレットブルズ達がホロボロスの下へと集結する。
「テストがまだだったのだが、背に腹は代えられん! ホロボロス! バレットブルズ!合体だ!」
「え?」
「合体?」
ラムネス達が驚くのと同時に、ホロボロスがバレットブルズの放った5つのトラクタービームによって宙へと浮き上がる。
同様にバレットブルズ達もまた、ホロボロスを追って飛び上がった。
ホロボロスの下へと移動したグリーンブルとピンクブルが四肢を縮めると、胴体が前後に軽く開いてブーツ状へと変形する。
次いでホロボロスの両手の先に移動したイエローブルとパープルブルもまた四肢を折りたたみ、頭部が後方へとスライドして胴体上部の装甲が上にスライドする事で巨大な小手へと姿をかえる。
最後にホロボロスの頭の上に移動したブルーブルの胴体が上下に分割されると、上半身がドラゴンを模した兜へと変形し、下半身が足を畳みバックパックになる。
そして背負っていた巨大な斧が開くと、蝙蝠のような翼へと変形してバックパックと合体する。
変形を完了したバレットブルズは、鎧のようにホロボロスの両手、両足、頭部、そして背中へと装着されてゆく。
「見よ! これぞマウンテンデュー姉妹様が私にお与えくださった超科学の知識で生まれ変わった完全なるホロボロスの姿だ! その名も! 合体巨人ミナホロボス!!」
合体を完了したホロボロスは、これまでの蛇を想起させる意匠から一転し、まるでドラゴンを連想させるような鎧を身に纏っていた。
「合体巨人……」
「ミナホロボスだとぉ……」
「その通り! このミナホロボスはホロボロスの弱点であるエネルギー問題を完全に制御する事が出来るのだ!」
「何だって!?」
「さぁ、ここからが本当の地獄だ。やれっ、ミナホロボス!!」
『――――!!』
モンエナ教授の命令を受けたミナホロボスが、両腕を振り上げてグランスカッシャーとアウトサイダロンに襲い掛かる。
バレットブルズが合体したその腕はナイフのごとき巨大な爪が装着されており、命中すればいかなグランスカッシャーとアウトサイダロンと言えどもタダでは済まないだろう。
「なんのぉ!」
「へっ! 何度も合体したからってオレ様達に勝てると思うなよ!」
しかしラムネス達はこの攻撃を真っ向から受け止める事を選んだ。
そこには自分達が手に入れた力への過信があったからだ。調子に乗っているとも言うが。
その結果……
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!」
先ほどとは一転、今度はグランスカッシャーとアウトサイダロンが成す術もなく吹き飛ばされる。
「ど、どういう事だ!?」
「パワーが段違いだぞ!?」
「ふはははははっ! 驚いたかね勇者達よ! これが真のホロボロスの力だ!」
「こ、これがホロボロスの本当の力なのか!?」
「ビビってんじゃねぇラムネス! だったらオレ様達ももっと強い攻撃をぶちかましてやればいいだけの話だろ!」
弱気になったラムネスを、ダ・サイダーが叱咤する。
「もっと強い攻撃!?」
「決まってんだろ、アレだよアレ!」
「アレ……そうかアレか!」
ダ・サイダーの意図を察したラムネスは、自らの怖気を払うべく即座に行動に移った。
「うぉぉぉっ! 熱血メーター全開!」
「今日はコイツだ!」
そしてダ・サイダーは激辛香辛料のハバネロを取り出すと、両手で思いっきり掴んで頬張る。
「か、辛ぁぁぁぁぁぁぁ! け、血圧アーップ!!」
二人の勇者が自らのエネルギーを限界まで高める。
「熱血チェインジ! サムライッ! オーン!!」
「やってやるぜ! ヤリッ! パンサァー!」
ラムネスとダ・サイダーの二人がいつものように天井から展開されるレバーを掴もうとして……すり抜けた。
「「あれ?」」
二人は天井に左手をさ迷わせるが、やはりレバーは降りてこない。
「ど、どうしたんだ!? サムライオンに変形できないぞ!?」
「何でヤリパンサーに変形できないんだ!?」
「ラムネス、大変だミャ! このグランスカッシャーは変形出来ないみたいだミャー!」
「ええっ!? 何でっ!? 同じ機能があるんじゃないの!?」
タマQが説明書の画像データを表示しながら説明する。
「どうも変形するには複雑な金型を作る必要があるみたいで、施設のエネルギーが足りなかったから機能をカットしたみたいだミャー」
「「ズコーッ!!」」
悲しきかな、古代文明の予算不足ならぬエネルギー不足でサムライオンとヤリパンサーへの変形機能はカットされてしまっていたのだ。
「お、俺はハバネロを食い損かよぉ~杭とゾウでくいぞぉーん……」
「ダーリン、切れが悪いじゃん」
こんな時でも駄洒落を忘れない辺り、筋金入りのダジャレ好きである。
これまでいくつもの困難を乗り越えてきた必殺技が使えないと分かり、ラムネス達の士気が大きく下がる。
だがそれでもラムネス達は諦める訳にはいかない。
「くそー! ないものはしょうがない! こうなったらこのままで戦うぞダ・サイダー!」
グランスカッシャーは大剣を構え、ミナホロボスに向かって駆け出す。
「ちっ、ショウガが切れたか。ショウガ、無ぇ」
ダ・サイダーは強がるようにダジャレを口にするが、この状況ではどうにもキレが悪い。……キレが良かった日もないが。
しかし悪い事は続くもの。ラムネス達は更なるトラブルに見舞われる事となる。
「あ、あれ!?」
「お、おいどうしたアウトサイダロン!?」
「むお!? これは一体何事だ!?」
「ゲキケンシーンが! 動かぬ!?」
突然グランスカッシャー達が動かなくなったのである。
「むむ? どうしたのだラムネス達は?」
ラムネス達の様子にモンエナ教授もまた訝しんだ。
「た、大変だミャーラムネス! グランスカッシャーのエネルギーがほとんど残ってないミャー!」
「ダーリン、アウトサイダロンもじゃん!」
「「な、何だってーっ!?」」
突然のエネルギー切れにラムネスとダ・サイダーが困惑の声をあげる。
「どういうことなんだタマQ!?」
「戦いが始まってそんなに経ってない筈だぞメタコ!?」
「ウチにも分かんないじゃん」
「マズイミャ! これは多分モグッタワーのエネルギー不足が原因だミャ!」
「モグッタワーのエネルギー不足が?」
「そうだミャ。モグッタワーは長い年月稼働し続けてきたから、ボック達が来た時にはもうエネルギー不足だったミャー。だからこそグランスカッシャーとアウトサイダロンも一部のパーツは当時の既存メカのデータを流用する事になったんだミャー。でもそれはつまり、グランスカッシャー達が戦う為のエネルギーも満足に用意できなかったってなんじゃないかミャー?」
「「げぇーーっ!?」」
まさかそんな世知辛い理由でエネルギー不足になったとは思わず、ラムネス達が絶望の声を上げる。
「ふはははははっ! それは愉快! まさかエネルギーを無限に供給できるホロボロスに、エネルギー不足のメカで挑むとはな!」
互いの対照的なエネルギー事情がよほど面白かったのか、モンエナ教授が楽しげに笑う。
「だが、これで万策尽きたようだな!」
勝利を確信したモンエナ教授とミナホロボスがグランスカッシャー達に迫る。
「君達はよく頑張ったよ。まさか私のホロボロスがここまで追いつめられるとは思ってもいなかったからね。だが、これで終わりだ勇者ラムネス!!」
「う、動けグランスカッシャー!」
「立てアウトサイダロン!」
「ぬぅぅぅ! 気合を入れろダイシンゲーン!」
「そうだ! ここで立ち上がらずどうするゲキケンシーン!」
だが現実は厳しかった。ラムネス達がどれだけ叫ぼうとも、4体のロボットはまるで油の切れた機械のようにギシギシと音を立て、スローモーションのごとき鈍重な動きが精一杯だったのだ。
そんなラムネス達をあざ笑うかのように、接近してきたミナホロボスの腕が振り下ろされようとしたその瞬間。
「待ってください教授!!」
戦場に一人の少女の声が木霊した。
~つづく~ ※次回は8/25(水)更新予定です
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