【web連載#1-5】NG騎士ラムネ&40 FX
■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠
■第1話「スィーッと出航! ミントな香りは冒険の予感!?」(その5)
途中山賊達の妨害はあったものの、ラムネス達は無事ウラウラの谷にあるパフパフ宮殿へとたどり着いた。
正しくはガレキとなったパフパフ宮殿跡地だが。
「いあー、大変な旅だったなぁ」
「オメーらはオレ様の船で寛いでただけだろ。大変だったのは操縦していたオレ様だぞ!」
「へへ、お疲れさんダ・サイダー」
ダ・サイダーが不満げに文句を言うと、ラムネスが軽いノリでダ・サイダーをねぎらう。
「それでは調査を始める前に瓦礫を撤去する!」
いつもならここで二人の喧嘩が始まるところだが、モンエナ教授の良く通る声がそれを制止する。
「諸君って言っても、これをオレ達だけで?」
モンエナ教授の指示を受けたラムネス達だったが、周囲を見て苦笑いを浮かべる。
何しろパフパフ宮殿はラムネスとマウンテンデュー姉妹の戦いでこれ以上ない程の廃墟になっていたからだ。
しかも中途半端に残っている大きな瓦礫は近づくだけで危険そうだ。
「オレ様達がやった事だが、デカイ瓦礫がそこら中に散らばってるせいでシンゲーンとケンシーンが手伝ってくれても時間がかかるぜ?」
ダ・サイダーの言う通り、本来瓦礫の撤去には結構な人手が必要だ。
現代のように少人数でも短時間で作業が行えるのは、人間の何倍もの力で活躍をする重機があればこそだ。
「それは大丈夫ですわ~。こんな事もあろうかと用意しておいたものがありますの~」
ラムネス達が途方に暮れていると、アルミホエール号のスピーカーからココアの声が聞こえてきた。
「用意していたもの?」
「はい~これですわ~」
アルミホエール号のハッチが開き格納庫から一台のブルドーザー的な車両が姿を現す。
「これはテリータンク!?」
その姿はマジマジワールドでゴブーリキが再復活した際に活躍した万能戦車テリータンク・スピニングトーホールド号に酷似していた。
「いいえ~、これは~テリータンクの兄弟機で、ドリータンク・ジュニア・スピニングトーホールド号という新型万能作業マシンですわ~」
「ドリータンク・ジュニア!?」
「っていうか相変わらず名前が長いな!?」
ドリータンク・ジュニアと呼ばれたそのマシンは確かにテリータンクに比べると小柄で別の機体である事がわかる。
そして武装が排除された代わりに、車体側面に大きなマジックアームの姿が見える。
そして最大の特徴としてドリータンク・ジュニアの前面は角の様に尖っており、更に戦闘機のシャークマウスを思わせる目と口が付いていた。
これはかつてのラムネス達の乗艦全てに共通する意匠で、凶悪な表情ながらもどこか愛嬌を感じさせる姿だった。
「それでは~ドリータンク・ジュニア号出動ですわー」
早速動き出したドリータンク・ジュニアは、前面のブレード部で瓦礫を綺麗に押しのけていき、更に両側面のマジックアームが離れた位置にある大きな瓦礫も器用に回収していった。
「おお、素晴らしいメカだ! シンゲーン君、ケンシーン君、君達はあのタンクでは撤去できない大きなガレキを頼むよ」
「承知した」
「お任せあれ」
モンエナ教授の指示を受け、すぐにシンゲーンとケンシーンも動きだす。
「「よいさ、ほいさ」」
彼等はドリータンク・ジュニアでは運べない大きすぎる瓦礫を担いで端に寄せていく。
「それじゃーあたし達もやりましょーか! チェインジ!」
ミルク達もアルミホエール号の格納庫から出した守護騎士型パワードスーツを装着してガレキの撤去の手伝いを始める。
普段なら肉体労働など面倒くさがりそうなミルク達だったが、新しく手に入れたオモチャで遊びたがる子供のようにパワードスーツを使っての作業に勤しんでいた。
「すいすーいすーい」
同様にペプシブも手にしたハンディ掃除機で小さな瓦礫を次々に吸い込んでいく。
普通ならとっくに満杯になってしまいそうな量を吸い込んでいるが、これらの瓦礫はバンディ達山賊兄弟を撃退したゴミ弾同様内部で圧縮されている為、意外とゴミの内包量は多かったりする。
そんな光景を眺めながら、ラムネス達はノロノロと手作業でガレキを運んでいた。
「……なぁ、何でオレ様達だけ生身で運んでるんだ?」
「だよなぁ。ココアー! オレ達にもそのパワードスーツないのかよー!」
「ごめんなさい~、三人分で予算切れですわ~」
あっさりと無慈悲な答えが返ってきて、ラムネス達は肩を落とす。
やはり予算不足はどこも同じなようである。
「「ガッカリ」」
「キングスカッシャーを呼ぼうにも、シンゲーン達も居るから逆に狭くなっちゃうしなぁ」
「レスカ達を踏んづけちまわないように気を使わないといけないのも面倒だ」
「しゃーない、普通に運びますか」
「だな」
そんなこんなで瓦礫の撤去を続けるラムネス達。
「ひーひー、疲れたー」
「こ、腰が……っ」
だが機械的なサポートのあるミルク達に比べ、ラムネス達は生身での作業。
さらに言うとミルクの腹時計も正確に正午を告げて食事を要求していた。
「お腹空いたー!」
「ふーむ、そろそろ休憩にしようか。ペプシブ君、食事の用意を頼む」
「はいはーい! お任せあれー!」
モンエナ教授が休憩を宣言すると、皆が作業を中断してアルミホエール号の傍に設置された休憩スペースに集まる。
「はー、ようやく休憩出来るわ」
「疲れましたわねー」
「もう汗びっしょり」
青空の下で作業をしていた為、ミルク達はすっかり汗をかいて服の下がベタベタになっていた。
思わず服の胸元に指を入れパタパタと空気を入れようと動かすが、そうすると色々と大変なものが見えてしまいそうになる。
そしてその隙を見逃すラムネスではない。
「チラッ、チラッ!」
ラムネスはゲームで鍛えた動体視力を活かして、ミルク達の服の隙間から見える光景を全力で脳裏に焼き付けようとする……が。
「ふー、熱い熱い!」
たまたま汗をかいたモンエナ教授がタオルで体を拭こうと上着を脱いだせいで、ミルク達の胸の谷間ではなく、男の上半身の裸が彼の脳内メモリーに記録されてしまった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
見たくもないむさくるしいものを見せられて、ラムネスが悲鳴を上げる。
「うう……オレは今、とんでもないものを見てしまった……って、あれは?」
必死で脳内に記録されたモンエナ教授の裸の記憶を消そうしていたラムネスだったが、そのモンエナ教授の背中に大きな三本線の傷がある事に気付く。
「なんだあの凄い傷?」
「あれはね、私を守ってくれた傷だよ」
「ペプシブちゃん!?」
ラムネスの疑問に答えたのは、大きな鍋を抱えたペプシブだった。
「あっ、手伝うよ」
さすがに女の子にこんな重い物を持たせて自分だけ休憩するのも気分が悪いと、ラムネスは反射的に鍋を代わりに持つ。スケベだが紳士なのだ。
「ありがとうラムネス君。これはこっちのかまどの上に置いて」
「うん、わかった」
そのままなし崩しにペプシブの料理を手伝うラムネス。
ラムネスがこのままさっきの話題は流れちゃうのかなと思っていると、ペプシブは料理の手を止めずに静かに会話を再開した。
「私ね、お父さん達と一緒に教授の調査について行った事があるの。でも子供だから出来る事もないし、でも見ているだけなのも凄く退屈だったの」
「分かる、じっとしてると退屈で遊びたくなっちゃうよね」
「うん、だからこっそりキャンプベースから抜け出して冒険しに行ったの」
ラムネスが相槌を打つと、ペプシブもそうなのと頷く。
「へー、ペプシブちゃんって結構勇敢なんだね」
しかしそんなペプシブの表情が曇る。
「そのせいで、私は大きな獣に襲われたの」
「ええ!? 大丈夫だったの!?」
「うん、私が居なくなった事に気付いた教授が助けてくれたの。でもその代わりに教授が怪我をしちゃって……」
「それであの傷が……」
モンエナ教授の怪我の理由がペプシブにあったと知り、ラムネスはどうフォローしたものかと慌てる。
「うん、さいわい他の研究員の人達が獣を追い払ってくれたから助かったけど、自分のせいで教授が死んじゃうかもしれないと思ったらもの凄く怖くなって、私わんわん泣いちゃったの」
「そりゃしょうがないよ」
そんなショッキングな事が起きたなら誰だって泣きたくもなるだろう。
ラムネスはそう言ってペプシブを慰めようとしたのだが、しかしペプシブは静かな笑顔を浮かべてこう続けた。
「でもね、教授ったら『なーにベソをかいとるんだ。男にとって女を守った傷は勲章だ。なーんにも申し訳なく思う必要などないぞ』って言ったのよ。真っ青な顔で全身脂汗を流してそんな強がりを言われたって安心なんかできないわよ。だから私もっと泣いちゃって、そのせいで教授を困らせちゃったわ」
「へー、あんな怖い顔をしてるのに、凄く優しい人なんだね」
ラムネスの言葉を聞いて、ペプシブはクスクスとおかしそうに笑う。
「ふふっ、そうね。教授ったら何度言っても徹夜を止めないから、あーんな怖い顔になっちゃってるのよ。いい加減年なんだから、自分の体を大事にしてくれてもいいのにね」
「ねぇペプシブちゃんってそんな小さな頃から教授と一緒に行動してたの? もしかして教授ってペプシブちゃんのお爺ちゃん?」
「私が!? 教授の孫!?」
ラムネスの言葉を聞いて、ペプシブが笑いだす。
「違う違う。私と教授に血のつながりは無いわよ。私のお父さんとお母さんが教授の弟子だったの。あの頃の私はまだ小さかったから、お父さん達が教授の許可を貰って調査に連れていってくれたのよ。うん、でもそういう意味じゃ教授は私のお爺ちゃんかもしれないわね」
「なるほど、それでかー。ところで今日はペプシブちゃんのご両親は一緒じゃないの? あっ、別にご両親にご挨拶とかそういうのじゃないから」
「……」
と、ラムネスが次なる話題として両親の事を聞いた途端、ペプシブの表情が硬くなる。
(あれ? ペプシブちゃん不機嫌になった? もしかしてご両親と仲が悪いとか?)
「ねー、ご飯まだー!?」
ラムネスが危険を感じたその時、空腹が我慢できなくなったミルクの声が緊迫した空気を引き裂いた。
「あっ、は、はーい! もう出来ますよー!」
ペプシブが慌てて料理の仕上げに入る姿を見て、ラムネスは心の中でミルクに感謝の言葉を捧げるのだった。
◆
食事を終えたラムネス達は、瓦礫の撤去を再開する。
そして暫くした頃にミルクが声をあげた。
「ねー、皆ー! なんか地下に続く階段があるんだけどー!」
「え? 階段?」
全員が作業を中断して我先にとミルクのもとへ殺到すると、彼女の言う通りそこには地下へと続く階段があった。
「ふむ、元々は床に偽装した隠し階段だったみたいだが、建物の崩壊と共に偽装していた床も壊れてしまったようだな」
「へー、って事はこの下はシルバーちゃん達が秘密にしたいモノが隠されているって事か」
隠された地下への入り口を見て、ダ・サイダーがそこに何かがあると確信する。
「ゴールドのちゃんの隠したいモノ……それって、なんだろぉ~!」
隠された秘密という言葉に、思わずエッチな妄想をしてしまうラムネス。
だが迂闊なことに、彼の目の前にはそれを許さないミルクが居た。
「ラーム―ネースー!! 今いやらしい事を考えていたでしょーっ!」
「い、いやいやいや! そんな事全然考えてませんよ! いやホント!」
「本当でしょうねー!」
「ホント! ホントだって! それでモンエナ教授、ここを降りて調査するんですよね!」
何とかミルクの追及を振り切るべく、ラムネスはモンエナ教授に地下の調査を提案する。
「そうだな。ようやく手掛かりが見つかったんだ。調査しない手はない。シンゲーン君達は引き続き瓦礫の撤去を続けてくれたまえ。何かのはずみで地上の建物部分が倒壊したら地下の私達が危険だからね」
「ううむ、残念だが承知した」
「気をつけてくだされ皆様方」
「よーし!それじゃあ秘密の地下空間に出発だぁー!」
「「「「「「おおーーっ!!」」」」」」
シンゲーン達に見送られ、ラムネス達は未知の地下空間へと降りて行くのだった。
(第2話「パキャッ! モノクロエッグは破滅のタマゴ!?」へつづく!)※6/30(水)公開予定です
■第2話「パキャッ! モノクロエッグは破滅のタマゴ!?」(冒頭チラ見せ)
――かつて、どこかにあった刻――
そこは音と光と目に見えぬ圧が荒れ狂う空間だった。
「だめです! ウロボロスのエネルギー上昇止まりません!」
何らかの施設と思しき部屋の中は、緊急事態を告げる警報音と真っ赤なランプの輝き、そして肌を刺すような未知の圧力に包まれていた。
「緊急停止をかけろ!」
危険を察知したスタッフが急ぎ緊急停止シークエンスを起動させる。
だが分厚い強化ガラスの向こうにあるそれ(・・)は、全く止まる様子を見せず荒れ狂う力を放出させ続けていた。
「停止信号も受け付けません! このままでは超仮想空間が崩壊して外界に被害が出ます!」
絶望的な報告に、職員達の顔が青ざめる。
「くっ!」
そんな中、ただ一人諦めなかった男が部屋を飛び出した。
彼が向かったのは安全であろう施設の外ではなく、寧ろ危険のただなかである実験室の方向だった。
「ぐぅっ!」
実験室の中は万が一の事態が起きても大丈夫なように、特殊なエネルギーで形成された超仮想空間が形成されている。
それゆえこの空間の中で荒れ狂うエネルギーの奔流は、管制室で感じた圧力の比ではなかった。
『危険……主任! 戻っ……くださ……っ!』
スピーカーからノイズ交じりで避難を促す声が聞こえてくる。
だが皮肉なことに、この声を聞いた事で彼は更にやる気を増した。
「俺があいつ等を守ってやらなくちゃな!」
エネルギーの奔流を必死でこらえながら、主任と呼ばれた男は床を這うように掴んで前に進んでゆく。
目指すはエネルギーの奔流を産み出しているモノの前に設置された、巨大な卵状の物体。
幸か不幸か、ちょうどその卵のお陰で彼はエネルギーの奔流の直撃を受けずに済んでいたのだ。
(エッグをここに設置したスタッフには後でボーナスをやらないとな!)
事実、この卵がエネルギーを受け止めていなかったら、管制室は既に全壊していた可能性すらあったからだ。
そしてついに主任の手が卵に届く位置にまでたどり着く。
「バックトゥザカプセル!」
卵に触れた主任が声の限り叫ぶと卵が眩く輝きだし、その光が卵から伸びたケーブルを伝わってゆく。
ケーブルの先に繋がっているのは、今まさにエネルギーを放っている物体だ。
光が巨大な物体を包み込むと、エネルギーの奔流が徐々に弱まっていく。
それと同時に巨大な物体の姿が霞みだし、卵へと吸い込まれていく。
そしてその姿が完全に卵に吸い込まれると、室内で暴れまわっていたエネルギーの奔流も次第に鎮まっていった。
「……はぁーっ、何とかなったぁー」
事態が無事収束した事で安心したのか、主任は床に転がって大の字になる。
「「主任っ!!」」
室内が安全になると共に実験室の中に飛び込んできたのは二人の女性だった。
驚いたことに二人の容姿は全く同じで、唯一の違いはその髪の色。片方の女性は金色の髪、もう一人の女性は銀色の髪というくらいだ。
「大丈夫ですか主任! お怪我はありませんか!?」
「もう! 無茶し過ぎよ! 死んじゃったかと思ったじゃない!」
どうやら違いは髪の色だけではないようで、金髪の女性は泣きそうな声で心配しながら主任の体に異常が無いか簡易診察マシンを使って身体検査を行い、銀髪の女性はこころなしか怒った口調で主任の無茶を諫める。
しかし主任の肩を掴む銀髪の女性の手は小刻みに震えており、間違いなく彼を心から心配している事が伝わって来た。
「心配をかけてすまない二人共。ただあの状況じゃ直接エッグを起動させて封印するのが確実だと思ったんだ」
「「だからって生身で飛び込んでどうするの!!」」
二人の叱責が左右から主任の耳を貫く。
耳元で響いた声にクラクラとしていた主任だったが、その後に聞こえてきた嗚咽に目を丸くしてしまう。
「本当に、また(・・)主任に何かあったらどうするんですか……」
「そうだよ、こんな無理を続けてたら今度(・・)こそ(・・)死んじゃうよ」
「……すまない」
二人の涙を見て、主任は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
だが同時に彼は心の中で二人に謝っていた。
(でも俺は、君たちを守る為なら何度でも危険に身を晒すと思う。いや絶対にそうするだろう)
しかしそれを口にすれば二人がまた怒り出す事が分かっていた為、主任はあえて口を噤んだ。
「けど、これじゃあまた実験はやり直しだなぁ。次の実験までに更なる安全対策を考案しないと」
話題を切り替えるように、主任は巨大な卵を見つめる。
「……今度こそ上手くいくと思ったんだがな」
すると二人も気持ちを切り替えたのか、同じように卵を見上げる。
(第2話「パキャッ! モノクロエッグは破滅のタマゴ!?」へつづく!)※6/30(水)公開予定です
(C)葦プロダクション