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【web連載#3-2】NG騎士ラムネ&40 FX

■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠

■第3話「反撃の糸口! 巨大ゲームで大特訓!」(その2)

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「ふー、なんとか無事にたどり着いたわね」

「オニオニワールドも久しぶりだなぁ」

「ビーコンが発信されているのは~あそこからですわね~」

「あれって……テントチ塔のあった所じゃないか!」

 テントチ塔、それはオニオニワールドに古くから建っていた謎の塔である。
 驚く程アンバランスな形をした不思議な塔で、いつ、誰が作ったのかも分からないと言う謎めいた塔だった。
 もっとも、その塔はすでに無く、ラムネスと破壊戦士達の戦いの影響で完全に崩れてしまったのだが。

「でも見て、なんか黒い穴が空いてない?」

 最初に違和感に気付いたのはミルクだった。

「ほんとだ。何だろう?」

「それだけじゃないですわ~、あの周りを見てくださいまし~」

「穴の周り?」

「あっ、人が居るわ!」

「ほんとだ。よし、地上に降りて事情を聞いてみよう!」

 ドリータンク・ジュニアを地上に降ろすと、ラムネス達は塔の集まっていた人達の下へ向かう。

「おーい!」

 すると彼等も空から降りてきたドリータンク・ジュニアに気付いていたらしく、誰が来たのかとラムネス達に視線を送ってきた。

「あっ、ラムネスさんだオニ!」

 真っ先に反応したのは、鬼の格好をした一人の少年だった。
彼の名はオニタ。オニオニワールドに住むオニオニ人である。
 彼等はかつてラムネス達と七色の石板を奪い合っていた破壊戦士によって村を破壊され、ラムネス達に助けを求めたという経緯があった。

ラムネep32_337

「やぁ久しぶりオニタ」

「久しぶりだオニ、ラムネスさん!」

「皆こんな所で何をしてるの?」


 ラムネスが村の住人達がテントチ塔の跡地に集まっている理由を問うと、彼等は一斉にテントチ塔の跡地に空いた大きな穴に視線を向ける。

「それが、ついさっき突然テントチ塔のあったこの場所から大きな音が聞こえてきて、何事かと思って見に来たらこの通り大きな穴が空いていたんだオニ」

 ラムネス達も彼等に釣られて穴を見ると、そこには上空から見るよりも大きな穴が地下に向かって斜めに空いていた。

「どうやらこれは地下道への入り口みたいだな」

 ダ・サイダーの言う通り穴には整備された道があり、これが人為的なものである事を証明していた。

「地下道、って事はこの下に何かがあるって事か」

「待ってください~、まだ動いたら駄目ですわよ~!」

 と、そこへココアの慌てた声が聞こえてきた。
 振り返れば、そこにはヨロヨロと危なっかしい足取りでやってくるシンゲーンとケンシーンの姿があった。

「シンゲーン、ケンシーン!」

「何出てきてるのよ! 安静にしてないと駄目じゃない!」

 倒れそうになるシンゲーン達を慌ててラムネスとミルクが支える。

「おお、申し訳ない」

「だがオニオニワールドの方々がいらっしゃると聞いては……」

「じっとしては居られぬ故」

 そう語る二人の眼差しは、まっすぐにオニタ達に向けられていた。

「だ、大丈夫オニ!?」

「何、この程度問題ない」

「然り。ココア姫が応急処置をしてくださったゆえにな。それよりも……」

「「申し訳ござらぬっっ!!」」

 と、突然シンゲーンとケンシーンがオニオニワールドの住人達に対して土下座を始めたのだ。

「お、おいお前達!?」

 突然の光景にラムネス達が驚く。

「皆様には迷惑をかけ申した!」

「伏してお詫び申し上げる!!」

 これまで見た事もない程真剣に謝罪をするシンゲーンとケンシーン。

「や、やめるオニ」

「そ、そうだオニ。もういいオニよ」

 オニオニワールドの住人達もシンゲーン達の行動に困惑している様子だった。

「そっか、シンゲーン達はこのワールドの人達に迷惑かけちゃったんだもんね」

「だから~、謝らずにはいられないんですわね~」

 シンゲーン達の突然の振る舞いの理由を察するミルク達。
 とはいえ、これでは話が進まないのも確かだった。

「ふーむ……」

 その姿を見てダ・サイダーが何やら唸る。

「どうしたのよダ・サイダー」

「うむ、アイツ等の姿を見てオレ様は思ったんだ」

 ダ・サイダーの珍しい反応に、レスカも何やら神妙な顔になる。

「……何を?」

「シンゲーンの……シンゲーン(真剣)な謝罪、ケンシーンのケンシーン(献身)的な贖罪」

 と思ったら、いつものダ・サイダーギャクだったために思わずずっこけるレスカ。

「「「「「「……」」」」」」

 更にそのダジャレのせいでレスカだけでなく、シンゲーンやケンシーン、それにオニオニワールドの人達まで目を丸くして固まっていた。

「……わ、笑えぇーっ!!」

「「「「「うわぁぁぁぁぁっ!?」」」」」

 ダジャレが通じなかったことに怒ったダ・サイダーがマシンガンを乱射し、オニオニワールドの住人達がパニックに陥る。

「くっだらな。真面目に聞いて損したじゃないの!」

「痛ぇっ!」

呆れたレスカが怒り交じりにダ・サイダーの頭を叩いて騒動を納める。
ダ・サイダーの暴走が鎮まった事でホッと一安心したオニオニワールドの人達がシンゲーン達に向き直る。
そして先頭に立ったオニタが住人達の心を代表するようにこう告げた。

「え、ええと。とにかくもう謝るのはやめるオニ。僕達はもう怒ってないオニ」

「えっ!?」

 その言葉に驚いたのは、シンゲーン達本人ではなく、彼等がドリータンク・ジュニアを降りた事で後ろからついて来たペプシブだった。

「何……で? 貴方達はこの人達に襲われたんでしょ?」

ペプシブは混乱していた。
 自分と同じように破壊戦士に襲われたオニオニワールドの人達が、何故彼等を許すのかが分からなかったからだ。

「……確かにそうオニ。でもそれはこの人達がゴブーリキに操られていたからだオニ。それに、戦いが終わった後にわざわざ僕達に謝りに来たんだオニ。そして自分達が壊した町を直す手伝いをしてくれたんだオニ」

「そんな事をしてたんだ」

 ラムネス達はシンゲーン達がそんな事をしていたとは知らず、驚きの声をあげる。

「あれは我らの未熟が招いた事態」

「ならば責任を取るは当然」

 痛みで片膝をつきながらも、シンゲーンとケンシーンはオニオニワールドの人達への謝罪をやらなければならない事だと告げる。

「でも……」

「それだけじゃないオニ。シンゲーンとケンシーンは近くを通るたびに、僕達に謝りに来たんだオニ」

 なおも納得のいかないペプシブに、オニタは彼等が何度も謝罪にやって来たと教えてくれる。

「もう良いって言ってるのにオニ」

「そうそう、だから気にしなくていいオニ」

 オニタだけでなく、他のオニオニワールドの住人達もシンゲーン達を許すと口々に告げる。

「うう、申し訳ござらん……」

「なんと心の広い方達であろうか」

「いつもこんな感じなんだオニ」

 感涙にむせぶシンゲーン達を見て、呆れたように笑うオニオニワールドの人々。
 どうやらここまでの流れが最近のオニオニワールドのいつもの光景らしい。

「そんな……」

 その光景を見て、ペプシブは自分が間違っているのかと困惑に包まれていた。

「……ココア、例の通信はどうなってんだい?」

 と、そこでレスカが強引に話を変える。

「はい~。探知機の反応を見る限り、ビーコンは地下から発せられているようですわ~」
 どうやらシンゲーン達がオニタ達に謝罪している間に、ココアはビーコンの発信源を調べていたらしい。

「じゃあやっぱりこの地下道が見つかったのは偶然じゃなかったんだな」

「ラムネスさん、この穴って何なんだオニ?」

「オレ達も良く分からないんだけど、もしかしたら今起きている事件に関係しているかもしれないんだ」

 さすがに不用意にモンエナ教授の件を告げてしまうと、彼等を不安にさせてしまうかもしれないと思ったラムネスは、詳しい事情をぼかして答える。
 同時に、シンゲーンとケンシーンに手を差し伸べる優しさをもったオニタ達が、またしても悪意に見舞われぬよう、一刻も早い事件の解決をラムネスは心に誓う。

「まっ、そういう事なら行ってみるしかねぇな!」

「そうね! 何か役に立つものがあるかもしれないもの!」

 既にダ・サイダーとミルクは地下道に潜る気満々のようである。

「よし、それじゃあ地下道に潜るぞ皆っ!!」

「「「「おーっ!!」」」」


 ◆

「真っ暗だな」

 オニタ達と別れたラムネス達は、ドリータンク・ジュニアに乗って地下道を進む。
 緩やかな円を描きながら螺旋状に下へと降りていくその軌道は、さしずめ地下へ伸びる塔のようでもあった。
 そんな地下道の構造もあって、ドリータンク・ジュニアのヘッドライトは弧を描く壁を照らすばかりで、進めど進めど最奥を照らす事はない。

「テントチ塔の地下にこんな空間があったなんてな。地下に潜る塔、地下にモグるタワー、地下に……モグッタワーなんてどうだ?」

「「「……」」」

 ダジャレ交じりに地下道を名付けるダ・サイダーだったが、ラムネス達はそんな彼のダジャレをいつものことと黙殺する。

「お、お前等ぁ~っっ!」

「では~、この地下道はモグッタワーということで~」

「「「「決まっちゃうの!?」」」」

 ココアがまさかのボケをかましたことで、思わずダ・サイダーまでもがツッコみを入れてしまう。

「おほほほ~」

 ちょっぴりココアの頬が赤いのは、ガラにもない事をして照れているからだろうか?
「けど、いったいどこまで続くんだコレ?」

 何の変化もなく延々と地下へ下り続ける事に飽きてきたのか、皆の空気がダレてくる。

「あっ、何か見えてきた!」

 ミルクの言葉に皆がハッとなって前方を見れば、確かに何かがライトの光に反射していた。
 ドリータンク・ジュニアの速度を落とし、慎重に近づくレスカ。

「あれは……壁?」

 ラムネスの言う通り、通路は壁に阻まれていた。
周囲を見回しても通路らしきものは見つからず、ラムネス達は途方に暮れる。

「なんだぁ、こんな所まで来て行き止まりだと?」

「どういう事? ここまで来て何にも無しって訳?」

「ですが~、ビーコンは確かにここから送られてきていますわ~」

「とにかく外に出て調べてみよう」

外に出たラムネス達が壁に近づくと、そこに何かが描かれていることに気付く。

「なんだコレ?」

 だが生憎と、そこに書かれていた文字はラムネス達の知らない文字だった。

「ココアお姉様。これってもしかして古代の文字?」

「みたいですわね~。でも私も知らない文字ですわ~」

 博識なココアをもってしても分からないとなると、ラムネス達ではお手上げ状態になる。
 ここまで来て引き返す事になるのかとラムネス達が頭を抱えた時、朗々とした声が地下道に響いた。

「……無限の蛇と戦う者よ。汝、力を欲するならば試練を受けよ」

「「「「「え!?」」」」」

 突如響いた声にラムネス達が振り返ると、そこにはペプシブの姿があった。

「ペプシブちゃん、この文字が読めるの!?」

「え、ええ。教……授のお手伝いをしていた時に、私もワクワク時空の研究資料を調べていましたから。その時に古代語を覚えました……」

 モンエナ教授の名を呼ぶ際に一瞬だけ言葉が止まりつつも、ペプシブは自らが壁文字を読めた理由を告げる。

「なるほど、それでか!」

「やるじゃないペプシブ!」

 ラムネス達に褒められてくすぐったい気持ちを感じるペプシブだったが、同時にそれを学んだきっかけであるモンエナ教授の顔を思い出して心が苦しくなるペプシブ。
 そんな時だった。
 突然地下道が振動を始めたのだ。

「な、なになに!? 地震!?」

「いえ、違いますわ~。これは何かが動いている音ですわ~」

 音と振動から、ココアがこれは地震ではないと敏感に察する。
 同時に、それが正解だと告げるように地下道に変化が起きた。
 正面の壁の隙間から空気の流れを感じると同時に、音を立てて壁が左右に動き始めたのだ。

「これは……!?」

「壁が動いたら奥に道ができたぞ!」

 ダ・サイダーの言った通り、壁の向こうには更なる奥へと続く道が広がっていたのだ。

「でも何で開いたんだろう?」

「もしかしたら、ペプシブさんが壁の文字を読み解いたからかもしれませんわ~」

「ペプシブちゃんが?」

 ラムネス達は半信半疑だったが、それは正解である。
 地下道に設置されたセンサーに込められた超技術が、ペプシブが壁に描かれた文字の意味を正しく理解した事を感知して奥へと続く道を開放したのだ。

「よーし! 先へ進もう!」

 ラムネス達は再びドリータンク・ジュニアに乗り込むと地下道を進み始めた。


――かつて、どこかにあった刻3――

「おーおー、皆ピリピリしちゃってまぁ」

fxゲストヒロイン告知2-復元

 その日は朝から荘厳な雰囲気に満ちていた。
 主任達が集まった場所は、神事を行う祭殿。
だがそれはただ神事を行う為の聖域というだけではなく、大勢の人間を招いて式典を行う為の巨大会場の側面もあった。
 祭殿の内部と外部には多くの撮影機材とスタッフが待機しており、トラブルが起きた時の為の治安部隊も大勢待機している。
 この世界において、神事とは一大イベントの側面も持っていたのである。
 そして主任の前に立つのは、神事を行う巫女のごとき装いをしたウルドとシルビアの姿があった。

「どう主任? 似合ってる?」

「ああ、とても似合っているよ」

 無邪気に似合っているかと聞いてくるシルビアに、主任は穏やかな笑みと共に答える。
 これまで神事の為に何度も繰り返してきたやり取りだ。

「シルビア、衣装が乱れるから落ち着きなさい」

「はーい」

 ウルドに窘められ、シルビアが不服そうに大人しくなる。

「今回の神事はウロボロスのお披露目も兼ねている。二人共慎重にな」

「はい」

「分かってるって。その為にこんなのまで付けてるんでしょ」

 と、シルビアは頭に付けた大きな星形の飾りを指さす。
 これは主任が二人の健康状態を把握する為に作ったバイタルモニターメカ、ネギCとヒロCだ。
 数週間前、突然上層部から神事の後でウロボロスのお披露目をするとの決定が下され、主任達は大慌てとなった。
ウロボロスの改修を急ぎつつ、神事で大きく疲労する姉妹のサポートをする為にと、主任が仕事の合間に作りあげたのである。

「まったく、いまだ未完成のウロボロスを社の宣伝目的の為に使うなんてな。しかも神聖な神事の日にだ」

 主任はここ最近自分が忙しかった原因である上層部の無茶ぶりに対して怒る素振りを見せるが、内心ではそんな事よりも何らかのトラブルに巻き込まれるかもしれないウルドとシルビアの事を心配していた。

「大丈夫ですよ主任」

「そうそう、主任は心配性だなぁ」

 しかし主任の心配を敏感に察したウルドとシルビアは問題ないと逆に主任を励ましてきた。

「むっ? そんなに分かりやすかったか?」

「当然! ……ってだけでもないけどね」

「主任、私達の能力を忘れましたか?」

「……あっ」

 言われてようやく思い出す主任。

「私達カンナギは、神事の前後では感覚がいつもより敏感になるんですよ」

「そっ、だから主任が私達を心配してる事なんてバレバレなんだから」

 姉妹には自分の心配などとうの昔にバレていたと理解し、途端に恥ずかしくなる主任。

「あ、あー、まぁ何だ。そういう事だ」

「「ふふっ」」

 照れ隠しにもなっていない照れ隠しに姉妹がクスリと笑う。

「良いだろ、心配なものは心配なんだ! とにかく二人共気を付けるんだぞ!」

「「はーい」」

「返事は短くハイ、だ!」

「「はい!!」」

 二人が元気よく返事を返した事で、主任はようやく安心する。

「よーし、それじゃあ行ってこい! そうそう、帰ってきたら二人にはプレゼントを用意してあるからな!」

「「プレゼント!?」」

「え? え? 何それ!? 何それ!?」

「神事の後にわたしたい贈り物って……まさか!?」

 プレゼントと聞いたシルビアは、誕生日プレゼントが待ちきれない子供のように何をくれるのかとはしゃぎ、逆にウルドは顔を真っ赤にして目を潤ませる始末。そのあまりの興奮ぶりに、二人の頭部に装着したネギCとヒロCが心拍数の異常を警告してアラームを鳴らし始めてしまうほどだった。

「落ち着け落ち着け! 神事の前だぞ!」

 予想外に食いつきの良かった姉妹の様子にびっくりしつつ、主任は帰ってきてからのお楽しみだと身を乗り出してきた二人を押し返す。

「ちぇーけちんぼ」

「でも楽しみですね」

 そわそわと待ちきれない様子でチラチラと主任を見る姉妹。

「カンナギ様、お時間です。準備を」

「わかりました」

 スタッフに呼ばれた姉妹は名残惜しそうな顔を直ぐに消し、スタッフの方を向いた時には別人のような顔つきになっていた。

「それでは参りましょうか、お姉様」

 普段元気なシルビアでさえこの変わり様である。
 それだけカンナギに求められる見(・)栄え(・・)は重要なのだろう。

(二人共頑張れよ)

 水を差さないように心の中で応援の言葉を贈ると、姉妹は後ろ手で二本の指を伸ばしてピースサインを主任に送り返してきた。
 どうやらこの感情も二人にはバレバレだったようである。

「さて、それじゃあ俺も自分の席に行くとするか」


 主任が会場に入ると、既に場内は厳粛な空気に満ち溢れていた。

(ここで時おろしの儀式を行うんだな)

≪時おろし≫の儀式、それはこの世界で最も重要な儀式の名である。
 儀式はカンナギと呼ばれる特殊な力を持った双子の巫女によって執り行われる。
 すなわちウルドとシルビアの姉妹の事である。
 彼女達は儀式を行う事で、この世界とは異なる次元にある別の世界へとつながる穴を開ける能力を持っていた。
 無論儀式というだけあって、ただ穴を開けるだけではない。
 二人の力によって穴を開けられた空間は超空間と呼ばれ、膨大なエネルギーに満ち溢れていた。
 時おろしの儀式とは、その超空間からあふれ出る膨大なエネルギーを専用のエネルギープラントに流し込み、この世界の運営の為に利用するという儀式だった。
 大雑把な言い方をすれば、姉妹の役目とは巨大な蛇口の開け閉めだ。
 それほどの膨大なエネルギーと接する為か、儀式の最中にトランス状態となったカンナギは未来予知にも似た超感覚を発揮する事もあるらしい。 

(けど、そんなものが安全な訳がないんだよな)

 主任が内心で抱いた思いの通り、膨大なエネルギーはカンナギに相当な負担を強いる。
 それこそ双子が負担を分け合ってもなお一年に一度しか行えない程だ。

(だからこそ”彼”はそれをやめさせるためにウロボロスの研究開発をしている訳だが)

 そんな事を思い出しながら主任が自分の為に用意された席に座ると、丁度儀式開始の音楽が鳴り出した。

(心配しすぎだとは思うが、本当に気を付けろよ)

 心の中で再度二人の無事を祈りながら、主任はこれより執り行われる儀式に集中する。
 そんな主任の心配そうな思念を感じながら、ウルドとシルビアは心の中で微笑んでいた。

(主任ったら、まだ心配してる)

(何度も見てきたのに、ほんと心配性だよねー)

 儀式の影響で感覚が研ぎ澄まされていた二人は、テレパシーにも似た共感覚で会話を行う事が出来ていた。

(でも仕方ないわ。あの(・・)人(・)にとって、私達の行う儀式はどうしても心配してしまうものなのだから)

(……そうだね)


 少しだけ悲しそうな思念を交わして沈黙するウルドとシルビア。
(さっ、儀式に専念するわよ。あの人を心配させないようにね!)

(うん、あれ? もう終わっちゃった? って思うくらい簡単に終わらせないとね!)

 心での会話を終えた二人は、舞を踊りながら儀式に集中していく。
そうする事で二人は思考による会話も忘れ、周囲の思考を感じる事もなくトランス状態に入っていくのだ。
 同時に超空間から溢れ始めたエネルギーが二人を包みこみ、姉妹に神秘的な美しさを与える。
 その姿を見た招待客達は、儀式を毎年見ているにも関わらずほぅと恍惚のため息を漏らす。
 それほどまでに二人の舞は美しかった。
しかしそんな中、ウルドとシルビアの二人は今年の儀式に違和感を感じていた。
 何もない、ただエネルギーだけがあるだけの場所である筈の超空間から、嫌な気配を感じたのだ。

(これは何?)

(駄目よシルビア、儀式に集中しなさい)

 不安を感じるシルビアにウルドはやるべき事を成せと思念を送る。
事実儀式の際には膨大なエネルギーがこちらの世界に流れ込む。
万が一そのエネルギーが拡散すれば、周囲に甚大な被害を与えてしまう。
だからそうしない為にも、二人はエネルギーを専用の貯蔵タンクに上手く誘導する必要があったのだ。
それゆえ姉妹は危険を感じつつも儀式に集中するしかなかった。
 超空間の奥から近づいてくる邪悪な気配を感じながら。

ラムネep38_382

「なんという事だ。このわしとした事が、このような不覚を取るとは!」

超空間の中で、それは怒りに打ち震えていた。
この存在の名は妖神ゴブーリキ。
ドキドキスペースの人々を恐怖に陥れた邪悪な神そのものである。

「忌々しい勇者共に対抗する為にワクワク時空からエネルギーを取り出そうとしたら、よもやわしの方がこちら側に吸い込まれてしまうとは!」

 ドキドキスペースの制圧まであと一歩という所まできたゴブーリキだったが、突如現れた勇者ラムネスと名乗る若者によって軍団が大打撃を受けてしまったのだ。
 お陰で侵略計画は滞り、それどころか勇者ラムネスと手を組んだドキドキスペースの住人達によって勢力を押し返されてしまう始末。
 それに怒ったゴブーリキは一計を案じ、新たな力を手に入れようとワクワク時空に眠ると言われる超エネルギーに手を出したのだった。
 しかし結果はゴブーリキ本人が言った通りの大失敗。逆に超空間の中にとじ込められてしまっていた。

「ぐぬぬ。それにしてもワクワク時空がこれほどまでに厄介なものだったとは! この妖神ゴブーリキ、一生の不覚よ!」

どうやってドキドキスペースに戻ったものかとゴブーリキが頭を悩ませていると、彼方から時空の揺らぎを感じた。

「うん? どうやら何者かがワクワク時空に接触してきたようだな。ふむ、わしの居た時代ではないか」

 ゴブーリキはその超感覚でワクワク時空に接触してきた者達を察知する。

「双子の娘……ほほう、特殊能力を持った巫女か」

 双子の姉妹……ウルドとシルビアの存在を察知したゴブーリキはニヤリと笑みを浮かべる。

「この姉妹、利用できるな」

 邪悪な企みを思いついたゴブーリキは、姉妹の存在を目印として利用すると、二人の居る世界へ無理やり道をこじ開ける。

(な、何者です貴方は!?)

(だ、誰!?)

 空間を捻じ曲げて二人の居る世界に侵入を試みた事で、姉妹がゴブーリキの存在を察知する。
 二人は慌てて儀式を中断して空間を閉じようとしたのだが、惜しくもゴブーリキが飛び出してくる方がわずかに早かった。

「ふははははははっ!! 遂にワクワク時空から解放されたぞぉーーーーーっ!!」

 ゴブーリキが歓喜の雄叫びと共に邪悪なエネルギーを周囲にばらまくと、会場のそこかしこで悲鳴があがる。

「やれやれ、この世界も人間共で溢れているようだな」

 会場を見回したゴブーリキは、禍々しい笑みを浮かべながらどう楽しもうかと邪悪な企みを巡らせる。

「ほう、面白い物がある」

 ゴブーリキが目にしたのは、白と黒の巨大なロボット、シロボロスとクロボロスだった。

「これは使えるな」

 シロボロスとクロボロスに目を付けたゴブーリキは、このロボット達を使ってドキドキスペースを混乱に陥れる事を考える。

「まてよ、いっそわしの手下として働く兵器を……いや、モンスター達を作るのも面白そうだ」

 2体のロボットに近づくゴブーリキだったが、その前にウルドとシルビアが立ちはだかる。
「ウルド! シルビア!」

 観客席から状況を見ていた主任が、二人の無謀な行動に悲鳴を上げる。

「これ以上の狼藉は許しません!」

「大人しく元居た世界に帰りなさい!」

 気丈に振舞いながらも、その足は恐怖に震える。
 当然だ。二人は超常の力を持つカンナギではあるが、戦う力を持った戦士ではないのだ。
 だがそれでも二人は立ち向かわずにはいられなかった。
 何故なら……

((あれは私達が招いてしまった! だから私達が追い返さないと! 世界を……そして主任を守る為に!!))

 たった一人の男の為に、少女達は悲壮な決意で恐ろしき妖神に立ち向かう。

「愚かな、人間ごときがこのわしに歯向かうか」

 ゴブーリキから放たれた赤く禍々しい色のビームが二人の体を撃つ。

「「キャァァァァァァァツ!!」」

「ウルド! シルビア!!」

 その光は彼女達の命を奪うものではなかった。
 それは姉妹の心をゴブーリキの手下として生まれ変わらせる為の、邪悪な洗脳の光であった。

「ふはははははっ! 安心するがいい。貴様等には利用価値がある」

「いや! やめて!」

「違う! 私達は!」

 必死でゴブーリキの洗脳に抗うウルドとシルビア。
 しかし悲しいかな、相手は圧倒的な力を持った邪悪な神。
 いかに超常の力を持ったカンナギであっても、力の差が大きすぎた。
 二人の心が邪悪な心にむしばまれていく。

「私は……わ、ワシ、は……」

「お前なんかの思い通りニ……ナラン、ケンノォ……」

 必死に耐える二人だが、その口調が、目つきが、口元が、邪悪に歪む。
 更にまっすぐに伸びていたストレートヘアはゆらゆらと揺れるソバージュヘアへと変貌していた。
彼女達を良く知っている者でも、今の二人を見たら別人だと勘違いする事だろう。

「光栄に思うがいい。お前達はこのわしの、妖神ゴブーリキの巫女となるのだ。そしてあの魔人を使ってワクワク時空に満ちる無限のエネルギーをこのわしに差し出すのだ!」

(ああ、だめ……)

(これ以上は耐えられない……)

 かろうじて正気を保っていた二人だったが、染み込むように己の価値観を塗り替えてくるゴブーリキの力に屈しそうになる。

「来るのだ、わが娘達よ! そして『時空の番(つがい)』となるがよい」

その時だった。

「ウルドー! シルビアー! 待ってろ! 今助けに行くからなっ!!」

 主任の声が二人の心に響いた。
 主任は必死で会場を走りながら、姉妹達の居る祭殿中央へと向かってきていたのだ。

「ふん、ただの人間ごときがわしに歯向かうか。だが利用価値のない貴様などに用はない! 一息に死ぬがいい!」

「「駄目ぇぇぇぇぇぇっ!!」」

 ゴブーリキの指先に力が灯った光景を見た瞬間、姉妹は一瞬ではあったもののゴブーリキの洗脳を跳ね返した。

「何っ!?」

 一瞬、しかし姉妹にとってはその一瞬で十分だった。

「邪悪な者よ!」

「帰りなさい!」

 姉妹は持てる全ての力を振り絞って、ゴブーリキを超空間へと押し戻した。

「お、おお!? 何だと!?」

 本来の二人の力ならとてもこの様な事はできなかっただろう。
 だが1つの奇跡が二人に味方をした。
 それは姉妹がゴブーリキによって洗脳された事だ。
 これによって姉妹とゴブーリキの間に精神的なリンクが生じ、カンナギの力が姉妹とゴブーリキを同一の存在と誤認させる事となった。
 これを本能的に理解した姉妹は、自分達ごとゴブーリキを超空間に追い出す作戦を実行したのである。
自分自身を超空間に吸い込む作戦は見事成功し、ゴブーリキがどれだけ抵抗しようとも、同じ存在であると誤認された姉妹が超空間に吸い込まれてしまう事でゴブーリキも強制的に超空間へと吸い込まれてしまう事となった。
もっともこれは、ゴブーリキですら逆らえない程の超空間の膨大なエネルギーがあればこその奇策であったのだが。

「ウルド! シルビア!!」

 ゴブーリキともども超空間に吸い込まれつつある姉妹に、主任の声が響く。

「ごめんねお姉ちゃん」

 シルビアがウルドに謝罪の言葉をかける。

「良いのよ。私達はもうここには居られないもの」

 ウルドがシルビアを優しく抱きしめる。

「だって私達がこの世界に残ったら、今度こそあの悪魔を呼び寄せてしまうから」

 既に自分達が洗脳から逃れる術はないと理解していた姉妹は、洗脳が完了した自分達が再びゴブーリキをこの世界に呼び込まないよう、自分達ごと追放するしかないと考えたのだ。
 全ては……

「「主任を助ける為だものね」」

 二人はカンナギの力を振るって超空間に働きかける。
早く閉じろ、早く追い出せ、と。
その結果、自分達が永遠にこの世界に戻ってこられなくても構わないという悲壮な決意と共に。

「グフフフフッ、ちょこざいな真似を。だが特別に見逃してやろう。何しろわしは今、機嫌が良いからな!」

 洗脳した筈の姉妹にしてやられたというのに、ゴブーリキは怒ることなく笑みを浮かべていた。
 そしてゴブーリキから放たれた魔力が、会場に鎮座していたシロボロスとクロボロスの巨体を引き寄せる。

シロボロス&クロボロス_提出用

「この姉妹の力があれば、再びドキドキスペースに戻る事が出来る。そしてこの2体の魔人があれば、わしは更なる力を得る事が出来るだろう! くくくっ、恐怖せよドキドキスペースの住人達よ! ハーッハッハッハッハッ!!」

 聞く者全てが恐怖に震える高らかな笑い声と共に、ゴブーリキはこの世界から姿を消した。
 破滅の嵐は、現れた時と同じように唐突に消え去った。
二人の少女達の献身的な愛と、人々の平和を守る為に生み出された2体の巨人を犠牲とする事で。

「嘘だろ? ウルド、シルビア……」

 祭殿の中央にようやくたどり着いた主任だったが、既にそこには誰の姿もなかった。
 彼に笑いかけてくれた少女の姿は、もはやこの世界のどこにもないのだ。
 ただ二つ、姉妹が身に着けていた髪飾り型のバイタルモニターメカであるネギCとヒロCが、彼女達がこの世界に存在していた証明だと言いたげに転がっていた。
 装着者の居なくなった二機のメカが、居なくなった主を呼ぶようにアラートを鳴らし続ける。

「ウルド! シルビア!……ウルド! シルビアァァァァァァッッ!!」

二人が消えた空に、主任の叫びだけが空しく木霊するのだった。


(その3へつづく!)※次回は8/4(水)更新予定です


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「NG騎士ラムネ&40 FX」上巻・ワクワクセット
■商品内容:
1)小説「NG騎士ラムネ&40FX」上巻 …1冊
2)プラキット「グランスカッシャー」 …1個
3)ワクワクディスク …1枚
※内容は全て予定です。予告なく変更になる場合がございます。
■発売元・販売元:フロンティアワークス
■価格:税込9,900円(税抜9000円+税) ■品番:FWZ-09304
■発売日:2021年12月22日 <メーカー推奨予約〆切:2021年9月1日>
※メーカー推奨予約〆切は、本商品を確実にお求めいただける推奨予約期日となります

【 「フロンティアワークス通販」「あみあみ」限定商品 】
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●大盛【プラキット2個付き】 / ●特盛【プラキット3個付き】

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