【web連載#1-1~2】NG騎士ラムネ&40 FX
■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠
■第1話「スィーッと出航! ミントな香りは冒険の予感!?」(その1)
一人の少年が戦っていた。
彼の名は二代目勇者ラムネス。
ドキドキスペースを妖神ゴブーリキから守る為に戦う正義の味方である。
ラムネスの前には巨大な怪物、いやロボットが立ちはだかっていた。
だがラムネスは恐れない。
何故なら彼もまた巨大なロボットに乗って戦っていたからだ。
「行くぞ! ……スカッシャー!!」
金色の巨人が剣を振るい敵に挑む。
だが何故だろう。ラムネスはこの巨人が自分の知っている黄金の巨人とは違う気がしていた。
敵はラムネスが駆る黄金の巨人に襲い掛かる。
ラムネスが攻撃を回避すると、近くに聳え立っていた山が砕け散る。
そんな凄まじい攻撃に臆することなく、ラムネスは挑みかかる。
黄金の巨人の攻撃もまた敵に回避されるが、その余波が大地を深く削り小さな谷を作る。
まるで天地を創造したという神々のごとき激しい戦い。
しかしラムネスに焦りも恐怖もない。
何故なら彼には共に戦う仲間達がいるのだから。
黒銀、黒、深紅の巨人が現れ、ラムネスと共に敵に挑む。
その時だった。
「ラムネス! ……内部のエネルギーがトンデモナイ事になってるミャ! このままじゃドキドキスペースが被害を受けるどころか、この世界全ての……が滅茶苦茶になるミャ!!」
敵に膨大なエネルギーが溜まりつつある事を察知した相棒が警告の叫びをあげる。
ピッ
ラムネスは気合を込めてレバーを握る。
……ピピッ……
「オレ達は……を倒すんだぁー!」
ピピピピピピピッ!!
「うわあぁぁぁっ!?」
突如鳴り響いた音にラムネスは飛び起きる。
するとそこに広がっていたのは彼が戦っていた戦場ではなく、いつも見慣れた自分の部屋だった。
「……ふえっ? 夢?」
ラムネスは寝ぼけた顔で目をこすりながら周囲を見回す。
「オレの部屋だ……」
ぼーっと部屋の中を眺めていると、次第に寝ぼけていた頭が回ってくる。
「そう……だよな。ゴブーリキはもうとっくに倒したんだもんな」
そう、かつて勇者ラムネスは妖神ゴブーリキと戦っていた。
今から5000年前、ドキドキスペースと呼ばれる異世界では、邪悪な妖神ゴブーリキが世界を支配せんと暴れまわっていた。
恐ろしい強さを誇るゴブーリキだったが、勇者ラムネスと呼ばれる若者とその仲間達の尽力によって見事封印され世界は平和を取り戻した。
だがゴブーリキは現代に復活し、再びドキドキスペースを支配せんと侵略の魔の手を伸ばしたのである。
より強大な力を得て復活したゴブーリキに立ち向かった者こそ、二代目勇者ラムネスとその仲間達なのであった。
彼等は守護騎士と呼ばれる巨大ロボットと共にドキドキスペースを駆け巡り、ゴブーリキの野望を見事打ち砕いたのである。
そして使命を終えた勇者ラムネスは本来の自分である馬場ラムネに戻り、故郷であるこのマジマジワールドで平和な生活を送っていたのだ。
「コイツを作ってたせいで変な夢を見ちゃったなあ」
ラムネは散らかった机の上に横たわるプラモデルを見つめる。
どうやら彼はこれを作るのに夢中になって、椅子に座ったまま眠ってしまったようだ。
「プラモコンテストの締め切りが近いから頑張り過ぎちゃったな」
ラムネはプラモデルを手に取り、それを横に置いてあったジオラマの上に乗せる。
「よーし完成だ! これでプラモコンテストの優勝は貰ったも同然! へへっ、優勝賞金5万円で何を買おうかな! 新しいプラモに新しいゲーム! 他にも欲しい物は色々あるもんね!」
どうやら彼がジオラマプラモデルを作っていたのは、賞金狙いだったらしい。
自分のプラモデルの出来栄えにうっとりしていたラムネだったが、ふと疑問を覚える。
「そういえばさっきの夢の中のオレ、キングスカッシャーじゃなくて別のロボットに乗ってたような気がしたんだけど……気のせいかな?」
奇妙な夢を見た事に首を傾げるラムネ。
そんな彼に下階の母親が呼ぶ声が聞こえてきた。
「ラムネーっ! いつまで寝てるの! 学校に遅れるわよー!」
その声に時計を見れば、時刻は遅刻ギリギリ。
「やっべー! 遅刻しちゃうよ!」
ラムネは慌てて制服を着ると、鞄に教科書を乱雑に詰め込む。
そして完成したジオラマプラモデルをバッグにそっと入れると、急いで部屋を出た。
「学校が終わったら急いでコンテストの応募受付しないとな!」
「ラムネーッ!」
「はーい! 今行くよーっ!」
◆
コンテストの結果発表当日、ラムネは枕に顔を鎮めていた。
「……」
そんな彼の手に握られていたのは賞金5万円……ではなく。
「参加賞……紙ヤスリってなんだよぉ~」
どうやらコンテスト優勝は逃してしまったようである。
「くっそー、賞金を当てにして今月の小遣い全額プラモコンテストの為の改造に使っちゃったよー!」
だがそれも仕方がないと言えるだろう。
プラモ業界と言えば下は幼稚園から上は隠居した老人まで、ありとあらゆる職業年齢の人間がハマるホビーなのだ。
当然他の参加者達もまた腕に自信のある猛者ばかりであり、プラモ歴の浅いラムネが勝とうとするのが無理だったのである。
「あ~あ、せめてオレもバイトが出来ればなぁ~っ!」
ラムネはまだ中学生。法律の問題でバイトをする事は出来ず、お金を手に入れる方法はもっぱら親から貰うお小遣いくらいである。
だからこそ、プラモコンテストでお金を稼ぐという分の悪い賭けに出てしまったわけだ。
「今月の小遣いは全部使っちゃったしなぁ。でもあのゲームを手に入れないとクラスの話題に乗り遅れる!」
今どきの子供達にとって、流行の品を持っているかどうか、流行りのゲームをどこまで攻略したかの情報は必要不可欠なコミュニケーションツール。
それが無ければ仲間達から孤立してしまう恐れがあるほど重要なものなのだ。
勿論単純に流行りの品が欲しいという物欲もあるが。
「あ~、どこかに大金でも落ちてないもんか」
などとありえない妄想に夢を膨らませるも、現実の厳しさをすぐに思い出してそんな事はありえないとため息を吐くラムネ。
だがそんな彼の下に救世主、いや勇者が現れた。
「金が欲しいのかラムネス?」
「誰だ!?」
突然自分の部屋に家族以外の男の声が響き、ラムネは驚きの声を上げる。
同時にすぐさま体を反転させながら起こして後ろに下がる姿は、流石かつての勇者である。
「あ痛っ!?」
ただし、勢いよく起き上がり過ぎて部屋の壁に思いっきり頭をぶつけてしまう迂闊さもまたかつての勇者らしい姿だった。
「はははっ、相変わらずドンくさい奴だな、ラムネス。もっとオレ様のように華麗に振舞えよ」
「お前は……ダ・サイダー!?」
痛みを堪えながら顔を上げたラムネが見たものは、かつての仲間の姿だった。
ヘヴィメタルミュージシャンを思わせる特徴的な髪形と改造コートを身に纏った彼の名はダ・サイダー。
彼は初代勇者ラムネスの仲間である勇者サイダーの子孫で、ラムネス達にとっては共にゴブーリキを討伐した戦友と呼ぶべき存在だった。
「で? 一体何の用だよダ・サイダー?」
しかしそんな戦友に対してラムネはややもすれば邪険な眼差しを見せる。
確かにダ・サイダーは戦士としては頼りになるが、一つだけどうしようもない欠点があったからだ。
「ふっふーん、そんな邪険にして良いのかな? オレ様はお前にスッペシャールなニュースを持ってきてやったんだぜ?」
「スペシャルなニュース?」
わずかに興味をひかれつつも、しかし相手はダ・サイダーとラムネは警戒を解かない。
「ラムネス、お前、金が欲しいんだろ? だったらバイトをしないか?」
「バイト!?」
お金が手に入ると聞きラムネは思わず期待の声を上げるも、すぐに問題を思い出して冷静になる。
「ありがたいけど、俺はまだ中学生だからバイトは出来ないんだよ」
「ん? ああ、マジマジワールドはそうだったか」
マジマジワールドとは、ダ・サイダー達ドキドキスペースの住人にとっての地球のことである。
しかしそんな問題を聞いてもダ・サイダーは肩を落とさない。寧ろニヤリと笑みを浮かべてラムネに告げた。
「安心しろラムネス。これはハラハラワールドで受けた依頼だ。だからマジマジワールドと違って中学生でもバイトは出来るんだぜ」
「マジで!?」
ダ・サイダーの言葉にラムネは目を輝かせる。
中学生である自分がバイトを出来ない理由が払拭されたなら、この美味しい話を受けない理由が無いからだ。
それがいまいち頼りたくないダ・サイダーからの紹介だという事も忘れ、ラムネは年相応にはしゃぐ。
「うぉぉぉぉぉ! ありがとうダ・サイダー! オレは今猛烈にお前に感謝してるぅーっ!!」
喜びの余り、ラムネは思わずおなじみの決め台詞でダ・サイダーに感謝を捧げる。
「はっはっはっ、気にするな。年号も新しくなったことだしな」
「へっ? 年号?」
喜びの余りラムネは失念していた。何故自分はやって来たダ・サイダーに対し、邪険な眼差しを向けていたのかを。
「令和(礼は)いいぜ、なんちゃってな!」
「…………」
突然の寒いダジャレに思わずラムネは凍り付く。
そう、ダ・サイダーの欠点。それはくだらないダジャレが三度の飯よりも大好きという趣味が原因だったのである!
「イェーイ! ダーリン最高じゃん!」
ラムネが固まっていると、突然ダ・サイダーの肩アーマーが開き中からピンク色の髪の毛を生やした黄色い蛇が飛び出してくる。
彼女の名はヘビメタコ。ダ・サイダーのパートナーであるアドバイザーロボットだ。
彼女はダ・サイダーに対して献身的な愛を捧げており、ラムネが懸念していたダ・サイダーのダジャレすら容認する(ダ・サイダーにとって)天使のような存在だった。
「ははははっ、そうだろうそうだろう!」
ヘビメタコのリアクションにダ・サイダーは上機嫌になる。
「よーし、それじゃあ依頼主の居るハラハラワールドに行くぞラムネス!」
「お、おぉう……」
ひさびさのダ・サイダーギャグに脱力しながら彼について行くラムネ。
「……ラムネス」
だがそんな彼らの会話を部屋の外から聞いている者がいる事に、ラムネ達は気づいていないのだった。
(その2へつづく!)
(C)葦プロダクション
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■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠
■第1話「スィーッと出航! ミントな香りは冒険の予感!?」(その2)
――ハラハラワールド――
「おー、ハラハラワールドも久しぶりだなぁ」
ラムネがやって来たのはかつて仲間達と共に妖神ゴブーリキ討伐の旅を始めた出発の地、ハラハラワールドだ。
そう呟いたラムネの姿はマジマジワールドの自宅で着ていた衣服ではなかった。
胸部に特徴的なメーターが付けられたプロテクターと膝を保護するニーパッドが付いた動きやすそうな衣服を纏い、腰のベルトにはナイフやポーチといったオプションを装備。
そして背中には様々な道具が入った小型バックパックを背負うというアウトドア風味な様相となっていた。
何より、そんな彼の頭部を守る角付きバイザーはまるでアニメや漫画のヒーローのようだった。
いや、まるでではない。今のラムネは文字通りのヒーロー、かつてドキドキスペースを救った伝説の勇者ラムネスなのである。
「オレは今! 猛烈にワクワクしているーっ!」
久しぶりに勇者の装束を身に纏った事で、ラムネスは再び熱い冒険が始まるのではないかと軽い興奮を覚える。
そんなラムネスがダ・サイダーに連れられてたどり着いたのは、大きな城だった。
この城の名はアララ城。かつてラムネスが繰り広げた大冒険のスタート地点となった場所だ。
「おーラムネス、久しぶりじゃのう」
そんなラムネスを出迎えたのは頭に兜の様な冠をかぶり豪奢な衣装を身に纏った背丈の低い白髪の老人だった。
「王様っ!」
この老人こそ、このアララ国を治める国王、アララ・コリャリャ・ヨッコーラ三世その人であった。
彼は二代目勇者ラムネスの旅を後方からバックアップしたそれなりに頼りになる人物の一人でもある。もっとも、すぐパニックに陥るが。
「久しぶりだミャー、ラムネス」
「タマQ!」
アララ王と共に現れたのは、薄緑色の饅頭のような生き物だった。
彼の名はタマQ、勇者ラムネスのパートナーであるアドバイザーロボットだ。
タマQは器用に飛び跳ねると、定位置であるラムネスの左肩に飛び乗る。
相棒と再会した事もあって、ラムネスの心は更に冒険の予感に沸き立つ。
「バイトってもしかして王様の手伝いなの?」
一国の王に対する態度ではないが、アララ王はそれを咎めたりはしない。
それはこのアララ国の気風もあるが、なによりアララ王本人が大らかな人物だからだ。
「いいや、ラムネス達に仕事を頼みたいと言ってきたのはわしの古い知り合いなんじゃ」
「王様の古い知り合い?」
(王様の知り合いって事は、別の国の王様とかかな?)
「そこから先は私が説明をしよう」
ラムネスが首を傾げていると、聞き覚えのない男性の声が聞こえてきた。
「初めまして勇者ラムネス君、私の名前はモンエナ。メリケンブリッジ大学の教授をしている者だ」
「うわっ顔怖っ!?」
ラムネスが驚いたのも無理はない。
モンエナと名乗ったこの男は非常に目つきが悪く、更に目の周りは深い隈に覆われていたからだ。
控えめに言っても悪人にしか見えない目つきの悪さである。
「はははっ、驚かせてすまない。仕事が忙しくて徹夜続きでね。お陰で顔色が悪すぎると生徒達にも苦情を言われているんだ」
「は、はぁ……顔色ってレベルの問題かなぁ……」
及び腰になりつつも、ラムネスはモンエナ教授が差し出してきた手を握る。
「そ、それでオレ達に頼みたい仕事って何ですか? えーっと……モンエナ、教授?」
「そーいやオレ様もその辺はまだ聞いてなかったな」
するとモンエナ教授は嬉しそうに笑みを浮かべる。
本人的には純粋に嬉しかったのだと思われるが、いかんせん徹夜続きで人相が凶悪になっている為、その笑顔は非常に怖かった。
((怖ぇーっ!!))
「うむ、よくぞ聞いてくれた! 私が研究しているのはあのワクワク時空だ!」
「「ワクワク時空?」」
(えーっと、何だっけ? 聞き覚えはあるんだけど)
(なーんだったかな。結構最近に聞いた気がする名前なんだが)
聞き覚えのある言葉に、ラムネスとダ・サイダーは思わず小声で相談を始める。
「ワクワク時空とは不思議な亜空間の事でな、その内部には膨大なエネルギーが眠っているらしいのだ。しかしその空間の内は非常に不安定で、古代の資料の中には時間を超越して過去や未来に行ったという者もいるそうだ」
「過去や未来!?」
信じられない話にラムネスとダ・サイダーは目を丸くする。
「なにそれマジで!?」
「はー、そいつはちょっとしたタイムマシンだな。あれ?タイムマシン?」
「時間を超越?」
モンエナ教授の言葉にまたも記憶を刺激されるラムネス達。
「うむ。そのエネルギーを利用すれば人類は無限のエネルギーを手に入れる事が出来るだろう! そしてつい最近、ウラウラの谷にあるパフパフ宮殿にワクワク時空についての詳細な資料があるとの情報を得たのだ!」
「ウラウラの谷!?」
「パフパフ宮殿!?」
その名前を聞いた瞬間、ラムネスとダ・サイダーの脳裏に刻み込まれた記憶が呼び起こされた。
「ゴールドちゃん!」
ラムネスの脳裏にパフパフ宮殿で出会ったナイスバディの美少女ゴールドマウンテンの放漫な胸が思い出される。
「シルバーちゃん!」
ダ・サイダーの脳裏に同じくパフパフ宮殿で出会ったナイスバディの妹シルバーマウンテンの魅惑のお尻が思い出される。
「そうそう、ワクワク時空と言えばゴールドちゃん達と戦った時に出てきた名前だっけ」
「ああ、そういえばそんな事言ってたな」
ゴールドマウンテンとシルバーマウンテンのマウンテンデュー姉妹は、かつてラムネス達に助けを求めてきた美少女達だ。
だがそんな彼女達の正体はラムネス達が敵対していた妖神ゴブーリキの巫女だった。
そして彼女達は自分達の色香に誘われてやって来た自称勇者達のエネルギーを奪い、ラムネス達の愛機の試作品であるプロトタイプキングスカッシャーとプロトタイプクィーンサイダロンを復活させて彼等に襲い掛かって来たのだ。
戦いは熾烈を極め、何とかラムネス達は勝利を得る事が出来たが、彼女達の執念は凄まじく、戦いに決着がついた後もなお生き残ってラムネス達に襲い掛かろうとしてきたのだ。
幸いにもウラウラの谷にあった時限爆弾岩の爆発に巻き込まれた事で、彼女達は次元の狭間に流されていったのだが、死闘を繰り広げたラムネス達にとっては恐ろしい敵であった事は間違いない……のだが。
「あー、ほんとに可愛かったよなゴールドちゃん」
「ああ、敵だったのが惜しいくらいだぜシルバーちゃん」
喉元過ぎれば熱さを忘れるの言葉通り、戦いが終わって彼女達の復讐から逃れる事が出来たラムネス達は姉妹の美しさとスタイルの良いボディを思い出してニヤけていた。
「……話を戻していいかね君達?」
その言葉にラムネス達が我に返ると、目の前に子供が見たら漏らして泣き出しそうなほど怖い顔でこちらを睨みつけてくるモンエナ教授の顔面があった。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁごめんなさーい!!」」
「うむ」
「あー、びっくりした」
モンエナ教授の人相の悪さに心臓が飛び出そうになるほど驚いたラムネス達は落ち着くために深呼吸を繰り返す。
「クスクスクス」
そんな時だった。
突然男だらけの空間に鈴の音のように爽やかな少女の笑い声が聞こえてきたのである。
「え!? 誰?」
「ゴメンナサイ、驚かせちゃいましたか?」
物陰から姿を現したのは、ハンディ掃除機を抱えた美しい少女だった。
「君は……っ!?」
近づいてくる少女の姿を見たラムネスが固まる。
「ほう」
反対にダ・サイダーは感心したように少女を見た。
「か、可愛~い!」
ラムネスが言った通り、少女はとても可愛かった。
青く長いツインテールの髪がサラリと風に舞う様はまるで妖精の羽のようで、ラムネス達を見つめるミントブルーの瞳は彼等をドキリとさせた。
「私はペプシブ。モンエナ教授の助手をしているの。よろしくね!」
「は、はい! 僕はラムネスです! よろしくねペプシブちゃん!」
「ふふ、よろしくラムネス君!」
「君っ!?」
ペプシブの見た目はおおよそだが17、8歳くらいと、まだ成人していないようで少女特有のあどけなさが残っていた。
だがそれでもラムネスにとっては大人に等しい女性であり、そんな女性からラムネス君と年上ムーブをされたのだからラムネスの年上のお姉さん熱が高まるのは当然と言えた。
「オレ様はダ・サイダーだ。よろしくなペプシブ」
対してダ・サイダーはクールに挨拶を決める。
ラムネスに比べれば人生経験を積んでいるダ・サイダーであるし、彼にとってはペプシブは年上の女性ではなく同年代に近い相手だ。
ラムネスに比べれば落ち着いて対処のできる相手だった。
もっとも、内心では年齢が近い事を利用してペプシブを呼び捨てにすることで、ラムネスに先んじて密接な関係を築こうという打算が張り巡らされていたのだが。
「よろしくねダ・サイダー君!」
二人に挨拶をすると、ペプシブは腰のポーチから何かを取り出しラムネス達の手の上に乗せる。
「これはお近づきの印よ! スィーッとするわ」
「お近づきの印?」
「なんだこりゃ?」
二人は自らの手のひらの上に置かれたものを見ると、そこにはミント色をした四角い物体が置かれていた。
「それはミントチョコよ! 私のお気に入りのおやつなの!」
「へー、ペプシブちゃんはミント味が好きなんだ!」
女の子から手渡しでお菓子を受け取り、ラムネスは最高に興奮する。
「そうなの! このスィーっとした味が良いのよ!」
「あー、ミント味かぁー。オレ様はどうもこのハミガキ粉みたいな味が苦手なんだよな。なんか食い物を食ってる気がしねえんだよ」
逆にダ・サイダーは味が好みでない為に微妙な表情になる。
だがそれがペプシブの逆鱗に触れた。
「ちーがーいーまーすー!」
「は?」
ペプシブは先ほどまでのにこやかな笑顔から一転、真剣な顔でダ・サイダーに詰め寄る。
至近距離まで美少女の顔が近づき、大人の男ムーブを心がけていたダ・サイダーもさすがにドキリとしてしまう。
「ダ・サイダー君は間違ってます! ミントが歯磨き粉味なんじゃなくて、歯磨き粉がミントの味なの! 順番を間違えちゃ駄目よ!」
「は、はい……」
ペプシブの勢いに押されたダ・サイダーに、これ以上反論するのは危険だと歴戦の戦士の勘が囁く。
男には女に逆らってはいけない時があるのだ。主に彼と腐れ縁の女性が怒った時などに。
「ん、分かって貰えたなら良いんです。さっ、一緒に食べましょ!」
そういってペプシブはアララ王とモンエナ教授にもミントチョコを手渡す。
「スィーっと頂きます!」
「頂きまーす!」
「へいへい」
パクリとチョコを食べると、ペプシブは満面の笑みを浮かべる。
「んーっ! お口の中がスプラッシュしそうな爽快感! やっぱりミントチョコはサイコーッ!!」
その弾けんばかりの笑顔は、これまでラムネスが出会った女の子達の中で一番爽やかさに溢れたものだった。
もっとも、新しい女の子に出会う度にそのデータは更新されるのだが。
モグモグと貰ったミントチョコを食べつつ、ラムネスとダ・サイダーは自然な動きで近づいて囁き合う。
「ダ・サイダーさんダ・サイダーさん」
「ああ、分かっているともラムネスくん」
二人は突然わざとらしく敬語でお互いの名を呼びあう。
その眼は相手がなにを言おうとしているのかを既に理解している目だ。
「「この仕事、ミルク/レスカ達には内緒で出発しよう!!」」
美少女と一緒の旅とくれば、腐れ縁の女性達に内緒で出かけたい。
((そして旅先で関係を深めムフフな展開を……))
と期待してしまうのは、若い2人ならばある意味当然なことと言えた。
しかし、そううまくいかないのが世の中というものである。
「「「そうはいかないわよ!!」」ですわ~」
アララ城の中庭に、三人の女性の声が響き渡る。
「「げぇっ! この声はっ!?」」
これまで何度も聞いてきた馴染み深い声に、ラムネスとダ・サイダーの体が本能的に震え上がる。
「あたしに隠れて女の子と仲良くしようなんて、百年早いのよ!」
現れたのはピンク色の髪の少女だった。
「ミ、ミルク!?」
「まったく、アンタって奴は!」
次いで姿を現したのは金髪にメッシュをかけた美女だ。
「レ、レスカぁーっ!?」
「あっ、私は付いてきただけです~」
最後に現れたのは、紫の髪に今時珍しい底の分厚いグルグルメガネをかけた少女だった。
「ココアァ~!」
彼女達こそ、このアララ王国が誇る美少女三姉妹にして王位継承権を持つ正真正銘の姫君達であった。
ピンクの髪の少女は三女にしてラムネスと共に冒険を繰り広げた少女、ミルク姫。
元気で誰とでも仲良くなれる良い子だが、度を越した食いしん坊なのが玉に瑕。
ラムネスとは恋人のようで恋人でないような微妙な関係を続けている。いや恋人なのだろうか?
次いで紫の髪の少女は次女にして同じくミルクと共にラムネスの冒険を支えたココア姫。
その知識はすさまじく、ラムネス一行の知恵袋にして様々なサポートメカを開発してきた天才発明家でもあった。
唯一の欠点は驚くほどノンビリ屋なところであろうか。
ちなみに分厚い眼鏡の奥はとんでもない美少女で、特定の恋人が居ない事もあって彼女の隠れファンは多い。隠れてないファンも多い。
最後の金髪メッシュの美女は長女のカフェオレ姫。
しかしある事情から仲間達からはレスカと呼ばれている。
アララ国の次期女王として勉強の日々に悲鳴を上げているが、なんだかんだとピンチには長女として頼りになる女性である。
なお、ダ・サイダーとは恋人のように見えていそうでないようでやっぱり恋人なのかなという、これまたいまいち進展しない仲だった。
そんな彼女達はどこかで見た事のある動物の形をしたメカに跨って、アララ城の天辺からラムネス達を見下ろしていた。
その構図はさしずめ裁判官と判決を待つ被告のようでもある。
「な、何故バレたんだ……!?」
「ふっふっふっ、このあたしに隠し事は通じないのよ!」
などとミルクは誇らしげに語るが、実際のところは単にダ・サイダーがラムネスの部屋で騒いでいたのが原因である。
何しろミルクはラムネスの実家である馬場家に居候しているのだから、あれだけ騒がれれば気付かない筈が無い。
それが恋人の部屋であればなおさらだ。
もっとも、その理由はラムネスが自分に内緒で美味しい物を食べているのではないかという食いしん坊特有の勘繰りからだったのだが。
「さぁ! お仕置きの時間よ、ラムネス!」
ミルクが自分の乗る金色のライオン型メカの頭部に設置されたゲームコントローラー型ハンドルを握ると、ライオンが駆け出し宙へと飛び出す。
「あ、危ないっ!?」
更にココアの乗る赤い馬型メカとレスカの乗る黒いパンサー型メカもそれに続く。
「チェインジ!」
ミルクの掛け声に合わせ、三人の乗るメカの目が輝くと、その体が展開を始めミルク達の体に装着されてゆく。
そうして動物型メカだったそれらは、ミルク達三姉妹を守る鎧へと姿を変えていた。
「正義の姫騎士、プリンセスカッシャー!」
「なにそれカッコいい!?」
あまりのカッコよさに、思わずラムネスが突っ込む。
「英知の探究者、プロフェッサームですわ~」
「そしてあたしが未来の女王、セレブサイダロンよっ!」
器用に空中でポーズを決めるミルク達。若干ココアだけがバランスを崩していたが。
「ラムネス!」
「ダ・サイダー!」
「「お仕置きよぉーっ!」」
「「ひぃーっ!?」」
空中から降って来たミルクとレスカがラムネスとダ・サイダーに飛び蹴りとラリアットを喰らわせる。
パワードスーツとなった動物型メカによって強化された少女達の力は何倍にも増幅され、哀れ二人の勇者達は木の葉のように吹っ飛ばされた。
「「まだまだぁーっ!!」」
だが二人の姫君の怒りがその程度で収まる事はなく、吹き飛んだラムネス達をすさまじい速度で追いかけ更なる追撃を行う。
「てぇりゃぁぁぁぁ! プリンセスカッシャーハリケーン!!」
「そいやぁぁぁぁぁ! セレブサイダロントルネード!!」
「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」」
二人のプロレス技を喰らい、ラムネスとダ・サイダーが悲鳴を上げる。
「っていうか、お姉さまだけ語呂悪くない?」
ラムネスにお仕置きを続けながら、ミルクがレスカのパワードスーツの語呂の悪さに疑問を呈する。
「うっさいわね! 未来の女王でアララ国の全てを手に入れるあたしにぴったりのネーミングでしょ!」
「セレブって言うより、“それブス”の方がブスねーちゃんにはお似合いじゃん?」
地面に突っ伏していたダ・サイダーの肩アーマーから姿を現したヘビメタコが、レスカのネーミングセンスに苦言を呈する。
「なぁーんですってぇ!」
「ぐあっ!?」
しかし突然ダ・サイダーが苦しそうな悲鳴を上げた事で、もしかしてやり過ぎたんじゃないかとレスカが慌てる。
「え? 何!?」
「セレブじゃなくて、それブス! くぁぁ~!面白すぎるぞメタコ! 悔しぃ~!」
「照れるじゃんダーリン!」
だがダ・サイダーが呻いたのは痛みが原因などではなく、単にヘビメタコのギャグに心からウケたからという下らない理由であった。
「うう、オレ様も何か素晴らしいダジャレを……!」
「ダジャレを! じゃなーい!」
怒りが頂点に達したレスカは再びダ・サイダーにお仕置きの一撃を放つ。
「ぐぼぁっ!」
「とりゃぁー!!」
更にレスカの追撃がダ・サイダーを襲う。
「ぎゃぁーっ!?」
「い、今のうちに……ペプシブちゃーん、助けてぇー」
ダ・サイダーに皆の意識が向いている内に、ラムネスはペプシブに慰めて貰おうと這いずっていく。
だがそれはあまりにも軽率な行動だった。
「へぇー、まだ反省が足りなかったみたいね」
ラムネスの背後で、般若の形相をしたミルクが仁王立ちしていたのである。
「ギクッ!」
「お仕置き延長戦よぉーっ!!」
再びラムネスへのお仕置きが行われ、アララ城に悲鳴が上がる。
なおそんな光景には慣れているのか、アララ城の兵士達は慌てず平常運転だ。
ああ、また勇者様達が姫様達にお仕置きされているよといった顔で通り過ぎてゆく。
薄情なのか信頼されているのか微妙な対応だ。
「あらあら、二人共元気ですわねぇ」
そんな姉妹達の姿を見ながら、一人ココアだけが優雅にティータイムを始めていた。
彼女が纏っていた馬型パワードスーツは椅子と机が一体になった簡易デスク形態となっていた。
どうやら彼女のパワードスーツは戦闘用というよりは、作業用の側面が強いもののようである。
「あっ、そうそう~、私達も調査に同行いたしますわぁ~」
さらりとお出かけについて行くノリで、ココアはモンエナ教授に同行を宣言する。
「ワクワク時空に関しては~私も興味がありますから~」
「そ、それは構わないが……彼等は良いのかね?」
困惑しつつもココアの同行を受け入れたモンエナ教授が、今もなおお仕置きを受けているラムネス達を指さす。
「おりゃりゃりゃりゃー!」
「ごめんなさい許してミルクさんっ!」
「許すかぁー!」
「ほんっとアンタってヤツは毎回毎回!」
「す、すまんレスカ! もっと良いダジャレを考えてやるから!」
「そうじゃねぇーっ!」
「ダーリンに酷い事するなじゃん、ブスねーちゃん!」
そのカオスにも程がある光景に視線を向けたココアだったが、すぐに視線を戻しモンエナ教授たちに告げる。
「……いつもの事なので、気にしなくて大丈夫ですわ~」
「「は、はぁ……」」
本当に彼らに任せて大丈夫なのかと、不安になる二人だった。
(その3へつづく!)※5/19(水)公開予定です
(C)葦プロダクション