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【web連載#3-3】NG騎士ラムネ&40 FX

■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠

■第3話「反撃の糸口! 巨大ゲームで大特訓!」(その3)

ラムネ外伝サブダイ_1609デザイン_03

――現代――

「ところで、さっきの無限の蛇云々ってなんだったんだろ?」

 ラムネスが壁に書かれていた文章の意味に首を傾げていると、ペプシブがおずおずと自らの推測を語りだす。

「た、多分ですけど……無限の蛇というのはホロボロスの事だと思います……」
「「「「「あっ!」」」」」

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 ペプシブの言葉を聞いて、ラムネス達は自らが戦ったシロボロスとクロボロス、そしてその2体が合体したホロボロスの事を思い出す。
「ホロボロスの本来の名前のウロボロスは、自分の尻尾を咥えた蛇の事を意味します」

「そういえば」

 ダ・サイダーは自分達と戦った時に、シロボロスとクロボロスがお互いの尻尾を加えて円を描いた事を思い出す。

「あれは無限を意味する記号でもあるので、壁に描かれていた無限の蛇はホロボロスで合っていると思います。」

「「「「「おー! さすがメリケンブリッジ大学の現役学生!」」」」」

「あ、あはは、どうも」

 称賛するラムネス達に対し、ペプシブは歯切れの悪い返事をするのが精いっぱいだった。
 今の彼女にとって、モンエナ教授を思い出す記憶は全てが苦痛になってしまうのである。

「って事はさ、その後の力を欲するならば試練を受けよってのは、ここにホロボロスを何とかする武器か何かがあるって事なんじゃないのか!?」

「きっとそうよ!」

 ラムネスの楽観的な予測に、ミルクも目を輝かせて同意する。
 あくまでも願望にのっとった希望的観測でしかないものの、ラムネス達はそこに希望を見出していた。
 しかし、そんな光景に水を差すかのように突如ドリータンク・ジュニアから異常な音が鳴り響いた。

「お、おお!?」

 そしてガクンガクンと荒れ地を走っているかのように機体が揺れたかと思うと、そのまま動かなくなってしまった。

「おいおい、どうしたんだ!?」

「どうやら~、とうとう本格的に限界が来たみたいですわ~」

 ココアの言う通り、応急処置をして騙し騙し進んできたドリータンク・ジュニアだったが、ここにきてとうとう完全に止まってしまった。

「ここまで来てかー!」

「おいおい、どうするんだよ」

 ラムネス達が途方に暮れる中、ふとミルクは奇妙な音に気付く。

「ねぇ、何か音が聞こえない?」

「ん? 音?」

「何だ何だ?」

 ラムネス達は動かなくなったドリータンク・ジュニアを降りると、ミルクの言う音の発生源を探す。
 それはすぐに見つかった。通路を少し進んだ先に、大きな施設が姿を現したのだ。
 そこには大きな作業台やその上に並べられたいくつもの工具、そして天井から釣り下がった巨大なクレーンの姿があった。

「これって……!?」

「もしかして工場か!?」

 それはまさしく工場だった。
 周囲を見れば、見た事のない機械がいくつも鎮座しており、それらの機械は今もなお稼働してるようだ。

「これはいけそうですわね~」

「いけそうって?」

「この工場を使えば~、ドリータンク・ジュニアの修理が出来そうですわ~」

「「「「おおーっ!!」」」」

 ドリータンク・ジュニアの修理が出来ると聞いて、ラムネス達が歓声を上げる。
「それだけではなく~、シンゲーンとケンシーンの修理も出来そうです~」

「「「「おおおーーっ!!」」」」

 更にシンゲーンとケンシーンの修理も出来ると分かり、更に歓声をあげるラムネス達。

「ラムネス~、ダ・サイダー。ドリータンク・ジュニアを運ぶ手伝いをしてくださいまし~」

「よーし、まかせとけ!」

「しょうがねぇなー」

 二人はメタルコインと横笛を取り出すと、タマQとヘビメタコにカプセルを吐き出させる。
そしていつものようにカプセルと勢いよく放り投げて互いの相棒を呼んだ。

「シュパーン!!」

「デュワッ!!」

ラムネ01_0444

 守護騎士に乗り込んだラムネス達は、通路で擱座していたドリータンク・ジュニアを押して工場へと運び込む。

「では私はここで修理をしていますわね~」

「じゃあオレ達は今のうちに奥の方を探索してくるよ」

 守護騎士に乗ったまま、ラムネスとダ・サイダーが通路に戻ろうとすると、ミルク達がついて来た。

「ラムネスー! 私も一緒に行くわー!」

「ここに居てもとくにする事もないだろうしね」

「わ、私も行きます!」

「おっけー」

 ミルク達の同行を受け入れたラムネス達は、彼女達を自らの守護騎士の肩に乗せる。

「「「「それじゃ行ってきまーす!」」」」

「はーい、気を付けて行ってきてくださいまし~」

 工場を出たラムネス達は、ゆっくりと奥へ進む。

「うーん、こうやって進むと結構雰囲気あるわね」

 乗り物の中から見るのではなく、地下道のひんやりした空気を肌に感じながら進む事で心細さを感じるミルク。

「まぁオレ達が居るんだから、心配ないって!」

 それに対して自らの胸を叩いて太鼓判を押すラムネス。

「しっかりあたし達を守ってよね!」

「おっけーおっけー。まっかせなさーい」

「けどよ、試練ってのは何をするんだろうな」

 と、そこでダ・サイダーが話を探索に戻す。

「汝、力を欲するならば試練を受けよ、だっけ。普通映画とかだと、沢山の罠に阻まれた迷宮を突き進んだり、最後はボスと戦ってお宝を手に入れるってのがお約束だけど……」

 と、そこでラムネスは自分達が進む地下道を見回す。

「罠、無いよなぁ」

「無いわよねぇ」

 行く手を阻むものが何もない平坦な道を見ながら首をひねるラムネス達。
「とか言ってたら何か見えてきたわよ」

 レスカの警告に全員がハッとなると、確かに通路の奥に光が見えてきた。
 改めて注意をしながらラムネス達が歩みを進めると、光の正体がおぼろげに見えてくる。

「なんだあれ? 扉?」

扉の上にはまるでお店の看板のように何か文字が書かれている。

「読めるペプシブ?」

「は、はい! ええと……」

 ミルクに促され、ペプシブが看板に書かれた文字を翻訳する。

「ネオ……G……オの間? すみません、他の文字は劣化していて読めませんでした」

 ペプシブの言う通り、看板に書かれた文字の一部が読めなくなっていて、彼女はかろうじて読める部分だけ翻訳するしかなかった。

「じゃあとりあえずネオ・G・オの間って事で」

「この奥に試練があるって事か?」

「おそらく……」

「ならビビるこたぁねぇ! 一気に入って一気に試練を終らせてやるぜ! レスカ、降りてな!」

「はいよ!」

 ダ・サイダーの指示を受ける前に既に降りていたレスカが、すぐに離れた場所に移動する。

「ミルク、ペプシブちゃん!」

「オッケー!」

「はい! ミルクさん、後ろに乗ってください。スイッと降ります!」

「えっと、こう?」

 ペプシブとミルクが小型クリーナーの上に跨ると、二人の体が浮き上がる。

「お、おおーっ!?」

そして二人を乗せたままキングスカッシャーから降りてゆく。

「行くぞダ・サイダー!」

「足引っ張るんじゃねぇぞラムネス!」

 いつもの掛け合いと同時に、キングスカッシャーとクィーンサイダロンがネオ・G・オの間の扉を乱暴に開けて飛び込む。
 そしてすぐさま周囲を警戒しながら武器を構える。
 室内は灯りに満ちていて視界に不安はなかった。
室内はかなり広く、キングスカッシャーとクィーンサイダロンという巨大ロボットが2機入ってもなお余りある広さだ。
それこそこの中で戦闘をしても余裕だろう。

「かなり広いな。けど……」

「何もないぞ……!?」

 互いの背中を守りながら周囲を見回すラムネス達だったが、室内には何も見当たらない。

「ラムネース! 天井に何かあるわよーっ!」

 警戒していたラムネス達に、ネオ・G・オの間の入り口からミルクが天井を指さして叫んだ。

「天井?」

 上を見ると確かに何かキラキラとしたものが天井に見える。
 離れた場所から全体を見ていたミルクだからこそ、ラムネス達に先んじて天井の異変に気付くことが出来たのだろう。

「あれは……ラムネの瓶?」

ラムネスの言う通り、天井から巨大なラムネの瓶のようなものが釣り下がっていた。
ただし瓶の中に入っているのは甘いジュースではなく、キラキラと光る砂のような物体だった。
とその時だった。
天井から放たれた光がキングスカッシャーとクィーンサイダロンを照らす。

「うわぁぁぁぁぁ!?」

「な、なんだぁー!?」

 もしや敵の攻撃かと警戒する二人だったが、キングスカッシャーとクィーンサイダロンには何のダメージも起きない。

「これは……キングスカッシャーとクィーンサイダロンを調べているミャア?」

 その中でタマQは一人、光がキングスカッシャーとクィーンサイダロンの各所にスポットライトのように光を当てて調べている事に気付いた。
そして光が消えると共に天井から吊り下げられていたラムネ瓶の中の砂が輝きだし、小気味よい音と共に良く振った炭酸飲料のように猛然と噴き出した。

「「おお!?」」

 すると噴き出した砂は地上のラムネス達の前に集まっていき、一つの形を創り出したではないか。

「こ、こいつは!?」

 今度こそ試練が現れるかと身構えたラムネス達だったが、完成したその姿に目を丸くする。
 そこに現れたのは、巨大な縦長の直方体と、これまた巨大な横長のベンチシートだったからだ。

「な、なんだこれ?」

 いったいこれは何なのかと首を捻りながら近づいた二人は、直方体の上面に傾斜状のモニターといくつものボタンやレバーがある事に気付く。

「何かの装置か?」

「んー? なんか似たようなものをどこかで見たことあるような……」

「奇遇だな。オレ様もだ」

 ラムネスとダ・サイダーが自分達の記憶の片隅に引っかかる記憶をあさっていると、突然目の前の巨大モニターが輝きだす。
そして同時に電子音声が室内に鳴り響いた。

『ガーディアン・ナイト!!』

「え?」

 そこに表示されたのは、ドット絵で描かれた2体のロボットだった。
 そして真ん中には 1 PLAY START◀ 2 PLAY STARTと文字が点滅している。

「って、これゲーム機じゃん!?」

 そう、まさにこれはゲームセンターなどでよく見かけるゲーム筐体であった。
それも巨大ロボットサイズのゲーム機である。

「まさかこれが試練なのかよ!?」

 よもや試練が巨大ゲーム機とは思わず、ラムネスとダ・サイダーは困惑の表情を浮かべる。
「うーん、本当に試練なのかぁー?」

 怪訝そうに巨大ゲーム機を眺めていたラムネスだったが、このまま眺めていてもしょうがないと意を決する。

「まずはやってみるしかないな!」

ラムネスはキングスカッシャーを操縦してゲーム機前のベンチシートに座る。

「待て待て、まずはオレ様からだ!」

 するとダ・サイダーのクィーンサイダロンがグイグイと割り込むようにシートに座ってきた。

「狭いんだよお前! 肩アーマー当てるな!」

「お前こそシールドがぶつかるんだよ!」

 2体の巨大ロボットがゲームをプレイする為にお互いを押しのけ合う光景が広がる。

「もー! ケンカしないの! 譲り合って座ればいいじゃない!」


「そうだよ! 大人げない事やってないで真面目にやりな!」

「「へーい」」

 ミルク達に叱られ、二人はしぶしぶベンチシートを分け合う。


「なんだ、ちゃんと2プレイできるんだな」
 見れば巨大ゲーム機には複数プレイが出来るように、二人分のボタンとレバーが設置されていた。
 二人は長椅子とゲーム機の横に互いの機体のシールドを立てかけると、ようやく試練を開始する。

「この光景、学校帰りにゲームセンターに寄り道する不良学生って感じがするわね」

「それ生徒指導の先生に怒られるやつじゃないの?」

「よーし、やるぞー」

 ラムネスがレバーを操作して2プレイモードを選択すると画面がキャラクター選択画面へと移り、スタート画面に表示されていた二体のロボットの姿が表示される。

「なるほど、この2体のロボットから選ぶのか。ならオレはキングスカッシャーに似た金色のロボットだ!」

「当然オレ様はクィーンサイダロンに似た、気品漂う黒いロボットの方を選ぶぜ」

 二人がロボットを選ぶと、次はステージ選択画面が表示される。

「へぇ、三つのステージから選べるのか。まぁどれがどうなのか分からないし、適当でいいか」

ラムネスは無造作に一番上にあるステージを選ぶ。

「それじゃあゲームスタートだ!」

「ゲームじゃなくて試練でしょ! まぁ、ゲームにしか見えないけど」

 などとミルクがツッコんでいるうちに、試練がスタートする。

「横スクロールなんだな」

 マジマジワールドでは格闘ゲームが流行している為、久々の横スクロールアクションの操作にラムネスはワクワクする。

「おっ、敵が出てきたぞ」

「オレ様が倒してやるぜ!」

ラムネスが感慨にふけっている隙をついて、ダ・サイダーがゲームの中の敵に向かって自キャラを進ませる。
そのレバー捌きは非常に慣れた様子で古参ゲーマーに多い、いわゆる『ワイン持ち』でレバーを軽快に操作していた。

「しまった!」

慌てたラムネスがすぐにレバーを傾けてダ・サイダーを追う。
しかし普段家庭用ゲーム機のコントローラー入力に慣れているラムネスはダ・サイダーの滑らかな動きに一歩遅れを取る。

「っていうか! 何でゲーセンのコントローラーなんだよ! せめてキングスカッシャーの操縦システムと同じにしてくれーっ!」

「ふははははっ! ハラハラスポーツランド・アララ館で慣らしたオレ様の操作テクを見るがいい!」

 初撃破を確信するダ・サイダー。
しかし攻撃が命中する直前、敵がジャンプをして攻撃を回避する。

「な、何ぃ!?」

 まさか避けられると思っていなかった為に、ダ・サイダーは追撃し損なう。

「チャンス!」

 そして追いついたラムネスがこれを好機と降りてくる敵に攻撃を放ち、見事初撃破を成し遂げた。

「やったー! オレが倒したー! クラスで『ゲーマーラムちゃん』と呼ばれた腕前は伊達じゃないぜ! 近所のゲーセンじゃ敵無しさ!」

「くっそー! 次の敵はオレ様が倒してやる!」

 敵を先に倒され、ダ・サイダーが悔しがる。

「へへーん、次の敵もオレが倒すもんねー」

 その後に現れた敵を、ラムネスとダ・サイダーが互いに競うように撃破していく。

「それにしても、キングスカッシャーによく似たゲームだなぁ」

ラムネスが口にしたキングスカッシャーとは、彼が今まさに乗っている守護騎士の事ではなく、ラムネスが勇者たる証明となったゲームソフトの事である。

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「ん? そうなのか?」

 キングスカッシャーをプレイした事のないダ・サイダーは試練に熱中しながら上の空で聞いてくる。

「ああ、もっともオレにかかれば大したこと無かったけどね」

「はっ、オレ様ならもーっと超余裕でクリアできただろうぜ」

「いーや、ダ・サイダーじゃ一面でゲームオーバーだね」

「なんだとーっ!」

「もー、何やってるのよー」

 二人が口論を繰り返しながら進んでいくと、突然敵が現れなくなる。

「何だ? もう終わりか?」

「いや違う!」

 ゲームに慣れ親しんだラムネスは、すぐにこれから何が起きるのかを理解していた。

「ボスが来るぞ!」

 ラムネスの言う通り、上空から凄まじい速さの何かが飛び込んできた。
 そしてボスは画面の中ほどで一旦止まるとゆっくりと地上に降り立つ。
「ほう、コイツがボスか」

 ダ・サイダーがニヤリと笑みを浮かべる。

「ならコイツを先に倒した方がゲームでも上って証明だな!」

 ラムネスとダ・サイダーが我先にとボスへ殺到し攻撃を放ったその瞬間。

 ピョーン!

「「え!?」」

 突然ボスが天高く飛び跳ね、ラムネス達の攻撃を回避した。
 そして攻撃を外したラムネス達に上空から急降下攻撃を放つボス。

「ちょっ!?」

「おわっ!?」

 ボスの攻撃を喰らったラムネスとダ・サイダーは慌てて追撃を回避しようとレバーを操作するが、お互いの体がぶつかり合って操作をミスしてしまう。

「うわっ、邪魔だって!」

「邪魔なのはお前だろ!」

 こうなると何時ものように喧嘩に発展して二人だったが、それがいけなかった。
 二人の注意が逸れた隙を狙ってボスが更なる追撃を行う。

「し、しまった!?」

「こ、この!?」

 二人はすぐに試練に集中し直すが、一度集中が途切れてしまった事とボスの攻撃パターンに翻弄された事で完全にパニックに陥っていた。
 何より、この試練をたかがゲームと侮っていた事も彼等から冷静さと慎重さを失わせる要因となっていたのだ。
 結果、ボスの猛攻を喰らい続けた事で、ラムネス達はあっさりと敗北してしまったのだった。

「う、うそだぁぁぁぁぁっ!!」


「そんな馬鹿なぁぁぁぁぁっ!!」
 自分のゲームセンスに自信をもっていただけに、二人のショックは計り知れなかった。

「お前がぶつかって来たせいだぞダ・サイダー! お陰で試練に失敗しちゃったじゃないか!」

「何を―! テメェの下手くそ加減をオレ様のせいにするんじゃねぇ! 試練に失敗したのはお前のせいだろ!」

 敗北と試練失敗のショックから、二人はいつものような取っ組み合いを始める。
 しかしミルクの言葉がそれを止めた。

「ねぇ、何か数字が動いてるわよ?」

「「え?」」

 見れば試練のモニターに9.8.7……と大きな数字が表示されていたではないか。
 しかもその数字がだんだん小さくなっていくのをみるや、二人はそれがカウントダウンだという事に気付く。

「「!?」」

 そして即座に席に戻ると、ラムネスが慌ててレバーを操作し、ダ・サイダーはコクピット内の操作盤の上にどこから取り出したのか狐と紅茶と牛乳を並べて言った。

「コン・ティー・乳!!」

 つまりコンティニューであった。
 そして残りカウント1で画面がステージ選択画面へと戻る。

「な、なーんだ。コンティニューできるんじゃん」

「あ、焦らせやがって」

 再度試練を行えると分かり、安堵のため息を漏らすラムネスとダ・サイダー。

「へへっ、何度でもプレイできるのならクリアするまでやるだけじゃん! よーし、今度こそクリアしてやる!」

「おうよ! オレ様の華麗なる超絶ウルトラプレイを見せてやるぜ!」

「頑張れーラムネス!」

「次失敗したらタダじゃ置かないよダ・サイダー!」

「二人共頑張ってくださいまし~」

「頑張るミャーラムネス!」

「ダーリンなら楽勝じゃん!」

 三姉妹とアドバイザーロボに応援されながら、ラムネスとダ・サイダーは再び試練に挑む。

「あっ、ほらほら! そこにアイテムがあるわよー」

 キングスカッシャーの肩に登って試練の様子を観戦していたミルクは、ラムネスが戦いに集中するあまりアイテムを見逃している事を指摘する。

「え? あっ、ほんとだ。サンキューミルク!」

 ラムネスはアイテムを回収すると、再び敵に意識を集中する。

(ところでこのアイテムってなんの役に立つんだろう? パワーアップする訳でもスコアが増えるわけでもないみたいだけど?)

 ゲーム画面を見ても得点スコアのようなものはなく、ラムネスはこのアイテムに何の意味があるのかと首を傾げる。

「ほらラムネス、敵が来てるわよ!」

「あ、ああ!」

 考え事をしている間に敵が近づいてきたことをミルクに指摘され、ラムネスは慌てて戦闘に意識を戻す。

「ダーリン、あいつ攻撃した後スキが出来るじゃん!」

 そしてヘビメタコは敵の戦闘パターンを見極めてダ・サイダーにアドバイスを送る。

「ナイスだメタコ! 喰らいやがれ!」

 一方ダ・サイダーはアイテム回収は一切気にせず、敵を確実に倒す事に専念していた。

「良く分かんねぇアイテムなんかどうでもいいぜ! コイツはホロボロスをぶっ潰す為の試練なんだ。なら敵を倒す方が重要だろ!」

 ダ・サイダーの意見も確かに間違いではなかった。
 試練である以上、クリアは必須。しかしラムネスのゲーマーとしての本能はそれだけではないんじゃないか? と訴えてもいた。

「それにしてもこの試練のボスって、なんだか守護騎士に似てるわよね」


「え? そう?」
 ミルクの呟きを聞いたラムネスはちょうど今戦っている三つ目のステージのボスを見る。

「言われてみれば……ブレンドンに似ているような気も?」

 思い出してみると、確かに一つ目のステージのボスはセイロームやアッサームに似ており、二つ目のステージのボスはシルコーンとゼンザインにしていたかもしれないと思うラムネス。

「ラムネス達のロボットもキングスカッシャーとクィーンサイダロンに似ているし、何か訳があるのかしら?」

「そこらへんどうなんだいタマQ?」

 ラムネスから質問をされたタマQがうーんと唸りながら口を開く。

「大昔の事はボック達もあんまり覚えていないから良く分からないんだミャ。でもこの施設も守護騎士達も同じ古代に作られたもの。だとしたら何らかの技術的な繋がりがあるのかもしれないミャー」


「それってここの施設と守護騎士が同じ文明だったって事?」

「そうとは限らないミャ。ラムネスはモンエナ教授がベンドラーマシンの中に入っていたカプセルを見て話した事を覚えているミャ?」

「モンエナ教授の話? 何だっけ?」

「ラムネスがキングスカッシャーのカプセルと似ているって言った時の事だミャ。教授は守護騎士を産み出した古代文明とベンドラーマシンを創り出した古代文明のどちらかが相手の文明を参考にしたんじゃないかって言っていたミャ?」

「あー、そういえばそんな事言ってたなぁ。でも結局ベンドラーマシンはモンエナ教授が作った偽の装置だったじゃないか」

 ラムネスの言う通り、ベンドラーマシンは古代の遺物などではなく、ホロボロスを復活させたいモンエナ教授が、守護騎士を召喚するメタルコインのエネルギーを利用する為に作った偽りの装置だった。

「そうだミャ。でも考え方としては間違ってないのかもしれないミャー。たとえばある発達した超文明が滅びたとするミャ」

 タマQはモンエナ教授の話を思い出しながら、自分の推論をラムネスに語る。

「うんうん」

「その文明の遺跡を発見した人間が使える技術を利用して新たな文明を起こせば、新しい文明が使う技術は古い文明と似通っていてもおかしくないミャー」

「なるほどねー」

 タマQの推論になるほどと納得の声をあげるラムネス。

「とはいえ、これはあくまで予想でしかないミャー」

「結局は作った人達にしか分からないってことか」

「そういう事だミャー」

 推論はあくまで推論にすぎないと言われたものの、一応の説明が付いて納得するラムネスとミルク。

「ってお前等! 話じゃなくて試練に集中しやがれ」

 ラムネスとタマQが話に夢中になっていた為に、ダ・サイダーは一人ボスと戦う羽目になって追いつめられていたのだ。

「おっと悪い悪い」

怒られたラムネスは慌ててダ・サイダーを援護してボスとの戦闘を再開する。
 そしてダ・サイダーの攻撃が命中して遂にボスが崩れ落ちる。

「よっしゃーっ! オレ様の華麗な一撃でフィニッシュだー!」

「くっそー!」

 ボスを倒して興奮するダ・サイダーと、とどめを取られて悔しがるラムネス。

「三つのステージをクリアしたって事は、試練は合格だろ! さぁさぁ、ホロボロスを倒す手段ってのを寄こしやがれ!」

 勢いに乗ったダ・サイダーのクィーンサイダロンが試練のゲーム機に足をのせ、両手を天に掲げて勝鬨の声を上げる。

「……?」

 しかしボスを倒したにも関わらず、何も起こる気配はなかった。

「おいおい、どういうこった? ボスはオレ様が倒したんだぜ?」

「おっかしーなー」

 何も起きないことに困惑したラムネス達が試練のモニターを覗き込むと、そこにはゲームクリアの画面ではなく再びステージセレクトの画面に戻っていた。

「え? なんで?」

「クリアしたんじゃないの?」

「どうなってんだぁー!?」

 困惑するラムネス達だったが、試練のモニター画面は先ほどまでと同じでなんの変化も見当たらたない。

「と、とにかくもう一度やってみよう。何か見落としがあるのかもしれない」

「おいおい、またこれを繰り返すのかよ」

 試練を再開すると言われ、ダ・サイダーはゲンナリした様子だ。

「よし、それじゃあ試練再開だ!」

「……」

「「……」」

「「「……」」」

「だ、駄目だぁーっ!」

 その後、何度も試練を繰り返していたラムネス達だったが、一向に試練が終わる様子は無かった。

「アイテムは全部取った!」

「ボスも倒しまくった!」

「なのに何で何も起きないのーっ!?」

「どうすればいいんじゃん!?」

 もはやお手上げと操作盤にもたれかかってうなだれるキングスカッシャーとクィーンサイダロン。

「……」

 その中で一人タマQだけが無言で周囲を見まわしていた。

「どうしたんだよタマQ」

「それが、なんだか暗くなってきてないかミャー?」

「え?」

 タマQに言われて初めて周囲を見回すラムネス達。
 しかし試練のモニターに集中していた彼等は周りの変化に気付く余裕が無かった。
 そんな時だった。室内を照らしていた灯りの一部が突然消えたのだ。

「え!? 何!?」

「やっぱりだミャー。最初に部屋に入った時よりも暗くなっているミャー」

「な、何で暗くなるの?」

「多分だけど、この施設のエネルギーが尽きかけているんじゃないかミャ? モンエナ教授の話が本当なら、ホロボロスはかなり昔に作られた筈だミャ。となるとホロボロスを何とかする為に作られたこの施設もかなりの年代物の筈だミャ」

「そうか、そういえばホロボロスも守護騎士達のメタルコインとロイヤルスカッシュのエネルギーを利用して復活したんだもんな」

 シロボロスとクロボロスの復活、それにホロボロスへの合体に利用された事を思い出したラムネスはタマQの推測に納得する。

「ねぇ、尽きるとどうなるの? 部屋が真っ暗になっちゃうの?」

「それだけじゃないミャー。多分この試練を続ける事が出来なくなると思うミャー」

「ええー!? それはマズイぞ!?」

「やべぇ! 早く試練をクリアしねぇと!」

 状況が変わり、ラムネス達は慌てて試練を再開する。

「うぉぉー! とにかく色々やってみるんだ! どこかに試練をクリアする鍵があるかもしれない!」

「つってもさんざん探しただろうが! これ以上どこを探せばいいんだよ!」

「知るかーっ!」

 ガムシャラなプレイで冷静さを失ったラムネスはそこでミスをした。

「危ないミャーラムネス!」

 敵を攻撃するタイミングを間違えて、宙を切ってしまったのだ。

「しまっ……ええっ!?」

 ラムネスが驚いたのはその次の瞬間だった。
 なんと宙を切ったラムネスの前に、突如アイテムが姿を現したのだ。

「これは!? アイテム!? なんで!?」

 突然のアイテム出現に困惑するラムネス。
 しかし同時に彼は全てのからくりに気付いた。

「そうか! ステージの中に見えないアイテムが隠れているんだ!」

 最後の謎に気付いたラムネスは敵の攻撃を回避しつつ、その事に気付かせてくれたお礼とばかりに撃破する。

「ダ・サイダー! そこらじゅうを攻撃しまくるんだ! どこかに隠れたアイテムがある筈だ! ミルクはオレ達が攻撃し忘れた場所がないか見張っててくれ!」

「そういう事か! 任せろ!」

「おっけー! しっかり見張ってるわ!」

 やるべき事がようやく見つかり、ラムネス達の目に力が戻る。

 ◆

「……」

 試練を再開したラムネス達の姿を、ペプシブは話題に入れず一人離れた位置から眺めていた。
 ドリータンク・ジュニアに戻ろうにもあちらは修理の真っ最中。

(それに、あそこにはあの人達もいるし)

 ドリータンク・ジュニアと共に工場で修理を受けているシンゲーンとケンシーンの事を思い出し、ペプシブの胸がズキンと痛む。
 大切な人と戦う為に頑張るラムネス達のところへも、悲しみの原因になった相手がいる場所へも行けず、ペプシブはこうして離れた場所で佇んでいる事しか出来なかった。

「ほら、飲みなよ」

 そんな彼女の前に温かいコーヒーが差し出される。
 レスカである。
 彼女は仲間達が試練や修理に集中している間も、一人ペプシブの事を見守っていたのだ。

「え? あっ、ありがとうございます。熱っ!」

 ぼーっとしていたペプシブは、慌ててコーヒーを受け取るものの、うっかり冷まさずに飲んでしまったために口の中を火傷してしまった。

「あーあー、大丈夫かい?」

「だ、大丈夫れふ……」

 火傷した舌を出して外気で冷まそうとするペプシブにレスカが語り掛ける。

「何を考えてたんだい?」

「それは……」

 ペプシブは言いよどむが、レスカは既にその内容を察していた。

「あの爺さんの事だろ?」

「っ!?」

 図星だった。
 ペプシブの心の内は、悪に身を染めたモンエナ教授の事で一杯だったのだ。

「どういう人だったんだい?」

「……優しい、人だったんです」

 レスカの質問に言葉を積まれつつも、絞り出すように口を出た言葉はペプシブの偽りなき本心だった。

「モンエナ教授は元々ワクワク時空の専門家だった訳じゃないんです。世の中のエネルギー問題を研究する為に色んなエネルギー技術を研究していたんですよ」

「へぇ、何か凄そうな爺さんだったのね」

「はい。研究の為にドキドキスペース中を飛び回ってたんですよ。ただそれだと両親もなかなか家に帰れなくて私に寂しい思いをさせるって悩んでたら、教授がそれなら私も連れてくればいいって言ってくれたんだそうです」

「優しいんだ」

「はい……本当のお爺ちゃんみたいに優しい人だったんです」

 ペプシブはポケットからミントチョコが入った包みを取り出すとそれをじっと見つめる。

「このチョコも教授がくれたんですよ。両親と離れ離れになって泣いていた私を泣き止ませる為に……」

「レスカさん」

「なぁに?」

「何故なんですか?」

「何故って何が?」

「あの町の人達です」

「あの人達は破壊戦士によって町を滅茶苦茶にされたのに、何で彼等を許せたんですか!?」

「私には……無理です」

「……」

(まぁ、そうだわねぇ)

「あのさ、ちょっと昔話をしようか」

「はい?」

「あたしとダ・サイダーは今でこそ勇者と聖なる三姉妹の長女なんて言われてもてはやされちゃいるけどさ、元々は悪役だったんだよ」

「悪役……ですか?」

「そう、悪役。あたし達はね、ゴブーリキの……ドン・ハルマゲの部下だったんだよ」

「え、ええっ!? どういう事ですか!? 勇者様と聖なる三姉妹がゴブーリキの部下!?」

「あたしはね、子供の頃にドン・ハルマゲに誘拐されたんだ」

「誘拐!?」

「ダ・サイダーも同じさ。そして二人共家族や故郷の事を忘れさせられて、悪の組織の一員として働かされてきたんだよ。世が世ならお姫様として何不自由なく暮らせたってのに、酷い話だと思わない?」

「そ、それは……」

「しかも真実を知ったダ・サイダーの奴がドン・ハルマゲに洗脳されちまったんだよ」

「せ、洗脳ですか!?」

「そう、ゴブーリキの言う事を何でも聞く人形にされちまったのさ」

「酷い……」

「まーそんな風に色々と酷い目にもあったんだけど、ラムネスや妹達のお陰でダ・サイダーの洗脳は解けて、あたしも自分達が何者なのか分かってこうして正義の味方の一員になったってわけ」

「そ、そうだったんですね……」

 目の前の女性が予想外に波乱万丈の人生を歩んでいた事に困惑を隠せないペプシブ。

「レスカさん達が受けた仕打ちを考えれば、私なんて甘えてるだけですよね……」

 自分の育ての親が世に仇なす存在であった事はショックだが、こと自分自身の事を考えればレスカと比べて遥かに恵まれている。
 何しろ自分は過去の記憶を奪われたり洗脳されたりしていないし、なにより人生を謳歌出来ていたからだ。

「ああ違う違う。そうじゃないんだよ!」

しかし落ち込むペプシブに対して慌てて言いたいことはそれじゃ無いと否定するレスカ。

「そうじゃなくてさ、シンゲーン達破壊戦士も、ゴブーリキによって洗脳されてたって言いたいんだよ」

「それは……っ」

 破壊戦士達はゴブーリキによって洗脳されていた勇者の仲間である。
そして聖なる三姉妹の力によって正義の心を取り戻し勇者ラムネス達と共に妖神を撃ち滅ぼした英雄である。
それについてはハラハラワールドを治めるアララ王がドキドキスペース中に公表したことでペプシブも知っていた。
だが知っているのと納得するのは別の話である。
ペプシブにとって破壊戦士とは、自分と両親を引き離した恐ろしい存在なのだ。
 しかし……

「それを考えるとさ、あの爺さん、モンエナ教授も洗脳されてるんじゃないのかい?」

「え?」

 それは予想もしてなかった言葉だった。
ペプシブは自身が家族だと慕っていたモンエナ教授が悪党の一味だった事に強いショックを受けていた。
けれどそんなモンエナ教授こそ、真の悪によって心を捻じ曲げられた被害者かもしれないと言われたからだ。

「で、でもそんな都合の良い事が……」

「あるかもしれないよ。だって、アンタの親代わりなんだろ? だったらそう考える方が自然だよ。なんたって本物の悪に育てられたあたしがこんなにスレちまったんだからね。真っ当に育ったアンタは、ちゃんと真っ当な人間に育てられたんだよ!」

「っ!!」

 言葉も無かった。
 レスカの言葉にペプシブの心の奥で澱んでいた猜疑の心が溶けていく。
 同時にとめどなく涙が溢れてくるのが止められなかった。

「あ、あれ? なんで……」

 ペプシブは突然溢れてきた涙を慌てて拭うも、涙は次から次へと溢れて止まる気配がない。
 それをレスカが優しく抱きしめる。

「良いんだよ、泣いちまいな。泣いて泣いて、スッキリした顔であの爺さんを迎えてやりな」

「……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 その言葉に我慢が出来なくなったのか、ペプシブが大きな声で泣き出す。

「ごめんなさい! ごめんなさい教授! 私、私が教授を誰よりも信じないといけなかったのに……!」

 それはモンエナ教授への懺悔の言葉だった。彼女が何より恐れていたのは、教授に裏切られたという気持ちではなく、教授が自分を裏切ったと受け入れる事をこそ恐れていたのだ。
 それはペプシブにとって、モンエナ教授から受けた愛情を疑う事と同義だったのだから。

「良いんだよ。全部吐き出しちまいな」

 どこまでも優しく、レスカはペプシブを抱きしめその背中を撫でてやる。
 その姿は確かに聖なる三姉妹の長女と呼ぶに相応しい慈愛に満ちた姿であり、同時にかつての自分達の悪行への贖罪のようでもあった。

「私、あの人達に謝らないと……助けてくれたのに……私、酷い事言っちゃった……」

「そりゃアイツ等も喜ぶよ」

「……でも」

「アイツ等に拒絶されるのが怖いかい?」

「……はい」

「ならあたしも一緒について行ってやるよ。だからアイツ等が元気になったら、気合入れて謝りな!」

「は、はい!」


(その4へつづく!)※次回は8/11(水)更新予定です

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