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【web連載#1-4】NG騎士ラムネ&40 FX

■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠

■第1話「スィーッと出航! ミントな香りは冒険の予感!?」(その4)

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 すったもんだの騒動があったものの、ラムネス達はウラウラの谷へと出発した。
今回のラムネス達の移動手段はいつものハルク砲艦ではなく、ダ・サイダーとレスカの乗艦であるクジラ型宇宙戦艦アルミホエール号に相乗りだ。

「そういえばあたしアルミホエール号に乗るのは初めてだわ」

「ですわねー」

「ところでさ、ペプシブちゃんはなんで掃除機を持ち歩いてるの?」

 ミルク達が船旅の景色に夢中になっている隙に、ラムネスはにこやかにペプシブに話しかける。
 まずは世間話から始めて共通の話題を確保しようとするラムネス。
 ストレートに口説いていた昔に比べ、中学生になった彼は小賢しいテクニックを身に付けていた。あまり役に立ってはいないようだが。

「これ? これはね、私の武器なの!」

 だが意外にもペプシブはラムネスの話題に嬉しそうに食いついてきた。

「掃除機が武器!?」

 掃除機が武器だと言われ、これを敵に叩きつけるのかと首を傾げるラムネス。

「そっ、この掃除機の使い方はね、まずこうやってゴミを吸い込みます」

 そういって普通に掃除を始めるペプシブ。どう見てもただの掃除風景である。

「普通に掃除機じゃん」

「ふふ、それはどうかしら。この集めたゴミをね……」

 と、その時だった。
突然轟音と共にアルミホエール号が大きく揺れたのだ。

「な、何だ!?」

「敵襲だ! 気を付けろ!」

 驚くラムネス達にアルミホエール号を操縦しているダ・サイダーが敵襲を告げる。

「敵!? 一体誰が!?」

「見てラムネス!あいつ等が犯人じゃない!?」

 窓から外を見ていたミルクが地上の一点を指さす。
 そこに居たのはバズーカ砲を構えた山賊のような格好の背の低い男とノッポの男の二人組だった。

「んん?あいつ等どっかで見たことあるような…・・・」

「奇遇だな、オレ様もだ」

 ラムネスとダ・サイダーは二人組の山賊を見て奇妙な既視感を覚える。
 それもその筈、ラムネス達を襲った二人組はかつてパフパフ宮殿へ向かう時に戦った自称勇者達の一組、バンディとデーズの山賊兄弟だったのだ。

バンディ2


 ラムネス達との競争に負けた彼等は、そのままウラウラの谷を根城にして山賊行為を行っていたのである。
 ここを根城にしていれば、マウンテンデュー姉妹目当ての男達が自分からやってきて入れ食い状態だと思いついたのである。
 残念なことに、あてにしていたマウンテンデュー姉妹が行方不明になってしまった為に、すっかり彼女達目当ての旅人は通らなくなっていたのだが。
 それなら別の場所に移動すればいいものだが、それに気づかないからこそ彼等は山賊に身を落としたのかもしれない。

「へへへっ、あの船を落として金目の物を奪えば俺達ゃ大金持ちよ!」

「兄貴、あのクジラ食えるかな?」

 腹をすかせたデーズがアルミホエール号を見ながら涎を垂らす。

「馬鹿! ありゃ機械だ食えねぇよ! 目的は金と船の部品だ!」

「ちぇ、美味そうなのにな。アレを落としたらご馳走食べようぜー兄貴!」

「おうよ!」

 再びバンディとデーズがバズーカ砲を構えてアルミホエール号を狙う。

「はっ! オレ様の華麗なテクニックを見せてやるぜ!」

 ダ・サイダーは巧みな操艦でバンディー達の砲撃を回避する。

「なにぃ!? 俺の攻撃を避けた!?」

しかし見事攻撃を回避したものの、アルミホエール号は巨体の戦艦。
このままではいずれ当たってしまうだろう事は誰の目にも明らかだった。

「よーし、ダ・サイダーは船の操縦で忙しいし、ここはオレの出番だ! オレの活躍見ててねペプシブちゃん!」

 さっそくペプシブの前で良い恰好が出来るとラムネスが出撃しようとするが、それをペプシブが止める。

「待ってラムネス君。ちょうど良い機会だから私の掃除機の使い方を教えてあげるね」

「え?」

言うや否やペプシブはアルミホエール号の背中に設置された甲板へと飛び出る。

「掃除機を使うってどうするのさ」

「こうするのよ」

 ペプシブはハンディ掃除機をライフルのように抱えて地上のバンディとデーズに向ける。
 するとハンディ掃除機の上部にスコープがせり出した。

「私の掃除機はね、吸い込んだものを内部で圧縮して……スプラーッシュ!」

 バシュッ、とよく振った炭酸飲料のキャップが開いたような音と共に、掃除機の吸い込み口から何かが高速で飛び出す。

 そしてそれはアルミホエール号を狙っていたデーズとバンディのバズーカの銃口に飛び込み、その中の弾薬に直撃した。
 次の瞬間、地上で大爆発が起きた。

「「うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 哀れ、彼方に吹き飛ぶバンディとデーズ。

「と、こんな感じで圧縮したゴミを弾丸として射出する事が出来るの! 凄いでしょ!」

「う。うん……凄いね」

 まさかの凄腕スナイパーぶりに思わずラムネスは後ずさる。
 だがそこに油断があった。
 バンディ達の攻撃を受けて損傷したアルミホール号から爆発が起き、船体が大きくバランスを崩したのである。

「キャアァァァァァ!?」

 完全に油断していたペプシブの体が宙に投げ出される。

「ペプシブちゃん!」

 対するラムネスの行動は迅速だった。
彼は躊躇う事無く船から飛び降りるとペプシブの手を掴んで抱き寄せる。

「だめ! ラムネス君まで!?」

「だーいじょうぶ!」

 その言葉と共に、地上に向けて落下していたラムネス達が突然空中で静止した。

「え?」

 驚くペプシブに、ラムネスは上を見ろと目で指示する。

「あれは、ロープ?」

 見ればアルミホエール号から細いヒモが垂れ下がっており、紐の端はラムネスの手に収まっていた。
 これこそかつてラムネスがゴブーリキとの戦いで活用していた武器、アストロヨーヨーである。
 ラムネスは船から飛び降りる直前にアストロヨーヨーを巻きつけておいたのだ。

「すっごーい! さすがは勇者ね! ありがとうラムネス君!」

 感動したペプシブが更に密着してきた事で、ラムネスは思わずにやけてしまう。

「でへへ、それほどでも」

 だがヒーロータイムはここで終わりだった。

「ラームーネースー! いつまでデレデレしてるのよ!」

 戦いが終わった事でラムネス達を出迎えに来たミルクが怒りの形相でアストロヨーヨーの紐を揺らす。

「あっ、危っ! 危なっ! ミルク! 紐、解ける!? ごめんなさーい!!」

慌てたラムネスが急いでミルクに謝罪を始める。
どこまでも締まらない勇者であった。

「はぁ……あれ、あたし達が護衛としてついて行く意味あるのかしら?」

怒りが収まったミルクは必死で昇ってくるラムネス達を眺めながらも疑問を感じていた。
最後にトラブルはあったものの、ペプシブ一人だけで無事バンディ達を退ける事が出来たからだ。

「いや、ちゃんとあるとも」

 ミルクの疑問に答えたのは同じく甲板にやって来たモンエナ教授だった。
 同時にラムネス達も甲板にたどり着く。

「資料によればワクワク時空は不安定な空間でね、何が起きるか分からないのだ。というのも私は幾つものワクワク時空の資料を調べたのだが、空間内でとある実験を繰り返したところ同じ実験内容であるにも関わらずその全てが違う結果になったというものがあったのだ」

「全部違った!?」

「え? それって何か失敗しちゃったって事?」

 同じ実験をしておきながら、結果が違う事などあるのだろうかとラムネスとミルクは首を傾げる。
 成功にしろ失敗にしろ、同じことをすれば同じ結果になる筈だ。

「いや、本格的な実験の前の失敗する筈もないような簡単な実験だったそうだ。例えばライターを付けたら火が付くのは我々にとって常識だ。しかしワクワク時空でライターを付けたら火の代わりに水が出てきたと言えば、専門家でない君達にもその結果がおかしいと分かるだろう?」

「「それは確かに!」」 

 明らかにありえない結果を聞いてラムネス達も納得する。

「確かに。ライターから水が出てきたらビックリしますよね」

「じゃあお菓子が出て来るライターともあるのかしら?」

「ミルク、そういう事じゃないって」

 お腹を鳴らせながら、ミルクが見当はずれな発言をする。

「はははっ、だがワクワク時空ならそんな実験結果が出るかもしれんな。お菓子がわんさか出て来るライターがあるかもしれんぞ」

「やったー! ラムネス、早くパフパフ宮殿に行きましょ!」

 これから向かう現場がかつてラムネスが浮気をした場所だったこともあって内心機嫌の悪かったミルクだったが、お菓子がわんさか出て来る実験が出来るかもしれないと聞いて途端に上機嫌になる。

「そういう訳だから、ラムネス君達にはワクワク時空で不測の事態が起きた時の為の護衛を頼みたいの」

「なるほど、確かにそんなわけのわからない空間なら、二人だけだと心配になりますよね」

「それだけじゃないのよ」

 と、ペプシブがモンエナ教授の方を見ると、彼はなにやらブツブツと呟いていた。

「しかしお菓子の出るライターか。素人の考えとはいえ、その柔軟な思考は研究者の凝り固まった頭には良い刺激かもしれん。やはり研究室には新しい風が必要だな。いや待てよ。同じ実験をして別の結果が出るのなら、逆に別の実験をして同じ結果が出る法則を見つけ出せば新しい論文の鍵になるかもしれん。おお、これは良いアイデアだぞ! これはワクワク時空に秘められた新たなる可能性が見つかるかもしれ……」

「はいそこまでー!」

「ウギャッ!?」

 思考の深みにはまっていたモンエナ教授が、至近距離でペプシブの掃除機弾を頭に叩き込まれ甲板に倒れる。

「ひ、ひぇー」

「う、撃ったーっ!?」

 そのショッキングな光景に腰を抜かすラムネスとミルク。

「痛いよペプシブ君っ!」

「「うぎゃーっ! 動いたー!!」」

 死んだと思ったモンエナ教授が立ち上がった事で、ラムネス達はお互いを抱きしめ合いながら悲鳴を上げる。

「あっ、大丈夫よ。これは威力を弱めたヤツだから」

「そ、そうなんですか……?」

「それでも至近距離から撃たれると痛いんだよペプシブ君! もっと離れた位置で撃ってくれといつも言っているだろう!」

「「撃つのは良いんだ」」

 その会話に愕然となるラムネス達。

「教授、まーた考えが異次元にいっちゃってましたよ。ごめんなさいねラムネス君。ウチの教授は研究に夢中になるとこの通り周りが見えなくなっちゃうのよ。だから教授がトリップしてる間の護衛が欲しいの」

「は、はぁ……」

 でもそれなら別に撃つ必要は無かったんじゃないかなと思うラムネスだったが、彼も中学生になってそれなりに成長しているので、余計な事は言わずそっと心に秘めておくことにしたのだった。

「ゴホン、とまぁそんな訳でワクワク時空の調査では何が起こるか分からない。だからこそ、あの妖神ゴブーリキを倒した勇者ラムネスとその仲間達に護衛を頼みたかったのだ。頼むぞラムネス君!」

「はぁ……」

 ワクワク時空の危険性を強調しつつラムネスに護衛の重要性を語るモンエナ教授だったが、ペプシブのゴミ弾を喰らって腫れあがった額がどうにも信憑性に欠けるのだった。


(その5へつづく!)※6/16(水)公開予定です

(C)葦プロダクション