【web連載#4-2】NG騎士ラムネ&40 FX
■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠
■第4話「熱血4騎士大勝利! 〇解(わかい)の環で大団円!!」(その2)
「ペプシブちゃん!?」
モンエナ教授を止めたのはドリータンク・ジュニアから身を乗り出したペプシブだった。
どうやらラムネス達を追ってミルク達も地上に上がってきたらしい。
「駄目だ! 逃げろレスカ!」
アウトサイダロンがエネルギー切れを起こして戦えないダ・サイダーは、レスカ達に戦場から離れろと叫ぶ。
しかしペプシブもドリータンク・ジュニアも逃げようとはしない。
「悪いねダ・サイダー。この子がどうしてもその爺さんを説得したいんだってさ」
「それに、地上の戦いが激し過ぎて地下に居る方が危ないもの」
「ついでにいいますと~、地下の施設はエネルギー切れで真っ暗になってしまいましたので~」
三者三様の理由から、地下を出てきたと告げるミルク達。
「こんな事は間違っています! もうやめましょう教授!」
先の戦いの時と同じように再びモンエナ教授を説得するペプシブだったが、対するモンエナ教授は欠片も心が揺れる様子を見せなかった。
「おやおや、またかねペプシブ君。だが既に我々の交渉は決裂した筈だ。同じ間違いを何度も繰り返すような生徒に育てた覚えはないぞ」
「ええ、分かっています。教授の教えは『間違えたのならそのやり方に拘らず別のアプローチを模索しなさい』でしたから」
声を震わせる事無く、毅然とした態度で答えるペプシブに、モンエナ教授がわずかに満足そうな笑みを浮かべる。
「ほう、ではどのようなアプローチを考えてきたのだね? 言っておくが内容を変えただけの説得というアプローチでは落第だぞ?」
「私の新しいアプローチは……これです!」
そう言ってペプシブは腰の小型クリーナーを拳銃のように構える。
するとノズルが三倍の長さに伸び、クリーナー本体の後部からはペプシブの体に固定する為の簡易ストックが展開される。
そしてクリーナー上面から狙撃用のスコープが飛び出した。
「ほう、説得に応じなければ私を殺すという訳か。なるほど、それが君の覚悟ということだね。だが、君に私を殺すことが出来るかな?」
命を狙われているというのに、モンエナ教授には恐れも動揺も見えない。
「やめるんだペプシブちゃん!」
「そうだ、お前がやる事はねぇ!」
実の家族同然の相手を手にかけようとしているペプシブを見て、ラムネスとダ・サイダーが慌てて止める。
しかしペプシブは躊躇わなかった。
「スィーっと……撃ちます!」
パァンという音と共に、ノズルから高速で銃弾が発射された。
弾は狙いたがわずモンエナ教授に向かっていく。
(ふん、見え透いた脅しだな)
モンエナ教授はペプシブが自分を殺せないとタカをくくっていた。
なら出来ることはせいぜい威嚇射撃で脅すことくらいだろうと、そう思っていた。
だが、ペプシブの一撃は命中した。
それも情け容赦なく顔面にだ。
「「「「「うわぁぁぁぁぁっっ!!」」」」」
まさかの顔面ヒットにラムネス達の悲鳴が上がる。
ペプシブを焚きつけたレスカも、まさかそこまでするとは思ってもいなかったのだ。
モンエナ教授の体がグラリとよろめく……が、その体が倒れる事は無かった。
「モガ……これは……ミントチョコ?」
そう、ペプシブが放ったのは、鉛玉ではなく、ミントチョコだったのだ。
「こ、こんなもので……なんのつモガァッ!?」
モンエナ教授に最後まで言い終わらせることなく、ペプシブの第二射、第三射が立て続けに叩き込まれる。
「覚えていますか教授? あの日、私がお父さんお母さんと離れ離れになった時、涙が止まらなかった私に教授はこのミントチョコをくれました。これを食べて元気になりなさいって」
モンエナ教授に語りかけながらも、ペプシブはミントチョコをモンエナ教授の口に撃ち込み続ける。
「始めは子ども扱いしてって怒ってたんですよ。お父さんもお母さんも居なくなって悲しいのに、お菓子なんかで気がまぎれる訳ないじゃないかって」
ペプシブは、思い出話に花を咲かせるようにモンエナ教授に語り続ける。
「なのに教授ったら、毎日毎日同じものばっかり。これは眠気覚ましに丁度いいとか、チョコはエネルギー補給に良いから遭難した時に最適だとかどうでもいいことばっかり」
ここでペプシブはトリガーを引く速度は緩めず、言葉を一旦止める。
「でも、それでも毎日教授が私を気遣ってくれたのは少しだけ嬉しかったんです。だから、初めて教授から貰ったミントチョコを食べた時は、凄く美味しく感じたんですよ」
柔らかな笑みを浮かべてモンエナ教授の口にミントチョコを撃ち込むペプシブ。
「けど、教授ったら毎日沢山ミントチョコを持って来たもんだから、とてもじゃないけど食べきれなかったんですよね。だから教授も一緒に食べましょうって誘ったんですけど、あれかなり勇気を振り絞って言ったんですよ」
「でも二人で食べても全然減らないもんだから、最後の方は二人とも「もうミントチョコは食べたくない」なんて弱音を吐いてましたよね。うふふ」
その時の事を思い出しながら、ペプシブは小さく笑い声をあげる。
「それでも私にとってミントチョコは新しい幸せの味だったんです。一緒にチョコを食べてくれる人が傍にいるって分かった時の……幸せの味なんですよ」
ペプシブの指と眼差しに力が籠もる。
「だから! 思い出してください教授! あの優しかった貴方を!!」
「ぐっ、うぐぐっ!?」
その時だった。突然モンエナ教授が苦しみ始めたのである。
「教授!?」
モンエナ教授が正気を取り戻してくれたのかとペプシブが期待の声を上げる。
「もぐぁーーっ!?」
だがモンエナ教授の苦しみ方は異常だった。自らの喉に両手をあてて、悶えるように体を振り回し始めたのである。その顔は紫色になっており、尋常な様子ではない。
「ど、どうしたんですか教授!?」
予想外の反応にペプシブが困惑の声をあげる。
「あのー……」
そんなペプシブに話しかけたのはラムネスだった。
「ラムネス君! 教授は大丈夫なんですか!? 洗脳された人は皆あんな風になっちゃうんですか!?」
「いや、あれ単に息が詰まって苦しいだけなんじゃない?」
「え?」
言われてみれば、確かにモンエナ教授の口は大量のミントチョコで埋まっており、とても息が出来るような状況には見えない。
「あっ、落ちた」
窒息する苦しみのあまり、ミナホロボスからモンエナ教授が落下する。
「「「ってやばーいっ!!」」」
ラムネスはかろうじて動いたグランスカッシャーの手で落ちてきたモンエナ教授を受け止めると、そっと地面に下ろす。
「教授―っ! しっかり! して! くださーいっ!!」
小型クリーナ―をライフルから飛行モードへと変形させたペプシブは、急ぎモンエナ教授の下へと駆けつけると、思いっきり背中を叩く。
「ゴハッ! ゼハーゼハーッ!!」
何とか気道を確保し、呼吸が戻るモンエナ教授。
「教授、良かった……」
その光景に何ともいえない微妙な心境になるラムネス達。
「えーっと、こういう時ってもっとシリアスに説得するものなんじゃあ……」
「「「「「「「「うーん……」」」」」」」」
「……ってそんな事言ってる場合じゃないわ! 今がチャンスじゃないの! ミルク! ココア! 聖なる三姉妹の祈りでこの爺さんを元に戻すよ!」
しかしすぐに我に返ったレスカが、妹達に急ぎ祈りの力を使うよう指示を出す。
「そ、そうだったわ!」
「あらあら~、凄い事になりましたわね~」
慌てつつも三姉妹は手を組み、祈りを捧げる。
――遥けき彼方より此方まで――
――此方より遥けき彼方まで――
――邪悪なる存在を退く者よ――
――我らに力を与えん――
すると、三姉妹から放たれた光が、グランスカッシャー、そしてアウトサイダロンへと集まっていく。
「これは……!?」
かつて洗脳されたダ・サイダーとクィーンサイダロンを救った際に、聖なる三姉妹の力がキングスカッシャーのセイントボムを強化しダ・サイダー達を洗脳から解放したのを思い出すラムネス。
グランスカッシャーとアウトサイダロンのモニターに「コール セイントスプラッシュボム」という文字が表示される。
「よーし! やるぞ、ダ・サイダー!」
「おうよ!」
「「セイント!スプラッシュ!ボォームッ!」」
ラムネスとダ・サイダーの雄叫びを受けグランスカッシャーとアウトサイダロンが眩い輝きを放ち、モンエナ教授の体を包み込んだ。
「お、お、おおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
意識を失っていたモンエナ教授が突然鬼のような形相で苦しみだすと、額のドン・ハルマゲ印が点滅を始める。
「教授っ!」
ペプシブはもだえ苦しむモンエナ教授の体に抱きついて、彼がこれ以上苦しまないようにと必死で祈る。
「うがあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
喉が張り裂けんばかりに苦しみの声をあげていたモンエナ教授の体が限界までのけぞったかと思うと、その動きがピタリと止まって崩れ落ちた。
恐る恐るペプシブが静かになったモンエナ教授の様子を確認すると、その顔は先ほどまで苦しんでいたとは思えない程穏やかな表情になっていた。
「う……」
そしてモンエナ教授がゆっくりと目を開く。
「ペプシブ君……? 私は一体?」
モンエナ教授の様子は先ほどまでと違い、随分と落ち着いた印象になっていた。
何より、額にはあのドン・ハルマゲ印が無くなっていたのである。
「よかった、ドン・ハルマゲ印が消えてる!」
「って事はこのジジィもようやく元に戻ったって事だな」
「「「よかったー」」」
モンエナ教授が元に戻ったと分かり、安堵するラムネス達。
「それにしても~、何でグランスカッシャーにセイントボムが搭載されていたのでしょう~。それにアウトサイダロンにまで~」
ふとココアは、グランスカッシャーとアウトサイダロンには、ホロボロスに対抗する以外の何かが込められているのではないかという予感が心をよぎる。
「教授! 良かった!」
同様に、モンエナ教授が元に戻った事が分かりペプシブが喜びの涙を浮かべながら抱きつく。
「……む? 一体どうしたんだねペプシブ君!?」
目が覚めたモンエナ教授は、自分に抱きついて泣いているペプシブの姿に一体何が起きているのかと困惑の声を上げる。
「モンエナ教授、洗脳されてた時の事を覚えていないの?」
「洗脳? 私が……?」
ラムネスに問いかけられ、モンエナ教授は怪訝そうな顔を見せるが、すぐにその顔から表情が失われていった。
「そう……だ。私はあの時、あの姉妹によって洗脳されたのだ。そして、そして……とんでもないことを……してしまった!」
自分が洗脳されていた事を思い出したモンエナ教授が蒼白になって己の罪深い行いに頭を抱える。
「それどころか私は、ペプシブ君まで手にかけようと!」
孫のように可愛がっていたペプシブの命を奪おうとした事を思い出したモンエナ教授が、己の罪深さに体を震わせる。
「違います!」
しかしそれを否定したのはそのペプシブだった。
「教授は悪い人達に洗脳されていたんです! だから悪いのはその人達であって、教授じゃありません!」
「しかし私がやった事には変わりがな……」
「変わりあります!」
有無を言わせず教授の言葉を遮るペプシブ。
「教授は私の親代わりのお爺ちゃんで! 悪い人に操られていただけなんです! それで、それだけで良いんです! それ以上なんていりません!」
強く、強く自分の心を叩きつけるペプシブ。
「だが……」
しかし自分の行いの罪深さを理解しているモンエナ教授はなおも彼女の許しを受け入れる事が出来ずにいた。
『もー! いつまでもグダグダ言わないの! ペプシブが許すって言ってるんだから、ペプシブの為に許されなさいよ!』
意外にも、二人の会話に割り込んだのは姉妹の中で一番年若いミルクだった。
「ペ、ペプシブ君の為?」
「ミルクちゃん!?」
突然の乱入者に、モンエナ教授もペプシブも目を丸くして驚く。
『そうよ! 貴方が自分を許さないと、ペプシブがいつまでも悲しんだままになるのよ! それでいいの!?』
ドリータンク・ジュニアのスピーカーから、ミルクが畳みかける様にモンエナ教授を説得する。
「し、しかし私は……」
『しかしもカカシもないの! ペプシブを悲しませるか悲しませないか、どっちか選びなさい! はいどっち!?』
「か、悲しませない方で……」
『よろしい!』
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
あまりにも強引な解決の仕方に、思わずポカーンと口を開けて驚いてしまうラムネス達。
「ぷっ、ふふふっ」
そんな中笑い出したのは、長女であるレスカだった。
「ご、強引過ぎ……なにその解決の仕方……」
大人である彼女は、モンエナ教授の心の回復にはもっと時間がかかると踏んでいた。
大人の心はそれだけ複雑だからだ。
だからこそ、こんな感情を叩きつけるような解決の仕方をしたミルクの子供っぷりにレスカは愉快な感情を感じずにはいられなかった。
(ペプシブを悲しませたくないなら自分を許せって、とんでもない説得よね。我が妹ながら大したもんだわ)
自分では出来ないであろう解決法を示した妹に、レスカは心から賞賛の言葉を送る。
ただし口にすると調子に乗るだろうから、心の中でのみ褒める事にする。
「けどまぁ、これでハッピーエンドだな」
黒幕であったモンエナ教授が正気を取り戻した事で、ホロボロスが暴れる心配はなくなり、皆が安堵する。
「やれやれ、ちょーっと暴れ足りないが、まぁペプシブが喜んでいるから良しとするか」
「ブールブルブル、そうはいかんぞ! 戦いはまだまだこれからだぁーっ!!」
事件が穏やかな空気で終わるかと思われたその時、操縦者を失った筈のミナホロボスが動き出したのである。
「モンエナ教授はここにいるのに何で!?」
この場にいる全員が困惑する中、一人モンエナ教授が真実に気付く。
「まさかバレットブルズか!」
「その通りですモンエナ教授」
そう、先ほどから聞こえてきたこの声は、バレットブルズのリーダーであるブルーブルの声だった。
「やめるのだバレットブルズ! これは命令だ!」
モンエナ教授がバレットブルズに止まれと命じるが、ミナホロボスはまったく止まる様子を見せない。
「な、何故止まらないだ!?」
「はーっはっはっはっ! 驚きましたかな、元ご主人様。私は貴方の支配から解放されたのですよ」
「馬鹿な! ロボットがプログラムに逆らえる筈が無い!」
「んー、確かに私は開発者である貴方に逆らえない。しかし貴方は自身より上位の権限を持つ支配者を私達にプログラムした」
「上位の権限……し、しまったぁぁぁぁぁぁっ!! そういう事か!!」
ブルーブルの言葉に全てを察したモンエナ教授が驚愕の顔でわななく。
「モンエナ教授以上の支配者!? それは一体誰なんだ!?」
「それは……マウンテンデュー姉妹だぁーっ!!」
驚いた事に、ブルーブルが告げたのはマウンテンデュー姉妹の名だった。
「ゴールドちゃんとシルバーちゃん!?」
「そりゃ一体どういう事なんだよ、モンエナのジジィ!」
一体どういう事なのかとラムネス達はモンエナ教授に詰め寄る。
「彼女達は時限爆弾岩で吹き飛んで別の時空に飛ばされた筈なのに」
「そうだぜ。まさかあいつ等が戻って来たってのか?」
「違う……そうではないのだ。洗脳されていた私はマウンテンデュー姉妹がいつ戻ってきても良いように、彼らの最上位命令権を姉妹に設定してしまっていたのだ! バレットブルズはそれを拡大解釈したのだろう……」
「拡大解釈?」
「その通り! 洗脳が解けたモンエナ教授は我らを裏切って勇者ラムネスの側に付いた。すなわち最上位命令権を持つマウンテンデュー姉妹の敵になったという理屈だ! これで我々はモンエナ教授の支配から卒業して自由になったのだー!」
「そ、そんな屁理屈で逆らえるようになるの!?」
予想外に強引な方法に、ミルク達も驚きの声をあげる。
「ブールブルブル! なにせ我々は超高性能な人工知能を搭載しているからなーっ!!」
得意満面な笑みで笑うブルーブル。
「うう……未知の超技術を解明する事に没頭し過ぎたせいで、バレットブルズが命令の穴を突いて自由になれるほどの知恵を与えてしまったぁーっ!」
「しまったぁー! じゃないでしょーっ!! なんでそんなに本気出しちゃったんですかー!」
「あ痛ぁーっ!! せ、洗脳されていたんだから仕方がないだろうペプシブ君」
大げさに叫ぶモンエナ教授を容赦なく小型クリーナーで叩くペプシブ。
「って、こんなことで揉めてる場合じゃない! せっかくハッピーエンドで終わりそうだったのに、このおジャマ虫めー!」
「ブールブルブル、悪がハッピーエンドで終わらせるものか。貴様等にお似合いなのはバッドエンドよ!」
ミナホロボスが二本の巨大な尻尾を振りかぶった瞬間、ラムネスは慌ててグランスカッシャーを回避させようとした。
だがエネルギー切れ寸前だったグランスカッシャーは、モンエナ教授を救助した事で完全にエネルギーを使い切ってしまったらしく、ピクリとも動かない。
「しまった!逃げろペプシブちゃん! モンエナ教授!」
ラムネスは地上のペプシブに逃げろと叫ぶが、とてもではないが間に合わない。
「キャァァァァァァ!!」
「ペプシブ君!」
モンエナ教授がペプシブをかばう様に覆いかぶさるが、ミナホロボスの攻撃が相手では何の役にも立たないのは明白だった。
だがそれでも大切な教え子を守ろうとする心を、モンエナ教授は取り戻したのである。
そして、その心に応えようとする者達がいた。
「「そうはさせん!! 赤と黒のエクスタシー攻撃(アタック)!!」」
それはシンゲーンとケンシーンだった。
新世騎士が戦えないと分かった彼等は、即座にコクピットから飛び出し、ミナホロボスの前に自分達の体を差し出したのだ。
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」
いかに歴戦の破壊戦士の合体攻撃と言えど、ミナホロボスの圧倒的パワーの前ではどうしようもない。
「ぐあっ!」
「うぐっ!」
圧倒的なパワーで地面に叩きつけられ、破壊戦士達が苦しみの声を上げる。
だが、彼等の目的は達成された。
二人の合体攻撃によってミナホロボスの攻撃の軌道が逸らされた事で、ペプシブとモンエナ教授の命が救われたのだ。
「シンゲーンさん! ケンシーンさん!!」
そんな彼らの元にペプシブとモンエナ教授が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!」
「ぐぅ……問題はない」
「それよりもペプシブ殿に怪我はないか……?」
「っ!」
負傷した自分達よりもペプシブの事を気遣う破壊戦士達の姿に、ペプシブの胸がドキリとなる。
(やっぱり、レスカさんの言う通りこの人達は悪い人じゃないんだ……)
揺れていた心が、目の前の優しい眼差しを素直に受け入れる。
「ごめんなさい、二人とも」
「気に召さるな」
「左様、これは我等の役割なれば」
ペプシブの謝罪を、自分達が負傷した事への言葉だと思ったシンゲーンとケンシーンは気に病む事はないと弱々しい笑みで告げる。
「そうじゃないんです。私、貴方達に酷い事を言った……から」
「「え?」」
一瞬、何のことだと二人は首を傾げる。そしてそれが先の戦いでペプシブに拒絶された事が理由だと気付いた。
「はははははっ、それこそペプシブ殿が気に病む事ではない」
「然り。あれは我らの未熟が故の自業自得。ゴブーリキなどに操られた我らが弱かったのだ」
どこまでも高潔に非は自分達にあると言って譲らないシンゲーンとケンシーンに、なおもペプシブは謝罪の言葉を継げようとした。
だが、それを止めたのはモンエナ教授だった。
「ペプシブ君。こういう時はね、謝罪の言葉ではなく感謝の言葉を告げるのだよ」
「あっ……」
「うむ」
優しい笑みで頷くモンエナ教授の眼差しを受け、ペプシブもまた頷く。
そしてシンゲーンとケンシーンに向き直ると、ペプシブは笑顔でこういった。
「ありがとう、シンゲーンさん、ケンシーンさん。二度も私を守ってくれて。そして教授を助けてくれて……ありがとう!」
「私からもお礼を言わせてほしい。私の教え子を、私の可愛い孫娘を助けてくれて、本当にありがとう」
「「……」」
2人からの感謝の言葉を受け取ったシンゲーンとケンシーンは、一瞬だけお互いに目を合わせると、視線を戻してこう告げた。
「「どういたしまして」」
しかしその顔はややもすれば赤らんでおり、照れているのがバレバレだった。
「あっちは良い感じに収まったようだね」
ドリータンク・ジュニアのハッチから一部始終を見ていたレスカが安堵のため息を吐く。
なんだかんだ言って彼女も心配していたのだ。
「それどころじゃないってお姉様! ラムネス達が!!」
レスカが視線を戻せば、ラムネス達はエネルギーの切れた新世騎士から降りて戦っていた。
しかし悲しいかな。新世騎士の力があったからこそホロボロス達と拮抗した戦いが行えていたのだ。
故に守護騎士だけとなっては真の力を発揮したミナホロボスの相手にはならないのが道理だった。
「ふはははっ! ヒュドラビーム! ウイングレイザー! ドラゴンブレイズ!」
ミナホロボスの両指、翼、そして頭部のドラゴンの口からビーム、レーザー、火炎状のエネルギーが噴き出す。
「うわぁぁぁぁ!」
「ぐぁぁぁっ!」
無尽蔵に放たれる飽和攻撃に、ラムネス達はなす術もない。
「くっ、これじゃあ戦いにならない! せめてグランスカッシャーさえ使えれば!」
「ブールブルブル!! 素晴らしい! 圧倒的なパワーじゃないか! この力があれば私はドキドキスペースの支配者になれる!」
ミナホロボスの力を手に入れたブルーブルが、恍惚とした声で世界征服を声高に叫ぶ。
「なんとか援護は出来ないのココアお姉様!」
ドリータンク・ジュニアの中で、ミルク達もまた現状をどうにかできないかと頭を悩ませていた。
「そうは言っても~、エネルギー不足ではどうしようもありませんわ~」
「ならアタシ達の力でアイツの動きを封じるのはどう?」
戻ってきたレスカが聖なる三姉妹の力を使っての援護を提案する。
「この状況では危険すぎますわ~。まえの戦いの時以上の攻撃を私達にしてきたら、こんどこそ逃げるのは不可能ですわよ~」
モンエナ教授との戦いでもそうだったのだ。ブルーブル達が同じ事をしないとは限らない。
「もー! 何にも出来ないじゃないのー! 何か、何か良いアイデアは……グゥー」
そんな緊迫した空気の中であってもミルクのお腹は盛大に鳴り響いた。
「うう、そういえば昼から全然食べてないわー」
ミルク達の食料の大半はアルミホエール号に搭載されていたため、パフパフ宮殿でアルミホエール号が破壊された事で彼女達はロクな食事を出来ないでいたのだ。
そしてドリータンク・ジュニアに搭載された非常食程度では、とても彼女の無限の空腹を紛らわせる事など出来ない。
「うう、お腹すいたぁー……どこか出前出来るお店はないかしら。出前出前……あっ、そうだ!」
ふと何かを思いついたらしいミルクは、ドリータンク・ジュニアの通信機を手に取ると、いずこかに連絡を始めた。
「いい加減ちょこまかと避けるお前達の相手をするのも面倒になってきた。フルパワーで一気に殲滅してくれる!」
攻撃を必死で回避するラムネス達に業を煮やしたミナホロボスが、再び両腕を胸の前で突き合わせると、腕の宝玉にエネルギーが集まってゆく。
「ワクワク時空を発生させてないのにエネルギーが!?」
「ブールブルブル!! ミナホロボス形態になればいちいちワクワク時空を発生させる必要はないのだ!」
「げー! ズッコい!」
「ボスだけ無敵モードかよ!」
いかにラムネス達が善戦しようとも、この状況ではもはや何もできなかった。
起死回生の手段も思いつかないまま、ミナホロボスにエネルギーが蓄えられてゆく。
そんな時だった。
「すんませーん、ウーリャーイーツでーす」
突然、自転車に乗った若者が戦場を横切ってやって来たのである。
「「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」」」
まさかの乱入者に、ラムネス達だけでなく、ミナホロボスですら困惑の声を上げる。
「な、何だ!?」
「ミルク姫にお荷物をお届けに上がりましたー」
若者は大きなカバンを背負っており、どうやら宅配業者のようであった。
「はいは~い」
驚くラムネス達をよそに、ミルクはドリータンク・ジュニアから出てくると若者から荷物を受け取る。
その光景は戦闘中とは思えない程和やかだ。
「まいど~」
「お疲れ様~」
そして配達員が去っていくのを見届けると、ミルクは何事もなかったかのようにコクピットへ戻ってきた。
「お待たせ~」
「え? 何今の?」
ミルクが何事もなかったかのようにダンボールを開封しているのを見て、レスカも困惑気味にミルクに問いかける。
「お腹が空いたから、お父様に頼んで食べ物を送って貰ったのよ。モグモグ」
そういってミルクはダンボールの中に詰まっていた大量の食糧をほおばり始めた。
「「「「「「「「「「「だぁーっ!!」」」」」」」」」」」
あまりにもくだらない真相に全員がずっこける。
「ミルク、アンタねー!」
「冗談だって。本命はこれよ。モグモグ」
怒るレスカに怯むことなく、ミルクは食事を続けながらダンボールの中に入っていたある物を見せる。
「これって!?」
「ふ、ふざけおってぇーーーーっ!!」
一方ミナホロボスは自分がコケにされた事を激怒していた。
つい先ほどまでラムネス達を絶望させて良い気分でいたというのに、それが台無しにされたからだ。
それどころかずっこけた拍子にせっかく蓄えたエネルギーまで霧散してしまっていた。
「もう許さん! 今度こそどこにも逃げれぬように辺り一面吹き飛ばしてくれる!」
「そうはいかないわ!」
怒り心頭のミナホロボスに対し、反論の言葉を継げたのはミルクだった。
「ラムネス! ダ・サイダー! シンゲーン! ケンシーン! 新世騎士に戻って!」
「ええっ!? 何で!?」
「そうだぜ! アイツ等はもうエネルギー切れでピクリとも動かねぇんだぞ!」
「いいから! つべこべ言わずに戻って! 私達に考えがあるんだから! ラムネス! 私を信じて!」
ミルクの真剣なまなざしを見たラムネスは、頭で理解するより前に心で納得を得る。
普段は口うるさく喧嘩をする事の多い少女だが、こういう時のミルクは真剣にラムネス達を想っているのだ。
「分かった! ミルクを信じるよ! ダ・サイダー!」
ラムネスはキングスカッシャーをグランスカッシャーの元へ向かわせながら、ダ・サイダーにも続くよう声をかける。
「しゃーねぇ、どうせ手もねぇんだ。言うことを聞いてやるか」
「それで、これからどうするんだいミルク?」
それぞれの機体に乗り込んだラムネス達は、ドリータンク・ジュニアのミルクに何をするつもりなのかと問いかける。
「ふふふーん、これよー!」
すると満面の笑みを浮かべたミルクが、虹色に輝く奇妙な塊を見せる。
「それってもしかして!?」
「七色の石板か!?」
そう、これこそはかつて妖神ゴブーリキとの最終決戦でラムネス達に勝利をもたらした切り札、七色の石板だった。
「なるほどそういう事か!」
七色の石板を見たラムネス達は、ミルク達が何をしようとしているのかを察した。
「よーし! 頼むぜレスカ!」
「まかせな!」
「それではいきますわよ~」
ミルク、レスカ、ココアの三人は、七色の石板を囲むと両手を組んで祈りの姿勢を取った。
そしてココアの朗々とした詠唱が戦場に響き渡る。
――太古より伝わりし神秘の石板よ 聖なる三姉妹が願います――
――勇気ある騎士達と共に――
――今ひとたび邪悪なるものを封じる正義の力を!――
ココアの詠唱と共に、三姉妹の体が輝きを帯びる。
――――正義の力を!!――――
そしてミルクとレスカもまた詠唱に参加し力強い声を張り上げると、三姉妹と共に七色の石板が輝きを放ち、グランスカッシャー、アウトサイダロン、ダイシンゲーン、ゲキケンシーンの体を包み込んだ。
「キタキターッ!!」
「エネルギーがドンドン回復していくぜぇー!」
かつての最終決戦でもエネルギーが尽きたキングスカッシャー達を七色の石板の力で回復したのである。
それだけではない。
「おお、我らの傷も!」
「癒えてゆく!」
更にその際には戦いで大破した破壊戦士達も七色の石板の力で復活させた時のように、傷ついたシンゲーンとケンシーンの体が癒えてゆく。
唯一の懸念であったエネルギー問題が解決したことで、ラムネス達の心から一切の憂いが消える。
「うぉぉぉぉぉっ! オレは今! モーレツに熱血しているぅーっ!」
「やぁーーーーってやるぜ!!」
ここに、真の最終決戦の幕が開けたのである!
「いっけー! グランスカッシャー!」
グランスカッシャーが高速で戦場を駆け抜け、ミナホロボスに肉薄する。
「甘いわぁ! もうエネルギーは充填済みだぁー!」
だがミナホロボスもただ黙って見ていた訳ではない。
エネルギーを限界まで充填したミナホロボスが無限大のエフェクトと共に巨大なビームを放つ。
「なんてデカさだ!」
その巨大さはグランスカッシャー達全員を包み込んでなお余裕があるほどの大きさだ。
「キャァァァァッ!!」
攻撃が迫って来た事にペプシブが悲鳴をあげる。
「大丈夫よペプシブ」
だがそんな彼女にミルクが優しく言葉をかける。
「あいつらは強いんだから」
その言葉に応えるように、二つの影が飛び出す。
「そうは!」
「させん!」
ダイシンゲーンとゲキケンシーンである。 ダイシンゲーンの腰にマウントされていた円環が前方に移動すると、外周のパーツが展開して丸ノコ状の巨大な刃に変形した。
「廻れ大旋風!!」
展開した円環は高速で回りだすと、巨大な竜巻を生みだし、ミナホロボスの巨大ビームを受け止める。
「その程度の攻撃で私を止める事など出来るものかぁー!」
ミナホロボスが雄叫びをあげると、ダイシンゲーンの竜巻が押され始める。
しかしここにはもう一人の新世騎士が居る。
「翼よ! 穿て! 貫け! 突き抜けろ!!」
ゲキケンシーンの放った翼の刃がドリル円陣を組んで巨大ビームを抉ってゆく。
「おのれ、ちょこざいな!」
「ちょこざいは!」
「テメーだぁ!」
ダイシンゲーンとゲキケンシーンに意識を向けるあまり、ミナホロボスはもっとも警戒しなければいけない二人の事を忘れてしまっていた。
すなわち、グランスカッシャーとアウトサイダロンの2体の新世騎士である。
グランスカッシャーの大剣がミナホロボスの右腕の宝玉を切断し、アウトサイダロンが連結大剣を分離させ猛烈なラッシュで左腕の宝玉を破砕した。
攻撃エネルギーを集約していた宝玉を破壊され、行き場を失ったエネルギーが暴発する。
「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」
爆発に巻き込まれ、たまらず悲鳴を上げるミナホロボス。
苦しみながらも後頭部から伸びた二本の尻尾を振り回し、ヒュドラビームを放ってラムネス達に反撃を行うが、狙いの定まっていない攻撃ではグランスカッシャーとアウトサイダロンには当たらない。
「コイツでどうだー!」
グランスカッシャーが攻撃を回避しつつ巨大な手裏剣を射出すると、ホロボロスの尻尾を連結する宝玉が砕け尾が落下する。
「へへーん、コイツで尻尾攻撃も怖くないぞ!」
「よくも私の尻尾をーっ!」
「オレ様を忘れて貰っちゃ困るぜ!」
自らの体を傷つけたグランスカッシャーへ怒りを燃やしていたミナホロボスの足に再び合体したアウトサイダロンの連結大剣が深く食い込む。
「ぐおぉぉぉ!!」
「まだまだぁ!」
「我らの怒りも受けるがよい!」
ダイケンシーンの振るった太刀が右の翼を、ゲキケンシーンが取り出した双大鎌は胴体に大きな傷を与える。
「やっちゃえラムネスー!」
「ぶっとばしちまいなダ・サイダー!」
「皆さんがんばってくださいまし~」
ミルク達の声援を受け、ラムネス達が更なる猛攻を加えんとミナホロボスに殺到する。
「ぐ……ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
だがその時、ミナホロボスが雄叫びと共に凄まじい量のエネルギーを放出し始めた。
「うわぁっ!?」
あまりのエネルギー量に吹き飛ばされかけるグランスカッシャー達。
「この期に及んで悪あがきかよ!」
だがどうにも様子がおかしかった。
「もっとだ! もっど! もっどエネルギーを寄越ぜぇぇぇぇぇ!!」
~つづく~ ※次回は9/1(水)更新予定です
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