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マイナンバーカード問題             ーなにが問題なのか?ー 

今、批判的な世論が盛り上がっているマイナンバーカード問題だが、メディアの無理解というか、作為的な批判というか、そこにかなりの原因があると感じる。

この問題、第1に、現代社会では、多様な個人情報を紐付けすることによって、行政サービスや民間サービスが提供される。それを正確、迅速、効率的に実施するためには、異なるところに置かれている個人のデータを同一人物について結び付けるか、あるいはその者のデータであることを確認する必要がある。

名前や誕生日等で同一性を確認するのだが、同姓同名等の人物がいるために4情報を使って確認するという。だが、それには手間がかかるし、それらも当てにならず、同一性を確認できない場合がある。

それを避けるために、一人ひとりについて唯一無二不変の番号をすべての国民に付して、それで同一性の確認を確実に行おうというのが、日本以外の国で実施されている国民ID制度である。

それが、わが国では、そのような国民ID、つまりマイナンバーをデータの紐付けのために使ってはいけないということで、任意で提供される場合は別として、直接マイナンバーで紐付けるのではなく、曖昧でミスの可能性のある4情報を、しかも視認によって確認し、それからマイナンバーにたどり着こうとしている。

曖昧な紐付けを明確、確実にするためにIDを使うのならばわかるが、曖昧な4情報を使ってIDを知ろうとするというのは、発想が逆であろう。それでは、ミスがあっても不思議ではない。そもそものマイナンバー制度のあり方がまちがっているとしかいいようがない。

第2に、しかし現実にミスの確率は非常に小さい。それでも一つでもあってはいけないという。それは確かにそうかもしれないが、でもそれは理想であって現実にはありえない。

むしろ、これまでの紙ベースで行っていたときのミスやそれが発生するリスクがどれくらいあり、それに比べてマイナンバーを使った場合はどれほど改善されるのかが、評価されるべきであろう。実現できない理想状態を基準にして現状を批判しても意味がない。

私自身の経験として、何十年か前に勤務先を変えて加入する保険が変わったとき、新しい紙の三つ折りの保険証が届かず、1時的に10割負担を求められたことがあった。そんなことは、決して珍しいことではなかった。(かかり付け医だったので、次回までに確認することで3割負担を認めてもらった。)

マイナンバーを使うのを止めろという声も聞かれるが、それはリスクの高いこれまでの状態にも戻せということなのか。そのことについて触れたメディアはないのではないか。

第3に、マイナンバー批判で出てくるのは、もっぱら個人情報の漏洩の問題のようだが、海外の諸国では、このような改革が提案されるときに必ず出てくるのが、財政的な効果や効率性である。

これまでの人手による作業では、ミスの確認も含め、1件当たり○○円のコストと××日くらいの時間がかかっていた。それがシステムをデジタル化することによって、コストが10分の1に削減され、時間は4時間でできるようになる、といった説得力あるメリットが示され、導入理由が説明されるのである。

わが国のマイナ保険証にしても、従来の方式では、医療機関での被保険者の資格確認ができないために、2015年度で80億円の事務負担、保険者で未請求となったものが384億円あったと厚労省の公的資料に書かれている。

これは支払基金分だけであり、国保分は含まれていない。単純に2倍しても相当な額になる。マイナ保険証のシステムのコストは不明であるが、機器を導入してしまえば、後年のランニング・コストはそれほど大きくはないだろう。

医療機関にとっては明らかに利益になる話なのに、医療関係の業界団体がなぜ反対するのか、理解できない。

このような事情を報道することなく、マスコミや野党は、ミスを鬼の(政府の?)首を取ったかのごとく指摘しているが、マイナンバー活用を止めたり遅らせたりしても誰の利益にもならない。

政府も、ただ謝るのではなく、悪い点を改めることはもちろんだが、それがなぜ発生したか、どうするのか、分かり易く説明すべきだ。

さらにいえば、マイナンバー制度は、災害時等の非常時に最も役に立つ。着の身着のままで避難所にたどり着いた高齢者に、家族の安否やその者が服用しているお薬を早く確実に届ける仕組みこそが、今のわが国で最も必要なのではないのか。マイナンバーを活用することによって、それは可能になる。

したがって、メディアのまちがった批判や報道に一々反論するのではなく、背景事情を含めて、しっかりと説明し粘り強く発信していくべきだと思う。批判に配慮した現行制度との併用などは、事態をさらに混乱させることになりかねない。

少なくとも、私の周辺で話す機会のあるデジタルを活用している若者は、マイナンバーの利用が可能になると、今のメディアの批判などは鼻で笑って、どんどん利用するようになることはまちがいない。

この際、他国のように、シンプルで信頼できるマイナンバー制度に変えることも検討してはどうか。