大工さんになったら本を読むことが増えたこと。

36歳からの大工さん転職シリーズ。
かれこれもうすぐ二ヶ月。
丸ノコでまっすぐ切るとか、まっすぐに木を打ち付けるとか、一年生レベルの技術を徐々に覚えつつある。
難しい。
まあ、大工さんに限らず。
絵を描くには線を思い通りにまっすぐ引ける。
クラシックギターを弾くなら一音一音を綺麗な音を出す。
料理をするなら適切な調味料を適量入れる。
そういう基本的な動作が一番大事で、覚えるのが難しかったりするんだろう。

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大工さんを始めてから、本を読むことが増えた。
なぜかは分からない。
代わりにランニングはさっぱりしていない。
もう少し慣れたら朝に30分だけで良いから走りたいんだけど。

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本を読むことについては、不思議なもんだなと思う。

長々とあれこれ書くけど、結論としては、大工さんの目の前の仕事に集中する感覚の反動として、頭が本を読んだりするグルグル回る方の動きを求めているのかなと思う。

前の仕事が住宅営業、その前が自転車屋の店長さん、その前が山小屋のおにいさんと職を転々としているのだが。
大工さんになってからが一番本を読む。
もちろん、学生時代ほどじゃないにせよ。
それでも、暇があれば本を読む。

十年以上、読もう読もうと思いつつ放置していた、サイモン・シンのフェルマーの最終定理なんかを読んだり。銃・病原菌・鉄を読んだり。そんなに軽くもない、かと言って、難しくもないくらいの本を読む。小説のようなストーリーものはあんまり読む気がしない。もちろん、自己啓発系も。

大工さんしてると、体はくたくたになる。
でも、頭は結構元気らしくて、本を読みたくなる。

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デフォルトモードネットワークというものがあるらしい。
脳科学とかになるのか。

簡単に言うと、ぼーっとしてる時、僕らの頭は昔のことを思い出したり、未来のことや、これしたら怒られるかなとか、そういうシミュレーション的なことを繰り返しているそうな。

このデフォルトモードネットワークが強過ぎると、反芻思考、同じことをぐるぐる考えすぎてしまうそうで、うつ病なんかとも関係するそうな。

かといって、悪いことばかりではなく、むしろ、人間が生き残るために、シミュレーションを繰り返して、あれこれ考えるのは重要だ。
特に原始時代なんかは生きるか死ぬかだから、身体能力の低い人間が生き残るには、シミュレーションを繰り返して、生き残ったとかなんとか。

実際、人間の脳みそは、このぼーっとしている時のデフォルトモードネットワークの思考にかなりのカロリーを使っているそうな。

ただ、平和な現代社会で、過去や未来のことを延々と反芻思考していると、気が滅入ってしまう。

余談だが座禅や、マインドフルネス瞑想や、中村天風先生の安定打坐(あんじょうだざ)なんかは、何も考えない状態を作る、つまり、このデフォルトモードネットワークに入らないで脳みそを休めるなんてことなのだろう。

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大工さんのように目の前の作業に集中していると、デフォルトモードネットワークに入らない。
ちなみに何かに集中してる時は、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークなんて名前の思考回路らしい。

座禅なんかは、このどちらでもない状態ということだろう。

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で、前の仕事、対人関係の仕事というのは、シミュレーションこそ重要だ。デフォルトモードネットワーク。
もちろん、目の前で対面して商談している時は、ぼーっとして、頭の中でシミュレーションしていてはいけないけれど。

接客、営業というのは、業種にもよるけれど、人と接していない時間の方が長い。
どうやったら売れるのか。
どうアプローチしたらその人は購入に向かって動いてくれるのか。
延々と考える。

住宅営業は典型的で、会って話しているときのスキルはもちろん重要だけど、何回目の商談でプランの提案をしていくか、プランはどういう方向で作るか、何パターン考えるか、契約のアプローチはどのタイミングでどの流れでやるか、それまでにメールやラインでどうアプローチしていくか。
グルグルとシミュレーションを繰り返す。

間取りなんか典型的で、土地を見て、何パターンも頭の中で作って、なぐり書きして、やっと書き始める。

文章を書くのも似ている。
書き始めるまでに、ぐるぐるとシミュレーションを頭の中で何度もこねている。

集中こそしているけれど、デフォルトモードネットワーク的な頭の使い方なんだろう。

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恐らく、この二つの思考回路は、人によって個人差はあれど、ある程度バランス、割合みたいなものがあるのだろう。
大工さんをすると、本を読みたくなるのは、そういう反芻思考的な営みがしたくなるからじゃなかろうか。
セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク、集中した状態の思考回路はずっと使い続けることはできないだろうから、バランスを取るためにデフォルトモードネットワークに切り替えたくなるんじゃなかろうか。

それにしても長い。
DMNとCENなんて略すらしいけど。

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じゃあ、世間の職人さんたちがみんな本を読んでいるかというと、そういうわけでもない。

職人さんもいろいろいるけれど、割合としては本を読む人は少ないと思う。

でも、本を読む人が少ないという話で言えば、大卒でサラリーマンしてる人が本をよく読むかと言うとそんなこともないと僕は思っている。

確かに四年制の大学に行くと、暇なので、あるいは友人との会話の話題のために、本を読むとか音楽を聴くとか映画を観るとか、そういう趣味を持つ機会は多い。
だけど、サラリーマンになって本を読んでいる人は多くはないと思う。

とはいえ、電車通勤する人は本を読むことが多い気もする。
たまに本の虫のような人がいるけれど、そういう人はやっぱり大卒が多い気がする。

ブルーカラーは本を読まないというのは偏見か。
どうなんだろう。
まあ、ブルーカラー、ホワイトカラーって言葉も時代遅れな気もするけれど。
まあ、その辺は分からない。

デフォルトモードネットワークに頭が入りたくなるからといって、本を読む人は多くないのかもしれない。

でも、個人的には、大工さんをしている今の方がよく本を読むなと思う。

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