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特殊な家業の所為で日常生活を犠牲にする男子高校生の話 『恋は暗黒』



あらすじ

私が紹介する本は、十文字青 原作のライトノベル『恋は暗黒。』です。主人公は人を殺すことで命のストックが増える暗殺者兼高校生、高良縊たからい想星そうせい。高良縊は同じクラスの白森しらもり明日美あすみに、ある日突然告白され付き合うことに。しかし休日は暗殺の仕事でデートできずにいました。そのような状況の中仕事場で出会った、触れた人の命を奪ってしまう暗殺者兼高校生、羊本ひつじもとくちな。
恋愛要素も含みつつも、同じような境遇の二人が、常日頃悪者を暗殺してしまう異常な状況の中で「普通」を求めてもがき葛藤する物語です。

噓はとびきりの愛

本作では、高良縊の家系が暗殺業をする理由が明かされていないため、そこを考察するのも楽しみ方の一つになっています。
本作において、高良縊は仕事仲間の自分の姉以外の人物に対し、暗殺している事を隠しています。白森を傷つけないための高良縊なりの愛情、まさに「嘘はとびきりの愛」なのです。隠し事をしながら白森と付き合うが故、休日にデートが出来ず、その理由をバレないように取り繕う。家業が暗殺業なだけで、これほどまでに神経をすり減らし、苦しまなければならない。高良縊の気持ちに寄り添うと読んでいてつらい気持ちになりました。

そうは問屋が卸さない

本作は19個の章があるのですが、1~7と9章の冒頭にはこのような一言が添えられています。

高良縊想星はどこにでもいる普通の高校生になりたかった。

十文字青『恋は暗黒。』

この一言が加わることで、高良縊は暗殺業に従事する異常な環境にありつつも、実際は普通の高校生活がしたいだけなのだと感じました。
ただ、同時に高良縊と羊本の歪な二人の関係をより際立たせる表現ともいえるでしょう。
普通の高校生活がしたいと感じられるのは、普通の女子高生である白森の告白を了承しているところにあります。一度は本気で普通の高校生活を目指したものの、そうは問屋が卸さなかったのです。
そして、歪な二人の関係をより際立たせる表現だと思った根拠は、この一言が後半の10~19の章において無くなっている事にあります。後半は普通を犠牲にして、似た者同士で暗殺と向き合っていく事が分かる上手い対比表現だと感じました。
困難な状況を変えようと努力はしましたが、結局は変えることはできませんでした。高良縊の場合は特殊ですが、現実にも困難な状況を打開できなかった経験をもつ方は、一定数いるのではないでしょうか。

どんな方に読んでほしいか

何かを隠したり嘘をついて生きる事のつらさ、隠すことで相手の要望に応えられないつらさを伝える本作。本音を言いにくい現代を生きる私たちや、何か隠し事をしたことがある、もしくは今まさに隠し事をしている方。もっと言えば人生に行き詰っている方にぜひ読んでほしい一冊です。


書誌情報

『恋は暗黒。』
著者:十文字青
イラスト:BUNBUN
出版社:MF文庫J
出版年:2022年

〇続編も発売中 詳細は以下のURLへ
恋は暗黒。2 | 恋は暗黒。 | 書籍 | MF文庫J オフィシャルウェブサイト (mfbunkoj.jp)

恋は暗黒。3 | 恋は暗黒。 | 書籍 | MF文庫J オフィシャルウェブサイト (mfbunkoj.jp)

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