編集屋が暴露する"誰も言ってない"書き方-13の法則
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ついに到来、超・情報洪水時代!
コンテンツには、もはや大した価値がなくなります。私たちが書いたものは見られなくなるし、売れなくなる。じゃあ、そういう中で他を差し置いて「選ばれるコンテンツ」とは何なのか?
斜陽産業にいる一介の編集屋が、沈みゆく船の上で6年間考え続けてきたことを、この1記事に凝縮しました。
法則① 感情は、振り子(揺らさないと響かない)
一般的に感情は「悲しい」とか「楽しい」とか「好き」とか「嫌い」という矢印だと考えられています。しかし、感情は振り子だと個人的には思うのです。要するに、方向はどうでもよくて、そこにあるのは「揺れるか」「揺れないか」それだけということです。
みんな琴線に触れない文章ばっか書いちゃうんですよ。嫌われないようにするから。多方面に忖度すると結果的に「ぬるま湯に浸かる」みたいな文になる。でも人に影響を与えるということは、相手の心の振り子を揺らすようなものだと思うんですね。
良い方向に心を揺らすのは超難しいのに、悪い方向に揺らすのは超簡単です。僕は良い方向で感動したのは、震災募金リンクが「橋本環奈結婚」みたいな釣りタイトルだったときくらいです。ところが悪い方向に揺らすなら一瞬でできます。全裸で新宿のアルタ前行けばいいだけですからね。世間様は大仰天します。
落合さんのメディア戦略が上手いなと思ったのは、情熱大陸で全身真っ黒な服を着て、「レトルトカレーをつぶしてストローで飲む」という奇抜な演出をしたところだと思います。あれがあって、『日本再興戦略』で一気にブレイクした記憶。「えっ、キモイ。何この人」と、お茶の間の視聴者の”心の振り子”が全開に揺れたんですよ。
もし最初にアピールしてたのが「研究実績」だったら流行ってないと思うんですよね。あの人はAIブームで出てきましたが、同時期に朝生に出演してた経済学者の方いたと思います。彼はブレイクせずになぜ落合さんが出てきたのか、何が明暗を分けたのかというと、絶対衝撃を与えたからだと思います。
「吊り橋理論」とか言われるように、ドキドキさせないと人は好きにならず、ドキドキは多くの場合、怖いとか不安だとかいう「不愉快な感情」から生まれます。世間でよく「ギャップ」とかいうものの正体もこれだと僕は思うんですよね。なので、ファーストインプレッションは、ちょっと不快なくらいがいい。
そして、最初は不愉快に感じても、根っ子のところで誠実な人なら、やがて「好き」に転換されるはずです。振り子みたいに戻ってくる。でも「好きでも嫌いでもないようなの」は印象に残らず忘れ去られるのです。
そういう意味で「影響力」とは、実は良いとか悪いとかいう「方向」の話ではなく、インパクトの総量なのだと思います。"ベクトル"ではなく"スカラー"ですね(これテレビで誰かが言ってましたが)。ぬるま湯に浸かっているような演出だと、やはり人に熱狂的な感動やファンを生むことはできません。これこそが、心を掴む人が上手い人が熟知している「心の機微」なのです。
法則② 上昇幅を作る(勾配を上がっていく感覚に人は共感を覚える)
前田裕二さんは、今や誰しも成功者として認めていますが、幼少期に両親が亡くなりストリートでギターを弾いて身銭を稼いでいたそうです。会社では憧れの先輩についてまわる青年だったとか。
自己啓発書の面白さは「振れ幅」「上昇幅」にあります。最初から成功者だった人の話は聞きたくないんです。多くの人は「自分には関係ない」と思ってしまうから。
『だからあなたも生き抜いて』の大平光代さんは、極妻になって割腹自殺まで図った”超グレ時代”があったからこそ、司法試験に受かったストーリーが面白いのです。「開成→東大法学部→虎ノ門で弁護士」だったら誰も面白くない。ビリギャルが、もし元から学級委員長で学年1位だったら何にも面白くないじゃないですか。ビリのギャルだから良かったに決まってる。
つまり「上昇幅」が重要なんです。幅を作るには、「上(=出した結果)を上げるか」「下(=スタート地点)を下げるか」どちらかです。前者は多くの場合、難しいし場当たり的に対処できるものじゃない。しかし、ゴールテープの位置を変えなくても、スタート地点が低ければ、幅は広がります。
でも、多くの成功者は梯子を下ろしません。梯子を下すのは、多くの場合、過去の恥ずかしい経験や思い出したくないトラウマと向き合う時間と覚悟が必要だからです。プライドが許さなかったりする。それをすると、人の共感はぐっとつかめるのに。
箕輪氏が『THE TEAM』の麻野さんの取材で「幼少期に両親死んでるくらいじゃないと困るんですよね~」と言ったそうですが、ここからも「振れ幅を作ること」がヒットにつながることが窺えます。
法則③ 変わり者に愛を(希少性を見つけるテクニック)
僕は「変わり者に愛を」というようなテーマでやっています。まぁ、ティムバートンが言ってる言葉なんですけど。僕自身変わり者だから、大人になって社交性を身に付けるまでは、思春期とか苦労してきたんですけど、コンテンツの仕事をする上では「人と十分に違うこと」こそが最強の武器になります。
変な経験がある人は、ハッキリ言って売り出しやすいです。逆に売り出しにくい人は、千葉県生まれ、普通科、日本大学経済学部卒業、商社、32歳、年収500万子持ち、という人です。実際社会に出て活躍するのは、こういう普通の人なんですが、作家としては売れないです。
逆にレアであれば、メディアが食いつくし、それだけで売り出せるわけです。例えば、日本で唯一のカミキリムシの養殖研究家とかだったら、そのうちすぐ引っ張りだこになる。あと、なんで教授が本出すかというと、すべての研究は本質的に「誰もやってないこと」だからですね(誰かやってたら「勉強」だしね)。
あと意外と言われてないんですが、基本的にメディアは”珍しいもの”に反応します。コロナで渋谷のスクランブルで一切人影がなくなったら「スクランブルの通行人がゼロに!」とクローズアップしますが、いつも通りの人どおりに「今日はいつも通りです」と貴重な枠を使って取り上げることはありません。
そういう意味で、あまり言われてないことをここでガッツリ言っちゃえば、メディアの本質的な機能とは「変わり者に愛を与えること」なのです。まぁもちろん最近は、既にスポットライトが当たってる人にさらに当ててるような状態ですが、メディア人の仕事は優秀な除け者を舞台に上げることです。少なくとも僕はそれをやりたいと思っています。
ヒットコンテンツを生み出すための裏ワザがあります。自分の人生の「珍しい体験リストアップ法」というものです。これは僕が思いついた方法ですが、非常に良いトレーニングになりました。
法則④ 共創(余白を残す)
メモの魔力がすごかったのは、TwitterユーザーのIDと声を大量に掲載したことです。あれって嬉しいからみんな拡散するんですよ。
あと、去年僕が見つけて面白かったのは「仮想通貨トレーダー武田直樹」というアカウントですが、肖像権フリーの画像でボケまくる。ボケが強いのは、自然にツッコミを誘発するというところです。そうなるとツッコミ側のタイムラインにも表示される。少し前のパパ活バレバレアカウントとかありましたけど、あえてツッコミの隙を見せると乗っかられて伸びます。今のD2Cなんて言われる時代になれば、ユーザーの参加する隙を作るのが、最強の広告施策ですね。
そういえば、最近読み返した名著『広告コピーってこう書くんだ読本』で、広末涼子さんのCMで、広末さんの「免許証のようなもの」をあえて映して、「あれはホンモノではないか」などと週刊誌が騒ぐように設計したという話。ああいう風に、議論の余地を残すのも一つのテクニックですね。
まぁ自分も含め、多くの人は「良いものを作れば届く」と信じて作ってますが、こういうテクニックを使わない機会損失はデカいと思います。
法則⑤ 玄関を小さく見せる(なぜハイファンタジーがウケないのか)
ラノベの編集者が言ってたのですが、最近「ハイファンタジー(重厚な世界観と設定のあるファンタジー)は受けない」とのこと。僕はあまり詳しくないのですが、異世界に転生するみたいなものではなく、現実世界に異世界のものが来ちゃう「デスノート型」が受けるんだとか。
これが何を意味するかと言うと、要はみんな時間がないってことです。例えば、『ロードオブザリング』みたいな壮大なファンタジーの世界観と設定を理解するまでってダルいじゃないですか。よっぽど評価が高いものじゃないとあえて知る時間作りません。「ドワーフの仕事」とか「小人族の出生」「魔法はどうやって覚えるのか」とか興味ないですよ。ましてやラノベでなんて。基本人間は「知らないもの」だらけだとストレスになりますから。
でもデスノートみたいに現実世界にちょっとだけ「異形のもの」が入り込んで来ちゃうのであれば、前提情報はもう知っています。学校や社会、法律など基本ルールは体感的に分かるので、新情報の洪水にならない。すんなり入っていけるのです。この話聞いて、これは今あらゆるコンテンツに言えるなーと思ったんですよね。
基本今のアプリのUIって、トップに機能全部出さないですよね。興味がある人だけ「設定>画面>」とか奥行きを作る。WEBメディアもそう。「ビジネス>営業>インサイドセールス」みたいに。特に大手になるほど、ごちゃごちゃした2chまとめみたいなサイト作りません。
別にコンテンツ量は多くていいんです。多いのは良いことです。でも、入り口は小さくないといけない。まずはこれだけ、と「玄関を小さく見せる」という表現テクニックを心得ていることは、極めて強力です。
法則⑥ 最初は前菜、そしてメインディッシュ(「結論から話せ」という嘘)
これを文章に応用するなら、最初からガッツリ読ませないということです。ハッキリ言って「結論から言え」は嘘だと思います。なぜなら、我々がいるような「お役立ち系マーケット」において、それが良いコンテンツであるほど、結論は大概「つまらない」か「理解コストが高い」からです。真面目な人ほど、そういう一般的に言われていることを鵜呑みにしがちなんだと、僕のような社会に適合できない人は思うんですよ。
最初はとにかく、読みやすい内容・スタイルにする。トピックも今ホットな情報から入ったり、書き方も「文章は短く」「口語体で」というような入り方をする。
人間には「サンクコスト」というものがありますから、読み始めれば最後まで読んでくれます。(まぁこんなマニアックな記事を読んでくれるような方は、非常に優秀な方なはずなので知ってると思いますけど)一度コスト(時間やお金)をかけたものは簡単には抜けられないのです。
「5年付き合ったダメ男と別れられない」とか、そういう心理と同じで、時間をかけたものを最後まで全うしようとします。「ここまで読んじゃったし、せっかくだから全部読むか~」を誘い出す。つまり、最初を読ませるのがすべて。釣りタイトル上等(笑)。
そのため、今「読んでもらえるコンテンツ」は最初に気を遣っています。表紙とまえがきは、死ぬほど重要なんです。何気なく作ったら埋もれますから。
法則⑦ 可処分時間に割り込む(現代人の情報処理スタイルの特徴と対策)
今の時代メディアのキーワードは「スキマ」だと思います。現代では、情報は指数関数的に上り坂で増えてますが、それに比例して、私たちの持ってる時間も右肩上がりに・・・・・・なってないんですよ。
情報量は増えてるのに情報消費量は変化してない。だから1日の7時間だか8時間のコンテンツの消費に使っている時間を、無理やりこじ開けないといけない。
そこで、こじ開けるためには、小さくする。大全形式の本が流行るのは、見開きで1項目にして区切ってるから、細切れの時間に読めるからですね。ドラクエじゃなくてパズドラが流行るのも、カウンターでラーメンが出来上がるのを待つ3分間でやれるからだったと思います。
・・・でも正直なところ多くの場合、可処分時間のグラフを「こじ開ける」のって無理です。なぜなら、年間コンテンツ制作費に1.6兆円かけるネットフリックスには、我々が束になろうが勝てないからです。
そこで逆にこじ開けるのではなく、「浸透する」というアプローチもあると思います。要するに、ながら時間に食い込むということ。多分Voicy伸びたのって、掃除とか筋トレとか電車の移動時間に「寄り添う」ことができたからかなと思います。
「濃くて短い」という作りも一つのキーワードだと思います。最近のトレンドで面白いのは、Kindle本で、ソースコードだけ載ってるものが500円とかで売られてたりすること。「本のコアメッセージは3つしかない」なんて言われたりしますが、本は大事なことを薄めてるんですね。コアとなる部分以外の枕や肉付けを削除して、シェイプアップした低価格帯のKindle本が売れちゃったりするんです。
ともあれ、現代人の消費のスタイルというものの観察が甘いと、届けることすらできません。僕も色々失敗してるので、自戒の意味を込めて。
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