「本当にやりたいことに集中する~次世代/ティール型組織の国内NGO導入事例から」HAPIC2021登壇でのセッションから事例紹介➀

HAPIC2021(2月15日)において、私たちNexTreams合同会社(以下NexTreams.LLC)は、「本当にやりたいことに集中する~次世代/ティール型組織の国内NGO導入事例から」と題して、自己組織化組織(Self-Organization)を実際に導入した3組織の支援事例を紹介しました。

セッション中に紹介した内容をこれから4回シリーズにわたって紹介していきます。第1回目は、特定非営利活動法人であるJANIC事務局での支援事例です。

(導入前の状態と課題認識)
JANICは1987年10月に設立され特定非営利活動法人でNPO/NGOのネットワーク・NGOの中間支援を行っています。

今回の自己組織化へのチャレンジの前は、合意尊重が全くないわけではないものの、総じてJANICはトップダウン型の組織でした。職員の皆さんはJANICがもつ目的へのシンパシーや響き合いが高く、人間関係は良好でしたが、職務内容がNGOの中間支援ということもあり多岐にわたっていて、職員の持つ仕事量も多く、職員の自発性・主体性が発揮された状態ではありませんでした。

こうした中、2018年に職員が自発的・主体的に仕事を進めることを目指して、プロジェクト・マネージャー制を導入して、工数管理やオンライン化も同時に進めましたが、思ったほどに自発的・主体的な活動がおきませんでした。むしろ事務局長&マネジャーのマイクロ・マネジメント化がかえって進み、職員の皆さんは全体が見えないフラストレーションを抱えて、多岐にわたる事業のシナジーも生み出されにくい状況でした。

(何を行ったのか?)
NexTreams.LLCは2020年6月から本格的に導入支援をスタートしました。導入の枠組みとして、「シンビオティック・エンタープライズ(共生型組織)」(注1)に基づく自己組織化を進めました。導入スケジュールは以下の流れになります。

導入スケジュール
① 2020年1月:JANIC内で自己組織化プロジェクトをプレゼン➡ここからコアチーム化
② 2020年6月:JANICのパーパス策定ワークショップ(1日)
③ 2020年8月~9月:自己組織化導入ワークショップ(2日間×2回)
④ 2020年10月以降:全メンバーへの個人コーチング
⑤ 2021年1月:自己組織化導入後の振り返り&サブサークル化ワークショップ(1日)

私たちは全てのプロセスを通して、自己組織化組織に変容していく内面・外面の両面のアプローチをとっていきました。まず、自己組織化組織の基本的な考え方を紹介し、導入に関するメンバーの合意を得た上で、組織パーパスの明文化、自己組織化組織で働くためのスキル構築を進めました。トレーニングしたスキルは、セルフマネジメントを実現するGTDと、問題をテンションとして4つの視点から解決の最初の一歩を見つけるランゲージオブスペーシズです。

次に、全ての仕事の棚卸しを行い、仕事内容と権限を再定義していきました。具体的には仕事の役割を「ロール」化し、ロール全てにパーパスとアカウンタビリティを持たせます。これにより新しい組織構造が生まれ、組織を運営していくために新しいミーティング方法であるタクティカルミーティング・ガバナンスミーティングを体験・導入しました。この一連のプロセスを経た上で、職員の皆さんで自走して動けるように、ミーティングサポートや一人ひとりにコーチングを行いサポートしていきました。

(何が達成できたのか?)
自己組織化組織の導入後、どのような変化があったでしょうか。まず、組織パーパスが明文化され、「市民の力を解き放ち、共に生きる社会を共に創る」と職員の皆さんに共鳴する組織パーパスが出来上がりました。そして、組織の運営では「事務局長が自身の仕事に集中できる」「仕事やミーティングの効率化した」「担当外の事業、自分や他のメンバーの強み弱みなど、組織全体が職員みんなにとって見えやすい」といった効果が出始めました。職員の皆さんも日々の変化を実感し始めています。実際にでてきた声として以下のことがあげられました。

・役割分担がすっきりして、動きやすい状況が整いつつある
・個々のロールの役割と責任が明確で、組織全体としても、整合性が取れつ  つ正しい方向に向かうエネルギーを感じる。
・パーパスを設定し、各ロールが担当する事業がどのようにパーパス実現に向けて貢献しているのかを可視化することができた。       

JANICの自己組織化へのチャレンジは、色々な戸惑いやテンションを感じながらも、着実に一歩一歩進んでいる状況です。

(望ましい変化を促したもの、スローダウンしたもの)
JANICに望ましい変化を促したものはなんだったでしょうか、以下のようなことがあげられます。

・組織のパーパスを全員参加のワークショップで策定した
・組織のトップリーダーの考え方が柔軟で、権限移譲に対してポジティブであったこと
・職員メンバーが30~50歳代で、膨大な仕事量をこなせるスキルの高さに加え、社会貢献意欲や協調性も高く、多様性に対してオープンマインドであったこと
・自己組織化を進めるコアチームが積極的にリードしていったこと

以上のように、組織を進化させたい想いと、変化に対する柔軟性の高さが望ましい変化をもたらしたといえます。

反面、今後この動きを進めていく上でスローダウンさせる要素としては、以下があると思われます。

・組織のパーパスが浸透途上であること
・組織のトップリーダーの経験や視座の高さからアドバイスや影響力を発揮したくなる(これを放置すると、職員全体の自主性や能力が育ちにくい)
・新たな考えや行動への戸惑い(例えば、ミーティングが増える・出向先とのズレなど)
・仕事の効率化・明確な言語化・ITスキルのメンバー間のバラツキ
・膨大で多様な仕事量のため従来の習慣に戻ろうとする慣性が働きやすい
・リーダーシップスタイルの変容途上

しかしながら、こうしたスローダウンさせる要素は、適切にそして内なる勇気をもって向かい合えば、仕事を前に進めていくテンションとして扱うプロセスに進んでいきます。

JANICの自己組織化の旅路は、正に始まったばかりであり、その組織パーパスに基づいた組織の進化を現在進行形で進めていっています。

次回は、引き続き別の自己組織化プロセスを進んだ事例について紹介していきます。

(注1)「シンビオティック・エンタープライズ(共生型組織)」
私たちNexTreams.LLCの友人でもあるクリスティアーネ・ソイス・シェッラー(Christiane Seuhs-Schoeller)が開発した自己組織化組織の試みの一つとなるフレームワークです。組織の中を大きく「組織の環境」と「人の環境」にわけます。「組織の環境」ではテンション(困りごとや不平不満)をより良い仕事を行うための動力源として日々の仕事を進め、必要に応じて組織変更を動的に行い続けることで、仕事を前進させていきます。「人の環境」では、人として尊重し合う関係性やより良い仕事や内面の成長のために必要なスキルや能力を共に学びます。更にこの二つの環境を含む「企業の環境」を置き、外側の社会と橋渡しします。単にHolacracy的な運用を行うだけでは仕事の効率化や前進には効果があるものの、個人や関係性の痛みや成長を取り扱えないというクリスティアーネ自身の長年の支援経験と洞察から生み出されたものです。私たちNexTreams.LLCも実験的にこのフレームワークを自分たちの運営に採用しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?